ソードアート・オンライン 〜The Parallel Game〜 《更新凍結、新作投稿中》   作:和狼

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※ Attention please


・本文中盤辺りにて、PoH様がちょいとやらかして下さいます。

・皆さまの腹筋の耐久値は大丈夫ですか?

・回復POTではなく、回復結晶の準備はよろしいですか?


……全てOKな方のみ、下スクロールを開始して下さいませ。




Chapter.21:紅の殺人者

 

 

 

殺人ギルド《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》。

結成されたのは、SAOというデスゲームが開始されてから一年後の事だ。それまでは、ソロ或いは少人数のプレイヤーを大人数で取り囲みコルやアイテムを強奪するという小悪党レベルだった犯罪者(オレンジ)プレイヤーの一部が、より過激な思想の下に先鋭化された集団である。

 

 

 

 

──その思想とはつまり……《デスゲームならば殺して当然》。

 

 

 

 

現代日本においては許される筈の無い《合法的殺人》が、この極限状況(アインクラッド)でならば可能となる。何故ならば、最終的にHPバーがゼロになったプレイヤーを《殺す》のは殺人装置と化したナーヴギアであり、その設計者かつこのデスゲームの計画者である茅場晶彦なる人物だ。HPバーを減少させたプレイヤーではない。

──ならば殺そう。ゲームを愉しもう。それは全プレイヤーに与えられた権利なのだから。

 

そんな劇薬じみた思想に誘惑され、洗脳された多くのオレンジプレイヤー達が狂的な(くれない)へと染まり、凶刃を携えてそれまで踏み越えなかった一線を何の躊躇いも無く超えて行き、多くのプレイヤー達の命を刈り始めた。

そして、彼らをそんな狂気の道へと(いざな)ったのが、そのユーモラスなプレイヤーネームに反して冷酷非道な思想を有し、凄まじいカリスマ性と巧みな人心掌握術をも併せ持つ、肉切包丁を携えた黒ポンチョの男──《PoH(プー)》なのだ。

 

そんな恐怖の象徴たる最凶最悪のお訊ね者の男が、何故にこの様な下層のフィールドなんかに現れたのだろうか。それも、彼同様に要注意人物として見なされている腹心の部下二人をも伴って。

麻痺毒の所為もあって身動きが取ずに地面に転がった状態のまま、加えてそれ以上の疑問に対して必死に思考を彷徨わせるシュミット。そんな彼を見下ろしながら、PoHは如何にして目の前の獲物を料理するかについて思案する。

 

「さて……どうやって遊んだもんかね」

 

「あ、あれ、あれやろうよヘッド。《殺し合って、生き残った奴だけ助けてやるぜ》ゲーム…………ぷっ」

 

「ンなこと言って、お前この間結局生き残った奴も殺したろうがよ」

 

「あーっ! 今それ言っちゃゲームにならないっすよヘッドぉ! …………ぷくっ」

 

凶悪殺人者二人の間で繰り広げられる緊張感の無い、されどおぞましやり取りに、ザザはエストックの切っ先をヨルコとカインズへと掲げながらニヤけた笑みを浮かべ、向けられている二人は恐怖からか手で口を押さえる。二人の会話によって現実に引き戻されたシュミットに至っては、その口元をひくつかせている。

…………否、実を言えば、今この場を支配しているのは何も《恐怖》だけではなかったりする。

 

「さて、取り掛かるとするか」

 

そんな事など気にも留めないと言わんばかりに、冷静にシュミットへの処刑宣告を下し、手に持つ大型ダガー《友切包丁(メイトチョッパー)》を高々と掲げるPoH。モンスタードロップでありながら、現時点に於いて最高レベルの鍛冶職人が作成出来る最高級の武器を上回る性能を持つ、所謂《魔剣》と称されるそれがシュミットの命を刈り取らんと振り下ろされる────

 

 

 

 

 

 

 

 

──しかし、その凶刃がシュミットへと届く事はなかった。

 

どどどっ、どどどっ、というリズミカルなビートと振動を立てて、何かがこちらへと近付いて来る。迫り来る気配にPoHは処刑の手を止め、部下二人と共に音の聞こえて来る方向へと警戒の目を向ける。シュミットも同様にそちらへと視線を向ければ、霧の掛った薄暗い《十字の丘》を、こちらに向かって一直線に近付いて来る白い燐光(りんこう)が見えた。

小刻みに上下するその光が、闇夜を駆ける一頭の馬の(ひづめ)を包む冷たい炎であると見て取れたのは数秒後の事。その力強い脚力にてたちまち自分達の下まで辿り着いた騎馬は、立ち止まるとその場で後脚だけで立ち上がる。

 

「ふがっ!?」

 

「あいたたた……。だ、大丈夫、キリ────ひゃうッ!?」

 

それにより、その背に乗せていた二人の騎手が重力に逆らえずに真後ろへと転がり、二人の身体が重なる形で地面へと落下してしまう。

 

「? 急に変な声出してどうしたんだ、ユウキ? ……てか、何だこれ?」

 

「や、だめぇ! 何処触ってるのキリトぉ〜〜!!」

 

「ど、何処って……?」

 

「胸ッ! ボクの胸だよぉ!!」

 

「な……っ!?」

 

そして、落下して下敷きとなったプレイヤー──キリトが、自身の上に乗っかっているもう一人のプレイヤー──ユウキをどかそうと背後から彼女の身体を両手で掴み…………そして彼女の胸を触ってしまうという、何ともラッキースケベなイベントに突入してしまった。

悲鳴の如きユウキの抗議の声を聞いてキリトが直ぐさまその手を彼女の身体から放せば、彼女は素早くキリトの上から立ち退き、地面にペタリと座り込んで自身の胸部を両腕で庇う様に抱きしめる。顔を朱に染めて恥じらうその姿は、普段の元気で活発的なそれとは全く違う、まさに乙女の姿だった。

涙で潤んだ目をしたユウキに睨まれてたじろぐキリトに、ユウキと同じ女性であるヨルコは勿論の事、カインズやシュミット、そして流石のPoH達までもが侮蔑の意思の籠った白い目を向ける。

 

「わ、悪かった! わざとじゃないんだ! こ、今度何でも一つ言う事を聞くから、許してくれ!」

 

「…………ホントに?」

 

「ほ、本当だ! 約束する! だからこのとおりだ!」

 

「…………分かったよ、(ゆる)してあげる。その代わり、ちゃんと約束は守ってよね?」

 

「あ、ああ、勿論だ。それとその……本当にすまなかった……」

 

必死の謝罪の末にユウキからの赦しを得たキリトは、騒動の元凶たる騎馬への仕返しの意も込めてその尻を少し力強く叩き、騎馬のレンタルを解除する。去り行く騎馬を見送ってからPoH達の方へと振り返り、この場に漂う微妙な空気を払拭しようとして……

 

「よう。久しぶりだな、プ────」

 

 

 

 

──固まった。

 

 

 

 

「────」

 

それは隣のユウキも同様であり、その表情は如何にも『え? これどういう事?』とでも言いたげに酷く狼狽えている。

 

「ん? 急にどうしたよ、黒の剣士様? 俺の顔に何か付いてるのか?」

 

「…………お、お前……ほ、本当にPoHなのか……?」

 

急に黙り込んだキリトに対して一体どうしたのかと問い掛けるPoH。それに応えるキリトの声は、まるで信じられないものを目の当たりにしているかの如く僅かに震えている。

 

「HA? 何を言ってるんだキリト。この声、この格好、この武器、このエンブレム……忘れた訳じゃないだろう?」

 

「え、いや、でも…………マジで……?」

 

「お前さんまで俺の事を疑うのか、絶剣の嬢ちゃん?

 

──イッツ・ショウ・タイム!

 

……これで分かっただろう? 俺は正真正銘、間違いなくお前達の言うところの殺人ギルド《ラフィン・コフィン》のリーダーのPoHだぜ?」

 

「「嘘だッ!!」」

 

その装いを見せようとも、武器を見せようとも、ラフコフの証たるエンブレムを見せようとも、決め台詞を口にしようとも……如何に本人が本人であると主張しようとも、キリト達はそれを否定し、頑として認めようとはしない。何故ならば……

 

「だって……」

 

「だって……」

 

 

 

 

「「──くまの○○さんみたいな仮面をしてる様な奴(人〉が、ラフコフのリーダーのPoHな訳がない!!」」

 

 

 

 

……そう、黒ポンチョのフードの隙間から見える今のPoHの顔は、世界的に有名な某ネズミの会社の黄色いくまさんにそっくりな仮面に覆われているからだ。その様な仮面を着けたPoHの姿からは、正直言って最凶最悪の殺人ギルドのリーダーたる雰囲気など微塵も感じられはしない。

 

「…………」

 

「「…………」」

 

キリト達の指摘を切っ掛けに一気に静まり返る十字の丘。張本人たるPoHも、キリトも、ユウキも、そして三人のやり取りを傍観していたジョニー・ブラックやザザ、シュミット達も、誰一人として口を開こうとはしない。完全なる静寂に包まれる。

 

「「「──ぶっ!!」」」

 

だがしかし、やがてその静寂は途端に破られる事となった…………示し合わせたかの如く、その場に居るPoH以外のプレイヤー全員が一斉に噴き出す事によって。

 

「ぷ、ぷははははははッ! プ、PoH……お前、何でそんなモン着けてんだよ!?」

 

「Ah、これか? 偶には気分転換でもしようかと思ってな」

 

「き、気分転換でそんなの着けたってのかよ! や、やめろッ! そのユルい笑顔をこっちに向けるなッ!」

 

「よ、よくそんな仮面を見付けたね! あ、あはは……あははははッ! お、お腹イタい!」

 

「も、もうダメ! もう無理! もう限界! ずっと我慢してたけど、これ以上はもう堪えられないっすよヘッドぉ〜! あっはははははァ〜〜!」

 

「〜〜〜〜クッ!」

 

「プ、PoHがくまの○○さんの仮面って……ぷっ! あははははははッ!」

 

「ま、まさかの名前繋がり! 俺達の腹筋を大量殺人するつもりかよッ!」

 

「お、恐るべし……殺人ギルド《ラフィン・コフィン》……ッ!」

 

敵味方問わずの大爆笑……まさに混沌(カオス)である。

 

 

 

 

 

 

 

 

──彼らの腹筋が回復するまで、しばらくお待ち下さい──

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼェ、ゼェ、ゼェ……PoH、その仮面はお前の戦力すら奪いかねない。今後はあまり着けない事をお勧めするぜ」

 

「みたいだな。OK、今回ばかりは貴様の意見に従っておくぜ」

 

キリトの忠告をPoHが素直に聞き入れ、問題の仮面を外したところで気を取り直し、改めて対峙するキリト達とPoH達。緩んだ空気が一瞬にして強張ったものへと変わる。

 

「さてキリト……いくらお前達二人でも、俺達三人を相手に出来ると思っているのか?」

 

「んー……不可能じゃないとは思うけど、多分相当難しいだろうな」

 

PoHの問い掛けに、暫しの間思案した後にそう答えを返すキリト。だがしかし、言葉とは裏腹にその表情には余裕の色が見える。それはまるで、自分達の方が優勢であると信じて疑っていないのかの如く。

 

「でも耐毒POT(ポーション)飲んでるし、回復結晶ありったけ持って来たから、十分間……いやもっと耐えられるだろうぜ。そんだけ有れば、援軍が駆け付けるには充分だ。いくらあんたらでも、攻略組三十人を三人で相手出来ると思ってるのか?」

 

「…………Suck」

 

「ああ、それともう一つ……」

 

直前と全く同じ台詞を返され、尚且つ援軍が迫っている事にフードの奥にて軽く舌打ちをし、短く(ののし)り声を上げるPoH。ジョニーとザザも、不安に駆られて視線を周囲の暗闇へと泳がせる。

そんな三人へと向けて、キリトは左手を軽く挙げながら更なる言葉を投げ掛けた。

 

「うちの狙撃手さまからの伝言だ……」

 

 

 

 

──どんな時も後ろに注意(チェック・シックス)、ってな。

 

 

 

 

──ズトッ。

 

 

 

 

「…………へっ?」

 

言い終えた直後、何かが突き刺さる様な音と共に、ジョニーの身体が先のシュミットの様に糸が切れた人形の如くその場に崩れ落ちた。そして倒れた彼の背には、一本のダガーが突き刺さっていた。

地に倒れ伏すジョニーにはそれが分からない。だがしかし、自身の身体が動かない事と、その原因が何であるのかは理解出来ている。緑色の枠に囲まれた自身のHPゲージと、その隣に表示されている稲妻模様のデバフアイコン──それが意味するのは、麻痺状態。そう、彼は自身の十八番(おはこ)である筈の麻痺毒によって地面に()(つくば)されているのだ。

 

(一体誰が……何処から……!?)

 

背中に違和感を感じる事から、背後から麻痺毒を用いての攻撃を受けたであろう事はジョニーにも分かる。だがしかし、攻略組並みに鍛え上げられた《索敵》スキルを用いても、一向にそれらしき影を見付ける事が出来ない。それはPoHやザザも同様であり、程度は違えども彼らに焦りが生まれ、集中力が乱れ始める。

 

──そしてその集中力の乱れは、時として命取りともなり得る。

 

十字の丘に、一陣の疾風が近付いて来る──咎人(とがびと)達に襲い掛からんとする鎌鼬(かまいたち)となりて。

 

「ッ! ……ザザ、後ろだ!」

 

「ッ!? ……ぬおッ!?」

 

最初に気付いたPoHの声でザザも漸くそれの接近に気付くも、時既に遅し。振り向いた時には既に目の前に死神の影が迫っており、今まさにその手に持つ凶刃を突き出していた。反応が遅れてしまったザザは抵抗する間も無くその凶刃をその身に受けてしまい、ジョニー同様に地に倒れてしまう。

 

「くそッ、よくも、やってくれたな、《狼使い(ウルフハンドラー)》ッ!」

 

「へー、俺って周りからはそんな風に呼ばれてるのか。まあ、妥当っちゃあ妥当な呼び名だわなぁ」

 

麻痺毒により仰向けに地に横たわり、自身を襲った目の前の人物へと鋭い視線を向け、悪態を吐くザザ。対して《狼使い》と呼ばれたプレイヤー──現時点に於いて、唯一《モノクロウルフ》と呼ばれるオオカミモンスターを使い魔としているビーストテイマー・カミヤは、彼の怒りなどお構い無しと言わんばかりに、その関心を自身に付けられた二つ名へと向ける。

因みにだが、今カミヤの傍らには二つ名の所以(ゆえん)たる黒と白のオオカミ達は居ない。

 

「さて……どうする、PoH? あんたのお仲間は二人とも戦闘不能だぜ?」

 

エストックを握るザザの手を踏み押さえながら、片手剣の切っ先をPoHへと向けて抜き放ち構えるカミヤ。因みに、ジョニーの傍らには何時の間に移動したのかユウキが立っており、濃紺色の片手剣の切っ先をジョニーへと向けている。これで二人はもはや詰んだと言えよう。

 

「あんたに与えられた選択肢は三つ。一つ目は、仲間を助ける為に俺達三人を相手にするか。……けど、こいつは時間との勝負だぜ? あんまりちんたらやってると、うちと聖竜の精鋭が援軍として駆け付けちまうぜ」

 

一対多の状況に追い込まれたPoHに対し、指を一本立てて複数有る選択肢の内の一つを口にするカミヤ。更に立てる指を一本ずつ増やしながら、続けて二つ目、三つ目の選択肢を提示する。

 

「二つ目は、仲間を見捨てて一人で逃げるか。三つ目は、大人しく投降して三人仲良く投獄されるか。……俺達としては三つ目を選んでくれると一番助かるんだが……さて、どうする?」

 

「オイオイ、誰が好き好んで自分から投獄される道を選ぶかよ。投獄させたかったら、力尽くでやってみる事だな」

 

「だと思ったよ。……けど、そいつはやめにしておくぜ」

 

欲を言うならば、今直ぐにでもPoHの言う通りに力尽くで彼を捕らえて投獄したいところなのだが、状況が状況である為にそうもいかない。今此の場には麻痺で動けぬシュミットや、戦力的には心許ないヨルコとカインズが居るのだ。いくら三人掛かりとはいえども、シュミット達を守り、尚且つ戦闘不能状態にあるザザ達に注意を払いながらPoHと戦うというのは、そう簡単な話でもないのだ。

 

「て事で、選択肢は一と二の二択だ。さあ、どうする?」

 

今一度PoHへと選択を迫るカミヤ。それに対しPoHは少し考える様な素振りを見せた後に、右手に持つ友切包丁を収めた。それが意味する事はつまり……

 

「……二人を失うのは手痛いが、仕方ねえ。二人には悪いが、此処は一人で退かせて貰うとしよう」

 

「そうかい。なら、精々俺達に見つからない様に気をつける事だな」

 

撤退する事を選んだ様だ。PoHのその選択に対して、ジョニーとザザは些か複雑な心境である。見捨てられる事は悔しいが、だからといって自分達のリーダーをむざむざ捕まらせる訳にもいかないとも思っているからだ。

 

「フン……。覚えておけよ。貴様らは、何時か必ず地面に這わせてやる。大事なお仲間の血の海でごろごろ無様に転げさせてやるから、期待しておく事だな」

 

最後にそう言い残すと、PoHは一人十字の丘を立ち去って行く。カミヤ達は、先の理由から深追いをしようとはしない。

 

こうして、殺人ギルド《ラフィン・コフィン》による脅威は、一先ずのところ過ぎ去ったのであった。

 

 

 




という訳で……


『キリト、ユウキにラッキースケベをやらかす』。
『PoH、お茶目ををやらかす』。
『ジョニーとザザ、捕まる』の回でございました。


あ、そう言えば、ジョニーを仕留めたダガーがどの様にして彼に突き刺さったのか、皆さまはご理解出来たでしょうか?

分からない方へのヒント。
・キリトがPoH達に言っていた言葉。
・あの子といったらあのスキルです。


さて、今年も残す所あと一カ月。
出来ることなら、今年中にもう一本更新したいところ。

という訳で皆さん、ご観覧ありがとうございました。
もしも更新出来なかった場合には、良いお年を。

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