ソードアート・オンライン 〜The Parallel Game〜 《更新凍結、新作投稿中》   作:和狼

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大変お久しぶりです。

『表現や展開に行き詰まると、執筆意欲が低下してサボってしまう』という悪癖の所為で、3ヶ月も更新が開いてしまいました。
すみません……。

そんな訳で漸く書けました、キリトとユウキのデート回、中編……駄文ではありますがお楽しみ下さいませ。



Interval:黒と絶剣《中編》

 

 

 

街の西側から南東の方角へと緩く湾曲する様に流れ行く水路と、街の北東より流れて来て先のものに合流する水路──二本の水路によって三つに区分された、アインクラッド第四十二層の主街区《サビア》。

規模は其れ程大きくはないものの、建ち並ぶ煉瓦(れんが)造りの建物が(かも)し出す洋風な雰囲気が意外にも人気を集め、此処をホームタウンとする者や、観光目的で訪れる者たちで連日賑わっている。

 

そんなサビアの街の、各種の商店が(ひし)めく商業エリアと、公園や広場などの有る観光エリアとが合わさった北側を、《十六夜騎士団》の幹部格プレイヤーである《黒の剣士》キリトと、同じく《絶剣》ユウキが、建ち並ぶ商店へと視線を彷徨わせながら歩いて行く。

 

私服姿で、腕を組んで歩いて行く姿はまさにカップルの其れであり、其の光景を見た道行く男性プレイヤーたちの多くは、キリトへと羨望(せんぼう)の眼差しを向ける。

無理も無い。SAOに於ける男女の比率は、圧倒的に女性の方が少ない。其れに加えて、まだ少し幼いとはいえ、ユウキは充分に《美少女》に分類されるであろう可憐な少女だ。モテたい、彼女が欲しいと願う男性プレイヤーたちにしてみれば、数少ない──しかも美少女であるユウキと連れ歩いている男性プレイヤー(キリト)が羨ましくない訳がないのだ。

 

「うわー……見て見て、キリト! あそこのお店に飾ってある服、すっごく可愛いよ! 行ってみよ!」

 

「お、おい……そんなに引っ張るなって」

 

尤も、ユウキは自分たちが注目を集めている──キリトに至ってはあまり好意的ではない意味で──事など気付かず、気にする事もなく、只々自分たちが楽しむ事だけを考えて、目に映った一軒の洋服店へとキリトの腕を引いて入って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、あたしらも行ってくるね」

 

「うん。気を付けてね、ノリ、テツオさん」

 

「あいよ」

「了解」

 

……勿論の事、その後を追って十六夜騎士団の《二人のデートを見守り隊(ストーカー集団)》のメンバー ──ノリとテツオの二人も入店するのであった。

因みにだが、此の人選は《あまり目立たない》という基準の下に決まったもの。容姿端麗で明るい髪色のアスナや、赤い髪にバンダナをしたクラインなどでは目立つのはほぼ確実であり、そうなれば、こっそりと二人に近付いて様子を(うかが)う事など不可能だからだ。

勿論の事、彼らは皆あまり目立たない様な、それでいて決して怪しまれない様な装いに変装してはいるが、念には念の為という事だろう。

 

 

 

 

兎にも角にも、キリトとユウキのデート……及び十六夜騎士団メンバーによる尾行が、本格的に幕を開けたのであった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

……どうしてこうなったんだ?

 

いや、ちゃんと解ってはいる。

これは、不可抗力とは言えユウキの、その……む、むむむ胸を触ってしまった事への(つぐな)いであると。

 

しかし……しかしだ。確かに「何でも一つ言う事を聞く」と言ったとはいえ、何がどうして其の内容が《デート》になるというのだろうか? 言った手前拒否する事など出来る訳もないから、こうして承諾はしたが、未だに納得は出来てはいない。

俺としては、『スイーツを(おご)って欲しい』とか『クエストに付き合って欲しい』とか、そういう感じのを予想していたんだが……。

 

「じゃーん! 見て見てキリトー!」

 

なんて事を考えていたら、俺とユウキの間を隔てていたカーテンを勢い良く開けて、出発した時とは全く異なる格好をしたユウキが姿を現した。

と言うのも、俺たち──と言うかユウキは今、とある洋服店にて絶賛店の商品の試着の真っ最中なのだ。

因みに今のユウキの格好は、白地に淡い水色の水玉模様が入った、ノースリーブのワンピースに、足下は素足に水色のビーチサンダル。纏めていた髪も何時もの様に下ろし、其処へ麦わら帽子を被っている。彼女の肌の白さも相俟(あいま)って清楚(せいそ)な雰囲気が有り、それでいて、ユウキの活発なイメージを決して損なってはいない。そして、何よりも可愛い。

 

「どうかな? 似合ってる?」

 

「ああ。似合っててとても可愛いよ」

 

「本当!?」

 

「ああ」

 

ユウキの問い掛けに、少し恥ずかしいながらも正直な感想を述べれば、彼女は「えへへー! 良かったー!」と言って、実に嬉しそうな笑顔を浮かべる。

そして直後に、「それじゃあ次のに着替えるねー」と言ってカーテンを閉め、再度試着室の中へと消えて行った。

 

待ち合わせの時といい、今といい、在り来たりな感想ではあったが、其れでもユウキが喜んでくれたのならば何よりだ。

……いや、極端な話……感想を言えただけまだマシなのかもしれない。最悪、何を言って良いのか分からず、躊躇(ためら)っているうちに結局言う機会を逃してしまい、機嫌を取るどころか、逆に更に悪化させてしまった場合だって有り得ただろう。

 

そうならずに済んだのは、間違い無くシノン──詩乃のお陰だろう。アイツが長年ずっと俺の隣に居てくれたお陰で、女の子との接し方をある程度学ぶ事が出来たのだから。

 

……そのシノンはというと、ここ最近、何だか様子がおかしい。

具体的な事を言うと、何だか俺の事を避けている様な気がする。前は一緒に出掛ける事の多かった攻略やクエストも、最近は何時の間にか他の奴らと出掛けているみたいだし、彼女と会話をする機会も少し減った気がする。話しかければちゃんと応えてはくれるけど、其れでもあまり長くは続かなかったり、何処か落ち着かない様子だったり、変に誤魔化そうとするなど、まともに会話出来ていない様な気がする。

カミヤも心配して何度か直接尋ねてみてくれたらしいが、「大丈夫」の一点張りで何も分からなかったという。

 

カミヤ曰く、「多分、今は何を言っても答えてはくれないだろうから、(しばら)くは下手に干渉せずに様子を見よう」との事だが、やはり気になるし、心配にもなる。俺が関わっているとなれば尚更にだ。

 

「……ト、……ぇ……リト……」

 

何か彼女を怒らせる様な事をしてしまったのだろうか? 嫌われる様な事をしてしまったのだろうか?

 

「ねぇ、キリトってばぁ!」

 

「へ? おわっ!?」

 

突然掛けられた大きな声に思考を(さえぎ)られ、俺の意識は現実に呼び戻された。かと思えば、至近距離に此方を見上げているユウキの顔が有り、驚いた俺は思わず間抜けな声を上げてしまった。

そんな俺を心配するかの様に、ユウキは優しい声音で話し掛けて来た。

 

「驚かせてごめんね……。けど、何回呼んでもキリト返事してくれないんだもん」

 

「わ、悪い……。ちょっと考え事をしてたもんだから」

 

「シノンの事を考えていた」とは言わない。俺とユウキは今一応デートをしているのであって、心配する意味合いだとはいえ、デート中に他の女の事を考えているというのは、あまり褒められた事ではないからだ。

 

「ふーん……。まあいいや。其れよりさ、此の服どうかな? 似合ってるかな?」

 

ユウキの方も深く追求して来る様な事は無く、話題を変えて、新しく着替えた格好に対する感想を求めて来た。

今度の格好は先程のものとは打って変わり、上は白のTシャツに、(たけ)の短い半袖の黒のジャケット、下は膝下辺りまでの長さの青のジーンズを()き、足下はスニーカーと、ユウキの活発さを前面に出した様なコーディネートとなっている。其れに合わせて髪型も(うなじ)の辺りで一本結びにし、其処にグレーの野球帽を被っている。

女の子らしさはマイナスかもしれないが、ユウキの性格的には(むし)ろこういったボーイッシュな格好の方が似合うかもしれない。

 

「おー! なかなかカッコいいじゃないか!」

 

「それって似合ってるって事?」

 

「おう! こう言っちゃなんだけど、ユウキは無理に女の子らしい格好をするよりも、そっちの方がよっぽど似合ってるかもしれないな」

 

「あははは。そうかもしれないねー。うん、ボクもそう思う」

 

普通、女の子らしい格好よりもボーイッシュな格好の方が似合っていると言われて喜ぶような女の子は殆ど居ないのだろうが、思った事を素直に口に出した俺に対し、ユウキは怒るでも呆れるでもなく、自然な笑顔で笑ってくれた。どうやら彼女の機嫌を損ねはしなかった様だ。

 

「それじゃあ次ねー」

 

「おう」

 

この後も、ユウキは何度も試着ショーを繰り返し、その中から気に入った物を何着か選んで購入──勿論、此れはユウキへの償いである為、代金は全額俺が支払った──してから、俺たちは次へと向かうべく店を後にした。

 

余談だが、試着した洋服の中に、胸の上部が大きく開いたタートルネックが存在し、ユウキが其れを着て出て来た時には激しく動揺した。

確かに、何年か前にそういうのが流行ってたのは知っているが、何で其れがSAO(この世界)に存在してるんだよ!? 何で茅場はそんなモンを取り入れてんだよ!? お前は一体何がしたいんだよ!? 頭おかしいだろォ!? そしてユウキも何故に其れを選んだ!? 時期的に考えて少しズレてるだろ!?

それとハッキリ言わせて貰おう…………ユウキの控え目な胸では大分(かな)しい事になっていて、正直あまり似合っていなかったです……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………。……イケるかしら?」

 

後日、こっそり撮影した二人のデート風景の写真を整理していた際に、ユウキが胸開きタートルネックを着ている写真を見たアスナが、自身の胸元を見ながらそう呟いていたそうな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

それからというもの、俺とユウキは色んな店を見て回り、所々で幾つかの商品を購入したりしてデートを楽しんだ。

追加の衣服に、アクセサリーや小物など、其処まで多くはないもののそれなりの量を購入したが、購入したアイテムはその場でアイテムストレージに収納する事が出来る為、現実世界の様に大量の荷物を持ちながら歩いて回るという様な心配はない。そういった点では仮想世界はとても便利であり、意外と助かる。

 

それはさておいといてだ。

 

「そろそろ昼時だけど、ユウキは腹の具合はどうだ?」

 

現在の時刻は正午を少し回ったところ。普段とは違って戦闘や訓練(激しい運動)をしてはいないが、やはり生理現象だからだろう、そろそろ腹が減って来た。

 

「そーだねー……うん、そろそろ空いて来たかも」

 

 

 

 

くぅ〜〜〜〜。

 

 

 

 

俺の問い掛けにユウキが答えた直後、何とも可愛らしい音が俺の耳に聞こえて来た。其れがユウキの腹の虫の音である事は、「あ、あははは……」と照れ笑いを浮かべながら、紅くなった頬をかいているユウキを見て一目瞭然だった。

本人は普段通りに振る舞おうとしている様だが、其の様子は普段と比べれば明らかにぎこちなく、其の所為もあってか何と無く気不味い。

 

「そ、そっか……。そんじゃ、どっか良さそうな感じの店に入って昼飯にしようぜ?」

 

「え? あ、うん、えーと、ね……実はさ、お昼ご飯の事ならボクに考えが有るんだ」

 

「お、そうなのか。何処か良い店でも知ってるのか?」

 

「えへへ、ナ〜イショ! それは着いてからのお楽しみだよ♪」

 

「お、おい……!」

 

だからと言って、下手に茶化して機嫌を損ねられても不味いので、此処は何も聞かなかったフリをし、話を先に進めて意識を()らす方向で行く。

其れが功を奏したのか、ユウキは次第に落ち着きを取り戻していった。後はお互いに忘れてしまえば問題は解決だ。

 

其れはさて置き。

此方から振った話題に、自分に案が有ると応えたユウキ。だが、彼女は其の内容を勿体ぶって詳細には教えてくれない。

俺を驚かせたいとか、そういう何かが有るのは何と無く解る。だがしかし、解っていてもやはり気になるものだ。

 

そんな訳で、詳細も聞かされずにモヤモヤとした気分のまま、ユウキに手を引かれて街を歩く事数分。

 

「着いたよ!」

 

連れて来られた先は、小洒落(こじゃれ)た雰囲気のオープンカフェ……

 

 

 

 

 

 

 

 

…………とかではなく、街の東に位置する転移門広場。二本の水路の合流地点に面して造られたウッドデッキだ。

其処から見える、日の光が反射してきらきらと輝いている水路と、其の水路に沿って煉瓦造りの建物が建ち並ぶ光景は、同じく水路が流れる第四層の主街区《ロービア》とはまた違った趣が有る。

 

さて、そんな景色の良い場所で昼食にしようと言うユウキだが、生憎と周りに飲食店や宿屋の類いの建物は存在しない。となれば、残る可能性は一つ……、

 

「弁当か」

 

「そうだよー」

 

近くに有った手頃なベンチに二人で腰掛けてからそう言うと、ユウキはストレージから小ぶりなバスケットを取り出し、其の中から大きな紙包みを二つ取り出した。

其のうちの一つを受け取り、期待に胸を膨らませながら包み紙を剥がして見れば、先日アスナが作ってくれたモノとそっくりのバゲットサンドが、食欲をそそる香ばしい匂いと共に出て来た。

 

途端、其れまで感じていた空腹感を余計に刺激された俺は、一言「頂きます」と挨拶をしてからバゲットサンドへとかぶりついた。

 

「んー……美味い!」

 

飲み込んだ瞬間、以前食べたモノとは少し違った味わいが口の中一杯に広がり、其の美味さに素直な感想が口をついて出て来た。そして気付けば俺は、二口、三口と夢中になってバゲットサンドを頬張っていた。

 

「えへっ、喜んで貰えて良かったー。頑張って作った甲斐(かい)が有ったよ」

 

「……へ?」

 

だが、ユウキが俺の感想に対して返した言葉を聞いた瞬間、俺は一瞬我が耳を疑い、思わず食事の手を止めてユウキの方へと振り向いた。

と言うのも、俺が覚えている限りでは、ユウキは《料理》スキルを持っていなかった筈なのだ。対応するスキルを持っていなければ……持っていてもスキルの熟練度が低ければ、其れだけ成功率は低くなるものなのだ。

 

「……此れ、本当にユウキが作ったのか? お前確か《料理》スキルなんて持ってなかった筈だろ」

 

「あ、そう言えばまだ言ってなかったね。実はね、ボク最近《料理》スキルを取ったんだ」

 

「マジで?」

 

「うん。……でも、ホントつい最近取ったばかりだからさ、まだまだ熟練度は低いんだ。現に此のバゲットサンドだって、リーシャさんに手伝って貰ってやっとなんだ」

 

色々と合点がいった。

《料理》スキルを取ったというのならば簡単な調理くらいなら可能だろうし、《料理》スキルの熟練度がかなり高いという後方支援部隊長のリーシャ(カミヤが任命)が手伝ったというのならば、料理の成功率もぐんと上がるだろう。

 

「あ! 俺よりも遅れて来たのって、若しかして……」

 

「うん。此れを作るのにちょっと手間取っちゃったからなんだ。でも、其れでキリトに喜んで貰えたんだから、時間を掛けて作った甲斐があったよ」

 

「ああ。すっごく美味いぜ」

 

「えへへ。ありがとう、キリト」

 

其の後は、先程の様に夢中になってガツガツと頬張り続けるのではなく、ユウキが頑張って作ってくれたという事を噛み締めながら、ゆっくりと味わって頂いた。

 

 

 

 

水路の水分を含んだ涼しい風が心地よく吹き抜ける、穏やかな昼時の一齣(ひとこま)である。

 

 

 




因みにですが、

更新をサボっていた際に、作中に使われたキリトくんの声優ネタの元ネタを、今更ですが全話見てみました。
いやー、自分の心にも色々と来るものがあり、何だか他人事とは思えずについつい夜通しで見てしまいましたよ。

放送当時は気にしていなかったけど、後から何気無く見てみたらハマってしまう作品って、結構有るもんなんですね。

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