ソードアート・オンライン 〜The Parallel Game〜 《更新凍結、新作投稿中》   作:和狼

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Chapter.2:レクチャーのち異変の兆し

 

 

「どわったった…!」

 

 第一層主街区《はじまりの街》の西側に広がるフィールド。

 各々の武器を購入して街を出た俺達は、現在そこでそれぞれにレクチャーを行っている。俺がシノンを、キリトがクラインを担当だ。因みにシリカ――武器は短剣――はノートである程度知識を得ているので、自分一人で頑張ってみるとの事だ。

 

 で、一方のクラインはと言うと、青いイノシシ――正式名称《フレンジーボア》――に攻撃を仕掛けるも、無茶苦茶に振るわれる彼の曲刀は空を斬るのみで、逆に、巨体な割に以外と俊敏な青イノシシの突進攻撃を喰らって吹き飛ばされ、股間を押さえながら草原を転がる。

 

「大袈裟だなぁ。痛みは感じないだろ?」

 

「あっ、そっか。ついな……」

 

「……ああはなるなよ?」

 

「……ならないわよ」

 

 クラインの叫びを聞いて振り向き、キリトとのやり取り(コント)をする彼の姿を端から見ていた俺とシノンは、その様な寸劇をやらない様にと軽くやり取り(やりとり)をするのだった。

 

「そんじゃま、もう一度レクチャーすんぞ?」

 

 気を取り直し、俺はシノンのレクチャーに集中する。ジェスチャーでシノンをその場に待機させてから少し距離を置き、足元に落ちていた小石を拾う。

 

「重要なのは初動のモーションだ。んー……ほんの少しタメを入れる様な感じかな?」

 

 言いながら、右手の小石を軽く振りかぶり、視線前方に居る青イノシシに狙いを定め、振りかぶった手をピタリと構えて止める。すると、システムがスキルのファーストモーションを検出したらしく、小石が仄かに輝き出した。

 

「こんな風にスキルが立ち上がったら、後は――」

 

 後はシステムの力に身を委ね、右手の小石を青イノシシへと投げ付ける。空中に光のラインを描いて飛んだ小石は見事に青イノシシの横っ腹に命中する。投剣スキル基本技《シングルシュート》だ。

 攻撃を受けた青イノシシは、「ぷぎーっ!」という怒りの声を上げてからこちらへと振り向いた。

 

「システムが技を命中させてくれる。どうだ? 大体理解出来たか?」

 

「ええ。タメれば良いのよね?」

 

 最後にそう締め括りながら、俺は自身の左腰にぶら下げてある武器―片手用直剣を抜いてから、軽く構える。先程攻撃した青イノシシが、攻撃者である俺に突進攻撃を仕掛けて来たからだ。

 

「そゆ事。つー訳でやってみそ」

 

「ええ」

 

 剣を横にして青イノシシの攻撃をブロックしながらシノンに促すと、彼女は思い付いた様に攻撃の構えを取る。右足を前に出して腰を落とし、右手で水平に構えた短剣を左肩へと持って行くという姿勢だ。

 すると、規定のモーションが検出された様で、彼女の短剣が淡い水色にに輝いた。

 

「おらっ、行ったれぇ!」

 

「はあっ!」

 

 それを見て、俺は叫びながら青イノシシを蹴飛ばし、青イノシシの進行方向をシノンへと向けさせる。一方のシノンも、俺の声を合図に気合いの篭った掛け声と共に駆け出し、青イノシシとの距離を縮める。

 そしてとうとうその距離をゼロにし、擦れ違い様に青イノシシの胴体の側面に水色の軌跡を描き、通り過ぎる。短剣スキル基本技《スプリット》だ。

 今ので青イノシシのHPを削り取った様で、青イノシシはガラスが割れる様な音を立てて砕け散り、直後に俺とシノンの双方の前に半透明のウインドウが出現。経験値と賞金の加算報告が表示される。

 

「で、出来た……」

 

「おめでとさん」

 

 直ぐにウインドウを消し、一人呟くシノンに祝辞を掛けながら歩み寄り、軽くハイタッチを交わす。

 

「やったー!」

 

 その時、俺の後方からシリカの歓喜の声が耳に――ナーヴギアはその構造状脳そのものに直接接続しているので、正確には脳の聴覚野に――届いた。振り向いて見ると、シリカが笑顔でこちらへと駆け寄って来ていて、俺に抱き着いて来た。

 

「やったよお兄ちゃん! あたし一人でイノシシを倒せたよ!」

 

「おお、やるじゃねぇか! 何度もノートを読んだ甲斐が有ったな」

 

「うん! えへへ♪」

 

 嬉しそうに戦果を報告するシリカに対し、俺は祝辞を述べながら彼女の頭を軽く撫でてやる。すると、彼女は更に嬉しそうな顔をした。

 

「……あなた達って、相当仲が良いみたいね」

 

「ん? まあ、悪くはねぇわな」

 

 突然シノンから投げ掛けられた言葉にそう返す。見ると、何故かその顔は呆れている様な感じだった。

 

「うおっしゃあああ!」

 

 と、今度はクラインの歓喜の声が耳に届く。俺達が振り向いて彼らの許に歩み寄る中、彼らはハイタッチを交わしていた。

 

「おめでとう」

 

「へへっ!」

 

「けど、今のイノシシ…スライム相当だけどな」

 

「ええっ、マジかよ!? オレはてっきり中ボスか何かだと……」

 

 しかし喜びも束の間、キリトの口から告げられた事実に、クラインは驚きの声を上げる。てか、突進攻撃しか出来ない様なイノシシが中ボスのゲームって……どんだけ難易度低いんだよ?

 

「そんな訳無いでしょ。それに、もしそうだとしたら、この辺り一帯に沢山の中ボスが居る事になるわよ?」

 

 そんなクラインの認識の違いを指摘する様に、シノンはある一方を指差す。そこでは件の青イノシシがリポップしており、それを見たクラインは「ですよねぇ……」と呟き、軽く肩を落とす。

 が、直ぐに気持ちを切り替えて、ソードスキルの反復練習を始める。シリカとシノンも釣られる様に、思い思いに短剣を振り回し始めた。

 

「おおっ!」

 

「はまるだろ?」

 

「まあな!」

 

「はい!」

 

「そうね」

 

 クラインに掛けたであろうキリトの問い掛けには、クラインだけでなく、シリカとシノンも同時に返事をした。

 

「スキルってよぉ、武器を作ったりすんのとか色々あんだろ?」

 

「まあな。クラインの言う鍛冶や裁縫みたいな製造系統や、釣りや料理みたいな趣味の系統と、戦闘系統以外も含めて、多種多様なスキルが無数に有るって言われてる。……けどその代わり、魔法は存在しないみたいだけどな」

 

 ふとクラインが口にした質問には、俺が具体的な例を挙げながら説明。付け加える様に、このゲームの斬新なシステムについても語る。

 

「RPGで魔法無しとは、大胆な設定だよな」

 

 やはりと言うべきか、クラインはその点に食いつき、シリカとシノンもうんうんと頷いている。

 

 そう、このSAOには、ファンタジーゲームの定番とも言うべき《魔法》の要素が存在しないのだ。

 その代わりに、《ソードスキル》と呼ばれる必殺技とでも言うべき物が無限に近い数設定されている。その理由は――

 

「自分の身体を動かして戦う方が、面白いだろう?」

 

「確かに!」

 

「そうですね!」

 

「ええ」

 

 自身の身体を実際に動かして戦うという、フルダイブ技術を最大限に体感する為だ。

 

「よし、じゃあ次行くか」

 

「おう! ガンガン行こうぜ!」

 

「はい! あたしも頑張っちゃいますよー!」

 

「ふふっ。あんまり張り切り過ぎて、疲れない様にね」

 

「あははは」

 

 こうして、俺達は更なるモンスター狩りの為に、次の場所へと移動するのだった。

 

 

     ◆ ◆ ◆

 

 

「何度見ても信じらんねぇなぁ。此処がゲームの中だなんてよぉ」

 

 太陽が西に傾き、赤く染まり出した空の下、青イノシシを含めた複数のモンスターを狩り終えた俺達五人は、各々それぞれの姿勢を取って休憩していた。

 すると、不意にクラインが口を開いてそう呟き、シノンが「確かにそうよね」と相槌を打つ。声こそ出さなかったが、シリカもうんうんと頷いている。

 

「作った奴は天才だぜ。すっげえよなぁ。マジこの時代に生まれて良かったぁ」

 

「大袈裟な奴だなぁ」

 

 後半はキリトの言う通りちょっと大袈裟かもしれないが、前半はクラインの言う通りだ。誰がゲームの世界に入れるなどと予想出来ようか?

 

「初のフルダイブ体験だもんよぉ」

 

「右に同じく」

 

「あたしもです」

 

 クラインの抗議にも似た様な言葉には、シノンとシリカも味方する様に声を上げる。

 

 その後、クライン、シノン、シリカ、そして実は俺もナーヴギア用のゲームはSAOが初めてである事、SAOを購入出来た事やベータテスターに選ばれた事が幸運だという事などを話した。

 

「なあ、ベータの時は何処まで行けたんだ?」

 

 ベータテスト繋がりで、期間中に何処まで行けたのかを尋ねて来たクライン。

 

「途中から二人で協力して、二ヶ月で十二層だ」

 

「今度は最初から協力するつもりだから、一ヶ月も有りゃ十分行けると思う」

 

「協力に関しては了解。けど、そんなに早く行けるかねぇ?」

 

「大丈夫だよお兄ちゃん! あたしも精一杯協力するから!」

 

 質問に答え、今度はもっと早く行こうと意気込むキリトを見ながら、テスト期間中の事を思い出す。

 相手の戦闘パターンについてお互いに情報を交換し、協力し、助け合って、四苦八苦の末にようやく強力な敵を倒せた。もしも一人のままだったら、十二層までなんて到底辿り着けなかった事だろう。

 

「さて、もう少し狩りを続けるか?」

 

「たりめぇよぉ!……って言いたい所だけど、腹減ってよぉ。一度落ちるわ」

 

 キリトが狩りの続行を提案するが、どうやらクラインは夕食を取る為に一度ログアウトするらしい。

 

「こっちのメシは、空腹感が紛れるだけだからな」

 

「へへっ、五時半に熱々のピザを予約済みよ!」

 

 ……何と用意周到な。

 

「んで、メシ食ったらまたログインするわ」

 

「そっか。三人はどうするんだ」

 

「俺とシリカはまだ大丈夫かな。と言っても、後三十分くらいだけどな」

 

「わたしもそのくらいかしらね」

 

 対する俺、シリカ、シノンは、そこまで余裕は無いにしろ、まだまだ行けると表明する。

 

「じゃあ、今ログアウトすんのは俺だけか。あっ! なあ、この後…オレ他のゲームで知り合った奴らと落ち合う約束してるんだけどよぉ。どうだ?あいつらともフレンド登録しねぇか?」

 

「えっ? んー……」

 

「あぁ、俺もちょっとなぁ……」

 

 去り際、ふと思い出した様にそう提案して来るクライン。だが、俺とキリトはその提案に対し、あまり乗り気ではない反応を返してしまう。何せ、俺達は二人とも人付き合いがあまり得意ではないのだから。

 

「およよ、勿論無理にとは言わねぇよ! そのうち紹介する機会も有るだろうしな」

 

 そんな俺達の失礼な態度に対してクラインは気を悪くする事は無く、寧ろ気まで使わせてしまった。少しドジな所は有るが、根はかなり良い奴の様だ。

 

「ああ、悪いな……」

 

「わたしもちょっと、遠慮しておくわ……」

 

「折角ですけど、ごめんなさい、クラインさん……」

 

「誘ってくれてありがとな」

 

 シノンとシリカも含めて四人で謝るが、それでもクラインは大きくかぶりを振る。

 

「おいおい、礼を言うのはこっちの方だぜ。このお礼は、そのうちちゃんとすっからよ。特にキリトとカミヤには精神的にな」

 

 そして、俺とキリトの許に歩み寄り、俺達の肩を軽く叩いた。

 この時、俺はクラインの事を本当に良い奴だと思ったのだった。

 

「んじゃ、マジにサンキューな。これからも宜しく頼むぜ」

 

「また聞きたい事が有ったら、何時でも呼んでくれ」

 

「おう! 頼りにしてるぜ!」

 

 俺達に背を向け、最後にそう告げて去ろうとするクライン。

 

 

 ――しかしこの後、思いもよらぬ衝撃がクラインを……俺達を襲ったのだった。

 

 

「……あれっ?」

 

「ん? どうしたんだ、クライン?」

 

「どうなってんだこりゃ? ……ログアウトボタンがねぇぞ(・・・・・・・・・・・・)?」




 はい、第二話でした。何と無くタイトル詐欺臭を感じるが……。

 はてさて、文字数の均等化を意識したら、こんな感じの終わり方になってしまいました。申し訳ない……。
 いや、でもほら、アニメとかでCM挟む時、こんな区切り方しません? しますよね? しますよねっ! …………あ、いえ、すみませんでした……。

 という訳で、後書きという名の反省でした。
 さて……三話は何処まで進められるだろうか…?

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