ソードアート・オンライン 〜The Parallel Game〜 《更新凍結、新作投稿中》   作:和狼

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──地ノ文、ニガテ……。




という訳で、前回よりも更に半月遅れての更新となりました。マジすいません……。
下手に「次回は早めに」とか言うもんじゃないですね……。

そういう訳なので、これからの更新はより不定期になるやもしれませんので、それをご理解頂いた上でお持ち頂ける様、お願い申し上げます。




Chapter.23:《笑う棺桶》討伐作戦会議

 

 

 

ユウキとデートをして、恋愛感情というものを知ってから二週間近くが過ぎた。

あれからというもの、ユウキは宣言通りに俺に対して猛アピールして来る様になった。具体的には、攻略やクエストに一緒に行こうと誘って来たり、飯の時に隣に座って来たり、夜に俺の部屋に押し掛けて来て一緒に寝たりだ。

いやぁ、ユウキが初めて押し掛けて来て「一緒に寝よう」なんて言い出した時はマジで焦ったし、止む無く一緒に寝たら寝たで興奮してなかなか寝付けなくて大変だった。

同じ境遇のカミヤの事を少しばかり羨ましいと思った事も有るが、いざ自分もなってみると意外と辛いもんだ。一年半近くもあれに耐えて来たのだと思うと、カミヤには脱帽するよ。

 

ああ、そう言えばかなり今更な話だけど、随分前からカミヤと一緒に寝るメンバーにアスナも加わったんだっけ。

初めはアスナファンのギルメンから嫉妬の目を向けられてたみたいだけど、カミヤの疲れ様を見たら、みんな(てのひら)を返して同情する様な目で見る様になったっけなぁ。

……色々と大変だなぁ、カミヤも。

 

 

 

 

──閑話休題。

 

 

 

 

俺の方も、シノンに対して根気良くアプローチをし続けてはいる。だがしかし、結果はあまり思わしくなく、相変わらず避けられたり会話が長く続かなかったりのままだ。

ただ、そんなシノンだが、最近俺とユウキが二人で仲良くしている所を見ると、何とも形容し難い顔をする様になった。怒っている様な、羨ましそうな、悔しそうな、苦しそうな、哀しそうな、……けれど、何処かホッとしているかの様な、そんな複数の感情がごちゃ混ぜになったかの様な複雑な表情を。

相談に乗ってくれたカミヤからのアドバイスで、彼女が抱える事情に関しては追求したりせず、なるべく頻繁に、なるべく何時も通りに接する様に心掛けている。

因みに、シノンと接する時にはなるべく一人で行く様にとも言われた。特に、ユウキと一緒に行くのだけは極力避ける様にと念押しされた。……何でユウキと一緒なのは駄目なのか、全くもって分からんままだ……。

 

 

 

 

──閑話休題。

 

 

 

 

そんなこんなで時間が経った、本日夕方。

現在進行形で夕食の準備をしてくれている後方支援組を除く、俺達《十六夜騎士団》の全メンバーは、団長であるカミヤの召集の下ギルドホームの大食堂へと集まっている。

今朝の報告によれば、何でもとても重要な話が有るとの事で、その証拠に当のカミヤはとても(おごそ)かな雰囲気を纏って(たたず)んでいる。

 

「それじゃあ、今夕食を作ってくれているメンバー以外全員集まったみたいなので、今から重要な報告をしたいと思う」

 

メンバー全員の確認が終わった様で、それまでずっと静かだったカミヤが漸く口を開いた。

重要な報告との事なので、それまでギルドメンバーの話し声で溢れていた大食堂は一斉に静まり返り、(たちま)ち話を聞く姿勢となる。

 

「これは、他の四大ギルドと協議した結果なんだが……」

 

《攻略組四大ギルド》の名前が出た事で、今からカミヤが話す内容は余程重要なものだという事を理解し、心持ちをより一層真剣なものとする。だが──

 

 

 

 

 

 

 

 

「──今夜、四大ギルド合同で《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の討伐を行う事になった」

 

……心構えは出来ていたにも関わらず、報告された内容には大きな衝撃を受けざるを得なかった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

話は(さかのぼ)る事十日前──キリトとユウキがデートをした日の夕刻の事。

 

全体的に和の雰囲気が(ただよ)うアインクラッド第三十三層、其の主街区《ミヅチ》の一角に有るとある木造平屋建ての食事処に、彼らは居た。

攻略組四大ギルドの一角である《アインクラッド解放軍》のリーダーであるディアベルと、副リーダーであるキバオウ。

同じく《聖竜連合》のリーダーであるドレアに、副リーダーである《フリードリヒ》。

《血盟騎士団》の団長・ヒースクリフに、副団長のレンド。

そして、《十六夜騎士団》の団長にして、今回の食事会の主催者であるカミヤと、副団長として付き添ったアスナ、加えてカミヤの使い魔オオカミであるリトとスーナ。

各ギルドの団長、副団長+αという豪華な面子が、(たたみ)(ふすま)に囲まれた和室にて、何処か和風な料理が並ぶテーブルを囲み座っていた。

 

「皆さん、本日は自分の呼び掛けに集まって頂き、ありがとうございます。とりあえず重苦しい話は後にして、先ずは目の前の食事を楽しみましょう。それでは僭越(せんえつ)ながら、乾杯」

 

「「「乾杯」」」

 

集まった中ではアスナの次に年少ではあるが、今回の主催者であるという事からカミヤが乾杯の音頭を取り、其れを皮切りに楽しい食事会が始まる。

食事をしながら個人的なものからギルドに於ける近況を話し合ったり、各々のギルドがどの様な規則を設けているのか、どの様にすればより良くなるかなどと意見交換をしたり、時には他愛の無い話をしたりと、各々が交流を深め合った。

 

其の中でも特に話題となったのが、アスナが作ったオリジナル調味料に関してだ。

例に漏れず、此のNPCの店の料理の味付けも今一つ物足りなさを感じさせるものだった。そこでアスナは持って来た試作品の調味料を使ってみようと出したところ、《十六夜騎士団》以外の全員が其れに興味を持ち、皆試しに其れを使ってみることに。

結果は大絶賛。現実世界のものに似ている其の味に全員が衝撃を受け、歓喜の涙を流した。普段はあまり感情を表に出さず、常に冷静な表情を浮かべているヒースクリフまでもがだ。

そんな美味しい味を知ってしまっては、また食べたくなってしまうのが人間の(さが)というもの。彼らはアスナに対して調味料のレシピを求め、アスナも快く此れまで作った調味料のレシピを教えた。中でも、偶に料理をする事が有るというレンドとフリードは、アスナの話を熱心に聞いていた。

更にアスナは、新しい調味料が出来る度に、情報屋を通じて其のレシピを公開する事を彼らに約束するのだった。

 

 

 

 

──そしてその約束が、後にアインクラッド中に革命を起こす事になるのだった。

 

 

 

 

「さてカミヤ君……今回君が我々を呼んだのは、我々に話したい事が有るからとの事だが、そろそろ聞かせて貰えるかな?」

 

「ええ。では、お話しさせて頂きます」

 

さておき。

食事会も大分盛り上がって来た所で、ヒースクリフがカミヤに今回の議題を話す様にと催促をする。それに対してカミヤも頃合いだろうと判断して頷くと、姿勢を正してから

 

「今回お話ししたいのは、殺人ギルド《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の事についてです」

 

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》──その名前がカミヤの口から出て来た瞬間、部屋の空気が忽ち一変した。それまでの和気藹々とした雰囲気から、緊張感の張り詰めた重苦しいものへと。

そうなるのも当然の事。何せ相手は、ゲームの中での死が現実世界での死をも意味する異常極まりないこの状況下に於いて、何の躊躇いも無く他のプレイヤーの命を奪い続ける危険で凶悪な、厳重な警戒が必要な殺人鬼集団なのだ。

そんな彼らに関する話題ともなれば、これから行われる話し合いがいかに重要であるのかを理解する事が出来るだろう。少なくとも、ふざけた態度で取り組んで良いものではないと解るくらいには。

 

「皆さん既にご存知かとは思いますが、先日の《圏内殺人》の際、事件の捜査に当たっていた俺とアスナを含む数名のメンバーは偶然にも《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の犯行現場に遭遇しました。幸いにも上手く不意を衝いて犯行の妨害、及び彼らを退(しりぞ)ける事に成功しました。また、その際に幹部である《ジョニー・ブラック》と《赤目のザザ》の二名の捕獲に成功し、《聖竜連合》の協力の下彼らを投獄する事が出来ました」

 

実の所、カミヤが行った報告の内容は既に圏内殺人の解決の知らせと共にアインクラッド中に報道されており、その知らせは犯罪者(オレンジ)殺人者(レッド)プレイヤーを除く多くのプレイヤー達に大きな喜びと安心を与えた。

何せ、《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の強さは攻略組には届かないまでも、中層の上位並と中々に脅威であり、幹部に至っては攻略組に匹敵する程のものだと推測されているのだ。その幹部二人を捕まえたという事は、つまりは彼らの戦力を大きく削れたという事であり、その分だけ彼らによる脅威が減った──その分だけアインクラッドが安全で平和になったという事なのだから。

当然、今回の会に参列しているカミヤ達もまたこの吉報を喜んでおり、その証拠に張り詰めていた場の空気が僅かにだが緩んだ。

 

「さて、此処からが本題となります」

 

しかし、カミヤが口にした『本題』という言葉に緩んだ空気が再び引き締まり、全員が真剣な眼差しでカミヤの次の言葉を待つ。

これから話す内容が内容である為に、カミヤは自身に集中する視線に気後れする事無く言葉を続ける。

 

「自分が思うに、二人を失った今の彼らの戦力は大幅に低下しているものだと考えられます。ですので──」

 

必要な前置きを言い終えたカミヤは、いよいよ今回の議題について打ち明けた。

 

 

 

 

「──彼らが新たに戦力を整えてしまう前に、直ぐにでも此方から打って出るべきだと考えています」

 

 

 

 

圏内殺人が解決してから数日の間、カミヤは降って湧いた折角のチャンスをどうするべきか、一人で真剣に考えていた。

勿論、今回の案件は一人で何とか出来るものではなく、他のプレイヤーの協力が必要な事くらい重々承知していた。だが、協力を求めるにしても、自分の意見をはっきりさせておかなければ話し合いなど出来る筈もないと考えた彼は、先ずは自分はどうしたいのかを考える事にしたのだ。

 

「今この機を逃して彼らの戦力回復を許してしまえば、彼らを討ち取る事は難しくなり、最悪攻略組からも犠牲者を出してしまう事になりかねません」

 

「そうなる前に、弱っている今の内に奴らを討っておこうという事か。成る程、とても理に適っている話だな」

 

そうして考え抜いた末にカミヤが出した答えに対し、最初に賛同的な意見を返したのは、染色アイテムで緑色に染めたのであろう長髪の男性プレイヤー、《聖竜連合》の副リーダーである《フリードリヒ》だった。

 

「だな。攻略組から犠牲者が出れば、その分攻略に遅れが生じる事になる」

 

「攻略組の被害も勿論ですが、中層及び低層プレイヤーへの被害も見逃せませんよ。いくら幹部二人を捕まえて戦力を大きく削ったとはいえ、彼らの強さは未だに中層のプレイヤーの手に負えるものではありませんから」

 

「何れにしても、彼らの討伐は必須、という訳だね」

 

そのフリードリヒが自身のギルドの団長であるドレアへと伺いの視線を向ければ、ドレアは頷いて賛同的な意を示し、レンドとディアベルもそれに続く。口にこそ出さないがアスナとキバオウも賛成の様で、それぞれに頷いて見せる。

そして残りは、頷く素振りも見せずに黙ったままのヒースクリフのみ。

 

「団長はどの様にお考えですか?」

 

「ふむ……私からは特に意見は無い。討伐を行うというのであれば団員を派遣しよう。レンド君、後の事は君に任せるよ」

 

「分かりました」

 

「ちょ、何やジブン、その非ィ協力的な態度は!? 部下にだけ戦わせて、ジブンは何もせぇへんちゅーんか!?」

 

「まあまあキバオウさん、落ち着いて」

 

「せやけどディアベルはん……」

 

レンドがヒースクリフへと伺いを立てるが、しかし返って来た応えはキバオウの言う通りあまり協力的とは言えないものであった。

カミヤもヒースクリフの態度には釈然としない気分だが、それでも兵を出してくれるだけまだマシかと考える事にし、不服そうなキバオウの言葉を遮って話を進める。

 

「キバオウさん……お気持ちは分かりますが、先に話を進めましょう」

 

「お、おう。スマンな……」

 

「いえ。……では、そろそろ採決を行いたいと思います。《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の討伐に賛成だという方は挙手をお願い致します」

 

結果は、ヒースクリフ以外の七人が手を挙げた事により、賛成多数で可決となった。

念の為に反対意見も伺うが、ヒースクリフは今度も手を挙げる事無く傍観の姿勢を貫き、その態度が再度キバオウを苛立たせる事となった。他の者も怒りこそしないがそれぞれに呆れており、カミヤの場合は、其処まで興味が無いのかよ、とヒースクリフにジト目を向けるのであった。

 

「……では、賛成多数により討伐作戦を決行致します。万が一奴らのスパイが紛れ込んでいた時の事も考えて、メンバーの選抜や情報のやり取りには充分な注意をお願いします」

 

さておき。

カミヤは気持ちを切り替え、討伐作戦の決行とそれに当たっての注意事項を伝える。

それに対してそれぞれに頷く中、「一つ良いだろうか?」という言葉と共にフリードリヒが挙手して発言の許可を求める。何かと尋ねれば、作戦に大きく関わる重大な疑問が返って来た。

 

「奴らのアジトの場所や構成人数などの把握は出来ているのだろうか? 特にアジトに関しては、君も知っていると思うが、以前からずっと探し続けているにも関わらず一向に見付けられていないのだぞ」

 

フリードリヒの疑問は尤もであり、幾ら意気込んだところで、相手の居場所が判らなければ攻め込む事など出来る筈もなく、ただ空回りに終わるだけだ。

しかも、幾ら探し続けても一向に見付けられていないとなれば、その懸念は大きくなるばかりだ。

 

「それに関しては未だに調査中です。一応ある程度の見当を付けてみましたので、上手く行けば早くに見付けられるかもしれません」

 

だかしかし、カミヤは難題だと思われていた敵アジトの問題をあっさりと解決するかの様な発言をしてみせた。

当然これには一同驚き、アスナはそんなカミヤに称賛の目を向ける。……ただ一人、ヒースクリフだけは興味は無いと言わんばかりに無表情のままであるが。

 

「凄いよカミヤ君! よく六十も有る階層の中から奴らのアジトの場所を絞り込めたね」

 

「あくまで予想だ。それに、それでもまだまだ候補は多い……」

 

「いや、だとしても凄いと思うよ。俺なんて未だに全然予想も付かないんだから。それと、候補が多くて絞り込めないというならば、俺達の方でもそれとなく調査してみるよ」

 

「ウチも協力するぜ。お前らには、家族(シュミット)を助けて貰った借りが有るからな」

 

「勿論僕達も協力させて貰うよ。構いませんよね? 団長」

 

「構わないよ。好きにしたまえ」

 

アスナからの称賛の言葉を受けたカミヤだが、当の本人は大した事はしていないと、自分の推理は充分ではないと謙遜(けんそん)を重ねる。

しかし、その謙遜を否定するかの如くディアベルがすかさずフォローを入れ、次いで捜査の協力を申し出る。更にはそこへ報恩を望むドレアとヒースクリフから代理を任されたレンドが加わり、同意の意思を示す。

 

「そういう訳だから、奴らのアジトが大凡どの辺りに有ると考えているのか、カミヤ君の予想を聞かせて貰っても構わないかな?」

 

「……アルゴさんにも言いましたけど、あくまで予想ですからね」

 

「大丈夫だよ。予想っていうのは、合ってるかどうか分からないのが普通なんだから。もし違っていたとしても、別の場所を探せば良いだけの話さ」

 

「……分かりました」

 

それに対してカミヤは自身の推理が予想の域である事を強く念押しした上で、順を追って敵アジトの大まかな場所について話し始める。

 

「普通に考えた場合、誰にも見付からない様に隠れようとするならば、人があまり立ち寄らない様な場所や、探す相手の意識が行き辛い場所を選ぶのがセオリーでしょう。

 

もし彼らがセオリー通りに隠れていたとした場合、彼らが最も警戒しているであろう俺達攻略組の意識が行き辛い場所となると、恐らくは攻略の為に忘れがちになる下層でしょう。下層ならばモンスターのレベルもそこまで高くはないので、圏外のみでの活動を強いられる彼らでも苦にはならない筈です。

 

そして、これまでの調査結果を踏まえて考えるに、彼らは大型家屋などではなくダンジョン──それも迷宮区ではなく、厄介であったり目立たないなどの理由からあまり人が寄り付かない様なフィールドダンジョンに隠れているのではと考えています」

 

予想だと言う割には大分理に適っているカミヤの説明に納得する一同。

そんな中、真っ先に説明の一部に疑問を抱いたドレアは、それに対する説明を求めてカミヤへと声を掛けた。

 

「成る程、ダンジョンってのは盲点だったぜ。……だがよ、何でタワーじゃねえと思うんだ?」

 

「下層とはいえ、迷宮区はレベルアップや移動などの為に人の通りが少なからず有ります。それと、下層で活動しているメンバーからの報告を聞く限り、それらしい気配は無いとの事なので」

 

「そっか、下層に行ってるメンバーにも報告をする様に言ってるのは、この為だったんだね」

 

「今回の事に限っての事でも無いけどな。兎に角そういう事です」

 

「成る程な。理解したぜ」

 

迷宮区タワーの可能性を否定する理由を問うドレアに対し、カミヤは理屈と事実の二つを根拠に答えを返す。

その返答に対して更なる質疑の声は上がらず、ドレアを含む一同が納得の表情を浮かべているのを見て、カミヤは説明の締めに掛かる。

 

「そこから更に絞り込むには判断材料が無いので、残念ながら推測出来るのはそこまでです」

 

「いや、ここまで絞り込めただけでも充分だよ。とても助かっているよ、カミヤ君」

「そう言って頂けると助かります」

 

下層のフィールドダンジョンという大雑把な推測に終わりはしたが、誰一人としてその事に文句を言うものは居ない。

逆に労いの言葉を掛けられてホッとしたところで、カミヤは敵アジトに関する話題を切り上げて、その他に質疑は無いかと問い掛ける。

 

すると、今度はレンドが手を挙げた。

曰く「ソロプレイヤーや他の攻略組ギルドへの協力要請はどうするのか」との事だが、此れに対してカミヤは情報漏洩(ろうえい)の可能性を危惧して、表立って有志は募らないと返答。個別に勧誘するのだとしても、余程信頼の置ける者のみにして欲しいとも付け加えた。

 

「では、討伐作戦の話し合いは以上とします。この後はまたご自由にお楽しみ下さい」

 

それ以外に質疑の声は上がらなかった為、それにて作戦会議は終了。

その後は一転して軽く宴会ムードとなり、飲み比べをしたり、談笑したり、(気分的に)酔って他の者に絡むなどして、皆それぞれに盛り上がり楽しむのであった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

それから約二週間、情報屋や各ギルドで調査を行った結果、数日前に漸く敵アジトの場所を突き止める事に成功。

手に入れた情報を基に各ギルドの代表者の間で遣り取りが行われ、ついに今日、その作戦会議にて決定した内容がギルドメンバーへと報告される事となったのである。

 

察しの通り、カミヤはギルドメンバー全員に討伐作戦、及び万が一の際の後始末への参加を認めているのだ。

メンバーの選抜は充分に注意して行うのではなかったのか、と思いたくなるだろうが、カミヤは自身のギルドにスパイが紛れ込んで居る可能性を殆ど疑ってはいない。

勿論それは堅実な根拠が有っての事であり、その根拠というのは、情報屋に頼んで随時更新して貰っているオレンジプレイヤーのリストを以って行われる入団時の厳重なチェックである。入団希望者のプレイヤー名は勿論の事、そのプレイヤーの交流関係を表すフレンドリストまでをも確認し、該当する名前が無いかどうかを調べるのだ。

幾ら『来る者拒まず』の精神とはいえど、流石に犯罪者まで受け容れようという寛大な心までは持ち合わせてはいないのだ。

 

「作戦内容は以上だ。何か質問が有る人は居るか?」

 

兎にも角にもそんな訳で、信用しているギルドメンバーへと作戦内容を伝えると、次いで質疑の有無を問い掛ける。

しかし、ギルドメンバーの多くはいきなりの衝撃的な報告に未だに驚愕や困惑の念が冷めず、何を問うべきなのかを考えられる程の充分な余裕までは持ち合わせていない。

 

「なら、私から一つ良いかしら」

 

多くのギルドメンバーが未だにまごつきざわつく中、凛とした声で以ってその空気を破り立ち上がったのはシノンだった。

 

「襲撃するのは良いけど、何で夜に仕掛けるの? 普通だったら敵の警戒のそんなに厚くない昼間にやるものなんじゃないの」

 

相変わらずの鋭い指摘ではあるが、しかしカミヤにとってその質問は来ると予想していたもの。故にカミヤは焦る事無く、予め用意しておいた答えを口にする。

 

「恐らくは奴らもそう考えてる事だろうな。夜の活動を控えてる真面目ちゃんな俺達攻略組が、それもわざわざ警戒の厚い夜中に攻めて来る訳が無いって。……だからこそ、奴らの裏をかいて夜に仕掛けてやるのさ。攻めて来る訳が無いという僅かな気の緩みを突いてな」

 

敵の気の緩みを狙うというカミヤの説明に、質問したシノンを含むギルドメンバーの多くが納得の表情を浮かべる。

因みにだが、ギルドで唯一討伐作戦の存在を知らされていたアスナは、他のギルドとの作戦の遣り取りの際に何度か意見を求められていた為、襲撃を夜に行う理由は事前に知っていたりする。

 

「それじゃあ、作戦に参加する意思の有る人は、この後十一時半までに《コラル》の転移門前に集合。激しい戦闘になる事が予想されるから、軽く仮眠を取っておく事を(すす)める」

 

それ以外に質疑の声は上がらず、報告は以上となる。

その後はメンバー全員で夕食を摂り、解散後、作戦に参加する意思のある者達はカミヤに言われた通りにそれぞれの部屋で軽い仮眠を取り、この後起こるであろう激戦に備えて体力の回復に努めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──覚悟…しねぇとな……」

 

余談だが、この日昇った月は、何かしらの不吉な予感を暗示するの如く、血の様な紅色に染まっていたのだった。

 

 

 


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