ソードアート・オンライン 〜The Parallel Game〜 《更新凍結、新作投稿中》   作:和狼

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はい、第三話です。
いよいよGMが登場して、デスゲーム宣言をするのですが、本作ではなんと――

では、早速どうぞ。


Chapter.3:悪夢の幕開け

 

 

「……は?」

 

 今…クラインは何と言った…?

 

「だからよぉ、ログアウトボタンがねぇんだって!」

 

 ……ログアウトボタンが…無い? おいおい、何だよそりゃ? 冗談でも笑えねぇぞ。

 

「んな訳ねぇだろ? もう一度よく見てみろって。メインメニューの一番下だぞ?」

 

 ログアウトボタンは、この世界から離脱して現実世界に戻る為に必要不可欠なものだ。それが無いという事はつまり、現実世界に戻れないという事になってしまう。そうなっては不味いので、ログアウトボタンが無いなんて事は有るはずは無いのだ。

 

「やっぱりログアウトボタンなんて何処にもねぇぞ? おめぇらも見てみろって」

 

「だから、んな事有る訳……」

 

 しかし、尚も無いと言い張るクライン。しかもその顔は真剣そのもので、とても嘘や冗談を言っている様には思えない。

 その真剣な雰囲気に嫌なものを感じ、慌ててメインメニュー・ウインドウを開く。釣られる様に他の三人もだ。そして、トップメニュー左側の、件の一番下の欄には――

 

「…………あれ?」

 

 ――ログアウトボタンは、存在しなかった。

 

「……ログアウトボタンが、無くなってる……」

 

「こっちもだ……」

 

「わたしも……」

 

「あ、あたしの所も……」

 

「な? ねぇだろ?」

 

 どうなってるんだ? 始めた時にはちゃんと有ったはずだぞ?

 

「ま、今日はゲームの正式サービス初日だかんな。こんなバグも出るだろ。今頃GMコールが殺到で、運営は半泣きだろうなぁ」

 

「そんな余裕かましてて良いのか? ピザの宅配…五時半なんだろ?」

 

「うおっ、そうじゃん! オレ様のテリマヨピザとジンジャーエールがぁぁぁ!」

 

 クラインは初日故のバグだと言うが、本当にそうなのだろうか?

 とりあえず、気になるので俺自身もGMコールをしてみるが――

 

「……どう?」

 

「……ダメだ。反応がねぇ……」

 

「そう……」

 

 何故か、運営側からの反応が全く無い。その旨を、俺は他の四人へと伝える。これは、何やら怪しくなって来たぞ?

 

「おいおい、他にログアウトする方法って無かったっけ?」

 

 クラインのその言葉に、ログアウトボタン以外でのログアウトの方法を必死に思い出そうとするが……

 

「……いや、無い。自発的なログアウトは、メニューの操作だけのはずだ」

 

 その方法は、何一つ記憶に無かった。マニュアルにも、この手の状況に於ける緊急切断の方法など載っていなかった。

 

「んなバカな? 絶対に何か有るはずだって! 戻れ! ログアウト! 脱出!」

 

 何か有るはずだと、色んな方法でログアウトを試みるクライン。だが幾らやってみても、当然ながら何の反応も見られなかった。

 

「……言った通りだろ?」

 

「ぬぅ……。そ、そうだ! 頭からナーヴギアを引っぺがしゃ良いんじゃねぇか?」

 

 尚も諦めていないクラインは、今度はナーヴギアを外す事に思い至る。が、それはシリカとキリトの言葉によって否定される。

 

「け、けど、現実のあたし達の身体って今動かせないんじゃ…?」

 

「そうだ。ナーヴギアが、俺達の脳から身体に向かって出力される命令を、全部此処――延髄の辺りでインタラブトして、アバターを動かす信号に変えてるからな」

 

 ……万策尽きた。

 

「……じゃあ結局、このバグが直るか、向こうで誰かがナーヴギアを外してくれるのを待つしかねぇって事かよ?」

 

「……そういう事になるな」

 

 今の俺達には、そうする他ログアウトする手段は無い。今は…ただ待つしかないのだ。

 

「けどよぉ、オレ…一人暮らしだぜ。おめぇらは?」

 

「俺らは両親が居るから、夕食の時間になれば気付いてもらえると思うけど、生憎とまだ掛かると思う」

 

「わたしも両親が居るけど、多分同じ」

 

「俺も、母親と妹が居る」

 

 クラインの問い掛けに、それぞれ答えを返す俺達。すると、クラインはキリトの妹発言に食いついた。……うちの妹にはノーリアクションだった癖に。まあ、有ったとしても簡単にはやらねぇけどな。

 

「キ、キリトの妹さんて幾つ!?」

 

「あ、あいつ運動部だし、ゲーム嫌いだし、俺らみたいな人種と接点無いって」

 

 内心で「ザマァ」と思いながら見ていると、身を乗り出したクラインを押し返したキリトが、「そんな事よりさ」と前置きを入れてから話し始める。

 

「何か……変じゃないか?」

 

「そりゃ変だろ、バグなんだから」

 

「ただのバグじゃない。《ログアウト不能》なんて、今後の運営にも関わる大問題だろ」

 

 キリトも、何かがおかしいと薄々気付き始めた様だ。

 

「この状況なら、運営側も一度サーバーを停止させて、プレイヤーを全員強制ログアウトさせるはずだ。なのに……俺達がバグに気付いてからでももう大分時間が経ってるのに、切断されるどころか、アナウンスすらない。どう考えてもおかしいだろ?」

 

「……言われてみりゃ確かに」

 

 クラインのその一言を最後に、俺達は全員押し黙ってしまう。辺りが静寂に包まれた。

 

 

 ――リンゴーン! リンゴーン!

 

 

「「「「「ッ…!?」」」」」

 

 だが、その束の間の静寂は、突如鳴り響いた大ボリュームの鐘のサウンドにより打ち破られたのだった。

 

 

     ◆ ◆ ◆

 

 

「んな…っ!?」

 

「ッ…!?」

 

「な、何だぁ!?」

 

「何なの……一体…!?」

 

「な、何がどうなっているの…!?」

 

 突然青白い光に包まれたかと思えば、次の瞬間には視界が真っ白に。そして、ほんのニ、三秒程で光が消えたかと思えば、目の前に広がっていた光景は――

 

「はじまりの…街…!?」

 

 ――SAOのスタート地点たる《はじまりの街》……その中央広場のものだった。

 

(て事は、今のは《転移(テレポート)か》

 

 フィールドから主街区、別の層の主街区同士を移動するのに使われるシステム……それが《転移》だ。しかも、その為のアイテムやオブジェクトを使っていない事から、強制的なものなのだろう。

 運営側がようやく動き出したのだろうか。だとしても、何故何のアナウンス無しにいきなり?

 

「どうなってるの?」

「やっとログアウト出来るのか?」

「早くしてくれよ」

 

 周りでは、俺達同様に強制転移させられたであろう他のプレイヤー達が、それぞれにざわめき合っていた。

 

「おいっ、上を見てみろ!」

 

 そんな中、不意に誰かの声が広場に響き渡り、俺達五人は反射的に上を見上げた。

 見上げた先――遥か上空にある第ニ層の底に、一枚の赤いパネルが点滅している。よく見ると、パネルの中では【Warning】と【System Announcement】という二種類の単語が、交互に表示されていた。

 

 すると、突如赤いパネルが上空を埋め尽くし、そのパネルとパネルの隙間からどろりとした血液の様な物が垂れ下がった。だが、それは広場まで落ちて来る事は無く、空中でその形を変えた。

 現れたのは、全長二十メートルは有ろうかという、フード付きの真紅のローブを纏った巨人だった。ローブ自体には見覚えが有り、あれは運営側が務めるGM(ゲームマスター)が必ず纏っていたものだ。だとすればあの巨人はGMという事になるのだろうが、ベータの時とは違い、そのフードの中には何故か顔が存在しない。

 

 すると次の瞬間、遥か上空より巨人のものと思われる声が降り注いだ。

 

 

『プレイヤーの諸君、僕の世界へようこそ』

 

 

 やや低めで落ち着いた、爽やかな好青年を思わせる様な声。だが何故か、俺はこの声に……声の主に好感を持てない。

 

『僕かい? 僕の名前は茅場晶彦(かやば あきひこ)。今やこの世界をコントロール出来る、唯一の人間さ』

 

(ッ…!?)

 

 そして、次に巨人が口にした言葉に、俺は驚愕の念を抱いた。

 茅場晶彦……親父がルポライターをやっている為、俺達もある程度知っている。確か、弱小ゲーム開発会社だったアーガスを、最大手と呼ばれるまでに成長させた、若きゲームデザイナーにして量子物理学者。ナーヴギアやSAOは、そんな彼が開発したものだ。

 だが同時に、強い違和感も覚えた。親父が撮った写真を見る限り、言っては何だが……茅場晶彦は好青年という感じではなかったし、顔と今の声にギャップを感じる。

 

『君達は、既にメインメニューからログアウトボタンが消えている事に気付いている事だろう』

 

 そんな俺の考えを余所に、茅場(?)は言葉を続ける。そして、彼は思いもよらぬ言葉を口にした。

 

『しかし、これはゲームの不具合なんかじゃない。もう一度言うよ? これはゲームの不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様なのさ』

 

「し、仕様…だと…?」

 

 不具合ではなく本来の仕様……その言葉に、クラインが声を漏らす。声こそ出さなかったが、俺を含めた四人……いや、この広場にいる全員が、恐らく同じ気持ちだろう。……意味が分からない。

 

『君達は今後、この城の第百層をクリアするまで、ゲームから自発的にログアウトする事は出来ない』

 

 おいおい、この城って……まさかアインクラッドの事か? 冗談だろ?

 

『また、外部の人間によって、ナーヴギアの停止あるいは解除される事も有り得ない。もしもそれらが試みられた場合、ナーヴギアが発する高出力マイクロウェーブが君達の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

 

 は? 脳を…破壊…? それはつまり、『殺す』と言っているという事か…?

 

「な、何言ってんだアイツ? んな事出来る訳ねぇだろ?」

 

 俺の……皆の気持ちを代弁するかの如く、クラインが声を上げる。が……

 

「……有り得なくも無いさ。原理的には、電子レンジとほぼ同じだ。充分な出力さえ有れば、脳を蒸し焼きにする事も可能だ」

 

 キリトは、それが可能であるという過酷な事実を告げる。

 

「で、でも、ナーヴギアの電源コードを引っこ抜いちゃえば……」

 

「多分無理だろうな。ナーヴギアの重さの三割はバッテリセルだって言われてるからな」

 

 シリカの縋る様な呟きには、悪いが事実を告げさせてもらう。だが、もし万が一瞬間停電でも起こったりしたらどうすると言うのだ?

 

『正確には、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク回線切断、ナーヴギア本体のロック解除または破壊の試み――以上のいずれかの条件によって、脳破壊シークエンスが実行される』

 

 ……猶予付きって訳か。親切なこって。

 

『現時点で、警告を無視してナーヴギアを強引に外そうと試みた礼が少なからず有ってね、その結果、残念な事に二百十三名のプレイヤーが、既にアインクラッド及び現実世界からも永久退場してしまっている』

 

 に、二百十三…!? もうそんなにも被害が出てるのか…!?

 

「信じねぇ……信じねぇぞオレは! ただの脅しに決まってる!」

 

 そう叫ぶクライン。俺だってそうであると信じたい。だが、茅場(?)が告げた死者の人数があまりにもリアル過ぎて、本当なのではと疑ってしまう。

 

『現在、あらゆるメディアがこの状況を、多数の死者が出ている事も含めて、繰り返し報道している。今後、君達のナーヴギアが強引に外される事は無いだろう。加えて、君達の身体はナーヴギアを装着した状態で、二時間以内に病院やその他の施設へと搬送される事だろう。従って、君達には安心してゲーム攻略に励んで欲しい』

 

 こんな状況で呑気にゲーム攻略をしろだと? 何をふざけた事をぬかしているのだろうか? 理解に苦しむぞ。

 

『しかし、充分に注意してもらいたい。君達にとっつ《ソードアート・オンライン》は、最早ただのゲームではない。もう一つの現実と言っても良い』

 

 ……もう一つの現実?

 

『今後、ゲームに於いてあらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、君達のアバターは永久に消滅し、同時に――』

 

 その瞬間、俺は茅場(?)が言おうとしている事を予測出来てしまった。

 

 

『――君達の脳は、ナーヴギアによって破壊される』

 

 

 ……出来れば、当たって欲しくはなかった。

 だがちょっと待て。そんな条件を出してしまったら、死ぬ事を恐れて、誰も攻略に向かわなくなってしまう。

 

 しかし、俺の……皆の思考を読むかの如く、茅場(?)は更なる宣告をした。

 

『君達がこのゲームから解放される条件はただ一つ。さっきも言った通り、アインクラッド最上部――第百層まで到達し、そこに待つラスボスを倒してゲームをクリアすれば良い。そうすれば、それまでに生き残ったプレイヤー全員が、ログアウトする事が出来る』

 

 ……辺りが、静まり返る。

 

 ……無理だ。ベータテストの時は、俺とキリトで強力してもたった十二層までしか行けなかった。しかも、何度もHPをゼロにしながらだ。それを『HPゼロ=死』の状況で、百層まで行ってラスボスも倒せだと? 無理難題にも程が有るぞ!

 

『では最後に、君達にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。君達のアイテムストレージに僕からのプレゼントを用意してある。確認してご覧』

 

 その謎の言葉の意味を知る為、俺はメニューを開き、アイテム欄を確認する。すると、リストの一番上に表示されていたそれは――

 

(……《手鏡》?)

 

 「何故こんな物を?」と思いながらもそれを出現させ、恐る恐る覗いて見る。しかし、そこに映っているのは、現実の自分に似せて造った自身のアバターだった。

 

「うおっ!? 何だぁ…!?」

 

 すると突然、隣からクラインの叫び声が上がる。振り向くと、彼の周りを青白い光が包み込んでいた。彼だけではなく、シリカも、シノンも、周りに居る多くのプレイヤーもだ。と思った瞬間、俺自身も青白い光に包み込まれ、視界が真っ白になった。

 ほんの二、三秒程で光は消え、元の光景に戻った…………かと思ったが、何か様子がおかしい。

 

「おい、おめぇら大丈夫か?」

 

 聞こえたクラインの方へと振り向き、「大丈夫だ」と言おうとして…………やめた。

 

「アンタ…誰だよ…?」

 

 何せそこに居たのは。髪の色とバンダナこそ同じなれど、金壺目に鷲鼻、頬と顎にむさ苦しい無精髭という、クラインではないプレイヤーだったのだから。

 

「誰って……おいおい、ひでぇなぁ。オレだよ。クラインだって」

 

 え? 目の前に居るこいつがクライン?

 

「し、詩乃!?」

 

「えっ!? 和人!?」

 

 などと考えていると、隣ではキリトとシノンと同じ装備をした別の男女が、お互いの顔を見て驚いていた。知り合いなのだろうか?

 

「そうだ、シリカは…!?」

 

 そう思い、シリカの居る方へと目を向けると……

 

「だ、大丈夫だよ、お兄ちゃん」

 

 どうやら無事だったらしい。だが、今のシリカは何か少し違う。そう、どちらかと言うとアバターではなく、現実の――珪子に近い……

 

(ッ…!?)

 

 そこまで考えた所で、俺はある仮説に至り、急いで手元の手鏡を見る。するとそこに映っているのは、アバターとほんの少し違う、現実の俺―綾野和也の顔だった。

 

「なっ…!?」

 

「うおっ!? オレじゃん!?」

 

「えっ!? 現実のあたしの顔!?」

 

「な、何で…?」

 

 同じ仮説に思い至ったらしい俺の周りの四人が、手鏡を見てそれぞれ驚いている。という事はつまり――

 

「お前ら……キリトにクラインにシノン…!?」

 

「お前がクラインで、詩乃がシノンか…!?」

 

「おめぇらキリトとシノンか…!?」

 

「あなた達がキリトさんにクラインさんにシノンさん…!?」

 

「あなたがクラインで、和人がキリト…!?」

 

 俺達はお互いの顔を見て、五人同時に叫んだのだった。




すいません…。後半が思った以上に長くなり過ぎたので、中途半端ではありますが、キリの良い所で区切らせて頂きました。

さて、もうお気づきだと思いますが、もうバラしてしまうと、なんとGMは茅場さんではございません! 茅場さんは『僕』なんて言いませんもんね?
で、本来茅場さんがやるはずだったポジションを乗っとったのは、喋り方で大体想像出来たと思いますが、例のあの人です。正式な発表はもう少し先のお話で。

もう一つ。しののんの両親とキリト君との関係についても、後のお話で語らせて頂きます。

さあ、次はチュートリアル終盤と、本作のメインイベントなのです!
中途半端で気になると思いますでしょうから、なるべく早く上げたいと思います。

それでは!

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