ソードアート・オンライン 〜The Parallel Game〜 《更新凍結、新作投稿中》   作:和狼

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 本作のメインイベントです。それではどうぞ!


Chapter.4:義務と意思と宣言

 

 

「ど、どうなってんだこりゃ? どうして現実の姿に? てか、何でカミヤとシリカの姿は変わってないんだ? ……それと、おめぇら知り合いなのか?」

 

 突如アバターが現実の姿に変わった事に動揺し、まくし立てる様に問い掛けて来るクライン。先ずは俺とシリカが、二つ目の質問に対して答えを返す。

 

「とりあえず落ち着けって。俺とシリカが変わってない様に見えるのは、アバターを現実の姿に似せて造ったからだ」

 

「そうなんです」

 

 次に三つ目の質問について、本人達に尋ねてみる。これに関しては俺も少し気になった。

 

「で? さっきお互いを現実の名前で呼び合ってたみたいだけど、アンタらどういう関係なんだ?」

 

「えっと、俺と詩乃……シノンは、その……幼馴染みなんだよ」

 

「そういう事」

 

 大人しいスタイルの、前髪が少し長めの黒髪に、線の細い顔、柔弱そうな両目という、女の子と間違えそうな容姿に変身したキリトの言葉に、両側の房と猫目は変わらず、整ったショートヘアの少女に変身したシノンが頷く。

 

「んで、一つ目の質問に戻る訳だが……」

 

 一体これはどういう事だ? どうやってアバターを現実の姿に変えたと言うのだ?

 

「……そうか、スキャンだ! ナーヴギアは、高密度の信号素子で頭から顔全体をすっぽり覆っている。つまり、顔の形も精細に把握出来るんだ」

 

「で、でも、身体はどうするんですか…?」

 

「あ……多分あれじゃねぇか? キャ…キャリ……」

 

「キャリプレーションか? あぁ! 成る程な」

 

「そう、それだ! 初回に装着した時のセットアップステージで、自分の身体をあちこち触らされただろ?」

 

「そ、そういえば」

 

 これでカラクリの謎は解けた。

 そして、俺達を元の姿に戻した理由は、今起こっているこれが現実であると認識させる為。言ったではないか、証拠を見せると。

 

 さて……

 

「何で? そもそも何でこんな事を起こしたのよ? あの茅場って人は……」

 

 ログアウトボタンを消し、俺達プレイヤーを仮装空間に閉じ込め、挙げ句にゲーム攻略をさせる……一体全体、何の理由で、何が目的だと言うのだろうか…?

 

「どうせ、直ぐにそれも答えてくれるさ」

 

 キリトがそう言った直後、タイミングを見計らったかの如く茅場(?)が喋り始めた。

 

『君達は今、何故? と思っているだろう。何故僕は――SAO及びナーヴギアの開発者である茅場晶彦はこんな事をしたのかと? 大規模なテロ? それとも身代金目的の誘拐?』

 

 茅場(?)はそこで一旦区切ってから、静かにその核心を告げた。

 

『いいや、そのどちらでもない。そもそも、今の僕には既に、何の目的も、何の理由も無い。何故なら……この状況こそが、僕にとっての最終目的だからね。この世界を創りだし、観賞する為だけに僕はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成されたのだよ』

 

 そして茅場(?)は、とうとうこの謎のイベントを締め括るべく、最後の言葉を宣言した。

 

『以上を以って、《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤーの諸君――健闘を祈るよ』

 

 そして、茅場(?)の巨人は音も無く上空へと上がって行き、パネルの中へと姿を消して行く。完全に消えると同時に赤いパネルは徐々に消えて行き、その光景を元の第二層の底のものへと戻した。

 

「嘘だろ……何だよこれ? 嘘だろ!」

「ふざけるなよ! 出せ! 此処から出せよ!」

「こんなの困る! この後約束が有るのよ!」

「嫌ああ! 帰して! 帰してよおおお!」

 

 次の瞬間、約一万人のプレイヤーの集団が、然るべき反応を見せた。悲鳴、怒号、絶叫、罵倒、懇願、そして咆哮……圧倒的大ボリュームで放たれた大量の声が、広場を震わせた。

 

「い、嫌ああああ!」

 

 隣に居たシリカも悲鳴を上げ、俺に思いっ切りしがみつき、その身体を震わせる。無理も無い。まだ十二歳である少女に、こんな絶望的な状況を受け入れる事など不可能だ。……いや、シリカだけではなく、俺にだって無理だ。けれども――

 

「カミヤ、クライン、シノン、シリカ、ちょっと来てくれ」

 

 すると、キリトはクラインとシノンの腕を掴み、人垣を縫って広場の外へと向かって行く。その後を、未だ震えるシリカを連れて追い掛けて行く。

 

「良いか、よく聞けよ」

 

 広場を抜けて、広場から放射状に広がる幾つもの街路の一つへと入り、ある程度進んだ所で立ち止まると、キリトは急に口を開いた。

 

「俺は直ぐにこの街を出て、次の村に向かおうと思う。お前達にも一緒に来て欲しい」

 

 その内容は、この《はじまりの街》からの移動。

 

「あいつの言葉が本当なら、これからこの世界で生き残る為には、ひたすら自分を強化する必要が有る。MMORPGはプレイヤー間のリソースの奪い合い……システムが供給する限られた金とアイテムと経験値を、より多く獲得した奴だけが強くなれる。……この《はじまりの街》周辺のフィールドは、同じ事を考える連中に狩り尽くされて、直ぐに枯渇する。そしたら、モンスターのリポップをひたすら探し回る羽目になる。だから、今のうちに次の村を拠点にした方が良い。俺は道も危険なポイントも全部知ってるし、何より元ベータテスターが二人も居る。この人数で、レベルの低い今でも安全に辿り着ける」

 

 ゲームを攻略しなければ現実世界に戻れないと言うのなら、怖くてもやるしかあるまい。そして、そんな状況に於けるキリトのこの判断は、恐らく正しいのだろう…………“ゲーマーとして”は。

 

 だが――

 

「……キリト、悪いが俺は行けない」

 

「えっ…?」

 

 俺の反応に、キリトは驚いた様子で目を見開く。恐らく、間違いなく俺も付いて来るものだと思っていたのだろう。だがなキリト――

 

「お前の判断は、恐らく正しいと思う。ゲーマーとしてはな。けど……“人として”はどうだ?」

 

「ッ…!?」

 

 俺のその言葉に、キリトの目が更に見開かれる。

 

「確かに、自分が生き残る為には、自身を強くするしか無い……それはわかる。けど、だからって他の奴らを見捨てて良いのか?」

 

 顔を逸らすキリトを無視して、俺は言葉を続ける。

 

「千人の元ベータテスターがそうしたとして、残りの約九千人はどうなる? そいつらは今日SAOを始めたばかりの、右も左も分からない素人ばかりなんだぞ。無事に生き残れるとは、到底思えない」

 

 あくまで攻略に出たらの話だ。中には攻略に向かわず、街に留まり続ける奴らも居るはずだ。いや、絶対に居る。

 

「先にSAOをプレイした俺達元ベータテスターには、そいつらにその経験を伝え、導く義務が有ると思うんだ」

 

 あくまでそれは俺の意見だが、今この状況に於いては確固たる事実だと思っている。人付き合いが苦手故に、正直本当は面倒だと思っているが、状況が状況なのでそうも言ってられまい。

 

「それに、俺はゲーマーである前に一人の人間だ。人間として、モラルは捨てたくない――人を見殺しになんてしたくない。そして、見殺しにして後悔なんてしたくない」

 

 その言葉に、キリトは再び目を見開いてこちらに向き直った。

 

「他の奴らの手助けをすれば、お前が言った通りモンスターは枯渇して、その分レベルアップ……延いては攻略も遅れる。けど、今大事なのは《どれだけ早く攻略するか》じゃなくて、《どれだけ多く生き残れるか》だとは思わないか?」

 

 キリトの反応を待たずに、俺は更に言葉を続ける。

 

「どんだけ時間を掛けてでも、より多くのプレイヤーを生き残らせてゲームをクリアする……俺はそのつもりでいる」

 

 出来るかどうかなんて分からない。けど、きっとそうするべきなんだ。

 

「それにだ、MMORPGってのは、大人数でやって初めて攻略出来る様に造られてるもんだ。要するに、攻略の為の人数を増やすって意味でも、助ける意味は充分有ると思う」

 

 そこまで言い終わった所で、未だにしがみついていたシリカを離し、キリト達に背中を向ける。そして……

 

「つー訳で、俺は広場に戻る。戻ってこの事を他のプレイヤーに伝える。……お前達は、お前達の思う様に行動しろ。シリカ…お前もだ」

 

 顔だけをキリトへと向けてそう言ってから、向き直り、広場へ向けて歩き出そうとした。

 

「待てよ、カミヤ!」

 

 すると、キリトに大きな声で呼び止められた。何か用かと思い、立ち止まって顔だけをキリトへと向ける。

 

「気が変わった。俺もそれに協力する」

 

「……え?」

 

 すると、キリトの口から、俺に協力するという言葉が掛けられた。

 

「……良いのか、キリト?」

 

「ああ。俺も一人の人間として、後悔したくないからな。それに言っただろ? 最初から協力するって」

 

「そうか。ありがとな!」

 

 身体も向き直り、確認の言葉を掛ければ、キリトは真剣な顔をして肯定の意を返してくれた。

 

「おう、オレも協力すんぜ、カミヤ」

 

「クライン…?」

 

 すると、今まで黙って俺達の話を聞いていたクラインが、突然協力を申し出て来た。

 

「おりゃあベータテスターじゃねぇから、他の奴らをレクチャーすんのは多分無理だ。けど、攻略になら協力出来ると思うぜ」

 

「私も。キリトに協力して、攻略に参加するわ」

 

「あ、あたしもお兄ちゃんに協力するっ!」

 

「シノン!? それにシリカまで…!?」

 

 更に、クラインに続いて、シノンとシリカまでもが協力を申し出た。

 

「モラルがどうだのなんて言われちゃったら、じっとなんてしてられないもの。それに……」

 

 と、シノンはそこで一旦区切ると、キリトの方を見てから言葉を続けた。

 

「キリトはコミュ症だから、幼馴染みの私が、ちゃんとサポートしてあげないとね♪」

 

「お、おい……」

 

 茶目っ気の有る顔で言った、まるでおちょくる様なシノンの言葉に、キリトは苦い……けれども、何処か嬉しそうで照れ臭そうな顔をする。……お前ら、本当に幼馴染みなだけか…?

 

「……んで、お前も本当にそれで良いのか?」

 

 二人のやり取りを見て少し頭が冷えた俺は、シリカに向けて、警告の意も込めた確認を取る。

 

「……正直に言うと、本当は…物凄く怖い……」

 

 顔を俯かせ、弱音を吐くシリカ。だが、直ぐに勢い良く頭を上げ、真剣な眼差しで自身の気持ちを口にした。

 

「でもっ! あたしの知らないうちに……あたしだけが安全な場所でただ怯えて待ってる間にお兄ちゃんが死んじゃう事の方が、もっと怖い! だったら……怖くてもお兄ちゃんと一緒に居たい! 一緒に戦って、お兄ちゃんを守りたい!」

 

 シリカのその熱い思いに……その覚悟の篭った眼差しに、俺は大きく心を打たれた。目頭が熱くなった様な感覚に襲われた。

 

「へへっ。兄ちゃん思いの、良い妹さんだな」

 

「……ああ。涙が出そうになる程嬉しい事を言ってくれる、可愛くて強い、自慢の妹だ」

 

 鼻の下を指で擦りながら言葉を掛けて来たクラインに、俺は手で顔を覆いながらそう返した。

 

「……四人とも……ありがとな」

 

 ようやく落ち着いた所で、四人に一言お礼を言うと、彼らは何も言わず、こちらに笑顔を返して来た。

 

「そんじゃあまあ、そろそろ行くとしますか!」

 

「ああ!」

 

「おうよ!」

 

「ええ!」

 

「うん!」

 

 そして、俺達は行動を起こす為、広場へと戻るのだった。

 

 

     ◆ ◆ ◆

 

 

 急いで広場に戻ると、広場にはまだ沢山のプレイヤー達が存在し、未だに騒然としていた。

 

 言い出しっぺは俺なので、演説する役目は勿論の事俺だ。正直、大勢の人を相手に演説など俺には荷が重過ぎるが、それでもやるしかあるまい。

 

(……よし!)

 

 意を決した俺は、騒然たる広場に響き渡る様、声を張り上げて切り出した。

 

「聞いてくれっ!」

 

 瞬間、広場中のプレイヤーの視線が、俺へと集まる。それに臆する事無く、俺は言葉を続ける。

 

「俺の名前はカミヤ! 元ベータテスターだ! この過酷な状況を生き残る為、俺は今此処に……SAO初心者の為の講習会を開く事を宣言する!」

 

 その瞬間、それまでとは別の種類のどよめきが広場に広がった。

 

「ただ、俺一人でやるには限界が有る! そこで、可能であれば、他の元ベータテスター達にも手伝ってもらいたい! より多くのプレイヤーが生き残れる様、力を貸して欲しい!」

 

 一旦間を置き、最後の言葉を口にする。

 

「恐らく攻略には時間が掛かる事だろう! だが、そんなのは二の次だ! 生き残る事を最優先に考えろ!」

 

 そう言い切った次の瞬間――

 

「はいっ! 俺…元ベータテスターです!」

「ベータテスターなら此処にも居るぞ!」

「教えられる限りの情報をお教えします!」

「おらァ! 死にたくねぇ奴らは、とっととオレん所に来やがれッ!」

 

 他のベータテスターと思われるプレイヤー達が、次々と挙手して名乗りを上げ、他のプレイヤー達が徐々にそちらへと集まって行った。

 

「んじゃ、オレは先ずはダチを探すわ。その後は自力でどうにかするなり、他の奴に助けて貰うなりするわ」

 

「ああ、またな。気をつけて」

 

 俺達の許へとやって来たプレイヤー達を一旦待たせ、俺達五人はそれぞれに別れる為に、別れの挨拶を交わす。

 

「おう! あっ! そうだ、キリトよう!」

 

 立ち去ろうとしたクラインだったが、ふと何かを思い出した様に立ち止まり、キリトに声を掛ける。

 

「ん?」

 

「おめぇ……案外可愛い顔してやがんな! 結構好みだぜ!」

 

「ッ…! お前も、その野武士ヅラの方が十倍似合ってるよ!」

 

 それをを聞いた後、クラインは今度こそこの場から立ち去って行った。

 

「そんじゃあ、俺達も行くよ」

 

「ああ。必ず攻略で会おうな」

 

「ああ」

 

「二人とも、元気でね」

 

「キリトさんとシノンさんもお元気で」

 

 こうして、俺達四人も別れ、それぞれに行動を開始。

 

「んじゃ、俺達も行くか」

 

「うん!」

 

「綾野君!」

 

 この後、同じ学校の同級生達を含めた多くのプレイヤー達をレクチャーした俺は、シリカ、その同級生達とパーティーを組み、長い長いアインクラッド攻略の旅へと出発したのだった。




 はい。カミヤ君が無駄なまでにカッコつけてくれました。
 反省はしている。だが後悔はしていない!

 という訳で、本作最大の《もしも》――《もしもベータテスター達が初心者プレイヤー達を見捨てなかったら?》でした。
 これにより、最初の一ヶ月で死ぬはずだった何人かが救われ、ディアベルさんもまとめ役としての責任から大きく解放された事でしょう。

 さて、次回は本編ではなく、お待ちかね(?)……キリトとシノンの関係を描いた幕間を投稿予定です。
 アスナさんの登場はその次の投稿になると思うので、アスナさん待ちの皆様はもう少しお待ち下さいませ。

 それでは。

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