良心的な逸般人ウェスカーの幻想入り   作:カンダム

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思い込みでウェスカーになる男のお話。なお、少年時代は波乱万丈だった模様。


第一幕 始まり
diary1 神の地で


 神を目指した男、その男に憧れた男が居た。その男は模倣を繰り返し、何時しかウィルスさえも作り出す。

 彼にとってウィルスは己を試す道具。その完成したウィルス達を一斉に投与し、見事、適合させた。思い込みはここまで来ると体をも変えてしまう物なのだろうか。

 彼は正真正銘、アルバート・ウェスカーに至った。彼の思想どうりに動く、夢見る屍として。

 

「さて、そろそろ顔を見せたらどうだ。私としては無視してもいいぐらいに忙しい。

 用件があるなら直ぐに言い、立ち去れ」

 

 ある遺跡で、ウェスカーがウィルスの実験のために探索していたのだが、彼の後ろにローブで顔を隠した女が笑みを浮かべながら現れた。

 女は笑みを浮かべたままウェスカーに歩み寄り、紙切れを手渡す。

 

「ほう、これは真か?」

 

 女は頷いた。ウェスカーは紙切れを放り投げ、ウィルスが入ったアタッシュケースを持ち、早足で遺跡を去った。

 ウェスカーが去った後、女は紙切れを持ち上げ、読み上げていく。

 

「貴方を神の地へと誘いましょう。場所は、日本の〇×市にある博麗神社へ。お待ちしております」

 

 読み上げた女は紙切れを懐にしまい、また笑みを浮かべて、歩きだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウェスカーは紙切れに書かれた場所に着いた。着いた神社は古めかしく、しかし、どこか神秘的である。

 彼は疲れたのか、賽銭箱の前の階段に腰を掛けた。アタッシュケースを横に置き、待ち続ける。

 

「あら、お早い到着ね。ハロー!」

 

「ッ?!」

 

 しびれを切らす所で、丁度よく目の前の空間が避け、そこから上半身を乗り出すようにして彼を見る女性がそこには居た。

 少しウェスカーは取り乱す。あり得ない光景なのだ、彼からすれば目の前の空間が避けるというものは。彼は目の前の女性をB.O.W.と結論付ける。

 そうでもしないと結論が出ないのだから。

 

「貴様か、私を呼んだのは」

 

「返してくれなんて釣れないわねぇ。あ、呼ばせたのは私よ。……アルバート・ウェスカーさん?」

 

「で?神の地とはなんだ」

 

「貴方を招待しようと思ったのよ、神々すらも住まう地、幻想郷へ。貴方はそこで何でもしていいわ」

 

「ほう、すらもと来たか。ふむ、興味が湧いてきた。乗ってやろう貴様の策略に」

 

「それは光栄ですこと。行くには鳥居から出れば大丈夫ですわ。では、幸運を」

 

 ウェスカーは確信する。この女は胡散臭く、他者を見下し、嘲笑っているようなB.O.W.だと。

 だが、そんなことで止まる彼ではない。アタッシュケースを持ち、鳥居を潜った。

 

 

 

 

 

「これは、先程の神社………いや、綺麗だ」

 

 神社に戻されたのかと思う彼だが、正確には戻されていなかった。目の前の神社は綺麗で、桜が咲き誇っていて、鮮やかだったのだ。

 ウェスカーは困惑したが、生き方は変わる事はない。落ち着きを取り戻したウェスカーはその神社を後にし、道なりに足を動かしていく。

 

 どこを見ても綺麗で、空気が美味しく感じる神の地。その地に感動するウェスカー。そして、この光景がどの様な末路を辿るのか、ウェスカーは思い浮かべる。

 さぞかし綺麗なのだろうな、そう考えた。

 

 ウェスカーは先ず、綺麗だと思った山に向かった。その山は気の鮮やかさが保たれた、現代ではなかなか見れなかった自然豊かな山。

 

 ウェスカーが山に踏み入り、奥地へと進もうかと踏み出したとき、道を遮るように少女が止めにはいる。

 

「止まれ!」

 

「何……?」

 

 彼が最初に驚いたのは、そのけもみみとモフモフのしっぽ。狼か犬のけもみみか、そこは重要ではなく、なぜ理性があるのか。

 ウェスカーは多種多様な実験を繰り返し、目の前の少女の様なB.O.W.を作ったことがあるが、それに理性はなく、ただ体目当てな雌野郎だったのに。対して目の前の少女は?そこにウェスカーは驚いたのだ。

 

「人間、これ以上は立ち入り禁止だ」

 

「…………お前はなぜ理性を持つ」

 

「何だと?」

 

「何故、獣ではない」

 

「貴様ッ、馬鹿にしているのか!!私は生命と理性を持つッ、理性を持たぬ輩なんぞと一緒にするな!」

 

 その反応は当然、ウェスカーの心を刺激した。この少女で自らの力量を図っても問題ないかと思い、アタッシュケースを地面に優しく置き、サングラスを直す。

 

「なら見せてみろ。汝の生命を」

 

「そうか!なら見せてやろう!!」

 

 ウェスカーは右腕から触手を生やし、それを右手を包み込むようにして殴りかかる。一瞬で少女に迫る程の速さなのだが、それを少女は難なくかわす。

 

「おや、手加減し過ぎたか」

 

 少女がいた場所はクレーターが出来上がり、避けていなければ木っ端微塵だっただろう。

 

「貴方、ルールを知らないか?」

 

「ふむ、ルールか。なら、私には適応されない。私はこの世界の人間ではない、神の力はルールに縛られん」

 

「神だと?戯け!」

 

 少女は手に持っていた剣を用いて、ウェスカーに斬りかかる。だがその剣は、触手を纏う右手で防がれ、触手が剣に絡み付いて、次第には手に到達する。その速さは異常。少女の目で捉えられなかった。

 

 ウェスカーは悪魔のような微笑みをし、足から触手を生やして地中に潜らせ、少女の足元から付き出して、足も拘束した。

 左手から触手をまた生やし、勢いよく心臓を抉り取るために引き、付きだす。

 

「はあ!」

 

「っ?!」

 

「椛さん?」

 

 ウェスカーは割り込んできた第三者に止められ、触手を全て閉まって、アタッシュケースを持って下がる。

 何処から来たのだろうか、その割り込んできた第三者は彼に剣を向ける。

 

「逃げて、早く伝えに」

 

「は、はい!」

 

 少女は山奥へ、逃げるように走り込んだ。ウェスカーは逃がすまいと右手から心臓を生やして追跡するが、その触手は斬り伏せられる。

 

「貴様、何者だ」

 

「私は白浪天狗が一人、犬走 椛。貴方は」

 

「私はアルバート・ウェスカーだ」

 

「ではアルバートさん、貴方は何故この山に?返答次第で、私は殺さなくてはなりません」

 

 ウェスカーは仕方ないと肩を落とし、懐から拳銃を取り出す。その取り出した拳銃は改造されており、安全装置の部分が大きく変わっていて、小さくて太い注射器が差し込まれている。

 

 それを躊躇いなく撃ち込まれ、吸い込まれるように首筋へ。その直後に犬走は苦しみだす。

 痒く、疼き、何かを貪りたくなる。記憶が途切れ途切れになって行く。

 

「さて、少し実験に付き合ってもらおう」

 

「な、に………」

 

「生きるか死ぬか、見物だな」

 

 その言葉に犬走は怒りを覚えた。私は生きる、生きてやると体に言い聞かせ、縮まろうとする体に無知を打って言うことを聞かせる。

 すると、今までの痒みが嘘のように止んだ。疼きもなく、喉の乾きも消え、撃ち込まれる前以上の健康さに気が付く。犬走は打ち勝った。

 

「ふむ、まさかこうも早く収穫があったか」

 

「何を撃ったのですか」

 

「ワクチンだ。常人に耐えられない物なのだが、お前は適合した。見事、生きた。と言うわけだな」

 

 ウェスカーは改造された拳銃を仕舞い、サングラスを直す。置くに隠された目が赤く光ることで、恐怖が犬走に駆け巡る。

 得たいの知れないナニか。人間であって人間ではない様な者を退治しているかのような感覚に、犬走は後退りをしてしまう。

 

「そういえば、私がここへと来た理由を明かしていなかったな。一言で言い表すなら、観光」

 

「か、観光?」

 

「そうだ、あまりにも綺麗でな。この山を歩いてみたいと思い来た次第だ。ここは観光客を追い返すような場所かね?

 ならばこの道を引き返し、悪い噂を撒き散らしながら歩いて回ろう」

 

「な!?………仕方がない、着いてこい」

 

「感謝する」

 

 犬走は一種の脅迫を受け、ウェスカーを渋々ながらも案内することにした。見回りの同じ白浪天狗や烏天狗に見つからぬようにある場所を目指す。

 

 案内し、着いた場所は自然の滝が流れ、川が流れる場所。ウェスカーはその自然を見て、感激する。彼が生まれ育った土地では、このように綺麗な河は無かったのだから。当然の反応だった。

 

 彼は思う。このような河が在ったのならば、己の家族を救えた世ではないか。しかし、その思いはかき消される。自分は弱くない、私は死なないという覚悟がかき消したのだ。

 

「これは綺麗だな。犬走よ」

 

「……そうです、は綺麗ですね。ウェスカー、此方です。貴方はこれから合う人に匿ってもらってください。恐らく、私以外の白浪天狗が貴方を探しに来ます」

 

「何故そこまで?」

 

「貴方が力をくれたから。冷静になって考えたんですよ。私は下っぱの下っぱで、よく下に見られていた。

 ですが、貴方が私に撃ち込んだ、得たいの知れないナニかのお陰で、力を得たと確信した。

 久方ぶりに、人間とであって得をしましたね」

 

「………そうか」

 

 その表情に、ウェスカーは過去に自分の、自殺した母親を重ねた。女手一つで支えてくれていた彼の母親は、過度なストレスが原因で自殺したのだ。その母親の顔はみすぼらしく、暖かく、嘆いていた。

 

 弱かった過去。それが目の前の犬走に現れていると感じていって、哀れんでいく。

 

「すまないな、犬走」

 

「その黒いメガネで見えませんが……貴方もそのような顔が出るのですね。まるで、私を哀れむような。

 ええ、哀れむのなら哀れんで下さい。私は力を今さっき身に付けた存在。まだ私は変われていませんので、お好きなように感じてください」

 

「なに、少し昔を思い出しただけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が無数に浮かぶ、奇妙な空間の中で、八雲 紫は能力を使い、ウェスカーの動向を見ていた。

 

「紫様、これからどうなさるので?」

 

 そこへ、紫の式である八雲 藍が茶菓子を白い机に並べながら紫に問いかけた。

 その問いに、笑いながら紫は答える。

 

「足掻いてもらうわよ、私の霊夢のため、悪役になってもらう。場はまだ整ってはいないわ、まだ、まだ。

 追加要素は、そうね。聖杯なんてどうかしら?」

 

 八雲 紫は、また今日も。役を探し続ける。舞台に上がらぬ道化のように。

 

「そうですか」

 

 その答えに藍は溜め息を漏らして、胃を押さえる。今回ばかりは、持ちなさそうと悩みながら。

 

 




気が向いたら次回を投稿。

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