女性の部屋もしくは女性がたくさんいる部屋に入る時、男性は緊張する。もしかしたら中でエロ本を読んでハッスルしているかもしれない、もしかしたらフィニッシュをむかえる時かもしれない。そんな前の世界の男子中学生の部屋に入る母親のような気持ちになるらしい……んだけど。
『これが日本のエロ本なのね……さすが日本、良いモノを描くわ』
『いやマリア、中々アメリカのエロ本も良いぞ。この生々しいピーなんてそうそう見ないからな』
『生々しいピーは日本のエロ本にもあるじゃない。シチュエーションの多さ、これは日本固有のもの……流石HENTAIの国、世界駆の出身国ね』
扉の前に立っていて聞こえる位の声でエロ本について語り合う日本とアメリカの人気歌手……もはや何とも思わない。翼ちゃんがあれだから慣れてるけれど、まさかマリアさんが翼ちゃんレベルだとは、読めなかったこの僕の目をもってしても。
いや女性だから少なからずそういう事に興味があるのは理解していたけど、楽屋でエロ本読んで感想を言い合うようなアレな人だとは知らなかった。あの二人がジュースを上げたかった人がこれなのはあの子達にとっていい影響なのか悪い影響なのか……いや悪いか、うん。
このまま待ってたらライブ直前までかかりそうだから、ここらへんで入って話を中断してもらう方が……いやこれが翼ちゃんとマリアさんのリラックス方法でモチベーションと集中力を高めるやり方だったら悪いし。違うなら早く入って他の人に聞かれる前に中断してもらったほうが二人の為になるし。
「すみません、ここが風鳴翼さんの楽屋であってますか?」
「えっあ、はい合ってますが……あの貴女は?」
「私はマリア姉さんのマネージャーのセレナと言います。もうそろそろ楽屋に戻って衣装に着替えてもらわないといけないので探していました。えっとマネージャーさんであってますよね? 男性の方だと聞いていますので」
「僕は翼さんに招待を受けてここに来た渡と言います。マネージャーはこの部屋の中にはいないみたいで……あと部屋に入りずらくて」
楽屋前に立っていた僕に話しかけてきたのはマリアさんのマネージャーであるセレナさん、髪色は薄いオレンジで肩くらいまで伸ばした優しそうな雰囲気の女性……マリア姉さんと言った事からマリアさんの妹だからか似てる、目はタレ目でマリアさんとは違うけど何となく似てると思う。
「? 部屋に入り辛、あっそういう事ですか。男性の方ならそうですよね……私が止めて来ますので安心してください」
「すみません、翼さんだけなら対処できるんですけどマリアさんはどう対処したらいいか」
「大丈夫です、任せてください!」
エロ本が僕にバレてテンションが下がったり、パニックで歌えなくなったりしたら大問題すぎる。からここは同性のセレナさんに平和的に解決してもらうのが一番だと思う!
『それにしてもこのアングルは中n! 人の楽屋に入ってくるとは、一体何奴!!』
『せ、セレナ!? 違うの、これは翼の持ち物で私のじゃないわ! だからその左手を下ろガハッ』
『マリア! くっ何のつもりでこんな凶行をする』
『すみません。そろそろマリア姉さんには楽屋に戻ってもらわないといけないので』
全然平和的じゃなかった、めっちゃ拳で訴えてた。えっ? あの優しそうな雰囲気は一体何だったんだろう…いやこれはマリアさんに対して効果的な方法なんだろうし仕方なくやってるに違いない! とりあえず話は終わったんだし中に入ろう。
「はぁ……翼ちゃん」
「ん、渡。そろそろ時間か……親交を深める時間は早く過ぎるな」
「いやまぁなんで楽屋にエロ本持ってきてるのか言いたいけど……とりあえずいけそう?」
「渡、女はそんなすぐには「ゴメン、もうそろそろ始まるけど着替えとか心の準備はいけそう?」なんだそっちの事か……無論戦場に冴え渡る日本刀ような歌女である私は大丈夫だ」
「なら良いけど……セレナさん、マリアさんh」
「大丈夫です。すみません、マリア姉さんがご迷惑をおかけして……こちらも準備しますので失礼します」
「セレ、ナ……グーは、駄目。ご飯、戻るわ」
セレナさんがマリアさんを肩に担いで笑顔でこっちを見てるけど、マリアさんが真っ白に燃え尽きたジョーみたいになってるから大丈夫じゃない。大丈夫じゃないけどいつもこんな感じなのかもしれないから聞けない……なんて事を部屋から出ていくセレナさんを見ながら思った。
あとライブは成功した。
「セレナ聞いてちょうだい。あれは日本の女性とコミュニケーションを取るのに最適な物があれだっただけで私は興味はないのよ」
「……マリア姉さん、それなら机の上に置きっぱなしにしないでほしいな」
「そ、そんな事あるわけないじゃない! 私はベッドで読む派な「やっぱり読んでるんだ」ち、違うのセレナ! これはその、とにかく違うのよセレナ、セレナァァァアアア!!」