秘蜜の刃   作:紗代

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白代萼と柱たち

鬼殺隊に入隊して約五ヶ月。私は単独任務の他に柱と行動することが多くなった。

 

「今日もね、しのぶちゃんがかっこよくてキュンキュンしてね」

「そうですねあの鬼を切った時の笑みなんか輪をかけてかっこいいです」

「ねー」

 

特に仲良くなったのは今一緒に桜餅を食べている恋柱・甘露寺蜜璃さん。蜜つながりとかしのぶさん経由とかでよくこうして話す。

 

こういってはなんだけど、私は蜜璃さんのことは好きだけど苦手である。私にはない快活さと人を惹き付ける魅力を持った女性。嫉妬を通り越して羨望が強いというのもある。でもそれ以上に彼女がよく持ち出す話題が一番苦手だった。

 

「萼ちゃんは好きな殿方できた?」

 

そう、恋愛についての話だからだ。

 

「──いえ、そういう恋慕みたいなものはまったく」

「柱の方々なんてどう?皆さんとっても個性的で魅力的な方が多いけれど」

「そうですね、不死川さんは厳しい人ですけど根本的に優しい良い人ですし、伊黒さんはねちねち言ってきますけど殆ど正論で筋が通っています。宇随さんはどっちかというと奥さんたちとの方が話しますけど、奥さんたちの幸せそうな顔を見る限り良い旦那さんなんだろうなって。悲鳴島さんは感情を荒げることなく接して下さるので助かりますし、冨岡さんは誤解や単独行動がなければ苦じゃないです。最近柱になった時透くんは忘れっぽいし事務的なところがありますけど柱としての責任を果たそうとする姿は好感が持てます」

「じゃあ煉獄さんは?」

「煉獄さんですか……」

 

いい人、だとは思う。味方だけでなく自分すら鼓舞して見せる精神の強さとか、高潔とも言える意志とか、人当たりの良さとか。実力にしたってあれほどの炎の呼吸の使い手はそうはいない。でも

 

――苦手、なんだよなあ。

 

それについては目の前の甘露寺さんにも言えることだけど、なんというか私はこういう快活というか、太陽のような人が苦手である。苦手であって嫌いじゃないところがミソなわけだけど。

シニカルな人とか情熱的を通り越して暑苦しい人とか様々な人を見てきたけど、ここまで曇りなく清々しい人たちがこうも近くにいるっていうのがね。

……私は家のこともあって基本的に影から出たことのないモグラ属性なので、当り障りなく流すような会話で切り抜けることはできても一対一での会話とか深入りとかがたまにしんどく……いや結構しんどい。

 

「いい人、ですかねえ」

「いい人」

「あの人が任務に同行してくれるだけで大丈夫だ、って思わせるような堅実さと安心感がある人だと思います」

「――ですって、煉獄さん」

 

その言葉と同時に甘味処の暖簾をくぐって入ってきたのは煉獄杏寿郎その人だった。

 

「よもや、よもやだ」

「ごめんね萼ちゃん、煉獄さんが避けられてるからどう思われてるのかを知りたいって言ってたものだから」

 

嵌められてた。

……まあいいか、当り障りなく話しただけだし嘘は言っていないから。

 

「すまない、白樺少女」

「いえいいですよ、聞かれて困るようなことでもないですし。それにまずその動機を作ってしまった私に過失があります」

 

というかやっぱり気付かれてたのか避けてること。これでも円満に任務を回すために流す程度の会話や行動はしていたつもりだったんだけど。さすが柱だ。侮っていたつもりはなかったけど私が甘かった。

 

「嫌っているつもりはないんですけど、私の身内って冨岡さんみたいな分かりづらい天然か、皮肉屋しかいなかったので……ちょっと慣れなくて」

「なるほど、そういうことだったのか!てっきり俺が白樺少女に嫌われているものとばかり」

「そういうわけではないです。あと私は白代(あきしろ)です」

「すまん、白代少女」

「いいえ」

 

このままだと煉獄さんのなかで白樺になってしまいそうなので訂正させてもらった。

 

「蜜璃さん、よければ私の桜餅いりますか?」

「え、いいの?でもそれは萼ちゃんので……」

「蜜璃さんがこうして間を取り持ってくれなければ今後に支障が出ていたかもしれませんから。これはちょっとしたお礼です」

 

というか私もおかわりして今三皿目だったから味わってないわけじゃないし、持っていくがいい。……尤も、彼女の横に聳え立つ皿の山脈からして申し訳程度にもなりそうにないけど。

蜜璃さんは最初は私に遠慮して桜餅と交互に見ていたけど、私が手ずから差し出せば輝くような笑顔でお礼を言ってそのまま頬張った。うん、幸せそう。可愛い。

 

「可愛いなあ……」

 

思わず心の声が出てしまった。

そう、なぜ私が恋ばなは苦手なのに蜜璃さんとよく一緒にいるのかというと安心感と母性と羨望の混ざった可愛い彼女を愛でたい気持ちがあるからである。

すると蜜璃さんは途端に真っ赤になった。

 

「そ、そんなー、ありがとう。萼ちゃんも魅力的よ」

「そうですか?……ありがとうございます」

 

お世辞だとしてももらっておこう。こういう事を表面的なものとしては前の世界の付き合いで受け取り慣れているし。ちなみに大抵の場合は保身とか社交辞令だった。むしろ私自身に言われたことはない。

 

「うむ、仲が良いのはいいことだ!」

「よろしければ煉獄さんも何か召し上がりませんか?今までのお詫びに私が支払いますし」

「いや、今回は遠慮しておこう。この後任務に赴かなくてはならないからな!」

「まあ!ごめんなさい私ったら……」

「気にするな甘露寺!むしろお前のおかげで白代少女の内心が分かったのだ、感謝する」

「そ、そんな!こちらこそありがとうございました」

「では、俺はこれで失礼する!」

「はい、ではまたの機会に」

「またな、甘露寺、白代少女!」

 

そして去っていく煉獄さんを見送った後、私たちもお茶を再開する。

 

「やっぱりいい人ですねえ」

「でしょう?」

「はい」

 

ニコニコと笑顔で桜餅を咀嚼する蜜璃さんをまた可愛いな……なんて思いながら私もお茶を飲み干す。見上げた空は雲のふわふわが可愛らしい青空だった。

 

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