「萼」
「は」
「君の活躍は聞いているよ。単身で鬼を討伐し、上弦との戦いでも善戦し生き残った。そして君の鬼の討伐数は今や五十体を遥かに上回った。君が生き残ってくれている奇跡と君に私は感謝している」
「ありがとうございます。恐縮至極でございます」
お館様はひなき様とにちか様に支えられながら布団から起き上がっている。最初に会った時より容態が悪化していると聞いてはいたけど、本当はこうして人に会うことさえつらいのではないのだろうか。
「すまないね、こんな格好で」
「いいえ!滅相もない!どうかご自愛ください!!」
「ふふ、ありがとう。君は優しい子だね」
やや咳き込みながらも微笑むお館様の顔色はあまりよくない。せっかく呼んでいただいたけど出直した方がいいだろうか。そう思ったがお館様は私の言いたいことを察したのか首を緩く振った。
「萼、柱になる条件は知っているね」
「はい」
柱になる条件。それは階級が「甲」で、十二鬼月を討ち取る事、もしくは鬼を五十体倒すこと。
「君が鬼殺隊に入って約半年。本当はもっと期間を置いてからにしたかったんだけど――特例として無一郎が二ヶ月で柱になった。ごめんね萼。これは私の我儘に過ぎないしなんだったら聞かなかったことにしてくれてもいい。――私はね、萼に死んでほしくないんだ」
「!」
「出来ればもっとこの世界を知ってほしかったし、普通の幸せに浸らせてあげたいと思っている。だから萼自身に選んでほしい。鬼殺隊を離れてこの世界に馴染むか、鬼殺隊の柱となって戦うか」
「――」
「もちろんどっちを選んだって構わない。むしろ蝶屋敷の子らや私たち産屋敷の者たちは君に普通の幸せな人生を歩んでもらうことを望んでいるくらいだ。萼」
お館様は、珍しく顔を歪ませた。きっとこの究極の選択を一隊員である私にさせてしまうことに思うことがあるのだろう。それでもこの選択肢をくださったのは同じ短命な私に対する一種の慈悲なのかもしれない。
「お館様、お心遣い感謝いたします。ですが、私はこの先もお館様に付いて行きます。この世界に居場所をくださった他でもない産屋敷輝哉様に私はついていきたいのです。――確かに私は当初自由を求めていました。ですがあの時お館様にいただいた言葉、居場所、産屋敷家の皆様、蝶屋敷の皆様、柱の方々――この半年、
「……いいのかい、本当に」
「はい。私は行く当てがないのではなく、私がここに居たいからここにいるのです。どうか鬼殺隊に置いてください。お願い致します」
「そうか、それが君の意志なんだね」
「はい」
「顔を上げておくれ」
「はい」
顔を上げる。お館様と目が合う。酷く儚く、酷く優しい、決意や覚悟を決めた目だった。
「では萼、今日から君に蜜柱を任せる。鬼殺隊を支える一柱として、私の家族として、一日でも長く君が生き永らえるよう、心から願う」
「蜜柱・白代萼――拝命致します。ありがとうございます、お館様」
****
その日蝶屋敷に戻ったら私が柱になったことを記念してのパーティーだった。アオイちゃんの作ったとてつもなくおいしい料理とそれぞれみんなにお祝いの言葉をもらってほっこりした気分で床に就いた。
その翌日、私はしのぶさんの部屋に来ていた。
「萼さん。これ、前にあなたに頼まれていた藤の毒の濃縮されたものです」
「ありがとうございます、しのぶさん」
「あくまで鬼用の毒ですから人間には無害なはずですけど、一応気を付けてください。藤には人間に効く少量の毒がありますから」
「はい」
私は誘引作用のある稀血であり、あの上弦の弐のように倒せなかった場合は最悪なことにもなり兼ねない。私は最もそういったやつらに出くわしやすい柱になったのだ。対策は打っておくべきだろう。そこで考え付いたのが藤の花の毒を服用することである。そうして毒に浸してしまえば鬼は私を食ったと同時に死に絶える。
所謂「毒の娘」というやつだ。これならあの時のように動けずに食われそうになっても一矢報いることができる。
しのぶさんにこれを話した時は「食われる前提で話すのは気に食いませんが、それであなたの生存率が少しでも上がるのなら」と受託してくれた。でも毒は私だけじゃなく、なぜかしのぶさんも飲むことになった。
「毒を食らわば皿まで、ですよ」
と笑顔で一緒に藤の花の毒を煽った。飲みやすいようにとこれまた藤の花の蜂蜜も一緒に混ぜて。酷く甘くて、背徳的な気分だった。藤の「花」の「蜂」と「蜜」なんて私たちらしい。そう思ったのは私だけだろうか。
そして柱合会議。みんなの待つ広間の扉が開く。
「蜜柱の任を拝命いたしました。白代萼でございます。これからも日々精進してゆきますので、どうぞよろしくお願い致します。」
そして私は正式に蜜柱となったのだった。