柱合会議明け、私は非番なのでお見舞いも兼ねて蝶屋敷に向かう。
「(にしてもあの後の不死川さん、滅茶苦茶機嫌悪かったな)」
まあこの世で一番嫌いなものを消す組織に入ったのに、いきなり容認する。なんて言われて挙句その原因みたいな子に不意打ちとはいえ頭突きで返り討ちだからなあ……そりゃそうなるか。
ただそのせいで那田蜘蛛山の仔細報告にきた人にも隠にも怯えられてたから、ちゃんとした報告を聞くためにもそういうのは後でにしてほしい。
「ごめんください、白代です」
返事が返ってこない。
いつもは必ずだれかが出てきてくれるはずなのに……ということは総出でやらなきゃならないほどなにかあった?
「萼!久しぶり」
わけではなかった。
「カナエさん、数日ぶりですよ」
「あら、そうだったっけ?」
「はい」
「今回の柱合会議は延びたものね。さ、上がって」
「お邪魔します。あとこれお土産のカステラです」
「まあ!ありがとう、じゃあ今日のおやつにしましょう!」
機嫌よくカステラを受け取ってくれたカナエさんとともに屋敷に入る。どこかの誰かさんとは真逆だ。
「そういえばしのぶから聞いたわよー、また無茶したんですって?」
「ええと、柱合会議での事ですか?」
「そう。自分から鬼の子の潔白を証明するために切ったって。カナヲなんて『切った』ってしか聞いてなくて真っ青になってたんだから」
「すみません……」
「反省してるならそれでいいです、でもあんまり自分をないがしろにするようならこっちにだって考えがあるんだから!」
しのぶさんならともかくカナエさんにここまで言われるとは……気を付けよう。切実に。
「そういえば炭治郎くんと禰豆子ちゃんは?」
「その子たちなら山で一緒だったお友達と同じ病室で寝てるわ。けど――」
「俺薬これで何個目?ねえ誰か数えてる!?数えててよ!ねえお願いだから!!」
「うるさいぞ善逸、ここは病室なんだから静かにってアオイさんに言われただろう!」
「だって俺この中じゃ一番重症だよ?!手足がちゃんと元に戻るまで怖くて寝られないよ~!!」
「こんな感じでなかなか収拾がつかないの。毎日」
「これが、毎日」
「そう、毎日」
特に騒がしくしている金髪の――我妻善逸という少年は同じ病室の猪の被り物の少年(こちらは嘴平伊之助というらしい)と一緒に蝶屋敷に搬送されてきたらしいが、この部屋に連れて来られてからずっとああして喚いているらしい。アオイちゃんが注意しても収まらず、カナエさんに諭されて大人しくなるものの、それから数分足らずで元に戻る。さすがのカナエさんも困り切っていた。
カナエさんを困らせるって、凄いなあの金髪の子。というかなんでこの時代で金髪?外国人っぽい特徴はほぼ見当たらないから血筋ってわけじゃなさそうだし……蜜璃さんみたいに食べすぎとか?
というか炭治郎くんがちゃんとこうして叱ってくれてるから他の病室から苦情が来てないんじゃ……
「こんにちは、みんな調子はどう?」
「カナエさん!はい、まだ痛みますけど来たばかりの時よりはいいです!」
「そうよかった。善逸くんは今日もちゃんとお薬飲めたのね。苦いのにえらいわ」
「そ、それほどでも~うぇへへへへ」
「それから炭治郎君、あなたと禰豆子ちゃんにお客さんよ」
「俺と禰豆子に?」
あ、そっか。カナエさんの後ろからちょっと離れたところにいるから分からないのか。
「こんにちは、炭治郎くん」
「萼さん!!」
「え、誰?!」
「ああ、伊之助くんと善逸くんとは初対面だったね。私は萼。白代萼、君たちの先輩にあたります。よろしくね」
できるだけ笑顔で話し掛けたはずなんだけど、善逸くんは固まってしまった。
「すみません、ちょっと炭治郎借ります」
「え、ええ?うん?」
なぜか善逸くんは炭治郎くんを引き摺って私から離れたところで何かを喋っている。遠くて小声なのでよく聞こえない。
「(た、炭治郎ー!!なんだよあの超絶美人!?あんなご立派な
「(萼さんを邪な目で見るんじゃない!失礼だろう!!清君たちがいたあの屋敷で俺を助けてくれて、呼ばれた柱合会議でも禰豆子のことを庇ってくれたんだよ)」
「(はぁー?!俺が鬼に襲われて今にも死にそうになってる時にお前は!あんな綺麗な人と一緒にキャッキャウフフしてたってか!?)」
「(そんなことはしてない!!)」
「あの……」
思いっきり蚊帳の外になってしまい手持ち無沙汰の状態に耐えきれなくなり話しかけると勢いよく善逸くんがこっちにやってくる。
「は~い、どうしました萼さん」
「と、とりあえず皆元気そうで良かったよ――禰豆子ちゃんは?」
「禰豆子ちゃんならあそこの箱の中ですよー」
善逸くんが指さす方を見るとそこにはあの時の箱があった。
「そっか、炭治郎くん。日に当たらないように気を付けるから、また禰豆子ちゃん出してもいい?」
「はい、構いません。禰豆子、萼さんが来てくれたぞ」
炭治郎くんがそう言えば箱からカリカリと引っ掻くような音がした。彼女なりの返事なのだろうか。
「大丈夫だそうです」
「じゃあ失礼して」
ゆっくりと開けるとあの日と同じ可愛らしい小さな女の子がひょこっと出てきた。
「来るのが遅くなって申し訳ない。あの時はごめんなさい、試すようなことをしてしまって。不死川さんからの傷はもう大丈夫?」
禰豆子ちゃんの体をまんべんなく見てみるけど、これと言って目立つような傷はなかった。
「よかった」
ほっと胸を撫でおろすと頭の上に温かいものが置かれて行き来する。よく分からず上を見ると禰豆子ちゃんが私の頭を撫でていた。
「気にしてないですって」
「そっか……禰豆子ちゃんは優しいんだねえ」
頭を撫でられるなんていつぶりだろうか。ほんの少し泣きたくなってしまうのを耐えて私もお返しとばかりに小さな体を抱き上げた。
「ありがとう、禰豆子ちゃん」
こんな小さな体で、実年齢だってまだ十四歳。敵意に満ちたあの空間は心底怖かっただろうに。命を懸ける相手に逆に慰められてしまうなんて。私もまだまだだ。
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あの後お見舞いの品として病室にもカステラを置いて、私は中庭に来ていた。
「たしか今の時間帯ならいるはずなんだけど……」
と言っていると目的の人物を発見した。
「カナヲー!」
「!、萼」
私がカナヲの方に行くよりも早く驚いた顔のカナヲが私のもとにやってきた。
「だ、大丈夫なの?柱合会議で怪我して出血したって……」
「大丈夫、これと言って支障もないし、そこまでバッサリ切ったわけじゃないから」
「よかった……」
ほっとした様子のカナヲに申し訳なさでいっぱいになる。あの時の笑顔に始まり、今となっては自分の心で判断できるようにもなってきたカナヲの成長に喜びつつも、それ故にこういう時は罪悪感があるのだ。
「今度からは気を付けるよ」
「そうして」
「はい」
即返ってくる返事。うん、カナエさんとしのぶさんに似てきたよね。
「そういえば今病室に入院してるのってカナヲの同期なんだっけ」
「うん」
「機能回復訓練って、カナヲもアオイちゃんと一緒にやるの?」
「師範は忙しいしカナエ様は他の患者を診ないといけない。萼は今回の怪我も含めて強制休暇」
「え」
「いい加減に休めって師範が。カナエ様も私もアオイもみんな満場一致だった」
「ええ」
「だから萼、ちゃんと休んでまたここに戻ってきて」
カナヲから小指を差し出された――なるほど、約束か。私もそれに倣って小指を絡めた。
「うん、全快して戻ってくるよ」
「「じゃあ約束/ね」」
さすがに針千本はきついので事実上の謹慎処分を受け入れるしかなかった。
ちなみにこの手を考えたのはカナエさんだということを知ってあの時の『考え』はこれだったのかと後々気づくことになるのだけど、今の私は知る由もない。
大正コソコソ話
「萼がカナヲに構っているおかげかカナヲも最近自分の意志で行動してくれることが増えたの!私としては好きな子がきっかけになるんじゃないのかなー、なんて思ってたんだけど……いい意味で違ったわ。ちなみにカナヲはちょっといろいろあると必ず萼に髪を結ってもらっているみたい」
「どうしても迷った時以外は銅貨を使わなくなりましたね、あの子」
「いい兆しね、迷っても自分の意志で決定するようにすることも徐々にだけど増えているし、ちょっとずつ成長している証ね!」