実質上の謹慎により暇を持て余している私は結局蝶屋敷と自分の屋敷を行き来する生活を送っている。といっても蝶屋敷の仕事回してもらえないし、カナヲの修業も見させてもらえないから、ただ遊びに行ってるだけなんだけど……
あと炭治郎くんたちの病室には行ってません。この間行った時、お見舞いに来てた一般隊員の人と被って物凄い勢いで逃げられたから。柱=怖いっていう方程式でも浸透しているんだろうか?この間の隠の人といい失礼じゃない?
というわけでもうお見舞いには行かず素通りしているので三人がどうなっているのかは分からない。
「あの三人なら機能回復訓練に入りましたよ」
「へえ、相手は?」
「ほぐしはなほ・きよ・すみで、反射と全身は私とカナヲで……なんですけど」
なんだかアオイちゃんから怒りのオーラを感じる……
「炭治郎さん以外は二人とも逃げ出しました」
「それは……なんていうか」
「いいんですよ!やる気のない人に何を言ったって無駄ですから!!萼さんもしっかり療養してください!では!」
そのまま仕事に戻っていくアオイちゃんを見送った。なら炭次郎くんは今一人で頑張ってるのか。……差し入れとか、持っていこうかな。
「(あ、いた)」
炭治郎くんを探していると、彼は縁側にいた。持っているのは──なるほど、瓢箪か。
「頑張ってるね」
「萼さん!」
「うふふ、瓢箪を持っているっていうことは全集中の常中の修行かな?」
「はい、これがなかなか難しくて……」
「うーんそうだね、でも全集中が出来るようになればあっという間だから」
「あのお、よろしければ萼さんにお手本を」
「萼さんが使っているサイズの瓢箪もありますから」
なほちゃんとすみちゃんにすすめられて身の丈よりちょっと小さい瓢箪を手に口付け──吹いた。
まあ破裂した破片は各自でなんとかしてください。
「うん、感覚が鈍ってないみたいでよかった」
「す、すごい……」
呆気に取られちゃってるけど君もいづれこうなるんだからね?
「とりあえず、こんなところかな。これ、差し入れの藤の花の蜜漬け。それなりに持ってきたから四人で食べてね。それじゃ」
「あ、ありがとうございました!」
お礼を言ってくれる炭治郎くんに手を振って私はその場を去った。
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『愛してる』
『愛してるわ、だから待ってるの』
『なぜ来てくれないのかしらね、こんなに待っているのに』
『吉時さん』
『吉時さん、誘もいるのよ』
『吉時さん次はいつ会えるの?』
『
『すぐに引き継がせるか』
『しかしあれはまだ子供だぞ、癇癪でも起こされて処分なんてなったら一体誰が白代の役割を……』
『簡単なことだ、その芽を摘み取ればいい。幸い許可もおりた』
『……いくら白代とはいえ……なんと憐れな』
『どうせそろそろ限界だったんだ。吉時様なりの慈悲だったんだろう』
『うふふ、嬉しい……愛してるわ……吉、時』
そこで目が覚めた。
なんでよりによって昔の夢なんか見るんだ。おかげで目がさえて眠れない。とりあえず、蝶屋敷の方は誰か起きているかもしれないので行ってみることにした。
屋敷に近づくと誰かが屋根の上にいる。あれは……しのぶさんと炭治郎くん?ちょっと不思議な組み合わせである。
するとしのぶさんが先に立ち上がってその場を去った。そして私のところにやってくる。
「こんな夜更けにどうしたんですか、萼さん」
「ちょっと夢見が悪くて眠れなくなったので睡眠薬をもらおうかと」
「うーん、いいですけど今持ち合わせがないので一回私の部屋に戻ります」
「じゃあ後で取りにいきます」
「はい、では後程」
しのぶさんと別れて気になる炭次郎くんの方に向かった。
「こんばんは、炭治郎くん」
「!こんばんは、萼さん」
「さっきしのぶさんと話してた?」
「はい」
「うふふ、しのぶさんはちょっと気が強いけど基本的に優しいから。たまに容赦ない時あるけど、炭治郎くんみたいな子にはちゃんと接してくれると思うよ」
「はい、おかげで大分良くなりました」
「それはよかった」
炭治郎くんの悪意とか裏のない言葉は素直に受け取れる分照れる。
「あの」
「ん?」
「柱合会議の時はありがとうございました」
「……いいんだよ、気にしないで。あれは私のエゴみたいなものだから」
「エゴ?」
「うふふ──わがままってこと。どうにも私は兄妹とかに弱いらしい。だからいいんだ。今は二人とも認められたことを喜ばなくちゃね」
命あってこそ、ってものだし。
でも炭次郎くんは浮かばない顔のままだった。
「あの、違っていたらすみません──怒ってますか?」
「────」
怒る───ああなるほど、そういえばこの子私の匂いが判るんだっけ。
「──どうしてそう思うの?」
「匂いが怒っているというか、イラついているような気がするから……」
やっぱりか。まあこんな時間に蝶屋敷に来てるんだし、隠すようなことでもないけど。次からはちゃんと隠そう。
「んー、そうだね。夢見が悪くて眠れなくなったから、それでかも──君たちのせいじゃないから気にしなくていいよ」
「……はい」
「──炭治郎くんは禰豆子ちゃんのこと好き?」
「はい!大切な妹です」
「仲が良いのはいいことだよ。そのままずっと禰豆子ちゃんとの絆を大切にね。──私には出来なかったから」
肉親を取りこぼして、気遣ってくれる兄のような人たちに報いることが出来ず、気を許していた幼馴染みに殺された私。
ああそうか、羨ましいんだ、私。
鬼になっても兄が付いていてくれる禰豆子ちゃんが、私が置いて来てしまった肉親との絆を持ち続けている炭治郎くんが。
──どんなに理不尽な目に遭っても優しくて真っ直ぐな彼らが羨ましいのか。
「──八つ当たりだな、これじゃあ」
「え?」
「うふふ、何でもないよ。じゃあ私はもう行くね。しのぶさんを待たせちゃ悪いし、修行頑張ってね」
「!!」
禰豆子ちゃんがやってくれたように私も炭治郎くんの頭を撫でた。髪質はしっかりしてるのに柔らかかった。……クセになりそうな触り心地だ。私がそうやって一人ほわほわしている間、炭治郎くんは固まっていた。
──あ、これだめなやつかも。
まだ江戸時代の文化が色濃く残る大正時代。男女で手を繋いでいるだけでもあーだこーだ言われる時代なんだった。
「調子に乗ってごめんね、今日は喋り過ぎたし今度こそ行くよ。じゃあね炭次郎くん──良い夜を」
「は、い……」
か細い返事をする彼を置いて、私はしのぶさんの部屋に急いだ。