匂いがする。
木と土の匂いと―――これはそうだ、酷く嗅ぎ慣れた
「(血の匂いがする)」
ゆっくりと意識が回復して目が覚めていく。
起き上がって辺りを見回すと木に囲まれていた。ここは山か森か林か。そのうえ血の匂いがするということは熊にでも襲われたのだろうか?にしては獣の匂いはしないし、人の匂いと―――なんだこの匂い。嗅いだことのない、血とはまた違った濃い鉄錆びの匂いがする。
スーツのジャケットをまさぐってみたけどこれと言って武器はない。非常用に持ち歩いていた小型クインケもない。
「(仕方ない、身一つでいくか)」
ここがどこかわからない以上人間と接触するのは避けて通れないだろう。もし運良く話が通じたらここのこともあの鉄錆びの匂いのことも分かるかもしれない。
クインケなんてなくても其処ら辺に落ちている木の枝だって立派な武器になる。私は曲がりなりにも半人間だし感覚とすばしっこさには定評があるので、多少何かあっても大丈夫だろう。
私は大きな枝一本と小さな枝を集めながら現場に近づいて行った。
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鬼滅隊員side
「う、うわあああああ!」
こんなに強いなんて聞いてない。こんなに数が多いなんて聞いてない。
任務の概要はいつもと変わらず人を食った鬼一体の駆逐。大規模な山の捜索だから小隊が組まれた。隊長は甲で、みんな俺より階級がうえで、だから大丈夫だと、油断していた。
「残りはお前ひとりになっちまったなあ」
「っ」
そうだ。みんな俺を除いて目の前の鬼に食われてしまった。
どうしたってもう終わりだ。せっかく最終選抜を通ってこれで家族の仇を取れると思ったのに。
「まだ、まだ死にたくねえよお」
「はっは!命乞いか?情けね「どこが」ぎゃあぁあああああ!!」
「!?」
突然の鬼の悲鳴に顔をあげると鬼の頭には木の枝が刺さっていた。
「うるさいな」
感情の乗っていない声と同時に枝の雨が鬼たちに襲い掛かる。それぞれ醜い悲鳴を上げて蜂の巣にされていた。
突然のことに俺の理解が追い付いていかない。どういうことだ?
すると俺の目の前に一人の人影が現れた。
「大丈夫ですか?」
そういって手を差し伸べたのは美しい少女だった。
「は、はい」
「それはよかった」
笑顔の彼女に見惚れたのもつかの間。鬼たちは起き上がり始めている。
「そこは普通死んでおくものだと思うんだけど」
「この、コケにしやがってええええええ!!」
鬼の一撃から俺を抱えて回避し体制を整える。
「あの、あれはどうやったら倒せます?」
「お、鬼は日の光か日輪刀じゃないと」
「……お兄さんのその刀がそれ?」
「あ、ああ」
「じゃあそれ、この場限りでいいんで貸してください」
「え、でもこれは君みたいな子が使えるほど軽くは……」
「いいからいいから」
「ちょ」
半ば強引に俺の日輪刀を手に取って彼女は手慣れた手つきで鞘から引き抜いた。
「へえ、きれいな刀ですね……これならいけそうだ」
そこからは少女の独壇場だった。これは教えなかった俺も悪いと思ったけど彼女は頸を落としたうえで鬼たちを刻んでいた。夜が明けてすべてが終わる頃には辺り一帯は仲間の血と肉片より鬼の血と肉片の方が多かった。
「これ、ありがとうございました」
これまた笑顔で俺に日輪刀を差しだす少女。思えばなぜこんなところに、しかも夜更けにいたのだろうか。
「こちらこそありがとう。あの、君は一体……」
「私は白代萼。えーと、旅をしてるうちに道に迷ってしまって。ここはどこですか?」
「ここは東京府の南多摩郡だけど」
「え――――あ、あの今の年号は」
「?大正だよ」
なんでそんな当たり前のこと聞くんだろう。旅してて世の情勢に疎いとか?
「ま、まさかの」
「どうしたの?」
「い、いえ何でも!ちょっと先を急ぐので私はこれで!」
「え?」
そしてそのまま彼女は行ってしまった。
とにかく、今回の失態も含めて報告しなければならないだろう。
「あの子、大丈夫かな」