炭治郎くんたちが加勢してくれたものの、既に私は毒で朦朧として戦力としては役立たずもいいところだ。
このままではまずい。お館様に申し訳が立たない。カナヲにまた心配されてしまう。死体が増えるだけみんなの士気も削がれるし、何より使い捨ての私なんて粗大ゴミにも等しい。
『今日から君は―――私の家族だ』
『――私はね、萼に死んでほしくないんだ』
『――あなたはもう、私たちの家族なんですよ?……そんな寂しい言い方、しないで』
『おか えり、萼』
あ
だめだ。
いなくなっちゃだめだ。
止めてくれる人がいる。待ってくれてる人がいる。
『こんなとこで寝てたら死ぬよ?ウテナ』
ニムラ、でも体 うごかない
『今までの根性論みたいな起死回生はどこにいったの』
根性論 じょうろ、
『あちゃー、まだ壊れちゃだめだって。これだからウテナは……仕方ないなー』
くるくる くるくる 回ってまわして もえて消してもやして
『はいはい。燃えるのも回るのもこれからだから。立ってウテナ。こんなとこで終わるほど軟じゃないでしょ?――さあ、和修の――いや違うな、白代の家訓は?』
ニヤリと、ニムラが笑う。私もたぶん釣られて笑ってるかもしれない。
そんなの身に染み付いてるよ。それよりニムラ、いいことあったの?私もうれしいなあ。
「
****
炭治郎side
なんとか相手の攻撃を避けるだけで精いっぱいで、宇随さんと萼さんを助けるどころか助けてもらってしまっている。
二人とも鬼の血鬼術の毒のせいで弱っているというのに。萼さんなんて表情に出さないようにしながらもよく見てみると脂汗が出ていて顔色も悪い。
早くしないと二人が危ない。もう片方を追って行った伊之助と善逸の方も気になる。
俺はどうすれば――
「(え?)」
そう思っていた時、一つの匂いが――萼さんの匂いが全く違うものに変わった。普段の透き通るような、澄んでいるのにどこか甘い香りじゃない。毒々しいまでに甘くなった、熟れた果物のような匂いだ。
「(なんで――)」
チラリと目線を萼さんに向ける。――彼女は無表情だった。
「鬼。種別:十二鬼月・上弦の陸。喰種に準ずるモノ。戦闘力推定レートSS。勝率――――100%」
そして彼女が視界から一瞬で消えた。
「なんだあ?」
萼さんがいたのは――上弦の兄の目の前だった。
「和修白代誘、稼働。これより対象の撃滅・抹消へ移行します」
無機質な声と言動とともに――彼女の刃は鬼の懐を一閃していた。
「あ゛?」
周りにいる俺たちどころか、斬られた本人でさえよく分かっていなさそうだ。
「最適解に到達。解体のち頸部切断──開始します」
いつもの萼さんじゃ、ない。
そこから繰り広げられたのは──惨いとも言えるほどの徹底的な……圧倒的な力による蹂躙だった。
鬼の再生速度を上回る速さで全身を切り刻んでいく。いつの間にかそこには僅かな肉片が浮かぶ血溜まりと化していた。
鬼も必死で抵抗し、あの血の血鬼術を使うものの殆んど当たらない。
声を上げれば喉を突いて、目で何かを言おうとすれば目を潰した。
そして最後に鬼の頸をはねて、飛んだ頸を片手に抱えた。
「上弦の陸·兄を無力化。生存を確認。よって戦闘を続行。上弦の陸·妹の処分に移行します」
「おい、白代!」
宇随さんが声を上げても萼さんはそのまま壁の穴から出て行ってしまった。急いで俺たちも追い掛ける。
萼さんの匂いを追い掛けてたどり着いたのは、あの女の鬼のところだった。
「兄さんの目が消え……っあんたたち何かし「蕨姫──上弦の陸·妹。戦闘力推定Sレート。勝率────100%」
「あ、あんた、あんたが持ってるそれ……」
「最適解に到達。四肢の切断からの頸部切断――開始します」
動揺する鬼に萼さんは接近し――いつの間にか……一瞬で相手の四肢を切り離していた。
「え?――――っぎゃあああああああ!!」
立てなくなり地面にあおむけに落ちる鬼をそのまま片足で足蹴にして縫い留める。
「あんた、よくもお兄ちゃんを「これより頸部の切断へ移行」!切れるわけないに決まってるでしょ!!馬鹿じゃないの!!」
萼さんの日輪刀が頸に当たり頸が帯になった。――しかし
「え……っな、にこの力……っ、いやあ!ちぎれる!!痛いよお!助けておにいちゃん!!」
「四肢の再生を確認」
「ぎゃあああああああ!い゛だい゛ぃぃぃぃぃ!!」
四肢を再び切り落とし鬼が泣き叫ぶのも構わず刀で切り刻んでいく。
鬼も帯で攻撃するものの、すべて切り落とされた。
「攻撃による妨害。よって眼球を破壊します」
「あ゛あ゛あああああ!!」
最早拷問に近いそれで鬼の抵抗は段々となくなっていった。
「ごめんなさっ、ごめんなさい……いたいよお、いたいよお、おにいちゃんたすけてえっ」
「上弦の陸、頸部損傷率70%――――完全裁断開始」
だめだ。
このまま萼さんにとどめをささせちゃだめだ。
このままなら鬼を確実に仕留められるだろう。でも。
よくわからないけど嫌な予感がする。――きっと、萼さんが萼さんじゃなくなる気がする。
そんなの、だめだ!
そう思った時には俺は動き出していた。
****
「だめです萼さん!」
何かが勢いよく私に触れた。強い力だ。でも今の私の方が地力は上だろう。
なのになぜか振り払えない。どうしてだろう。
赤っぽい髪に花札のような飾りが視界の端に入った。
──竈門 炭治郎。
「離れなさい」
「嫌です!!」
「早くしないと相手が再生します。───死にたいのですか?」
「でも今その鬼にとどめをさしてしまったら、きっとあなたは萼さんじゃなくなる!」
「……何を言って」
「俺もよく分からないけど、それでもだめだ!!」
「む゛ー!!」
「禰豆子……!」
今度は鬼の妹の方も抱き付いてきた。
「お願いです、元の萼さんに戻ってください!」
元の私。私は元からこうだ。母親をこの手で屠ったその日からずっと。白代の当主としての役割を果たしてきた。
白代の任務に失敗は許されない。ならばどうするか。
「任務の遂行に妨害発生。続行不能と判断」
「萼さん!何して……っ」
「組織の機密保護のため、自決致します」
日輪刀を自分の頸に当てる。後は引くだけ──
「だめですよぉ、萼さん!」
「まったく!あんたはもうちょっと頭冷やしな!」
「死んじゃ、だめ……よ!」
今度は須磨·まきを·雛鶴──宇随天元の奥方たちに止められる。
なぜ?任務を遂行出来ない私にまだ何か利用価値があると?
「──俺の嫁や後輩にまで止められてんだ。正気に戻れよ、いい加減」
「宇随天元」
なぜ使い捨ての、それも白代の私に……
「萼さん!」
炭治郎──禰豆子と合わせて私の希望。いつもの笑顔はそこにない。ただ泣きそうな顔で私を止めようと抱き付いている。
『もういいの?』
声が響いた。懐かしいニムラの声だ。
分からない。まだ鬼を倒しきれてないから。
『萼』
有馬さん
『お前は和修白代誘ではなく白代萼だ』
はい。あなたからもらったこの名前のおかげで、私は生きて来れた。
──ありがとう、二人とも。
和修白代誘を停止。
その瞬間、背後から炭治郎くんを狙う帯を見た。
全員を突き飛ばしたことで、帯は私だけを貫通した。
「萼さん!?」
「よくも、よくもおおおお!!」
「さすがに全部治ったか……っ」
それに対して私はもうおそらく避けるので精いっぱい……いや、ひょっとしたら動けないかもしれない。
「む゛ー!」
「そんなのもう二度と喰らってたまるか!」
禰豆子ちゃんの爆血を後ろに引くことで躱す鬼。
「お前だけは、おにいちゃんを殺して私をコケにしたお前だけはっ!」
なりふり構わず、もう帯を使うことさえなく私に身一つで襲い掛かってくる。
「──そう、でもごめんね。私はまだ死んでやるわけにはいかないんだ」
雷の呼吸 壱ノ型·霹靂一閃·神速
獣の呼吸 参ノ牙·喰い裂き
「──間に合った」
「これで終わりだ!糞女ァ!!」
善逸くんと伊之助くんが頸を斬った。そしてその頸は私が途中で放り投げた兄の頸と向かい合うように転がった。
何か言い争う声が聞こえる。
でももう、私の身体は限界だったようで、そこから先の記憶はない───。