秘蜜の刃   作:紗代

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白代萼と柱稽古

里での戦いで痣の発現した人たち。

太陽を克服した禰豆子ちゃん。

そしてそれ以来ピタリと止んだ鬼の出現。

 

「──まさに鬼の居ぬ間になんとやら」

 

フラグっぽいからやめておこう。

 

次の戦いに備え、私達柱は隊員たちに稽古をつけることになった。

柱稽古。

継子ではなく一般隊員たちに稽古をつけるうえでの呼称だ。

といっても、基本的に全員参加というだけで柱の中には稽古に参加しない人もちらほらいたりする。

ちなみに私は参加します。カナヲの稽古もつけるけど柱稽古もこなします。

 

「(でも私の前の稽古担当してるの伊黒さんだからなあ)」

 

あの人、教えるのも追い込むのもうまいけど他の柱と同じくスパルタなところあるからなあ――一体何人生き残ってくることやら。

……まあ結局私の後も不死川さんだから何とも言えないけど。

 

「カナヲはカナヲで今日はしのぶさんのところだし……」

 

カナヲはしのぶさんの継子なので基本的にはそっちに行く。私がカナヲに稽古をつけるのは自主練の時と剣術だけだ。カナヲに合わせて最適化するように調整したり効率化したりするだけ。カナヲは筋がいいので本人のやる気も相まって着実に飲み込んでいくので純粋にすごいと思う。

思えば私の身内って才能マン的な人が多い気がする。蝶屋敷で働いてるアオイさんは精神的に戦いに向かないだけで言ってみれば文武両道もいいところだし、なほちゃん・すみちゃん・きよちゃんにしたってあんな小さいのに看護婦としてしっかりサポートしている。今思うと凄い。私ってひょっとしてちょっと場違いなんじゃないんだろうか。

 

「(──にしても暇だなあ)」

 

暇っていうことは稽古してないんじゃないかって?

ちゃんとしてます。たぶん今までもこの後もこれ以上ないってくらい簡単かつ安全な稽古なんだけど。

みんな満身創痍っぽいので休憩時間にした。

というわけで暇なのである。

 

 

「(私の稽古ってそんな難しいかな?)」

 

それともなめられているのだろうか?とりあえず隊員に貸し与えていた木刀を足で蹴り上げて拾い上げた。そしてそのまま振るう。あーあ、こんなんじゃ私の自主練時間が増えるだけで隊員の力の底上げなんて夢のまた夢だ。

私がため息を吐くとどこかで「ひっ」とか聞こえた気がする。怖いなら殺すつもりで掛かってくればいいのに。

 

なんて思っても口にはしないけど……

 

「ごめんください!」

「炭治郎くん!」

 

元気よく飛び込んできた声に荒んでいた心が一瞬にして潤う。うんうん、前より身体ががっちりしてる。ちゃんと真面目に稽古を受けてる証拠だねえ。

 

「うふふ、待ってたよ。ようこそ、私の蜜屋敷へ。歓迎するよ炭治郎くん」

「はい!今日からよろしくお願いします!」

「じゃあはい、木刀(これ)

 

持っていた木刀を炭治郎くんに渡す。

 

「これって萼さんの木刀じゃ?」

「私は打ち合いとかはしないよ」

 

ますます意味が分からず混乱する炭治郎くん。今説明します。

 

「じゃあ私の柱稽古について説明するね。私の稽古は単純に鬼ごっこ。機能回復訓練でやってるのと同じ」

「鬼、ごっこ?」

「うん。炭治郎くんが私を捕まえるのが勝利条件。──ちょっと違うのは私を捕まえるうえで炭治郎くんたちはどんな手を使ってもいいっていうところ。私からは何も仕掛けないし、この通り身一つの状態で私は逃げ回る。君たちはその木刀や地の理や作戦様々なものを駆使して私を捕まえる。その時は私の身体ならどこに触れてもいいよ。腕でも髪でも足でもそれこそ腰でも胸でも頸でも、ね」

「ど、どこでも、ですか……」

 

炭治郎くんが息を飲む。

そう、簡単に出来てたらこんなに居残りの隊員がいるわけがないんだよ。

 

「ただし、私の髪飾りと頸を狙ってきた場合、例外的に反撃することがあるのでそこだけ注意してね♡」

「っ」

「それでは──始め!」

 

何度も炭治郎くんは諦めることなく向かってきてくれたけどやっぱり今日一日では決着がつかなかった。

ちなみに今日のおやつは藤の花の砂糖漬けだった。

 

****

炭治郎くんが屋敷にきて一週間が経った。

動きとか勘とか……そろそろかなあ。

 

「いきます!」

 

炭治郎くんが私に飛び掛かる。私も彼の連撃をかわしていく。その都度できる動きの隙を見極めて炭治郎くんの手が私の方に伸びる。

 

「(前より格段に隙の作り方が上手くなってる)」

 

足払いも私は察知して避けた。しかしそこにまた掻い潜るようにして腕が迫る。狙いは──頸。

 

咄嗟に反撃──と思ったけどだめだ。炭治郎くんは捨て身の覚悟で飛び込んできた。つまり私がこのままクッションにならなければ彼はただではすまないだろう。その私の一瞬の隙を突いて彼の伸ばされた腕が私に触れる。

 

「あ」

 

これは――

 

そのまま私は炭治郎くんの下でクッションになって背中から落ちた。

 

「……うう」

「――おめでとう、炭治郎くん」

「え」

「まだ顔上げないで――……って遅かったね」

 

私の言葉に炭治郎くんは顔を上げた。上げてしまった。

 

「柱稽古・蜜柱――合格。だけどちょっと待ってほしかったかな」

 

今の私たちの格好。

炭治郎くんが私を押し倒しているように見える。

炭治郎くんのおそらく私の肩か頸を狙ったのであろう手が、私が避けたことによりデコルテから胸にかけてのところにある。

掴み損ねたその手の爪で私の頸に傷が付いている。

……今日は湿度が高いからって隊服の前開けとくんじゃなかったなあ。

 

「あの、痛いところとかない?」

「……」

「炭治郎くん?」

「ブフッ」

「炭治郎くん――!?」

 

鼻血を出した炭治郎くん。どこにそんな要素が――って、ひょっとしたら私が衝撃を殺し切れていなかったのかもしれない。隊服のボタンとか硬いし、私の肋骨に鼻をぶつけてたとかありそうだ。

 

「だ、大丈夫です」

「そう言ってもまだ鼻血止まってないよ!呼吸で止血して!あー、もう。いくら早く強くなりたいって言っても無茶して突破しようとしないの!!そんな火事場の馬鹿力持続できるわけないんだから!!」

「す、すみません……」

「とにかく集中!皆は休憩!炭治郎くんは離れで安静にすること!」

 

そう言って離れに連れていき、呼吸での止血を促せば割とすぐに炭治郎くんの鼻血は止まったので、私は濡れたハンカチで乾いてしまった血を拭き取った。

 

「今回はちゃんと条件達成したし、今までの稽古の応用も出来てたから合格だけどあんまり無茶しないように!」

「はい――あの、頸」

「ああこれ?「責任取ります!」え」

 

いや、キリ!って言ってくれるのはかっこいいと思うけどさ、私に付いた傷なんて半人間の回復力をもってすれば痕も残らないと思うのだけど。

 

「責任を、取らせてください!!」

「いやいいよ。この分なら傷跡も残らないだろうし」

「責任を!取らせてください!!」

「ぐ、具体的には?」

 

そう言えば炭治郎くんは更に赤くなった。

 

「……萼さんを、お嫁さんにもらいたい、です」

「……誰かと添い遂げる未来っていう人生設計はないから別にいいよ……そういうのは『責任を取るため』に言うんじゃなくて本当に好きな人に言うものだよ」

 

それに

 

「『責任』は大事だよ。でもそれで人生を決めてしまうのは酷く寂しいことなんだ」

 

知ったように私は語る。

 

「それだったら、好きなものや好きな人を自分の人生に巻き込んでしまった方が――その方が幾分か素敵だよ」

 

たとえそれで酷い目にあっても、きっとそのために頑張ることができるから。

 

 

「私に対しての『責任』なんていつか消えるもののために自分の人生を浪費しないで――自分の幸せを見つけて幸せになって」

 

私のエゴに、巻き込んでごめんね。

炭治郎くんはそれ以上この話を出すことなく、私の屋敷を出て行った。

 

思春期。気の迷い。年上に対する憧れの取違い。やっぱり長男といっても年相応な男の子なのだ。

 

「(だからきっと、君のその感情(初恋)は恋じゃない)」

 

いや、もしかしたらそれこそが初恋なのかもしれないけど。

 

「強く、幸せに」

 

そうなれたなら――その可能性のある彼ならきっと大丈夫。

 

 

 

 

私と違って。

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