秘蜜の刃   作:紗代

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白代萼の終わり

お館様が亡くなられた。

あまね様、ひなき様、にちか様も運命を共にされた。

怒りに任せた刃は鬼舞辻無惨に届くことなく私は引きづりこまれていった。

 

落ちたのは座敷。周りからは下弦並みの鬼たちの気配を感じる。

 

「お館様……」

 

私の、居場所をくださった方。

私を、認めてくださった方。

私を、家族だと、自分の子どもだと言ってくださった方。

 

「う、うぅ……っ」

 

生きていてほしかった。

いなくならないでほしかった。

 

お館様

お館様

お館様

 

呼んで嬉しそうに微笑むあなたはもういない。

気遣ってくださった、時折表情を和らげていたあまね様も。

私の話を興味深々に聞いて笑顔を見せていたひなき様とにちか様も。

 

きっと、あの方たちは分かっていたのだ。こうなることが。だからきっと護衛を付けなかった。私も出入りはしても四六時中一緒にはいられなかった。わかっていたうえでの、選択だったのだ。

 

――すべては鬼殺隊と産屋敷存続のためだった。鬼舞辻に対する策の一部になろうとも。

 

「お館様は、鬼殺隊(私たち)を選んでくださった」

 

ならば、私はそれに応えなくては。

 

「鬼殺隊――蜜柱・白代萼。参る」

 

 

──貴様ら()を一匹残らず鏖殺する。

 

****

何匹いたのか分からない。

ただただ切り刻み進んでいく。私の周りは原型を留めていない挽き肉になった鬼たちの肉片が散らばり、プカプカと乾かない血の中に浮かんでいた。

八つ当たりの相手を見繕ってくれた事にだけは感謝すべきなのだろうか──いや、必要ないな。どうせ殺すモノなのだから。

 

その時、一瞬冷えた空気を感じた。

これ、は──

 

ガリガリという咀嚼

バキバキという折る音

ゴクゴクという嚥下

間違いない

 

「ん?ああ、やっと来てくれたんだね。蜜の君」

 

上弦の弐、童磨。

 

「───」

「鳴女ちゃんにお願いして俺の近くに飛ばしてもらったんだけど、待ってるうちにお腹すいてきちゃってさ。こんな格好でごめんね?今片付けるから」

 

その瞬間、周りの死体が全て凍り付き──一瞬にして消え失せた。

 

「(いや、跡形も無くなるほど粉砕されたのか)」

「待ってたよー、あの約束通り俺の方から行こうとも思ったんだけど、行く前に鳴女ちゃんが見つけてくれたんだ!」

「なるほど──随分厄介な血鬼術の持ち主がいたものだ」

「おかげで思っていたより早く君に会えた!」

 

そしておもむろに私に頸を晒す。

──そこにはあの時の傷痕があった。

 

「次はいつ会えるのかな、ってこの傷痕見て思い出しながら待ってたんだ」

「趣味が悪い」

「ええー、つれないなあ」

「とりあえず──死ね」

 

居合いと高速移動で打ち込み下がった。

それは鉄扇で防がれる。

 

「やはりそう簡単にはやられないか」

「そうそう。せっかく会えたんだ、もっと楽しもうぜ」

「断る!」

 

相手の冷気を吸わないようにhit&awayを繰り返して攻撃し続ける。

 

蜜の呼吸 肆ノ型・陶酔の宵

 

無音で気配を消して迫り──切る!

 

手応えはあった。あった、けど──

 

「ごほっ」

 

痛み分け……こちらも一撃入れられてしまった。

 

「血を流す君も好きだけど……それじゃあ長く遊べなくなっちゃうよねえ……ああそうだ!じゃあ俺が止血してあげるよ!」

「な……うぁっ」

 

斬られた傷に来る鋭い痛み、そしてそこはすぐに感覚がなくなった。

 

「(まさか――っ)」

 

私の傷は、相手の血鬼術で凍らされていた。

 

「氷で彩られた君も綺麗だねえ。そうだ、いっそのことこのまま氷漬けにして飾っておこうか!」

verrückt(狂ってやがる)

 

掌中の日輪刀を握り直し、皮肉を呟く。

本当は一刻も早く鬼舞辻無惨(本命)のところに行きたいところだけど……

 

「まずはお前を倒す――」

 

私は再び、今度こそこいつを殺すために対峙する。

 

 

―――

――――

 

「お揃いだねえ」

「はっ、はぁ、っ」

 

自分の髪を弄びながら私に嬉しそうに話しかける。一方私はもう既に、奴と同じ髪色になってしまうほど疲弊していた。

 

「(上限を超えて半喰種化しすぎた、既に限界に近付いている)」

 

白髪になったのが目に見えてわかるサインだ。一気に何度も超再生を行いすぎた。

でも

 

「(それがどうした)」

 

きっとあの遊郭の時のように和修白代誘が戦えばまだ勝機はあっただろう。けれど私は、鬼殺隊の白代萼は私だから、和修の道具ではなく鬼殺隊の隊士としての私だから。どうしても私として戦いたかった。

 

「(私はまだ死んでいない。まだ、生きている)」

 

こんな私でも、みんなに必要とされている。みんなに願われている。だから

 

「っ!!」

「え」

 

私の血を纏わせた日輪刀を相手の頸に突き立てた。ああ、くそ。なんでこれ以上進まないんだ。貫通できても横にずらして切断しなければ意味がないのに。

 

あーあ

 

「生きたかった、なあ」

 

和修にいた時は思わなかった気持ちが不意に口からこぼれ出た。大事なものがたくさんできたこの世界で。

 

「可哀想に。俺が食べてあげるよ。そうすれば君も極楽に行ける」

 

あの時と同じように、奴は私を抱きしめて耳元で囁いた。

 

極楽?

 

「生憎、そんな空虚は信じてない。行くにしたってきっと地獄だ。私にはそのくらいの方がお似合いだ。」

 

そのくらいの事を、私はしてきたのだから。

 

「……そうかい」

「ご、ぁ」

 

……さよなら、蜜の君。そう言われた瞬間に反転する視界。軽快な折れる音。

 

最後に、思うくらいはいいよね。

 

私、カナヲと姉妹みたいに出掛けてみたかった。

お館様のことももっと守っていたかった。

なんのしがらみもなく生きてみたかった。

 

 を、してみたかった。

 

今の間際にこんなこと思うなんて。なんて救いようのない奴なのだろうか。

 

「うて、な」

 

カナヲの声がする。ごめん。こんな情けない奴で。――後は頼むね。

 

 

 

 

霞む視界に映るのは天井で、いつもの青はそこになかった。

 

 

 

 

 

「よくも、よくも私の“姉”を殺したな!!」

 




「頑張ったねえ、カナヲ」

真っ暗なところからカナヲを見る。彼岸朱眼なんて大技を使った反動か、カナヲはふらついていた。頑張った御褒美とまではいかないのかもしれないけど、その眼が治るようにちょっとおまじないを施してから逝くことにしよう。

「やあ、蜜の君」
「ああ、よかった。ここに来たってことはちゃんと死んだんだ」
「うん。ねえ、これから俺と一緒に地獄に行かない?」

紅潮し興奮しながら手を差し伸べてくる相手。何言ってんだこいつ。

「あんたの手を取る気はない。とっとと消え失せろScheiße(クソが)





verrückt(フェアリュックト)=狂ってる
Scheiße(シャイセ)=クソ
ドイツ語のスラングです。
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