竈門くんがやってきて約一週間が経った。大正とは文化が違い過ぎて最初は戸惑っていた竈門くんだったけど、なんとか日常生活に支障を来さない程度には慣れてくれた。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい、萼さん」
にこやかに竈門くんは私を送り出してくれる。うわー照れる。こんなのシャトーにいた時以来だ。
ちょっとにやけそうになりながら、私はマンションを出た。
「あ、萼さん携帯……ってもういない──届けた方が良いだろうか?」
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会議が終わってそれぞれに散らばっていく中、私は一人の人物に視線を向ける。
「──ハイセ」
「あ、ウテナさん」
「今日もお疲れ様。浮かない顔してるけどコーヒー飲む?」
「あはは、大丈夫です。ただちょっとへこんでるだけで」
「会議?それともシャトーでなんかあった?」
「なんていうか、その、僕の立ち位置ってなんなんだろうなって、考えちゃって……」
「……とりあえず、もう会議室閉まるから移動しようか。この後時間ある?」
「はい、休憩ですけど」
「ならよかった。これからお昼にしようと思ってたから、そこで話そう」
「はい」
──
───
「そっか、瓜江くんが……」
「叩いた僕も悪いんですけどね、はは……」
「──いや、でもそれは当たり前の事だよ。瓜江くんは私やハイセが選んだ班長だ。メンターもなしに行動はいざというときはありだろうけど、報連相の義務はあるし、班の纏め役として危険性を回避すべき所を危険に晒してるんだから」
「──そう、なのかな」
「そ、う、で、す!!……瓜江くんの言ったこと、あんまり気にしない方が良いと思うよ。彼もたぶん焦ってるだけかもしれないし」
「え?」
「お父様が特等捜査官で同期があの黒磐特等の御子息。いくら前より喰種の出現率が上がって手柄を挙げやすいっていっても思うところがあるんじゃないの?」
それに、その父親は彼が小さい時に黒磐特等との任務で隻眼の梟に殺害されて殉職してるから尚更だろう。親の誇りを持って働く姿に憧れる時期もあったのかもしれないし──私なら絶対にあり得ないけど。
「そっか……」
「うん。まあだからといって今回みたいになられても困るけどね──と、そうだ。身体の方は大丈夫?」
「あ、はい。とりあえず数値も身体も大丈夫だってお墨付きもらいました」
「ならよかった」
久々の恐慌状態だったこともあってバイタルに影響が出てる可能性があるんじゃないのかと思ったけど、大丈夫そうだ。
「とりあえずトルソーもオロチも目星が付き始めたしよかった……とは言えないか、たぶんまた別の任務くると思うよ」
「ええ!?」
「なんかこの頃人間の行方不明者が多くてさ、私もトルソーと平行してそっちに駆り出されてるからそろそろそっちにも話がいくと思う」
「分かりました……」
「ごめんねハイセ」
「い、いえ!ウテナさんのせいじゃありませんから!」
乾いた笑い声をあげるハイセと私はきっとSAN値チェックに失敗するんじゃなかろうか、なんて思ってしまったのは仕方ないと思う。
****
ハイセと早めの昼食から戻るとそこにはアキラさんがいた。
「アキラさん」
「ああ、ちょうどいいところに来たな二人とも。ほら少年、ウテナが来たぞ」
「萼さん!」
アキラさんに呼ばれてきたのは、竈門くんだった。
「竈門くん!」
「朝出ていく時に携帯忘れていってたので……遅くなってすみません」
「わざわざ持ってきてくれたの?」
「はい、これがないと萼さん困るかなって」
いい子だな。うん、いい子。……そんな君が私は苦手です。
「CCGの前をずっとうろついていたから気になって声を掛けたんだ。そしたら萼の忘れ物を持ってきたというからお前たちが戻ってくるまでこうして待っていた」
「竈門くんを保護してくださってありがとうございました、アキラさん」
「いや、礼を言われるほどのことはしていない。それではな」
「はい」
「ありがとうございました!」
三人でアキラさんを見送るとふと思ったことを口にした。
「そういえば、二人とも声似てるよね」
「「そう/そうですか?」」
「うん。……と、お互いの紹介がまだだったね。ハイセ、この子は竈門炭治郎くん。ちょっと訳ありで私が今預かってるの。竈門くん、こっちは私の同僚の佐々木琲世。新設されたQs班のエース」
「そ、そんな、ウテナさん、大袈裟ですよ!」
「大袈裟なんかじゃないよ、ハイセ」
「竈門炭治郎です。よろしくお願いします」
「あっと、ごめん。よろしくね、竈門くん」
お人好しコンビになるんじゃないんだろうか、この二人。まあ竈門くんを仕事に関わらせるつもりはないのでコンビを組むっていう機会は殆どないだろうけど。
「ハイセ、お願いがあるんだけど」
「はい?」
「明日シャトーに行くから、トルソーの調査資料大まかに纏めといてくれる?」
「分かりました」
「ありがとう。──じゃあ竈門くん、行こうか」
「はい!失礼します」
ハイセと別れて受付で竈門くんの許可を取って竈門くんと廊下を歩く。今日は外回りもなく、あとはデスクワークをちょっとすれば終わりだ。
その間竈門くんには休憩室にでもいてもらおう。
「もうちょっとしたら私も上がるから、待っててね」
「はい!」
竈門くんを休憩室に置いて、私は自分のデスクに向かう。
「白代上等、さっきの子は?」
「あの子なら休憩室にいますよ」
「へえ。にしてもそっか、白代上等も隅に置けませんねえ」
「何言ってるんですか、相手は私より四つ下ですよ?私相手なんて可哀想でしょう」
「でもさっきの子、白代上等が来たとき出待ちしてた子犬みたいでしたよー」
「他に知り合いがいないからですよ」
何を言っているんだこの人たちは。それでも止まない同僚たちの話を軽く受け流しつつ、私は仕事を捌くのだった。
定時で上がることが出来たので竈門くんを迎えにいくと、そこには珍しくニムラもいた。
「あれ、旧多さん。珍しいですね」
「白代上等、お久し振りです」
「萼さん、おかえりなさい」
「ただいま、それじゃあ行こうか」
「はい!旧多さん、失礼します」
「お気をつけて~」
ニムラに見送られて私と竈門くんはその場を去る。
今日のニムラの外面も完璧だったな……ニムラの事思ってるうちに有馬さんにも会いたくなってきた。また卓上戦闘やりたい。いいなあハイセ……
「萼さん」
竈門くんから呼び掛けられて我に返った。危ない危ない。
「何?」
「さっきの、旧多さんのことなんですけど……」
「ああ、何かあった?」
ニムラが余計なこと言って混乱させてないといいんだけど。
「ルトに気を付けろって言われて……どういう意味ですか?」
ルト?ルトに気を付けて……わざわざ言うことだろうか?基本的に和修の喰種は外に出られないから
「ルトは私の幼馴染み。基本的に家から出ないからまず会うことはないと思うけど……そうだね念のために竈門くんにもクインケの使い方教えておこうかな。私も職業柄喰種から恨まれやすいし、迎撃手段があるに越したことはないから」
たぶんないとは思うけど。内心そう思いながら歩く。
その時の私はまだ何も知らない。
何も思い出してすらいなかったのだ。
平成コソコソ話
「ウテナがなんで上等捜査官なのかって?それはほら、やっぱり和修の命令ですよー」
「程よく優秀で上にも下にも入り込みやすい、ある程度の権力も行使できるっていうことでとりあえずこの階級になってる。っていうのが実情かな」
「あはは、戦闘力で言えば特等かもしれないのにね」
「白代は目立っちゃいけないし、私もこの階級で満足してるからいいよ」
「わー、否定しないんだ」
「まあ……多分戦闘経験なら非公式も含めれば有馬さん以外の人たちにも負けてないから」