秘蜜の刃   作:紗代

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白代萼の鬼退治

あの学ランの人と別れて歩いているとたしかに見慣れたコンクリートジャングルではなかった。洋服の人より着物の人のほうが多いし、これは素直に大正時代だと認めざる負えない。

そのうえ

 

「(なぜか私自身縮んでるし)」

 

これも死んでタイムスリップした弊害なのかもしれない。

行く先々の人間みんなが私を見て憐れんだり、心配してきたり、果ては誘拐しようとしてきたりといろいろあってもしやと思っていたけど。本当に14歳くらいの時の格好になっているなんて誰が想像するだろうか。

 

こんな格好じゃ働くに働けないし……問題は山積みだけど一番最初にくるのは当面の生活だろう。食料は山に入って調達するとして問題は住居と風呂と着替えだ。

 

とりあえず私のスキルは戦闘と潜入術くらいしかない。体型的にはこの時代の同い年の子たちより背が高いので活用しない手はない。

と、いうわけで

 

宿屋の従業員になりました。

寝床と食事とお風呂を確保できる職業……と考えた末に思いついたのがこれだった。客商売は初めてだけど笑顔の貼り付けとかそういうのは生前からよくやっていたことだから思ったよりうまくいった。んだけど……

 

「鬼殺隊の者です。どうか今晩泊まらせていただけないでしょうか」

 

あの時遭った人と同じ学ラン姿の人が泊まりに来る確率が高い。

なんでもこの宿は一度鬼に襲われたところを鬼殺隊に助けられたのが縁でこうして「藤の家」として鬼殺隊のサポート役を買って出ているんだとか。

というかそんな鬼殺隊の人がここにいるってことは、この近くに鬼がいるっていうことなんじゃ?

え、それってまずくないか?今のところ犠牲者の話は聞かないけど、もしこの宿が狙われたら私はまた宿無しになってしまう。それはまずい。

こうなったら鬼殺隊の人と協力……はできないから単独で動くしかないか。あの時分かったことだけどあの変な鉄錆び臭さは鬼の匂いだったみたいだし。音も感覚も目も問題ないからできないことはない。うん、自己防衛って大事だよね。

 

 

 

「この度はお越しくださりありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」

 

翌朝、ひと狩り終えた私は笑顔で釈然としない顔をした鬼殺隊の人を送り出したのだった。

 

 

ここで一つ疑問に思うことがある。鬼は一体どこからやってくるのだろう。倒しても倒してもまた別の鬼がやってくる。これじゃあきりがない。鬼殺隊の人たちも怪しみ始めてるし……どうしたら鬼が寄ってこなくなるんだろう。

 

「ぐぎゃあああああ!!」

「うるさい、わめくな」

 

とにかくどうしようもないので恒例化してしまった鬼退治を黙々とこなす。日が昇るまであと約20分。分単位で殺していけば持つだろう。

頸を切断してから胴も手足も頭も細かく切る。だってこの鬼っていうのは殆ど喰種と似たような種族なんだろうから、頸をはねても安心はできない。頸とか胴とか切り落としても普通に生きてるやつとかいっぱいいるし。

 

「やめ、やめてくれぇ」

「うん、ごめんね。本当は日輪刀とかって言う刀があればいいんだけど、あいにく私は持ってなくてね。だからこうやって殺し続けることしかできないんだ」

「ちい、稀血イ、喰わせろ!喰わせろオ!!」

「?なんだかよくわからないけど、私みたいなの食べてもおいしくないと思うよ」

 

そういう間も私は切り続けている。えーっと、これでとりあえず19回目だからこれでラストかな?ちょうどタイミングよく日が差し込む中、私は鬼に最後のとどめをさした。

 

「お前さえ、稀血さえ喰えていれば……」

「稀血、ね。―――バイバイ、来世は幸せになるんだよ」

 

鬼が跡形もなく消えていくのを見届け、服に付いた汚れを払った。洋服の方が動きやすいけどこう何度も洗濯するってなると……

 

「おい」

 

後ろから聞こえる男の声。ほんの少し前にここに到着したのだろう。私と鬼のやりとりは聞かれていたのかもしれない。

振り返るとそこには端正な顔立ちの無表情な男が立っていた。

 

「はい?」

 

一応すっとぼけたように返事をしておく。―――まあ、この人には通用しなさそうだけど。

 

「長い黒髪に黒い洋服……お前がアキシロウテナか」

「私とお兄さんは初対面ですよね、どうして私のことを知ってるんですか?」

「……南多摩で鬼殺隊士を助けただろう」

「そういえばそんなこともあったような」

「お館様がお前を探している。……ついてこい」

「私はまだここで働きたいんで、それはちょっと……」

 

まだ働いてそんなに経ってないし、せっかく手に入れた自由なのだ。今度こそ自由に生きたって罰は当たらないだろう。ここは案外居心地がいいしもう少しいたい。そう思っていた。

 

「お前が」

 

―――お前が原因でこの宿が狙われ続けているとしてもか。

 

そう聞き捨てならない言葉を、聞くまでは。

 

「どういうことですか」

「さっきの鬼はお前を稀血だと言っていた。稀血とは鬼にとって常人より栄養価の高い人間のことだ。鬼にはそれが分かる」

 

じゃあひっきりなしにここに鬼がやってきたのは私のせいだったのか。喰種にとっても半喰種や半人間はご馳走だっていうし……私にとって結構厳しい世界なのかここ。

 

「……わかりました。同行します」

「いくぞ」

 

歩き出そうとした男……あ、そういえばまだ名前聞いてない。

 

「お兄さんの名前、教えてください」

「…………冨岡義勇」

 

凄く間が空いて返事が返ってきた。無表情だけど……人見知りなのか?

 

「鬼殺隊本部までよろしくお願いしますね。冨岡さん」

 

かくして私は鬼殺隊に赴くことになった。

 

バイバイ、私の自由生活。

……ブラックじゃないといいなあ、労基法ってもうあったっけ?


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