秘蜜の刃   作:紗代

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白代萼と蝶屋敷

お館様との話から数日後。私は医療施設だという蝶屋敷に来ていた。

 

「ごめんください」

「はーい、どなた?今開けますね」

 

扉を開けたのは蝶の髪飾りのよく似合う女性だった。

 

「産屋敷輝哉様の紹介で参りました。白代萼と申します」

「まあ、あなたが?私は花柱、胡蝶カナエです。お館様より事情は伺っています。さあ、中へどうぞ」

「ありがとうございます。お邪魔します」

 

花柱―――じゃあこの人がこの鬼殺隊の特記戦力の一人なのか。

ニコニコと上機嫌な胡蝶さんに案内され私は奥へと進んでいく。するとある部屋の前で足を止めた。

 

「しのぶー?いるー?」

「いるわよ姉さん」

「ならよかった。白代さん着きました。今開けますね」

 

胡蝶さんに通された部屋の中には一人の小柄な少女がいた。

 

「しのぶ、連れて来たわ。こちらはお館様のお話にあった白代萼さん。萼さん、この子は私の妹のしのぶ。鬼に効く毒の研究やここの治療全般を担当しているわ」

「白代萼です。今日はよろしくお願いします」

「姉のカナエより紹介にあずかりました。胡蝶しのぶです。こちらこそよろしくお願いしますね、白代さん」

 

美しく微笑んだ彼女はおもむろに注射器を取り出した。

 

「では早速ですが、採血するので利き腕と逆の腕を出していただいていいですか?」

「はい」

 

促されるままに袖を捲し上げて腕を差し出した。両利きだからどっちだって大丈夫なのだ。

 

「———はい、ありがとうございます。結果は後日お知らせしますね」

「ありがとうございます」

「じゃあせっかくだし、今のうちに鬼やあなたの特異体質である稀血について話しておきましょう」

「はい、よろしくお願いします」

「ではまず、鬼についてはどこまで把握されていますか?」

「日光に弱く、夜行性。膂力・再生力は人間のそれを軽く上回り、食性は偏食で人しか食べられない。日輪刀でしか殺害することができない、と」

 

要は日に弱く再生力に富んだ喰種。それが私の最適解だった。

 

「大凡その認識で合っています。相違点のみで言えば鬼は元は人間であり、日輪刀をもってしても頸を落とさなければ即座に再生します。事実、私たち鬼殺隊の隊員たちは入隊と同時に日輪刀を支給されますが、それでも新入隊員の殆どが一年、いいえ半年も経たずして死んでいきます。―――そして人が鬼になる条件は鬼の始祖の血を摂取すること」

「鬼の、始祖」

「ええ。名を鬼舞辻無惨。名前以外の一切の情報を漏らさずに私たちの目を掻い潜り、生き永らえ続ける諸悪の根源です」

「……なるほど」

「ふふ」

 

鬼って頸を切るだけでよかったんだ……私が納得しているとどこからか……というか花柱の方の胡蝶さんから笑い声がした。

「姉さん?」

「いえ、しのぶがちゃんとお姉さんしてるなーって」

「今真面目な話をしているの!茶化さないで!!」

「はーい」

 

それでもニコニコと笑顔を絶やさず見守る花柱の胡蝶さんに目の前の胡蝶さんは微妙な顔でため息を一つ吐いたのち説明を再開した。

 

「コホン。では気を取り直して……次に萼さんにも密接に関わってくる稀血についてですが、稀血というのはその名の通り非常に珍しい存在です。鬼は稀血の人間一人を摂取することで常人五十~百人を食べるのと同じ力が手に入ります」

 

だからそれを求めて鬼たちが群がってきた、と。

 

「対策のようなものは?」

「残念ながら今のところは何も、ただここは鬼狩りの本部ですから他の場所よりはいくらか安全です」

「そうですか……」

「ここまでで何か不明な点はありましたか?」

「いいえ、ありがとうございました」

 

つまり根本的なところは変わらないということ。確かにそんな都合のいいことだらけではないのだ。

自分の中で情報を整理していると不意に扉が勢いよく開いて三人の小さな女の子たちが転がるようにして入ってきた。

 

「カ、カナエさまー、しのぶさまー!!」

「急患です!!」

「あらあら」

「十人ほどで、でもみんな大怪我してて手が足りなくて……」

「まあ……白代さんすみません。わかりました直ぐに「あの」

 

そこでその場にいる全員が私を見る。

 

「もしよければ私にも手伝わせていただけないでしょうか」

「で、でも「まあいいじゃない、しのぶ」姉さん」

「実際、隊員並みにここも人手が不足しているし、正直猫の手も借りたいような状況でしょう?」

「そうだけど彼女は客人で「あら、彼女はまだ隊員でないだけで仲間の一人よ?」!」

 

その言葉に私も目の前の胡蝶さんもはっとする。

 

「そうでしょう、萼さん」

「え、でも本当にいいんですか」

「いいのいいの!それで救える命が多ければ尚更よ」

「そうですね、私としたことが失念していました。コホン、では白代さん仲間としてあなたに頼みたいことがあります」

「は、はい」

「今この屋敷にいる者だけでは患者に対応しきれません。私たちを手伝ってください」

「……はい!」

 

こうして今日は途切れることなく運ばれてくる患者に対する処置や入院患者のリハビリ(機能回復訓練、というらしい)を手伝ったりと久々に目まぐるしく動いた日だった。

 

「今日はありがとうございました」

「こちらこそ、無理を言って手伝わせてもらってしまって、ありがとうございました」

「いいえ、あなたがいてくれたおかげでいつもより仕事が捗ったわ。処置も適格で手際もよかったし、うちでまた働いてほしいくらい」

「「「萼さんありがとうございました!」」」

「もしよければまた来てくださいね、今度は治療とか検査とかそういうの関係なく。お茶とお菓子を用意してお待ちしています」

「ありがとうございます、胡蝶さん」

「それと、『胡蝶』だと姉と被りますから私の事は名前で呼んでください」

「いいんですか?」

「ええ、是非」

「……しのぶさん」

「はい」

 

にっこりと、朝会った時よりもしっかりとした笑顔でしのぶさんは応えてくれた。

 

「えーしのぶばっかりずるい!私の事もカナエって呼んでね、萼さん!」

「はい、カナエさん」

「!!ありがとう」

「じゃあ姉さんそろそろ日も沈みますし……」

「ええ、気を付けてね」

「はい、ではまた今度」

「また来てくださいねー!」

「私たちも待ってますからー!!」

「お気を付けてー!」

 

蝶屋敷のみんなに見送られて、私は帰路に着くのだった。

 

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