秘蜜の刃   作:紗代

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白代萼の呼吸

鬼殺隊士になるには条件があるらしい。

 

一つは最終選抜を生き延びること

 

もう一つは呼吸法の習得

 

正確に言えば最終選抜を生き残りさえすればなれるらしい。けど一般的にはまず育手と言われる教育者の下で修業を付けてもらい、その育手から最終選抜の推薦や許可を得て選抜に挑むらしい。

育手は元熟練の鬼殺隊士であり呼吸法の使い手でもある。つまり最終選抜を受ける受験者はその育手の修業の中で呼吸法を既に習得しているということなのだ。

私は自力で何とでもできていたのであまり気にしていなかった(普通の人間が鬼に対抗するにはこの呼吸法による身体強化が必須らしい)。でも困ったことが起こってしまった。

それは私もそろそろ最終選抜を受験してはどうかというカナエさんからの言葉から始まった。

 

「私たちとしてはあなたがここにずっとい続けてくれた方が嬉しいのだけれど、お館様との約束だとしたらそれは反故にはできないもの」

「そうですね……ええと持ち物は日輪刀だけでしたっけ?」

「そうそう。正確にいうとまだ最終選抜を抜けてないから借り物になるんだけどね、普通なら自分の師匠である育手から貸してもらうんだけど、萼の場合お館様が直接スカウトしたからそういうのはないし……」

「なら姉さん、色変わりしなかった刀を借りたらどうかしら?」

「ああ、それならいけるかも!」

 

そう言ってカナエさんは部屋を飛び出していった。

 

「『色変わりしなかった刀』……?」

 

刀は本来色変わりなんてするような代物ではなかったはずなんだけど?

 

「そういえば萼さんに日輪刀の性質について話すのを忘れていました。日輪刀は別名色変わりの刀。所持者の呼吸の適正によって刀身の色が変わるんです。炎なら赤、風なら緑、水なら青、雷なら黄、岩なら灰というように。でも極稀に黒であったり、呼吸の適正がまったくなくて色が変わらなかったりします。なので今回はその色変わりしなかった刀を使おうと思いまして」

「なるほど……あれ、でも黒ってなんなんですか?色が変わっているわけですから適正がないわけではないんですよね?」

「それは……その、黒の刀身の日輪刀の所持者は元々死傷者の多いこの鬼殺隊の中でも現段階で持っている人はいません。呼吸のことや刀身の事について解析する前に皆早逝しているんです」

「!」

「なので隊内では『早死の色』と呼ばれて不吉の象徴だと言われているんです」

「な、なるほど……」

 

私は頷くことしかできない。色が変わったからといっていいことばかりではないのか。

 

「色変わりしてない日輪刀、借りてきたよー」

 

と鞘に入った刀の束をカナエさんは目の前に広げた。

 

「どれでも好きなの持ってっていいからね」

「じゃあこれで」

 

適当に選んだ一本の刀を鞘から抜く。きっと黒かな。前は二十歳で人生終わったし。と目線を日輪刀に向け――向け?あれ?ちょっと待って、鍔から先がない?どういうこと!?

――と思っていたら光が七色に屈折して光った。あれ、これってまさか……刀身が透明、ってこと?

 

これには蝶屋敷のみんなも私も驚いて声も出なかった。そして正気に戻って頭を抱えた。

ぶっちゃけ色もなければ前例もないから呼吸の適正どころじゃないよね。

一先ず全集中の呼吸を習得し基礎をしっかり作っていくことになった。それでそれを日常生活でも常にやるように習慣づける。そうして「全集中の呼吸・常中」を習得・完成させた私は……やっぱり適正の問題に直面する事となってしまったのである。

隊員の人たちの稽古を見て見よう見まねで呼吸法をやってみたら出来た。といっても基礎基本の壱ノ型だけだけど。これ以上は誰かに師事しなければ習得することは難しいだろう。

私は広く浅くな適正だったのだろうか?器用貧乏って私らしいな。

 

「呼吸について、ですか……」

「そういえばお二人の花の呼吸と蟲の呼吸は何色になるんですか?」

「私の花の呼吸は水の呼吸の派生だから私は青に近いわね」

「私も元は花の呼吸の派生なので青に近いですね」

「派生の呼吸?」

「ええ、私たちが育手から教わったのは水の呼吸。けれどそれを実戦で自分に合わせていったらいつのまにか全く別物になっていたのよ」

「……姉さんは感覚的過ぎるのよ。萼さん、あまり気にしなくていいですからね」

「でもそうねえ、確かに萼は殆どすべての呼吸が使えているわけだし、自分の流派を起こすっていうのもありね」

 

自分の流派を起こす、かあ……

 

カナエさんは元々の呼吸を自分なりに最適化したことで今の花の呼吸を生み出したのだと言っていた。なら私も自分の扱いやすい呼吸をより自分になじませるように、もしくは呼吸が私になじむように作り変えることも出来るのかもしれない。

そう思い立った私が着目したのが二人の花の呼吸と蟲の呼吸だった。この二つの呼吸は間近で見ることも多いためか他の呼吸に比べてイメージしやすい。そしてこれは私の思い込みかもしれないけど、他の呼吸に比べて若干呼吸がしやすい。そしてこれを私に合わせて最適化する。

そしてできたのが――

 

「蜜の呼吸 壱ノ型・蠱惑」

 

簀巻きを切ると滑らかな断面を見せて崩れた。うん、今日も大丈夫そうだ。

 

私は花の呼吸と蟲の呼吸から新たな呼吸を起こした。名前はその二つの間を取って「蜜の呼吸」と名付けた。最初この型を見せて説明したらカナエさんとしのぶさんは怒るどころか、照れながら微笑んでいて、こっちまで赤くなってしまったのはいい思い出である。

 

「鍛錬お疲れ様です、萼さん。調子は――良さそうですね」

「はい」

「最終選抜が明日なのでどうしてるかちょっと心配だったんですけど、杞憂だったようで安心しました」

「明日から七日間、必死に生き残ってきます!」

「ふふ、その意気ですよ」

 

しのぶさんと笑い合う。いよいよ明日に迫った最終選抜。私は刀を収めながらその刃を通して青い空を見たのだった。




しのぶさんの刀の色は明言されていなかったので予想です。
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