最終選抜の内容は毎回変わらない。
産屋敷家所有の山――藤襲山。その山はその名の通り特殊な藤の花が一年中咲き誇る。まるで藤色の襲を着ているような美しい山だ。
しかし、それは麓から中腹にかけてであり、それ以降から山頂にかけては咲いていない。あそこは自然の牢獄。一般隊員が倒せるくらいの鬼を閉じ込めるための牢獄だ。
そこに日輪刀を持たせた鬼殺隊の入隊希望者を入れて七日間のサバイバルをさせて生き残った者が鬼殺隊の隊員として入隊許可が下りるのだ。
「行くの、萼」
「カナヲさん」
「怖くないの」
カナヲさんはいつも通りの無表情で私に問いかける。
「そうですね、変な話ですけどおそらく。私はずっとこうですから。でも油断したら死ぬでしょうね」
「死ぬって、怖いんじゃないの」
蝶屋敷で日常的に聞く隊士たちの断末魔や泣き声、それに比例するような痛々しい姿を見ている彼女らしい言葉だ。
カナヲさんは心の動かし方が分からなくなっているだけで、心そのものは無意識に何か感じ取っているのだろう。
「自分がいる保証が消えちゃいますから、たしかにそう思えばそうなのかもしれませんね。でも私、今回死ぬつもりは更々ないので必ず生き残って帰ってきます」
そう、せっかくの第二の人生なのだ。お館様が認めてくださり、蝶屋敷という居場所ができたこの世界を、私はそう易々と手放すつもりはない。
「御褒美」
「え?」
「お二人は、私が何かできると『御褒美』で何かくれる。だから萼も」
やっぱりカナヲさんは強くて優しい子だ。
「そうですね……なら私の我儘なんですけど、私が無事に帰って来れたら――カナヲさんの笑顔が見たいです」
「私の、笑顔」
「はい。無理ならそれで構いません。それでできれば「おかえり」って言ってほしいんです」
「笑顔で おかえり」
無表情のカナヲさんの笑顔が見たい。――いや出過ぎた願いだったかもしれない。
「すみません、変な事を言ってしまって。さて、そろそろ行きますね」
「……」
そして私は蝶屋敷の玄関へと逃げるように去った。
玄関にはもう既にしのぶさんとカナエさんときよちゃんとなほちゃんとすみちゃんが集まっていた。
「では、いってきます」
「無事に帰ってきてくださいね」
「帰ってきたらお祝いしましょう!」
「絶対に、絶対に帰ってきてください!!」
「帰ってきたらまた新しいご飯の作り方教えてください!」
「ここでずっと待ってますから!!」
そう言って見送ってくれるみんなに手を振って、私は藤襲山に向かった。
****
輝利哉様とかなた様の案内により始まった最終選抜。
「さて、さすがに数が多いな」
一応野営のことも考えておくべきだろうか。
朝のうちしか場所をさがせないし、休めないけど。
要は今日から七日間夜の間と日の差さない木の生い茂ったところに注意して過ごせばいい。勘違いしている受験生もいるかもしれないけど、無理して鬼を倒す必要はない。条件は『生き残る』であって、鬼を倒すノルマがあるわけではないのだから。
そうして襲い来る鬼を撃退しながら後残すところ二日になった頃、ちょうど近場で悲鳴が聞こえた。
複数の鬼に襲われそうになっているツインテールの女の子がいた。こういう時はあれだ。
「女の子一人に集るな鬼どもめ!!」
回転を加えてその子の一番近くにいた鬼の首を切り飛ばした。
「ひ」
女の子は蒼褪めて震えているが仕方ない。安全のためにもちょっとそのままでいてもらおう。
そして私は日輪刀で手のひらを切りつけ血を出した。
すると途端に鬼たちの目がドロリとしたものになりこちらに向く。
「血い、稀血だあ」
「あまい匂いがするぞお」
「食わせろおおぉぉおおぉ」
「(よし、かかった!)」
『萼さんの稀血は普通の稀血より特殊です』
『というと?』
『強い誘引作用のようなものを持っていると考えられます。きっとあなたが戦場で傷つけば鬼たちはたちまちあなたを狙ってくることでしょう。実際採血させていただいたサンプルのうち何滴かを使って実験したところ鬼たちは目の前の私たち鬼殺隊士には目もくれず、垂らしたたった一滴のあなたの血に夢中になっていました』
『つまり私の血は囮に使えるということですか?』
『そうなりますがその分あなたに危険が及びます。ですからどうか怪我だけはしないでくださいね』
しのぶさんから聞いていた私の稀血の効果。自分ではこれが初めてだけどなるほど、納得だ。凄い勢いでさっきの鬼たちがこちらにやってくる。
「(ともかく、あの子から引き離すことには成功したわけだから)」
あとは――斬るだけだ。
「蜜の呼吸 壱の型・蠱惑」
呼吸で全員頸も胴体も何もかもを切り刻み着地する。
あまり血を出してないし、近くに鬼の気配もないので大丈夫だと思うけど、念のためさっきの子のところに行ってみよう。
来た道を戻っていくと、まだツインテールの子はその場にいてくれた。
「よかった、まだいてくれて」
「あ、あの」
「大丈夫?怪我は?」
「わ、私は大丈夫――!あなた、怪我して」
「ああ気にしないで。鬼を誘き寄せるのに必要だっただけだから」
「私のせいで……すぐに手当てを」
「え」
「いいから!」
そう言って彼女は手際よく処置していった。おお、凄いなこの子。
「ありがとう、凄く手際いいね」
「修行でよく怪我してたから慣れてるの」
「そっか、私は白代萼。あなたの名前は?」
「神崎アオイ」
「アオイさんね。もしよければ後残りの二日間、一緒に行動しない?その方がお互いの生存確率が上がっていいと思うんだけどどうかな?」
「わかった。私もなるべく迷惑をかけないようにするから、あなたに付いていく」
別に迷惑なんて思ってないんだけどなあ。
「あと、それから」
「ん?」
「さっきは、ありがとう。……助けてくれて」
「!……どういたしまして」
こうして私とアオイさんは無事に最終選抜を通過することができた。でも日輪刀の玉鋼を選ぶ場には初日にいたほどの人数は戻ってくることはなく、合格者は受験者三十人に対し――僅か五人しかいなかった。