秘蜜の刃   作:紗代

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白代萼の帰還

藤襲山の選抜を終え、私は帰路に着いた。自分の借りている借家ではない。蝶屋敷への、である。

ちなみにお供が一匹できた。私の鎹鴉。名前を玖楼くんという。

 

「ウテナさんありがとう!ボクがんばる!」

 

素直な雄の美鴉に見分けが付きやすいようにと白いリボン(レース)を与えて結んだらこんな感じに懐かれた。

 

「うふふ、私の玖楼くんはかわいいねえ」

「チガウチガウ!ボクかっこいい!」

「そうだねえ」

 

一生懸命弁解しようとする姿も可愛いなあなんて思いながら歩いていると蝶屋敷が近づく。

 

「ごめんください」

「!!」

「白代萼です――ただいま戻りました」

「「「カナエさまー、しのぶさまー!」」」

 

私の姿を見た三人は屋敷に飛ぶような勢いで走っていった。見たところ洗濯物干してる途中だったんだよね?悪いことしちゃったかなあ……と思っているとカナエさんとしのぶさんが珍しく息を切らせてやってきた。

 

「う、萼/萼さん!!」

 

「お久し振りですカナエさん、しのぶさん」

「おかえりなさい、萼……無事に帰ってきてよかったあ!」

「本当に、本当に萼さんなんですよね!?足もちゃんとあるんですよね!?」

「はい、五体満足ですよ」

「~~っおかえりなさい萼さん」

 

みんなにぎゅうぎゅうに抱きしめられる。みんな、カナエさんとしのぶさんさえ涙声で。きっとこの七日間ずっと心配してくれていたんだろう。申し訳なさと嬉しさで私の心もいっぱいだった。

 

「萼」

「カナヲさん」

 

少し遅れてやってきたカナヲさんの声に反応して押しつぶされそうになりながら彼女の方を見た。

 

「お――おか えり、萼」

「!」

 

『そうですね……なら私の我儘なんですけど、私が無事に帰って来れたら――カナヲさんの笑顔が見たいです』

 

『私の、笑顔』

『笑顔で、おかえり』

 

覚えていて、くれたんだ。

まだぎこちなさの残る、それでもちゃんとした――笑顔だった。

 

「――ただいま」

 

こうして私は蝶屋敷に帰ってきた。その日の夜は御馳走で、みんな私の帰還を祝ってくれた。生き残るだけでこんなに喜んでもらうのなんて初めてで慣れない。

 

「萼にね、渡したいものがあるの」

「私に?」

「ええ」

 

そういって差し出された四角い箱を受け取る。持ってみてもあまり重さは感じない。

私は促されるがままに箱を開ける、と。

 

「これって……」

 

中に入っていたのは蝶屋敷のみんなが付けているような蝶のデザインの髪飾りだった。

 

「少し早いですが入隊祝いです」

「本当は蝶屋敷で働いてくれてるうちに渡したかったんだけど、呼吸の事とかいろいろあってなかなか渡す機会がなくて今日になっちゃった。……受け取ってくれる?」

「――ええ、ええ。もちろん」

 

何度も何度も頷いて、髪を纏めていた髪紐を解いてもらった髪飾りに付け替えた。

 

「わあ!」

「お似合いです萼さん!」

「これで萼さんともお揃いですね!!」

 

「ありがとう、ございます」

 

ほんのちょっと、泣いてしまった。

 

****

それからは普通に蝶屋敷で仕事をして若様たちの話し相手になってのいつも通りの日常を過ごしていた。そんななかでひょっとこのお面を付けた人――専属の刀鍛冶の人(錫木さんというらしい)に日輪刀をもらい(前例のない私の色変わりに固まったあと、なんだかよくわからないハイなテンションになって帰っていった)。

そして今日、隊服が届いたんだけど……

 

「これはさすがにないよねえ……」

 

手に持った黒い隊服――隊服なのだろうか。

 

胸のボタン閉まらないデザインだし、背中丸出しだし、下は際どい所まで切り込まれたスリットが入ったスカートだし。大正どころか平成でだってコスプレかギャルかキャバクラのお姉さんくらいしか許されてない格好だよこれ。私なんかが着たらただの痴女になってしまう。

そういえばしのぶさんやカナエさんは普通の隊服を着ていた。何かの手違いなのかもしれないので聞いてみたほうがいいだろう。

 

「……と、いうわけなんです」

 

説明し終えるとしのぶさんは笑顔で青筋を立てていた。

 

「あらあら、今度は萼が彼に目をつけられちゃったのね」

「萼さん、大丈夫ですよ。後はこちらでなんとかしますから――その布は燃やしてくださって構いません」

 

うふふふふ、と女神のような、でもどこか殺伐とした笑顔のしのぶさん。でも素材はいいから勿体ないんだよね。

私は結局燃やすことはしなかった。ではその後どうなったのかというと――

 

「ウテナさんウテナさん」

「なあに、玖楼くん」

「手紙手紙、隠カラ」

「ありがとう。じゃあいつものところで休憩していくといいよ」

「ワーイ!ありがとう」

 

そういって玖楼くんは私の部屋にある巣(休憩所)で丸くなる。

そして私は手紙を開くと、おどろおどろしい文字(赤黒くて血文字にも見えなくない)で一言『あきらめません』とだけ書かれていた。

手違いじゃなかったの?あれ……と遠い目になりながら()()()で丸くなる可愛い鎹鴉を撫でる私なのであった。

 

ちなみに隊服はちゃんと標準デザインのがきました!




実はしのぶさんを含め蝶屋敷のメンツはみんな萼のセコム。
ゲスメガネ渾身の作は巣材になった。
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