不死の暗殺者 9対9 チームバトル型聖杯戦争   作:どっこちゃん

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 チームバトルとか言っといて第三勢力の描写からとなります。性的な描写がちょくちょく入るのでご注意ください。あと舌が裂けてるキャラが出ます。


プロローグ 

「ねぇ、ねぇねぇ。ねぇちょっと、わかんないんだけど?」

 

 フランス語で話しかけられて、驚いて振り向いた。

 

 平日。それも夏の暑いさなかだった。そもそも出歩いている人間はほとんどいない。

 

「ねぇ、分かる? ねぇ」

 

 少々イラついた様子で、声を掛けてくる。ざっくばらんな金髪ショートの女だった。

 

 汗に濡れる前髪から、眇められた碧眼が覗いている。

 

 明らかに機嫌がよくなのが分かった。

 

 正直誰とも会いたくない気分だったことも有り、出来ることなら適当にごまかして逃げたかった。

 

 しかし、そう言う訳にもいかないだろう。英語ならともかく、フランス語しかできないなら、置いていくのも忍びない。

 

 言葉の通じない海外でひとりと言うのは心細いものだ。彼にも経験があった。

 

「おー、おーッ。あんがと、あんがと!」

 

 仕方がないので、いろいろと解説してあげた。そもそも地図の見方が良くわかっていなかったらしい。

 

 よくそれで海外旅行に来たものだなと思う。

 

 思ったのがバレたのか、少女は少々むくれたような顔をした。

 

「旅行じゃないんだよぉ。仕事だよ仕事。いきなり行けって言われてきたんだよ。――クソ」

 

 よく見れば、今まで見たこともないような美少女だったのだと気が付いた。

 

 少々若すぎる気もするが、それでも、もしも自分がこんな状態でなければ、胸が高鳴ったかもしれない。

 

「んで、来てみたらクッソ暑いし。出迎えは来ないし!」

 

 歳は幾つぐらいなのかと訊いてみるべきかと思ったが、やめた。

 

 もう二度と会うことなどないのだ。

 

「でさー、ちょっと頼んでいい?」

 

 もう用はないなら、といって背を向けた青年の裾を、少女はつまんで、強引に押し留めてくる。

 

 小柄なわりに妙に力が強いような気がした。――いや、自分がやつれているだけかな。

 

 青年は自嘲まじりに、青い顔で振りかえる。

 

 そろそろ、他人と関わるのは止めにしないとマズい。

 

 まさか他人にまで何かするとは思えないが、それでもアイツらの機嫌を損ねるのはマズい。

 

 彼は今も監視されている真っ最中だ。

 

「しばらくさぁ、あんたの家泊めて貰えない? しばらくでいんだよぉ。――したらさ、いいことあるかもよ?」

 

 すると、少女は見せつけるように下着もつけていない胸元を見せつけてくる。

 

 華奢な身体には不釣り合いなほどの、真っ白なふくらみが目に飛び込んでくる。

 

 こんな状態でないなら、仰天して腰を抜かすぐらいのことはしたかもしれない。

 

 人気が無いとはいえ、白昼堂々なにをするのか、と。

 

 だが正直なところ、注意するのも、仰天するのも、迎合するのも面倒だった。

 

 ひたすら面倒だったのだ。

 

 どんな美女が相手でも、今は到底そんな気にならない。

 

「ゴメンな……」

 

 枯れるような声で言って、青年はその場を後にした。

 

「……」 

 

 少女がどんな顔をしていたのかはわからない。青年は振り返らなかった。

 

 

 

 

 

 

 家に帰ると、後ろから咎めるような声が掛けられた。

 

「なぁに寄り道してんだよ」

 

 後頭部を殴られる。昏倒するほどではなく、痛めつけるため――というより、相手の意気を削いで反抗させないようにするための過撃であった。

 

 ずっと、監視されていたのだ。

 

「つーかぁ、いっちょ前にナンパなんかしてんじゃねぇよ。社会不適合者が」

 

 そんなつもりはないと首を振ると、またな殴られた。唇に刺すような痛みが走った。

 

 血が滲み、フローリングに滴る。

 

 だが誰も気にしない。暴力は日常だった。

 

 サカキは青年よりもかなり年下の男だ。未だ十代だろう。だが、その言動に遠慮のようなものはまるで含まれていない。

 

 この家では誰もが彼に同じような態度をとる。

 

 こんな場所に、あんな隙の多そうな女を連れ帰れるわけもない。

 

 何をされるか想像もできないからだ。

 

「さっさと持ってきな」

 

 奥から、老齢の、しかしブタのように恰幅の良い女が声を掛けてくる。

 

 先ほどATMからおろしてきた現金30万だ。

 

 名目上は生活費。そして青年の面倒を見るための謝礼という事になっている。

 

 同じ家に住んではいるが、コイツ等は家族でも何でもない。

 

 半年ほど前、彼は家族を一度に失った。

 

 両親と、妹と。

 

 予想だにしないことだった。

 

 あとに残ったのは無駄に広い家と、父の残した遺産だけ。

 

 青年はショックを受け止めきれず、この豪邸に引きこもってしまった。

 

 そこへ、何処から、なにを聞きつけたのか、押しかけてきたのはがコイツ等だった。

 

 このブタのような老婆は、祖父の又従妹に当たるというのだが、正直聞いたこともなかった。

 

 しかし戸籍上は確かな親戚だという事になっている。

 

 当然訳が分からなかった。もっと積極的に調べればよかったのかもしれないが、当時の彼にはそれを跳ね除けられるだけの気力が無かった。

 

 むしろ、誰とも会わない生活に比べればましだとさえ思ってしまった。

 

 心配して来たのだという言葉を、鵜呑みにさえしてしまった。

 

 そんはずがないのに。

 

 以来、彼の生活と両親の残してくれた財産とは、驚くほどの勢いで食い散らかされていった。

 

 次第にこの老婆の家族だという男たちが何人も居座るようになった。

 

 最初は抗議もしたが、布を噛むような対応で躱され、それでも追及すると暴力をふるわれた。

 

 スマホも財布も、電子機器や身分証明書の類いは全て取り上げられ、24時間監視されている状態だ。

 

 そして屋敷の中にあった金目のものをあらかた盗り尽くしたコイツ等は、とうとう金を降ろしてくるように命じてきた。

 

 好きにすればいいと言ったのだが、当人が一人で金を降ろすのが重要なのだと、言い含められた。

 

 久しぶりに一人で外に出されたが、逃げることはできなかった。

 

 たとえ監視を振り切って逃げたとしても意味などないのだ。行くあてなどどこにもない。

 

 警察に相談することもできない。

 

 書面上は確かに親族なのだ。以前相談した時も、それとなしの注意をいただいただけだった。当然、その後には手痛い報復が待っていた。

 

 もう、どうしようもなかった。

 

 おとなしく封筒に入れた金を渡す。

 

「――良くやったね。あとは好きに休んでいいよ」

 

 まるで下僕か奴隷――いや、囚人のようだ。

 

 だが、抗議する気力もない。

 

 もう疲れた。部屋に帰って横になりたい。それしか考えられなかった。

 

「おい。――なんだおめぇは」

 

 自室に引き返そうとしたところで、玄関の方かからダミ声が聞こえた。

 

 男達の中でも一番体格のいいヤジマという男が、広い玄関にぽつりと立つ小柄な人物に向かって声を荒げている。

 

「ねぇ」

 

 青年はあっと声を上げた。――そこに居たのは先ほどの少女だった。

 

 なんてことだ。着いて来ていたのか? しかも勝手に玄関まで入って来るなんて!?

 

 瞬間的に、マズイッ、と身を強張らせる。

 

「なんだァこの女」

 

 声を聞きつけてか、ゾロゾロと男たちが集まってくる。

 

「おい、誰だ」

 

 ヤジマが青年を睨み付けてくる。

 

「ち、違うんだ。――さっき道を訊かれて」

 

 なんと答えたものか解らない。

 

「あー、さっきの女じゃん。なんだよ、マジでナンパしてたのかよ?」

 

 サカキが無遠慮に下卑た笑いをもらす。

 

 青年は狼狽えるしかない。

 

 まさか、先ほどのやり取りでプライドが傷ついたとでもいうのか? 

 

 それとも、それでもなお言葉の通じる青年を当てにしてしまったのか!?

 

 とにかく、これ以上彼女を関わらせてはならない。なんとかして追い返さねばと思う。――でなければコイツ等が何をしでかすか、本当に想像もできない。

 

「か――帰ってくれ! 頼む。ここに居たらだめだ!」

 

 現に、男たちは眼の色を変えて、肌も露わな金髪碧眼の少女を見ている。

 

 彼女がいるのは玄関だ。そしてこの家の中はコイツラにとっての治外法権がまかり通る場所。

 

 マズい。マスい。――マズい。

 

「――ねぇ」

 

 声に引き戻される。いつの間にか玄関から彼の眼前にまで迫っていた少女は、葛藤と焦燥に染まる青年の意識を、一声で絡め取った。

 

 奇妙に反論も反抗も許さぬ、原始的な何かに訴えかける声だった。

 

「そんなザマで、まぁだ、アタシの心配してんの? 変なの」

 

 笑いかけられる。這いつくばる自分を見下ろすようにして、子供のように笑いながら、しかしその双眸には、まるで人でないかのような獰猛な光が宿っている。

 

「でも、そう言うのってなんかくすぐったくて、気にいっちゃったからさ。――選んでいいよ」

 

 選ぶ? 何を? 

 

「こいつらさ、()()()やろっか?」

 

「おい、なに喋ってんだ?」

 

 フランス語でのやり取りの意味が解らないであろうサカキが怪訝そうな声あげた。

 

「フン。――細けぇことはどうでもいい」

 

 空いていた玄関のドアを閉め、しっかりと施錠までしたヤジマが視線で指示を出す。

 

 男たちは途端に機敏な足運びで、少女の周囲を取り囲み始める。

 

 決して逃がす気はないとでもいうように。

 

 青年が再び危惧を抱こうとする間も、少女は揺るがぬ視線を、真っ直ぐに向けてくる。

 

「どうする?」

 

「へへ――。スゲーいいな、コイツ。ガキだけど、スゲーいい。てか何語で喋ってんだ? 日本に着たら日本語でじゃべれや」

 

 そして、眼を血走らせたサカキが、無造作に手を伸ばしてきた。

 

 無言のまま他の男たちも迫ってくる。

 

「――なんなら、俺が教えてやるよ、日本語をぉ」

 

 危ないと伝えようとした、止めろと言おうとした。だが、少女の視線が許さなかった。

 

 問いに、応える以外の選択は許されなかった。

 

「――消して……」

 

 訳も解らないまま、うわ言のような声が喉から滑り出ていた。

 

「消してくれ、コイツ等を、――この世から!」

 

 その瞬間、今にも少女に触れようとしていサカキの姿が、まず、掻き消えていた。

 

「いいよ」

 

 少女は牙を剥くように微笑み、そして血のにじむ青年の唇をぺろりと一舐めした。。

 

 サカキは消えた。――いや、そうじゃない。

 

 辛うじて、見えた。

 

 何かが彼女の影からなにか、真っ黒で巨大なものが飛び出した。

 

 なんなのかはわからなかった。あまりにすばやくて。

 

 それは飛び出した勢いのまま、サカキを吹き飛ばした。そして一時も動きを止めることの無いまま、周囲を取り囲んでいた男達をなぎ倒し始めた。

 

 その間、まるで姿を捉えることが出来なかった。

 

 確かに何かが居た。しかし、なんなのかがまるで解らない。

 

 男たちは口々に何かを叫んでいたが、すぐになにも聞こえなくなった。

 

 ただ、耳を澄ますと聞こえてくる、獰猛な生き物がの喉を鳴らすような唸り声だけが、何処かの物陰から聞こえてきた。

 

 あとの展開は速かった。

 

 その獰猛な何かは、そのまま音もなく屋敷中を奔り回り、家長であった老婆も()()()しまった。

 

 あっという間に、この家の中には青年と少女の二人だけが残された。

 

 静寂だけが取り残されていた。

 

 青年は思わずリビングに踏み込んだが、そこには何の痕跡も残されてはいなかった。

 

 まるで、初めからあんな奴らはこの世に存在してなかったみたいに。

 

「んでさんでさー、お礼ってんじゃないけどー。アタシしばらくこっちに居なきゃならないんだよぉ。ねぇー、泊めてくんない?」

 

 呆然と立つ青年の背にまふっと抱き着きつつ、少女は猫が甘えるような声を上げる。

 

「いいだろー? 衣食住だけあれば、あと文句言わないっからさー」

 

 しばし言葉が無かった青年は、自分の胸元ほどの大きさの少女の前に、崩れるようにひざまずいた。

 

「んー?」

 

「……なんでも、言ってくれ。なんでも、するよ」

 

 すると、少女は「んふー」とニヤつきながら、二又に割れた長い舌をべろりと突き出す。

 

 何かを探るように青年の顔を舐め上げ、さらにはその口に舌を捻じ込んできた。

 

 人のものとは思えぬ動きをする二又の舌先が、丹念に口内を弄っていく。

 

 しばし青年を堪能すると、舌をひきぬいた少女はまた、「んふー」っと年相応の笑みを浮かべた。

 

「んじゃ、風呂入りたい。あっついし。――いっしょに入ろ」

 

 「てゆーか洗って!」と、そして、さらに「運べ」と言わんばかりに機能美の結晶のような身体を預けてくる。

 

 まるで大きな猫のようだったが、青年は言われるがままにその身体を抱き上げる。

 

 奇妙なほど、迷いはなかった。

 

 向かい合うように抱きしめた身体は汗にまみれ、その上で、匂い立つような体温で満たされていた。

 

 人間の身体とは思えないほどに。

 

「ねぇ、名前、なんてーの?」

 

 言いながら少女は青年の、否、互いの身体から皮でも向くように衣服を切り裂いていく。

 

 しかし、止めようとも、注意しようとも思えなかった。むしろそれが自然だとさえおもえた。 

 

 衣服を剥ぎ散らかされながら、青年は夢幻の中に居るような感覚でバスルームに向かう。

 

 直に触れ合う素肌は、そのまま焼き焦がされてしまいそうだった。

 

「俺、は―― オ、れ――ハ   」

 

 言葉を絞り出すことさえままならなかった。

 

 本能――と言えばいいのか、先ほどまで何の反応も示さなかったハズの生前意欲が、まるで嵐のように彼の中を駆け巡っている。

 

 痛いほどに屹立した生存本能が出口を求めて猛っているかのようだ。

 

 今すぐにでもこの猛りを、ぶつけなければならなかった。――この女に!

 

「んぇへへー。アタシはメル・ジェヴォーダン。メリーでいいよ。魔術師ジェヴォーダンの第47代目当主……」

 

 分かんなくていいよぉー。と続け、少女はもう一度口づけをしてきた。

 

 今度は唇の触れ合うだけの、愛撫のようなキスだった。それから、

 

「それより、ねぇ。優しくしてねぇ……」 

 

 ここまできて、ようやく恥ずかしそうにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 


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