不死の暗殺者 9対9 チームバトル型聖杯戦争 作:どっこちゃん
アーチャーは薄暗がりにアサシンを認めると、皮肉気な声を上げた。
「いやホント久しぶりだね。アサシン。君が僕のマスターを殺して以来だ。――いや、」
「……」
無言のままのシャレコウベは、同じく物言わぬ一輪の黒薔薇を伴っていた。
「僕が君を殺して以来、そして君が
アサシンに付き従うのは一人の少女であった。
まるで喪に服す
ただ一点、広く開いた胸元には黒いバラが染め枯れている。
まるでこの少女そのものが、この黒薔薇のためのキャンバスとして生かされているとでも言うかのような。
少女は、まるで生気のない顔のままじっと、アーチャーとその前に歩み出た剥き身のイグへ視線を注いでいる。
まるで感情のこもらぬ視線だった。
電子機械の類いが標的をロックしているかのような、機械的な視線だ。
「……お嬢さんは初めてだね。君がアサシンのマスター?」
声ばかりは軽快なアーチャーも、この二者に対しておしゃべりの猶予があるとは思っていなかった。
口を開きつつも、何時でも弓を引けるように体勢を整えている。
黒衣の少女と巨漢の暗殺者は、ともに無言だった。
無言のまま、他意の無い殺意だけが打ちつけられてくる。
「やれやれ。やっぱつまんないねー。君との――お喋りはッ」
応答が途絶えてから数瞬。口火を切ったのはアーチャーだった。
アーチャーからしてみれば、この遭遇は邪魔以外の何物でもない。
彼の好奇心は、今やあのランドルフ・カーターの抱える「歪み」とやらにむけられている。
一刻も早く取って返したいのだ。
――が、相手もサーヴァント、そう簡単に事は進まない。
アサシンとそのマスターらしき黒衣の少女へ通常の「矢」を、そしてその間にある微細なパスへ向けて「鉛の矢」を、連続で射る。
が、飛んでくる矢に向かって虚空へ躍り出たアサシンは、このすべてを見事に叩き落とした。
――あらら、やっぱこの距離じゃサーヴァント相手には当たんないな――
アーチャーは改めて
思えば、気配も漏らさずに距離を詰めてくる手合いはアーチャーには天敵と言えるのだ。
かといって、アサシン相手に武器も持たないイグを当てるのも問題だ。
せっかくの手駒をこんなところで消耗したくない。
となれば、この対する両者を「金の矢と鉛の矢」で
アーチャーは再び、明らかにあさっての方向へ、つまりはアサシンと少女の中間にある「パス」めがけて「鉛の矢」を射る。
が、誰に当たるでもないその矢を、アサシンはあえて躍りかかっては打ち落としていく。
アーチャーの矢が「パス」そのものを標的と出来ることを知られている。
つまり、先ほどのやり取りは見られていた、という事だ。
情報収集においては最良のクラスともいわれるアサシン。その本領と言う所だろうか。
「あー、もうめんどくさいなぁ!」
宝具の詳細を知られているとなれば、その口を封じる事は最も優先すべき事柄となる。
むしろ、この場でアサシンが情報だけをもって踵を返さなかった点は、幸運だったと言えるかもしれない。
が、それでもアーチャーとしては、情報なぞ持っていっていいから、今この場で自由にしてほしいと言う思いの方が強かった。
だいたい、アサシンとそのマスターらしき少女がこの場にとどまったのも、別の雑兵に情報だけ与えて走らせたから、と言えるかもしれないではないか。
そう思うと、ますますやる気が萎えてくる。
どうする? 逃げるか? いや、気配のないアサシンについてこられるのは特に面倒だ。
――つまりは、どう考えても正々堂々の勝負でコイツ等を排除して進まなければならないということ。
「なんだよも―! 面白そうなことみつけたってのに!!」
ままならぬ事態に
「仕方ないや。――イグ。少しでいいからアサシンの動きを止めてよ」
仕方がない。ここでイグを失ってもアサシンを支配下に置けるならそれで良しとしよう。対魔力の備わっていないアサシンならなんとでもなるはずだ。
「――はッ!」
アーチャーの盾ではなく、剣としての命を受けたイグは嬉々としてアサシンへ突貫した。
迷いはない。死さえ
その生まれたままの、濡れ光るような女の裸体に、やおら切れ目が走る。
傷一つなかったはずのしなやかな肌に、無数の切れ目が生じていくのだ。
瞬く間に、その切れ目は総身を覆う鱗となった。蛇の鱗だ。
そして、その両の拳からは、10センチ以上もあろうかという牙が突き出す。
――毒牙だ!
月光に煌めく毒液をあふれさせながら、イグは巨躯のアサシンへ立ち向かう。
動きは軽快で、気力・体力、共に充足しているのが見て取れる。
――が、アサシン相手では何秒も持つまい。
好機は、おそらく、一瞬。
アーチャーは集中して「鉛の矢」を引き絞る。
とりあえず、パスさえ断ってしまえば、後はどうとでもなる。
「付き合わないで、アサシン」
――しかし、そこで雷鳴のごとき銃声が、その
何の変哲もない銃火器の掃射音だ。ここは戦場、そこまで驚愕すべき事態ではない。
「貴方は引き続きアーチャーを。私の心配はしなくていい」
ただ、驚くべきは、この少女が見るからに凶悪なチューンナップを施されたとみられる自動小銃を、それも両手に一丁ずつ構えて平然と扱っていたことであろうか。
「小娘! ――邪魔を」
イグが気を吐こうとしたところで、再び銃弾の雨が降り注いだ。
二丁のアサルトライフルが、乱雑に銃弾をばら撒いてくる。容易には近づけない。
ならば――――
イグは動きを止め、鱗の装甲でこれを弾く。
問題はない。この弾丸、魔術的防御をも破壊しうる「魔弾」として加工されているのは確かだが、破壊力そのものは従来のものと大差がない。
彼女の装甲はそこまで厚いものではないが、ライフルの掃射など精々十数秒しか続かない。
物理的に防御を固め、貫通さえ防げれば戦闘に支障はない。
さらに言えば、武装が銃火器と言う時点で、弾切れと言う結末は避けられないのだ。
その上、両手に銃を保持したままでは 弾倉の交換すらままなるまい。素人め!
銃弾の尽きたときが、キサマの最期だ!
イグは身を固めてその時を待つ――。
待つ。
待つ。待ち続ける。
しかし、終わらない。機銃の掃射が終わらないのだ。
「グ――ガガ、ガッ!?」
うろこは剥がれ落ち、骨は砕けて、もはやその身を支えるのはアーチャーへの熱烈な信奉心だけだ。
だが、終わらない。数分かけてなお、機銃の掃射が終わらないのだ。
まさか、このまま永遠に!?
「ありゃりゃ……」
当たらぬことを承知でアサシンを射ながら、その様を見ていたアーチャーは情けない声を漏らす。
当てが外れた。イグはもう使い物にならないだろう。
おそらく、正面からではあの娘が何をしているのかもわかるまい。
あの黒い装束の少女――おそらくは「時間を巻き戻して」いる。
思いのほか達者な魔術行使だ。
おそらくは『固有時制御』――だったか? 人間の魔術師が行う幼稚な技だ。
つまり、アレは無限に銃弾を補充しているのではなく、銃と弾丸そのものの時間を撒き戻して「回収」しているのだ。
銃から魔弾を掃射。そのあとで、銃と銃弾の時間を撒き戻せば、また銃弾の装填された状態の銃が手元に残るわけだ。
だから銃弾が切れることもなく、銃身が焼付くこともない。いくらでも、無限に銃弾の掃射を続けられるのだ。
シンプルだが、それ故に強力だ。
さらに言うなら、この魔術、おそらくは本人の時間も同時に巻き戻っている。
銃器の時間だけを巻き戻すよりも、自分自身の時間を巻き戻す方が簡単なはずだからだ。
あの銃も、弾も、あの漆黒の装束さえもが、おそらくは何割がが自分自身の体組織と同じ組成で出来ているに違いない。
つまりは、あの少女も、ある意味で不死なのだと言える。
もっとも、それでは魔術師としては
――でも、かえって良かったかもしれない。あの娘はイグよりもいい手駒になる。
「――っとと?」
そんな思惑にふけっていたアーチャーは途端にアサシンの姿を見失った。
気配を、さらには姿を消して潜んだのだ。
マズいマズいマズい。
どうする?
先にあの少女を手駒に加えるか?
アサシンの眼前でそれが出来るのか?
「アーチャーよ」
苦慮を重ねていたアーチャーにその時、初めて聞くアサシンの肉声が届いた。
その声は自らが引き連れていた少女の背後から聞こえていた。
「な――に、してんのさ? きみ……」
その手に執る巨大な杭のごとき短剣で、少女の身体を貫きながら。
「一つ。提案がある」
ちなみにですが、このアサシンのマスターが使用している銃器は「ステアーAUG」というアサルトライフルのコンバットカスタムです。
フレームをがちがちに補強してスパイクとかついてる真っ黒な仕様になってるんじゃないかなと今考えました。
銃の解説とか本文に入れるとアレかと思ったんでここに書きました。
引き続きアップしますのでお楽しみください。