不死の暗殺者 9対9 チームバトル型聖杯戦争 作:どっこちゃん
投げ出された先は闇だけが堆積する広場であった。
余計なものを丁寧に撤去した後から、敢えてこのために誂えられたものであろう。
「――」
伏兵の気配はなかった。
「心配するな。俺たちだけだ」
対するのは白く透き通るかのような長剣を携えたキメラである。
――その居住まいから発せられる剣気はまぎれもない剣士のもの。
セイバーは過たず、この相手を獣ではなく「剣士」だと認識した。
「――ほう。礼を言うぞ。セイバーのサーヴァント」
セイバーの構える切っ先に一切の侮りや嘲りが無いことを察し、キメラも礼を取る。
「清廉なる英霊と合い見えたのは
「否。――時間をかけるつもりはない」
返答は切って――というよりも断じて捨てるようなものであった。
「――そうか。始めよう」
目深にかぶった帽子の下で微笑をこぼし、キメラも長剣を大上段へ構えた。
「……」
対するセイバーは、武骨な大剣を中段に構え、間合いを詰めていく。
「先ほどの『宝具』。雑魚を駆るのには有用だが、間合いに入ってくる剣士に対しては意味がないな」
間合いを詰めながら、キメラはそれでも言葉による牽制を行う。
確かに、先ほどセイバーの宝具は、いわば範囲指定による斬撃のコピー&ペースト。
多数に対しては強力な対軍宝具といえるが、単一の強敵を狩るためには向かない。
先ほどのように、いざ振り下ろす剣を止めてしまえば意味はなくなるのだから。
セイバーは、このキメラが間合いを詰めての乱戦によって、宝具の使用を阻もうとしていることを知った。
――が、疑問はそこではない。
戦法そのものはむしろ常道。おかしいのは、その挙動のほうだ。
暗に間合いを詰めると言いながら、長剣を大上段に構え、それ以上踏み込んでこない。
セイバーのほうで間合いを開けて、宝具を使用しようとすればできなくもない状況だ。
――が、それをさせない何かかがあった。
奇異だった。この間合いの、機先の奪い合いにおいて、セイバーは経験したことの無い奇怪さを味わっていた。
人ならばなからず視線による、攻撃箇所、攻撃タイミングの予兆があるハズ。しかしこのキメラからはそれが感じられない。
以下に目深に帽子をかぶろうと、或いはフルフェイスの兜をかぶろうと、人の動きの機先は視線に現れるもの。
それが、この男には無い。
「――盲目か」
セイバーが声を上げる。
応えるのはくすぐるような微笑である。
「なにを驚く? 我らは人にして人を超えし、人に在らざるモノ。まだまだ驚くには早いぞ」
目深にかぶった帽子に丈長のコート。――何かを秘め隠すが故の出で立ちであることは想像に難くない。
「……」
「どうした? 宝具が使えなければそれまでか? それとも、――最良の剣の英霊には、まだ何かあるのかな?」
「――悪いが、お前に見せるつもりはない」
キメラはめったに歪ませることの無い、巨大な口角を撓ませた。
笑う。大いに笑う。異形に身をやつしてまで手に入れた力。それを試せる相手に初めて合い見えた歓喜に。
他のキメラたちとは違い、この偉丈夫だけはもとより人間をベースとしたキメラであった。
剣士であった自分に限界を感じ、さらなる力を求めて魔術師と関わることとなり、キメラとなった来歴を持つ。
もはや人であった時の記憶はほとんどないが、剣への渇望だけは薄れることが無いのだ。
「撤回してもらうぞセイバー、お前の本領を、俺に見せろ!」
夜の風が吹いた。
ありうべからざる星の連なりがうねった。
セイバーはその瞬間に死線を見た。
飛び退いて、それでもなお、刃は追いすがってくる。
――にもかかわらず、キメラは掲げた剣を振り下ろしてすらいなかった。
掲げられたまま、長大な剣の切っ先は折れ曲がり、しなだれるようにしてセイバーを襲ってきたのだ。
さらに、キメラは前進する。しかし剣は掲げ上げられたままだ。
ヘビか、或いは特大のミミズか何かのようにのたうつ剣は、まるでそれ自体が生命体であるかのように、セイバーへ向かってくる。
さらには、それ自体が星空へ溶け込むような錯覚をさえ覚える。
――否、それは確かに夜気へと溶け込んでいた。あれほどに白々と月光を弾いていた刀身が、今ではまるで見えなくなっているのだ。
刀身そのものが夜の闇と、転々と瞬く星を映し出すことによる擬態、いわば光学迷彩である。
僅かな血しぶきが舞った。
キメラがその剣を振るうなら、剣線を予測することも出来ようが……未だ対手は剣を振りかぶったままである。
依然として、異様なまでの剣気を放ちつつ、間合いを詰めてくる。
セイバーはまるで複数の敵を相手取っているかのような感覚を覚えた。
「どうしたセイバー。時間をかける気はないのだろう?」
キメラが間合いを詰めつつ言った。
「――」
セイバーは前に出た。振り上げられた〝のたうつ〟剣が改めて振り下ろされる時、いかなる変幻自在の技が繰り出されるのかは、セイバー自身にも予想がつかない。
故に、勇を恃んでの前身であった。少なくとも、この大上段からの打ちおろしそのものへは対応のしようがあるハズだ。
――しかし、意外にも、斬撃は上下左右から、同時に襲ってきた。
セイバーがこれを躱せたのは、偶然に過ぎなかった。
「――――ッ」
「見事なり! セイバー!!」
あまりにも懐に入り込むのが容易過ぎた。そこに僅かの
しかしセイバーが何に襲われたのかも判じれぬでいる間に、偉丈夫のキメラは、さらに
体勢から言っても、受けられるようなものではなかった
襲い来る斬突は、もはや形持たぬ濁流の如くのものであった。
先ほどとは比較にならぬ血が零れた。
夜を染めるほどの。
――引けば命を絶たれていた。故にセイバーは前に出ていたのだ。
押し寄せる濁流をあえて前へ。獅子のごとき勇猛さであった。
巨躯を誇る剣士のキメラの懐へ、低く、殊更に低く潜り込んだセイバーは、返す刀で大剣を跳ね上げた。
死中に活を求めた、決死の返し技であ。
相手が常人ならば確実に斬り伏せていたことであろう。
――が、剣は止められていた。
相手が古今東西の英雄ならばいざ知らず、ただ魔術の外法によって生み出されたキメラに、必殺の剣が止められようとは!
セイバーの胸中に鉛のような失意と高揚が沸き起こる。
「――見事なり、見事なりセイバー!」
キメラは繰り返し、嬉々として牙を剥いた。
その異形に、その身姿に、その光景に、さしものセイバーも息を呑まざるを得なかった。
目深にかぶられていた帽子は跳ね上げられ、わずかに血を流す素顔が明らかになっている。
眼は無かった。すでに退化していたというべきか。
それに反して巨大な耳がまるで見竦めるようにセイバーへ向けられている。
さらに長大なコートははだけられ、その内からは共に分厚い刀身を持つ大剣を持った4本の隠し腕が伸びていたのだ。
懐に入ろうとしたセイバーを狙ったのも、必殺の返し技を阻んだのもこの4本の腕なのである。
盲目にして6本腕の異形。それがこのキメラの全容であったのだ。
「――カッ!!!」
もはや戦力を隠す意味はないとばかりに。剣士は6本の腕と5本の刀剣を駆使してセイバーを攻めたてる。
尋常ではない猛攻であった。
反撃しなければ呑み込まれる。セイバーも返す刀で大剣を叩き付ける。
――が、それは容易に受け止められていた。
刀剣のうち3本を鉄壁の守りへ、そして残り2本を地に突き立て、足代わりにすることで姿勢を安定させているのだ。
四足獣――どころではない、これでは身の丈2メートルを超える蟲の類い、蜘蛛か、或いはカマキリとでも戦わされているかのようだ。
とても1本の剣を執って戦える相手ではない。
セイバーをしてそう言わしめるだけの戦力が、そして何よりも剣士としての技能が、このキメラの異形の肉体には備わっていた。
「……なるほど、やむなし」
後退を余儀なくされたセイバーは何かを観念するように、呟いた。
ただ切り結んで勝てる相手ではない、とでもいうように。
「さぁ、どうしたセイバーのサーアヴァント!」
「先の言葉を詫びる――貴様は、それに値するだけの敵であった」
「――――カッ!!!」
再びラッシュを掛けてこようとするキメラに対して、セイバーもまた大剣を振りかぶる。
「――我が敵の首は落ちよ。