不死の暗殺者 9対9 チームバトル型聖杯戦争 作:どっこちゃん
「――この、離さんか! ええいケダモノめ!」
巨大な棍棒を振り下ろされたはずの、このふかふかした体毛のキメラは、それをまともに受けたにも関わらず、一切のダメージをうけていなかった。
「もふふふふふ。なーんてにゃ。モフはそんなものじゃ潰されないにゃ~」
実際には、あまりの迫力に多少ビビってはいたのだが、そんな事はおくびにも出さず、この和毛のキメラはライダーを拘束していた。
その五体は潰されても潰れる事は無かった。
それどころか、蹴散らそうが掴み潰そうが、全く意に介することが無いのだ。
その五体は今やゴムのおもちゃのように、通常の数倍にまで伸び縮みして、ライダーの剛体を縛り上げているのだ。
「――ええい! こそばゆいわ! 遊んどるつもりか!」
なんという醜態か、伯父御殿になんと詫びたらよいものか!!
激昂するがままにライダーはこれを振りほどこうとする。
そのはち切れんばかりの五体が、筋肉が、しかしこの柔和な拘束を振りほどくことが出来ない。
まるでつかみどころがないのだ。
まるで火照る女の柔肌のようにつかみどころがないかのようだった。
これには、新たに取り出した巨大な棍棒も形無しであった。
叩いても、潰しても、何の意味もない。
古今、猫は液体であるなどと言う冗談がまことしやかにささやかれているが、このキメラの身体は比喩どころではなく、本当の意味でも液体か、それ以上に捉えどころのない代物なのであった。
何度振り払い、引き剥がしてもしゅるしゅると音を立てて和毛が絡みついてくる。
「もふふふふふ。そんなのむだにや~。僕には実体なんてないんだにゃ~」
まるで無数の蛇か、或いはタコにでも絡みつかれているかのような具合であった。
「こ――の!」
――が、血や脳漿の類いが撒き散らされる事は無かった。
これが、大力のライダーがこれを振りほどけなかった理由である。
このキメラの身体は真の意味でつかみどころがないのだ。
まるで水――否、熱はあり、自在にうごめく様は幻影の類いとは思えない。
つまりは毛なのだ。
ライダーは自らが握りつぶし、舞い上がった体毛が、独自に蠢き、そして互いに繋がりあって次第に紐のようになるのを見た。
さらにはそれらの紐が自ら寄り集まり、再び獣人めいた顔が現れた。
全身がふわふわとした毛髪のような生物の集合体なのだ。
「にゃにゃにゃにゃ。名乗るまでもないけど、改めて名乗るにゃ~。ぼくの名前は「フラフィ(もふもふの意)」名は体を表すにゃ~」
「聞いとらんわぃ! 誰がケダモノの名乗りなんぞ……」
「だ、か、ら! こんなことも出来ちゃうにゃー!」
絡みついた全身から、鋭い牙が生え、ライダーの五体へ一斉に突き立てられた。
「――ッ!」
「うにゃにゃにゃにゃー!」
「無様だな。この上なく」
そこへ歩み寄ってくる声は、あの甲殻のキメラ「アーセナル」であった。
その見るからに分厚い甲殻のせいなのか、先ほどのライダーの殴撃を受けて吹き飛びはしたものの、ダメージと言えるほどの損傷はないらしい。
「キサマ……アリンコの分際で……」
無造作に近づいたアーセナルは、自らの右手を掲げ、その五指をピンと伸ばす。
すると、その先に火花が灯り、次いでその火花は五指の間で尋常ならざる輝きを見せのたうち始める。
まるで金色の龍を指先に遊ばせているかのようだ。
「『アーク放電』だ。オレは体内に発電器官をもつ。それを操ることが出来る。自在にな。――まぁ、言っても無駄か? 古代人よ」
「おのれ……キサマ、よくもこの」
アーセナルは返答を無視して、総身から血を流すライダーのわき腹に、その右手を突き入れた。
「――――ッ!!」
「こうだ。使い方はな。本来は金属の切断・加工などに用いられる。――吉報だ。サーヴァントの皮膚も切断可能」
焦げ臭いにおいが、辺りに立ち込め、ライダーは沈黙した。
「もふふふふ。静かになっちゃったにゃー。さっさと終わらせるにゃ!」
突き入れたアーセナルの右腕全体が紫電に包まれた。放電現象が密接する三者の五体を焼く。
「あっづい! なにしてるにゃ!? はやく」
「――抜けぬ」
しかし、そこでアーセナルは、わずかに狼狽えるような声を発した。
局所的とは言え摂氏1万度は下らぬアーク放電に晒されてなお、ライダーの剛体は生気を失っていないのだ。
「
ライダーの視線が閃いた。そこにはアーク放電現象以上危険な光が満ち満ちていた。
「だぁが! ちいと、小さすぎたな。ワシのハラワタをぶちまけたいなら、もっとドでかい獲物を持ってくるんだったのぅ!!」
そして再び、巨大な棍棒を持つ右腕に力が籠り始める。
「無駄だにゃ!!」
再び、フラフィは前身の細胞を高質化させ、ライダーの五体へ牙を突き立てる。
「ふはっ――
しかしライダーは笑った。心底おかしいとでもいうかのような笑いだった。
「何度も言わすんじゃねぇのぅ……。こそばゆいわ!」
その実、全身を串刺しにするはずの「牙」はまるで用を成していなかったのだ。
皮膚をわずかに抉るばかりで致命傷など夢のまた夢である。
そして、
「うにゃー、何にもさせないにゃー!」
五体が軋む。しかし、無駄だ。牙が通らないことには驚いたが、ハイエンドキメラ・フラフィの五体は自在に変化する。
力学的な限界が存在しない以上、いかにライダーが強力を誇ろうとも意味はない。
――が、もとより、ライダーは強力でこれを振りほどくつもりはなかった。
業腹ではあったが、ここまで渋ってはみたが、醜態をさらしたことは事実。もはや是非は無いのだ。
ならば、まずはこのならず者共を「敵」として認め、
まさかサーヴァント、すなわち英霊以外に
重ねて業腹ではあったが、致し方ない。
このライダーにそう思せるほどに、このキメラたちは猛者と呼ぶべき存在であった。
「だが褒めてやるわい。ワシにここまでさせたんだからのぅ!! 『
それは彼にとっての大いなる遺産。かの大英雄に付き従った末に得た伝説の具現であった。
その手にした巨大な棍棒が矢庭に発火した。
それは元より棍棒ではなかった、――松明なのだ。
殴る、潰すは本領でも何でもない。――かつて無限に再生するヒュドラの首を焼くことで食い止めた、その松明なのだ。
かの英雄の名は「イオラオス」。かの大英雄ヘラクレスの甥に当たり、かつてその冒険に付き従った従者でもあった。
炎は燃え盛り、夜を焦がさんばかりに逆巻く。
「あぢゃぁぁぁぁ!?!?」
まさかの位置から予兆もなく発生した大火炎に、フラフィは思わず身を強張らせ、五体を四散させて逃げ退いた。
「――ッ」
「おおっと、何処へ行くんかのぅ? アリンコ」
アーセナルも同時に逃げ退ろうとしたが、ただでさえ引き抜くことのできなかった右腕は、今や自由になったライダーの左手のがっしりと捉えられていた。
「アークなんとかじゃとぉ? なんだか得意げだったのぅ? そんなら比べてみるか? ワシのでっかいのとなぁ!!」
そして右手の松明を振りかぶる。その先で燃え盛る炎はただの松明の炎とは思えぬほどの高熱と光を発し始める。
もはや指先に瞬くほどの放電現象で対抗できる代物ではない。
それもそのはず、英霊の行使する力とは、この世にありうべからざる、人の想念の結晶である。
単なる一種の生物が発する化学反応が、これに拮抗出来るハズもない。
「――そぉい!!」
松明がもはや小型の太陽と言うまでに輝き、夜を薙いだ。
赤い閃光が横殴りに奔り、あわやアーセナルの五体を焼き焦がし四散させた――かに思われた。
が、このキメラは逃れていた。
自らの右腕を切り離して。
「――ほっ。なぁんとも、カラクリの多いやっちゃのぅ」
ライダーはとぼけたような声を上げると、腹部に残っていた右腕を引き抜き、そのあたりに投げ捨てた。
カニやエビなどの甲殻類が行う「自切」と呼ばれる機能である。
自らこれを切断したということはこれを再生する機能も備わっているということだ。
しかし、今のライダーには焦燥も激昂も有りはしない。
一度敵と、――言いたくはないが、好敵手と認めたならば、怒る必要もない。
誠心誠意、叩き潰すだけだ。ここに来て、ようやくこのムラッ気の塊のような豪勇も戦闘に集中し始めた。
『やれやれ、伯父御が脇に居たら、気を入れ直すまでが遅いと小突かれそうじゃのぅ……』
懐かしさに、僅かの微笑を湛えて、笑う。
一方アーセナルは、人型に戻ったフラフィを乗せて虚空へと避難していた。
「どうするにゃー」
火に
相性が悪いという事なのだろう。突かれようが斬られようがものと物しないその身体は、しかし火には弱い。
もはや拘束も奇襲もままならないだろう。
「お前は地に潜って、徹しろ。補助にな」
「大丈夫かにゃー?」
「――こちらも、無しだ。遠慮はな」
すると、その右腕の切断面からは、新たな腕がせり出してきた。
「相当に消耗するがやむをえぬ。――スラッグは何をしている?」
「3対1になるまで下がるにゃ?」
「――なんじゃあ!? 途端にこそこそと。貴様らが来ないんなら――」
そう、静かに口走ったライダーは手にした松明を、地面にこするように薙いだ。
するとその真っ黒な煙が尾を引くように沸き起こり、虚空に――今度は煌めくような漆黒の雲が形成された。
そこから、巨大なものが出現してくる――。
「こっちから行ってやろうかのぅ!」
戦車だ。巨躯のライダーをしてなおも巨大に過ぎる
「
御者台にひらりと飛び乗ったライダー・イオラオスは、手綱をはためかせ、一路虚空のキメラたちへ突貫した。