不死の暗殺者 9対9 チームバトル型聖杯戦争 作:どっこちゃん
悲鳴が響き渡った。
甲高い響きだった。まるで女の断末魔のような。
「そこが「首」だったか。――奇異なものだ」
折れて――否、斬り落とされていたのは、六本腕のキメラが手に執る長剣そのものであった。
自在に、まるでそれ自体が意思を持つかのように躍動していたそれが、今や刀身の中腹あたりからぽつりと切り離され、地に落ちていたのだ。
途端に、その断面から鮮血があふれ出る。
剣に擬態してたあのドレスの女が今、セイバーの持つ「断頭の呪い」の宝具によってその首を断たれたのだ。
さして高揚するでもなく、セイバーは言葉をこぼす。
「キ、キサマ――キサマァァ!」
剣士の手の中に残っていた部分も、また糸の切れた人形のようにしなだれて、地に落ちた。
もはや剣としては用を成すまい。
「使う気はなかった。――コレを使わせたことこそ誉れよ。胸を張って逝くがいい!」
大喝するセイバーへ向けて、キメラは絶叫と共に身を翻した。
「――ガァァァ!」
それは漆黒の濁流を想わせた。目に見えて激昂した剣士のキメラは、残った4本の大剣をもってセイバーに迫る。
「我が敵の首は落ちよ――」
セイバーは惜しげもなく三度の宝具を振るう。
「ひとつの首は落ちよ!」
キメラの剣士が、目の前で展開したこれを防げなかったのには理由がある。
セイバーの宝具は一定範囲に存在する全ての敵へ断頭のマーキングを行い、その全てに斬撃を見舞うというもの。
対軍規模での斬撃のコピー&ペーストだ。
だからこそ、このキメラも、それには留意していた。
セイバーの宝具がマーキングを精製したなら、即それを察知して破壊する。
対策は万全だった。
セイバーが使用したのが最初に使用したのと同じ宝具だったなら、それでよかったのだ。
だが、セイバーが二度目に使用したのはまったく別物の宝具だった。
内実は同じ「断頭」の呪い。
しかし、その使用法が、呪いの発現の仕方が違った。
断頭のマーキングは一か所にしか出現せず、尚且つ、今度はそれに
そう、これは「対軍」ではなく「対人」宝具。
セイバーの戦略であった。
先だって「対軍」規模の宝具を使用して見せたのも、いざというとき、この「対人」宝具による断頭を確実にするための伏線であったのだ。
この「対人」仕様の断頭マーキング、「対軍」仕様のものとは違い、そもそも触れることができない。
「対軍」仕様の場合は多数を標的とするために粗雑なマーキングにならざるを得ない訳だが、呪いを一点に集約できる「対人」仕様ならば、触れることも、ましてや解呪することもおよそ不可能なマーキングを施すことが可能となるのだ。
もはや、これを防ぐには単純に首の耐久力を上げるか、首を断たれてなお起き上がる不死性を持つ者しかあり得ない。
このキメラの狼狽と錯乱も、これを悟ったが故のことであった。
一度マーキングを付けられたなら、もはやいついかなる時も断頭の呪いに怯えなければならない、ということなのだ。
それでも、キメラは4本の剣を振り乱して前進してくる。
こうなれば、後はセイバーに剣を振るせぬことだけが対処療法となる。
セイバーに剣を降らせぬまま、一方的に屠ることが出来れば、そうすれば、彼にもまた生き残る眼が
もっとも、それは今となっては意味のない前提であったが。
錯乱したかのように前進してきたキメラに対し、セイバーはわずかに後退するそぶりを見せる。
ダメだ――それはダメだ!
キメラはいっそう取り乱してそれを追う。
距離を開けられればそれで終わりなのだ。だからダメだ。――それだけは!
恐怖が、この高潔な剣士を一匹の獣へと変えていた。
セイバーは後退などしなかった。
滑るようなビロードに飾られた甲冑が、星の光を弾いて反転する。
焦りに焦り、つんのめるようにして突貫するだけの相手など、もはや剣士とは呼べなかった。
「惜しかったな……」
こぼすようにつぶやき、セイバーは突風のように吹き流れた巨体の脇をすり抜けた。
首は付いたままだった。
代わりに、キメラの誇る6本腕が残らず両断されていた。
跳ね上がった腕がそれぞれに大剣を掴んだまま、月下に舞う。
すすリ上げるような絶叫が、後に続いた。
其は断頭の雄。手に執るは断頭の剣。――しかし、だからと言って首しか斬れぬ道理はない。
「最期まで剣士として立ち合っていれば、結果は別だったかもしれぬ……」
振り返りもせず、惜しむように喉を絞り、ただ月を見上げて――セイバーは言葉を切った。
遠い異国。異なる時代。それでもなお、見上げる月は見知った顔をしている。
むべなるかな。
セイバーはキメラに背を向けたまま、大剣を大上段に振りかぶる。
「――待、て、まだ、俺は…………」
「能わず!」
喝声と共に刃は振り下ろされた。
最後まで振り返ることなく、セイバーはそのまま戦場を後にした。
――辺りには、ただ静寂だけが取り残されていた。