不死の暗殺者 9対9 チームバトル型聖杯戦争   作:どっこちゃん

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ハイエンドキメラ、決死の策

 

 戦場は虚空へと舞台を移していた。

 

 舞台とは言え、夜の帳を纏ったままの舞台裏から、或いは観客席にまで、安全圏などないと言わしめるだけの、それは激闘であった。

 

 もとより翅をもつハイエンド・キメラ、アーセナルと千変万化の和毛の集合体フラフィもまた、翼を生やして夜の虚空を飛び回る。

 

 それを、巨大な黒雲の如く追い回すのは、ライダーの駆る神威の四頭立て馬車(クアドリガ)、『大英雄の足下(プロトス・クリロノミア)』であった。

 

「ええぃ、ちょこまかと逃げよるのぅ、ケダモノどもめ!」

 

 轢殺(れきさつ)を免れてはいるものの、キメラたちは攻めあぐねていた。

 

 虚空を疾走する戦車はそれ自体が砲弾であり、生半可な横撃では傷もつかない。

 

 まさしく〝ライダー〟の面目躍如である。

 

「ぬぅら!!!」

 

 さらには松明からほとばしった火焔が蛇の如くのたうち、羽虫を追い回すがごとく伸びてくるのだからたまらない。

 

 火を苦手とするフラフィは元より、アーセナルも翼を焼かれかねない。

 

 そも、騎兵の英霊たる相手に、騎乗を許したことが間違いであった。

 

 こうなる前に仕留めるべきだったのだ。

 

 ――仕方ない。もはや、こうなっては仕方ない。

 

 キメラたちは暗黙の了解を互いに得る。

 

 この上は命を懸けてこの英霊を焼き尽くすしかない!

 

 

 

 

 

「――――チッ」

 

 しかし、同時に、圧倒的優勢に立つライダーもまた苦々しい思いを抱えていた。

 

 本来この炎はあのアサシンを焼き尽くすために使用するつもりだった奥の手であった。

 

 相手の不死・再生を阻む「屈折延命」の神性スキルを獲得しているこの炎に焼かれた傷は、自然ならざる回復が復元が不可能となるのだ。

 

 勢いとは言え、大いなる冒険の遺産たるこの宝具を使()()()()()ことは、ライダーの分厚い胸中に、何とも言えない後味の悪さを残す。

 

 ましてや相手はただのキメラ、それもかつての英雄譚のそれに比べれば小物と言わざるを得ない。

 

「あんの化け蟹のほうが、まだ見ごたえがあるというもんじゃからのぅ……」

 

 この上はどうしたものか、英雄たる己にふさわしい結末とはいかなるものか。

 

 このまま雑魚をひき殺して終わりとは、なんとも興の冷めるハナシよ……。

 

「さて、伯父御殿ならなんというかのぅ……」

 

 と、ライダーが御者台で首を捻っていると、キメラの一匹、アーセナルがその車線上に躍り出た。

 

 ――何のつもりかのぅ、カニもどきが! ――

 

「こっちは考え事の真ッ最中だっつーのにのぅ。待っとれんというなら是非もない――疾く成敗してやるわ!」

 

 ライダーは気を吐き、クアドリガを加速させる。

 

 が、その時、真正面から退こうとしないアーセナルの顔面、口元の辺りの装甲が、ガパ、と甲虫が羽を広げる時のような音を立てて開いた。

 

 本来、人間ならば口がある場所だ。

 

 しかし、そこには口などなかった。あるのはいくつかの、――排気孔、或いは噴出孔と言うべき管の集合体であった。

 

 〝何じゃ、気色の悪い!!!〟

 

 サーヴァントの動体視力でそれを黙認したライダーは眉根だけを僅かにひそめて、さらに猛馬たちを鞭打った。

 

 奇怪な挙動ではあるが、構いはしない。もはや轢殺は免れない距離なのだ。

 

 アーセナルの旋回能力を正確に見て取ったが故の選択であった。

 

 即ち必殺の間合い。なにをしようと逃しはしない。

 

 一方のアーセナルも退こうとはせず、真正面から砲弾のごとき戦車と対峙する。その口元に、いくつもの()()()が密集するそこに、火花が走った。

 

 ミイデラゴミムシ、という虫がいる。

 

 別名「ヘッピリムシ」。ひょうきんな俗称とは打って変わって、体内で複数種の物質を合成し100度を超える高温のガスを噴き出す、という凶悪な習性を持つ。

 

 2センチに満たない体長の昆虫でさえ、それほどのガスを合成できるのだ。

 

 それがもしも、2メートルを超える大きさだったとしたら?

 

 さらには、ここにヒドラジン(ロケット燃料などに使用される化合物)をはじめとした複数種の燃焼性ガスのカクテルを加えられるとしたら?

 

 アーセナルが行ったのがソレである。

 

 ライダーの突貫攻撃を迎えうったのは巨大な波濤(はとう)のごとき大火炎であった。

 

 夜を裂くような火炎放射だ。もはや大本のモデルとなったヘッピリムシのそれとは完全に別物だと言える。

 

 しかし――。

 

 火炎は視界を尽くすほどの大規模なものであった――が、それでもなお、サーヴァントの宝具を迎えうてるほどの代物ではなかった。

 

 ただの火炎に、大気を断絶して迫る大質量の加速度を受け止める力はなかったのだ。

 

 アーセナルの行いは無策無謀もいいところのものであったと言わざるを得ない。

 

 憐れ、その五体はバラバラに引き裂かれ――

 

 

 

 

 

 ――ては、いなかった。

 

「――チッ!」

 

 再び忸怩たる悔恨を滲ませるのはライダーのほうであった。

 

 もはや必殺の間合いと見切ったはずの標的が、今や遥かな下方の地表にまで逃げ去っているではないか。

 

 再び旋回してそれを追うライダーの突貫を、アーセナルは急加速して再び躱す。

 

 その秘密はふくらはぎや腰部、さらには肘、膝にまで備わったガスの噴出孔である。

 

 そう、先ほどの火炎を吐き出した噴出孔と酷似したものだ。

 

 もっとも、これらは火炎を吐き出すための機構ではなく、先ほどの合成ガスの配合率を変え、推進剤として活用するためのものなのだ。

 

 即ち、ジェット噴射による急加速・緊急回避を可能とするのである。

 

「まったくカラクリの多いカニもどきめ! ――ふん、お次はなにが来るかのぅ?」

 

 愚痴をもらしながらも、これにはライダーも興が乗り始めていた。

 

 もはや逃げ惑うだけかと思ったこのケダモノども、なかなかどうして骨があるではないか!

 

 それが、その勇猛が、この英雄の英雄たる鼓動を呼び起こし始めていた。

 

 さて、この()()()め、次はどんな手で来るか。――はて、そう言えば、もう一匹のほうは何処へ行きおったかのぅ?

 

 そのとき、地を滑るように滑走していた戦車の前進が矢庭に滞り、ついには停止した。

 

 否、停止()()()()()いたのだ!

 

「ぬお! ――こんどはなんじゃあ!?」

 

 在りうべからざる光景であった。神威を纏うクアドリガは、在ろうことか、地表に縫いとめられていた。

 

 まるで羽虫が蜘蛛の巣に絡め取られるかのように。

 

「もふふふふ。ようやく止まったにゃ~。戦車は止めちゃえば怖くないにゃー」

 

 サーヴァントを持ってすら比較にならぬはずの猛馬たちの駆動さえもが絡め取られている。

 

 見れば、月光に透けて僅かに視認できるそれは、文字通りの巨大な蜘蛛の素であった。

 

 幾重にも重ねられたそれが、戦車だけではなく、その四方数百メートルの範囲を覆い尽くしているのだ。

 

 ――そうか、あのカニもどきの動きは、釣りであったか!

 

「もふふふふ。ぼくは身体をどんな組織にも代えられるにゃ~。逃がさないにゃ~!」

 

 どこからともなく、声が聞こえる。おそらくはこの蜘蛛の巣そのものが振動して声を発しているのだ!

 

「――チッ!」

 

 先ほどの火炎は目くらましか!

 

 まったく、してやられたといわざるを得ない。

 

 口をへの字に歪めたライダーはフラフィの揶揄には付き合わず、再び剛直たる松明を手に執るが、

 

「止めた方が良いにゃ~。ぼくの身体は今、ものすごく燃えやすいにゃ。粉じん爆発って知ってるかにゃ~?」 

 

 詳細までは察せぬライダーであったが、フラフィの言葉に嘘が無いことは理解できた。

 

 火を使えば、この毛糸の結界すべてが大炎上するという事だ。

 

「なんじゃあ、死なば諸共とでもいうか。ニャンコロが」

 

「僕らはこのために生まれたにゃあ。そのために死ぬのも仕事の内だにゃ~」

 

「――ケダモノの分際で()()()おって」

 

「そういう事だ。死ぬがいい英雄よ。我らの使命の為に」

 

 距離を取ったままのアーセナルが、絡められたライダーに声を掛ける。

 

 掲げられた両椀外側の装甲が前方へ向けて、また甲虫の外翅の如く開いた。

 

 そこから、いくつかの長大な、針のようなものがせり出してくる。

 

「……」

 

「ただの毒針だ。――ただし、毒ではないがな。詰まっているのは」

 

 せり出した硬質な突起は不気味に脈動している。おぞましい光景であった。

 

 ――おそらくは言葉通りイモガイ類の毒針、つまりは『歯舌』に類するものなのだろうが、その大きさは数十倍にもなる。

 

 これを先ほどのガス圧と電磁誘導で射出しようというのだ。

 

 つまりは生体ミサイルとでも呼ぶべき代物なのだ。

 

「手を焼いたにゃ~。でも終わりだにゃ~」

 

「こりゃ、しかたねぇのぅ……」

 

 そうとだけ、ライダーはぽつりと呟いた。

 

 歯舌の火矢(ミサイル)は無情にも掃射され、周囲は巨大な炎に包まれた。

  

 

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