不死の暗殺者 9対9 チームバトル型聖杯戦争   作:どっこちゃん

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アサシン&アーチャー 決断と脱出

 

「んじゃ、事後承諾になるけど、君らにはボクに協力してもらおうかな」

 

 アサシンは無言でアーチャーを見る。

 

「……取り引きだよね?」

 

「無論だ。だが――」

 

 アサシンは立ち上がり、少女を守るようにアーチャーに対峙する。

 

「この(むすめ)は離脱させる」

 

「んー、その子もかなーり、いい戦力なんだけどなぁ。ま、キミがそう言うなら」

 

「――――いや」

 

 その時、初めて少女が声を発した。

 

「いや。置いてかないで。……一緒、に、……行きたい」

 

 少女は涙さえ浮かべてアサシンの黒衣に縋りつく。

 

「――――ッ」

 

 傍から見ても、異様ともいうべき変貌であった。

 

 ましてや、この少女の無謬さを憐れんでさえいた、アサシンにしてみれば、この姿は青天の霹靂であったことだだろう。

 

 今も縋り付いてくる少女をすげなく黙殺しているようにも見えるが、――いつのところ、アサシンはどう対応していいのかわからず硬直しているだけであった。

 

「ブフ――フクッ! フククク……っ」

 

 一方アーチャーは、自らの顔面をわしづかむように押さえて、笑いをこらえている。

 

 どうも、()()()()ちぐはぐなやり取りが、アーチャーにしてみるとたまらなく面白おかしいものであるらしい。

 

「……」

 

 アサシンが仮面の下から抗議の――あるいは助けを乞うような――視線を向けてくる。

 

「いや! その――ね。うん。失敬失敬。でもさー、僕の宝具ってそう言うものなんだよ。いまので主従関係は逆転してるけど、必ず言う事を聞いてくれるってわけでもないんだよね」

 

 むしろ、この「強制的な恋慕」による情が満たされないとなれば、何をしでかすかわからない。

 

 それが古今東西、この金の矢で射られた者の宿命である。

 

「ま、連れてくしかないんじゃない? 君が守ってやんなよ」

 

 アーチャーはそういって、踵を返す。

 

「――――承知」

 

 ただそう言って、アサシンは少女を見下ろした。

 

 それ以外、どうにもしようがなかったというべきであろうか。

 

 それでも、その言葉に、少女はホッと、血の通う息を吐いて安堵の表情を見せた。

 

 その姿はまるで年相応の少女のようにも見えた。

 

「さて、それじゃあ()()でそろってカーターの屋敷へ、って言いたいんだけど……」

 

 アーチャーが視線を送るのは、先ほどから重症のまま、蚊帳の外に捨て置かれていたイグである。

 

 機銃の掃射を受け続けた身体は、今も見るも無残なほどに血に染まっている。

 

 魔力が足らないらしく、再び脱皮して身体を再生することが出来ないらしい。

 

「わたし……も、わたしも……」

 

「う~ん。キミはムリっぽいねぇ」

 

 アーチャーは軽い声で、いかにも残念そうに言った。

 

「悪いんだけど、治せる人もいないし、時間も掛けられないんだよねぇ。ま、回復したら後から来なよ」

 

 待ってるからさ。

 

 などと言うが、その瞳はもはやイグを見ていない。

 

 その意識は、この()()()()()()()に釘付けなのだ。

 

 ランドルフカーターとランサー、そしてこのアサシンと、黒衣の少女。

 

 なんとも先が読めない。どうなる? なにが見れる?

 

「僕のことは良いからさ~。君にも無理してほしくないし~?」

 

 それを想い、アーチャーはこの上ない喜悦を浮かべたまま、うわべばかりの慰めの言葉を吐く。

 

「……ぅうっ……ふぅ……うぅぅぅぅ…………」

 

 全てを察してか、イグはすすり泣きを始めた。

 

 夜露に濡れる芝生に突っ伏し、さめざめと、衆目もはばからずに。

 

「あらら……これも宝具の弊害(へいがい)っていうかね」

 

 苦笑するアーチャーを、アサシンは無言のまま見下ろす。

 

「……わ、わたし……が」

 

 そこでイグの、心の砕かれんばかりの悲壮な声に応えたのは、以外にも黒衣の少女であった。

 

「出来るの!? そっか、君も魔術師なんだもんね」 

 

 アーチャーは心底意外そうな声を上げる。

 

「多分……これ、わたし……」

 

 記憶になくとも、自分がこの相手を瀕死の状態にしたという事が分かったのだろう。

 

 少女は一旦、アサシンを振り仰ぐ。

 

 拒絶する理由は無い。

 

 アサシンが頷くと、少女はぎこちなく、頬のあたりと(ゆる)ませて見せる。

 

 そうしてイグの治療を始めた少女に、アサシンは疑問を抱かざるを得ない。

 

 今のは何だ?

 

 ――おそらくは、遠い過去の記憶をたどりながらだったのだろう、たどたどしいながらも少女は一応の治療を終えた。

 

 あくまで応急的な治療魔術だったが、イグならばすぐにでも立ち上がれるだろう。

 

「……後は、少し待てば……大丈夫……だと」

 

「オオーッ! いいね~。キミ、やっぱり優秀! 来てくれてうれしい!」

 

 アーチャーはやんやと少女をはやし立てる。

 

 すると、少女はまたアサシンを振り仰ぎ、視線を逸らす。

 

 それを二度、三度と繰り返す。

 

「……?」

 

 アサシンがその挙動の意味を図りかねていると、アーチャーが尻のあたりを肘で小突いてくる。

 

『ほめて! いいから! あれはほめてほしいの! ほめたげて、ほら!』

 

 そう言われても、アサシンは困惑せざるを得ない。

 

 覚えがない。他のハサンとは違い、戦闘機械のように生きてきた彼にそんな業務は存在しなかった。

 

 しかし拒絶もできない。

 

 仕方なく、アサシンは持てる知識を総動員して、しょうの女の頭に手を乗せた。

 

 なでる。――が、そもそも経験がないため、どのようにして良いのかわからない。

 

 必然、頭をなでるというよりもぐしゃぐしゃとかき乱すような具合になってしまう。

 

「――」

 

 それでも少女はまた白い頬を(ゆる)ませ、そしてつい先ほどまでの姿からは想像も出来ないような、可憐な笑顔を浮かべた。

 

「そうそう――それでいいよ。ちゃんとほめてあげてれば、だいたいの言うことはきいてくれるからさ」

 

 まったくもって居心地の悪そうなアサシンに、アーチャーは笑いをこらえるような、或いは揶揄(やゆ)するような声でレクチャーする。

 

「……ご主人様」

 

 負傷から回復したらしいイグは、再びアーチャーにひざまずく。

 

「ん! いい感じにまとまったね。じゃあ行こっか」

 

 自身を呼ぶその声色が、明らかに落胆と悲壮に塗れていたのを、アーチャーはまるで意に介さぬかのように音頭を取る。

 

 それでも死人のような顔色でアーチャーに付き従うイグの姿に、アサシンと少女は何事かを言いたそうにしていたが、両者ともに、それを言葉にすることは出来ないようだった。

 

「んじゃあ、さっさとここから出よう。アサシン、この結界の出口ってどこ?」

 

「知らん」

 

 にべもない返答に、先陣を切っていたアーチャーはへにゃりと腰砕けになった。

 

「んもう! ……な、ん、で!? なんで知らないのさー」

 

 そして、あーもう段取りが台無しだよ! とアーチャーは愚痴を漏らす

 

「そもそも外に出る用が無かった。オルロック・オルフロストは慎重な男だ」

 

「あーもー、また足止めかー」

 

「ヒヒン――知ってるよ。ワシ、知ってるよ……」

 

 と、その時、影が凪ぐような、密やかな声が響き分かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ヒヒン。いいこと聞いたよ。ワシもその矢が欲しいよ。代わりに、出口教えてやるよ」

 

 言うまでもなく、影に潜むハイエンドキメラ、スラッグである。

 

 いまのいままで、事の成り行きを伺っていたものと思われる。

 

 一同は身構えた。

 

 当然だが、両サーヴァントには焦りのようなものはない。

 

 4対1。戦闘となれば問題なく勝つことが出来る状態だ。

 

「――アサシン。キミのお連れさん?」

 

「否。聞かれた以上は――」

 

「ヒヒン! 待って、待ってほしいよ。邪魔しないよ。だからお願いよ」 

 

 黒子は顔も見せず、ただ真っ黒な影法師のままヒヒンと笑って見せた。

 

「ワシも矢が欲しいよ。自由、なりたいよ」

 

 問答無用で前に出ようとしたアサシンを制して、アーチャーは声を返す。

 

「矢が欲しいって? ――じゃあなに? きみ、キャスターを裏切るっていうの?」

 

「そうよそうよ。ワシの分だけじゃなくて、他にも2本――いいや、()()()()欲しいよ」

 

「へぇ? 矢だけ持っていこうっての?」

 

 アーチャーが訝るような声を返すとスラッグは喉を鳴らすようにして応える。

 

「弓で射るひつようないよ。刺せればいいのよ。ワシ、知ってるよ」

 

 確かに、アーチャーは彼自身の伝説において、それでヘマをやらかしている。

 

 ――つまりこのキメラは、目撃しただけのアーチャーの宝具の来歴と伝説を、自分で紐解いてその意味を推察できるだけの知恵と知識を有しているということだ。

 

「ふぅん……キミ、見た目ほどおバカじゃないのかな?」

 

 すると影法師はおどけるように身をひるがえす。

 

「ヒ、ヒーン! わからないよ。ワシわからないよ。自由になりたいだけだよ。その娘と同じ!」

 

 アーチャーはアサシンの巨躯を振り仰ぐ。

 

 警戒を解いてはいないが、アサシンは特にそれ以上の反応を返さなかった。

 

 本来なら、この潜航潜伏型のキメラを野放しにすることなど出来るはずもない。

 

 リスクが高すぎる。

 

「ま、いいや。ぼくとしては早いところ、カーターの屋敷に行きたいんだ。いいだろアサシン?」

 

「……承知」

 

 ――が、アサシンは意に反して矛を収めた。

 

 どのみち、この結界内にから脱出することは最優先事項だった。

 

 一刻も早くこの娘を、あのオルロックの手の届かぬ場所へ移さなければらない。

 

 それが最優先だ。そのためなら、あえてこのリスクを背負うこともいとわない。

 

 だが――そう決心してなお、アサシンの内心は晴れなかった。

 

 あまりにも、勝手が違う。

 

 殺すのではなく守るということ、それは積み上げてきた経験の通じぬ領域だ。

 

 それでも、成し遂げなければならない。

 

「じゃ、案内するよ。ヒヒン。ワシしか自由に出入りできないよ。運がいいよ。ホントは〝お父様〟の許し、必要よ」

 

「〝お父様〟? キャスターのこと?」

 

「ヒヒン。違うのよ違うのよ…………」

 

 そうして、スラッグを加えた一行は一路、この「陸の孤島」からの脱出を図るため、動き出した。

 

 

 

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