不死の暗殺者 9対9 チームバトル型聖杯戦争 作:どっこちゃん
巻き起こった大火炎は天さえをも焼いた。
地上百メートル強まで立ち上った火焔は、その火力の尋常でない威力を物語っている。
煌々と燃える炎を見上げたあと、アーセナルは膝を突いた。
消耗が激しい。疑似サーヴァントとでもいうべき彼らはそれ自体が魔力を精製し、尚且つ他者からの魔力供給を受けることも出来るというハイブリット型の機構を持つ。
そもそもが生身の身体を持つキメラであるからこその強みであるが、逆に、サーヴァントのように霊体化して魔力の消耗を押さえるということが出来ない。
彼らは人型であり続ける限り、消耗し続ける宿命を背負っている。
過度の長期間戦闘は鬼門なのだ。
特にこのアーセナル(武器庫)は体中の兵装を統制すること、さらにはそれらに必用な成分・化学物質等を魔力から生成するために体力を消耗するという欠点があった。
「大丈夫かにゃ~」
掌の収まるほどの、子猫ほどの大きさになってしまったフラフィがその肩に飛び乗った。
「無論だ。問題はない。――が、一人
「にゃ~。ドクターのところに戻らないとにゃ~。僕らはもう戦えないにゃ~」
「もどるか。しかたがない……。なにをしている!? スラッグは!? あの出来損ないめ……」
「な~にを、締めに入ろうとしとるか、痴れ者どもめ!」
その時、両者の頭上で、太い声が轟いた。
見上げる虚空には、いまだ健在なライダーとその
「――バカな!」
「なんでにゃ~!?」
戦車は空を滑るようにして、接地を果たした。
多少焼け焦げてはいるものの、その機動性は健在のようだ。
「――さて、つづけるか?」
ライダーは威圧するでなく、また挑発するのでもなく、ただ率直にそう告げた。
しかし、対するアーセナルに
それが存在理由なのだ。そう、たとえこの命が燃え尽きることになろうとも!
「――ふん。愚かなやつめ。勝ちだったものを。声など掛けずひき殺せば!」
そして気を吐く。消耗はゆるぎない事実。おそらく勝つことはできない。
しかし、相打つことならば、まだ可能!
「にゃ!」
フラフィが飛び降りた。アーセナルの五体、――特にその外殻が熱を持ち、急激に赤熱し始める。
「行け。お前は。〝お父様〟の元へ」
「一緒に居るにゃ!」
「ダメだ」
そう言うアーセナルの身体は、そこからさらに、さらに加熱していく。もはや紫電を
「にゃ~……」
フラフィは悲しそうに一鳴きすると、アーセナルを置いて駆けだした。
「追わせん」
地を這うようなアーセナルの声に、しかしライダーはあっけらかんと応える。
「やりゃあせんわい。けったくその悪い。――ワシはこれでも、お前らを認めてやろうと思うから。こうしとるんだからのぅ――なにせ」
ライダーは再び、己が宝具たる松明を手に執る。――しかし、それはぼろぼろに砕け、今にも崩れそうなほどに煤けている。もはや火が灯ることもないのは目に見えて明らかだ。
「……
壊滅的な威力を発揮できる反面、サーヴァントにとって何物にも代えがたい宝具を自ら破壊するという、いわば自傷的な行為とさえいえる。
尚且つ、一度使用すれば二度目はないと言える行為でもあり、サーヴァントにとっては二重の意味で奥の手と言える手段である。
ライダーはフラフィの封爆結界が炸裂する瞬間、この松明を崩壊させることで岩盤を砕き、拘束から逃れていたのだろう。
「バカな真似を。悪あがきでしかない。それが英雄のすることか?」
アーセナルの言葉に、ライダーは夜を仰ぐ。
「ま、言われんでもわかるわい。たしかにあがきもいい所じゃのぅ。まったく情けないわい。だがな、これは言わば、ワシ自身への戒めでもある。死してなお勝利を得ようとする――
「……」
アーセナルは応えない、その実、欲しいのは時間だ。この奥の手を使用するまでには後、ほんの少しの時間がかかる。
だから、ライダーの応答に意味などない。
「そう言うわけで、松明は使い捨てた。その上で、キサマとは決着を付けようかと思ってのぅ」
「くだらん」
勇者だ英雄だ誉れだなどという「言葉」に、何の意味もない。無意味だ。
アーセナルの五体――というよりもその外殻が――は膨れ上がり、もはや引き返しようのないほどに光り輝き始める。
電光を孕み地表を融解させるその姿が危険であることは、何者の目にも明らかである。
――が、ライダーは構わず、野太い声をとどろかせる。
「そう言うな! キサマがなんと言おうと、キサマらはとっくにワシの好敵手よ! おとなしく、時空の彼方に名を刻め、勇者よ!」
言うや否や、傷ついた戦車はすさまじい加速をもって突撃を開始する。
戦車型宝具による渾身のチャージアタックだ!
――勝機はある。
アーセナルはそれでもなお、己の勝算を推し量る。
自らにとって最大の威力を誇るこの技なら、傷ついた戦車ごと、ライダーを仕留められる。
「サージ・ブラスト」全身に武器を内蔵したハイエンド・キメラ、アーセナルが持つ最大にして最高の威力を誇る武装である。
自身が持つ発電能力を最大まで発揮し、プラズマ化するまで荷電させた全身の甲殻を脱皮の要領で分離。
それをありったけの合成ガスでクレイモア地雷の如く分解・射出する技である。
数万度にまで熱された外殻が火炎と共に大気を巻き込みながら放出される様は、火山噴火に伴う火砕流サージ(※)に喩えられる。
そして突貫してきたライダーとそれを迎えうったアーセナル、両者の最終兵器は正面衝突を果たした。
主に身体の前面、胸部・腹部・下腕部・そして大腿部の外殻は爆ぜるように放出され、虚空を焼きながら閃光の雨と化す。
ライダーの宝具の突進力ならばこのサージ・ブラストを真正面から突っ切るかもしれない。
その場合、自分は間違いなく
だがそれでもかまわなかった。
何をしようと、どれだけ頑強な戦車であろうと、この攻撃を受けて無事で済むはずはない。
最悪でも相打ちに持ち込める。
ならば問題ない! 確実に一騎、サーヴァントを狩れるのならば、この命、惜しくはない!
その覚悟が、アーセナルに決死の選択を選ばせた。
「自信満々のとこ、わるいがのぅ――、ワシが本気を出す以上、事はそう簡単にはいかんでのぅ!」
――しかし、この場合に限り、それは間違った選択であった。
「来たれ我が守護の星よ! ――『
突如として、突進してくるライダーの戦車を、煌めくような光を孕んだ黒雲が覆ったのだ。
「――――!?」
その黒雲が、向かい来る真紅の爆炎を、閃光の弾雨を、まるでかき分けるように――否、押し退けるようにして割り開いていくのだ。
ありえない! いったい、どんな「力」ならこの爆炎流に対抗できるというのだ!?
いや、対抗などしていない。
この黒雲はサージブラストの爆炎流を穏やかに、まるで当然の如く
まるで小川のせせらぎに、女神が手を浸すかのように。
「
そして、赤熱する爆炎流をすり抜けるようにして、無傷のままアーセナルの眼前に現れたクアドリガは、無情にも棒立ちのアーセナルを蹄にかけることとなった。
もはや身を守る外殻さえをも使い果たしてしまっていたアーセナルの五体は、そのままバラバラに吹き飛んでしまった。
もはや、再生も復元も叶わぬことであろう。
この黒雲の効果――それは『時の退流』である。
あの雲に触れた瞬間、あらゆる物質、そして概念は時間的「退流」すなわち、「時間の撒き戻り」を余儀なくなれるのである。
つまりはあの雲は無敵の盾としての役割を果たしたのである。
宝具の名は「
ラーダ―・イオラオースの持つ最大にして最後の遺産。
かつて老齢のまま戦場に立つ彼に、神としてのヘラクレスとその妻へべが賜したとされる奇跡の再現である。
かつては年老いた自らの肉体を若返らせる奇跡として顕現したが、この聖杯戦争においては、この神の権能は無敵の盾として活用されることとなったのだ。
この黒雲による時間の退流の前では、いかに高威力の宝具も、ましてや兵器の類などなんの意味も持たないのだ。
「フン、覚えておいてやるわ。キサマはなかなかにあっぱれな
――しかし、まさかカニにここまで本気になるとは、ワシも伯父御のことを笑えんのぅ――
振り向き、御者台の上から豪語したライダーは、一度呵々と大笑すると、そのまま戦車を走らせつづけた。
消耗はあるが、まだ余力はある。
「いざ! 本丸へ!!」
この上は、一気に敵首脳へ向かい、その首級を上げるまでよ!
爆音を耳にしながら、小さな手足を動かし、必死で地を馳せるフラフィはキャスターと、そしてオルロックの元へ向かっていた。
本来ならすさまじい走行速度を誇るフラフィだが、この程度の分量しか残っていないのでは限界がある。
何よりも保有できる魔力の量まで減ってしまうため、思うように体を変形させられない。
アーセナルは勝てるだろうか?
否、勝とうと負けようと、兄弟が生き残れる可能性は〝ゼロ〟である。
「かなしいにゃ~。もしもの時は、絶対カタキはとるにゃ! ――に゛ゃ!?」
そこで、馳せるフラフィの面前を遮るように、影が盛り上がった。
そして身の丈を起こすようにして、足を止めたフラフィに対面する。
「スラッグにゃ!?」
「ヒヒン。ちょっと見ない間にずいぶん縮んだよ」
先ほどいずこへ逃げ延びたアーチャーを追っていたスラッグである。
「に゛ゃ~~!! 今までどこにってたにゃ~!」
スラッグとの3対1でなら、ライダーを討てた可能性もあった。
少なくとも、兄弟が命を落とす必要はなかったかもしれない。
ゆえに、常にお気楽気まぐれなこのキメラも、あらん限りに憤慨を表明する。
「すぐ追うにゃ! スラッグなら追い付けるにゃ! 今ならライダーをやっつけ」
しかし、影から伸びた無数の足――馬の足である――がそんなフラフィを吹き飛ばした。
「ぎゃん!」
クスクスと、スラッグは黒子のような影をまとって笑いを漏らす。
心底、楽しくてたまらないとでも言うように。
「脚が出ちゃったね……ヒヒン、
ぼろぼろと
「なにを……兄弟なのにぃ」
「ヒヒン。知ったこっちゃないよ。ワシは
そして、スラッグは懐から、光り輝くような金と、そして鉛の矢を取り出して見せる。
「それ……」
「いいものもらったよ。だからワシ、自由になるよ」
クスクスと笑いをこぼすと、スラッグはフラフィを影の中に取り込んでしまった。
「だいたい、無茶言うよ……
言いながら、また、スラッグはクスクスと含み笑いを漏らす。心底楽しそうに。
「まずは「これ」で良し。あとは「ライオン」それとあの「
指折り数えるように呟き、クスクスと笑いをこぼしたスラッグは、そのまま足元の影にもぐりこむ。
「それがそろえば、ワシ――〝王様〟よ」