不死の暗殺者 9対9 チームバトル型聖杯戦争   作:どっこちゃん

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岐路

 ――さて、どうする?

 

 セイバーは当て所なく、夜の要塞の中を彷徨っていた。

 

 敵は斬ったが、さて()()も放置されると仕様がない。

 

 元来なら他の連中と合流するのが筋だが、道案内も無しではそれもままなるまい。

 

 闇に染まっているのは同じだが、地形その他の様子は先ほどの場所はずいぶん違う。

 

 空間そのものがねじれ、迷路と化した敵陣である。

 

 さらに全てが人工物とあっては、地形の機微(きび)を辿る訳にもいかぬ。 

 

「フィオン……盟友(とも)よ」

 

 ならばまずはフィオンとだけでも合流するべきか。

 

 両者は常に絆で繋がっている。

 

 サーヴァントという規格上、フィオンは彼の備品のようなものとして現界している。

 

 要するに鎧などの装備品と同じ扱いなのだ。

 

 ゆえに、その存在を知覚することは容易い。

 

 本来は霊体化してすぐにでもセイバーの元に戻るはずなのだが、このような空間的に隔たった場所ではそうもいかぬのだろう。

 

 ならば、まずはそこから考えるか。邪魔する者は斬り捨てればよい。

 

 セイバーは(おご)るでもなく悠然と歩を進める。

 

 ――が、その時、その確たる絆、いわば霊的なパスが切断されたのだ。

 

「――バカな!」

 

 この心胆揺るがざる英霊には似つかわしくもない狼狽が、夜にこだました。

 

 

 

 

 

 セイバーの盟友、巨獅子のフィオンの意識は、ぬるま湯のような影の中に囚われていた。

 

 傷はそこまで深くなかったが、外に出る術がないため、ひたすらに消耗を避けて機をうかがっていたのだ。

 

 セイバー、ブルンツビークの盟友たるこの獅子は、そこいらの英霊に負けないだけの戦闘経験値を備え持っていた。

 

「――出てくるよ」

 

 不意に、外に出される。

 

 すぐさま巨体をひるがえし、体勢を整える。

 

 目の前には、影のようなものが立っていた。奇妙な臭いだ。嫌いな臭いだ。まるで馬の死体の山だ。

 

 敵であることは間違いない!

 

 即時に判断したフィオンはすかさず飛びかかろうとするが、背後から、何かが突き立てられた。

 

 それは彼の巨体からすれば、まるで小さな針のようなものだった。

 

 無論ダメージになどならない。

 

 構わず目の前の影を捕らえようとするが、その身体が不意に倦怠感に襲われた。

 

 訳も解らず、フィオンは巨体を横たえる。

 

「ヒヒン。――いい効き目よ。あのアーチャーはいい奴よ。ちゃんと矢をくれてよこしたよ。――ヒヒン」

 

 なにが起こっているのかはまるで解らなかった。

 

 ただ、危機感だけはある。

 

 なにか、大事なものが途切れたような感覚がった。

 

「ヒヒン。嫌がらなくていいよ。これ、いいものよ……」

 

 針のようなものはすぐに消え失せた。

 

 身体は動かない。――だが闘士だけは萎えていなかった。

 

 フィオンは聞くものの臓腑(ぞうふ)を震わすような()()()を漏らす。

 

「ヒヒン!? ――――活きの良いヤツ。だからお前を選んだよ」

 

 一瞬慄いたスラッグだが、すぐに湿った笑いを漏らした。

 

 この巨獅子の戦闘力を違わず見抜いているからこそだ。

 

 しかし、このままでは、まだ不十分。

 

「ヒヒン。ワシ、〝お父様〟の手伝いしたことあるよ。「魔術」出来るよ……これ、「結合」の魔術よ……」

 

 フィオンは、何かが身体に侵入してくるのを感じた。

 

 体の中でそれが溶け、自分の身体に馴染んで行くのが分かった。

 

「ヒ、ヒーン。()()()()、相性いいよ。あと、仕上げはこれ」」

 

 再び何か、針のようなものが突き立てられる。

 

 痛みらしい痛みは無い。だが奇妙な感覚だった。とにかく抵抗する気力が失われていく。……フィオンはそこで、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 施術を終えたスラッグは、フィオンの巨体を再び陰に取り込んだ。

 

「これでいいよ。「カニ」の奴も回収したよ。十分よ。後は「ドクター」。……でも、その前に「〝お父様〟」……まずはこっちよ。ヒヒン。待っててほしいよ」

 

 そして自らもまた影に潜り込む。

 

 そして目指すのは、彼らの主がいる要塞の中核である。

 

 キメラの中で彼だけが、影を介してオルロックの結界内を自由に行き来することが出来た。

 

 それが誤算であったのかどうかがわかるのは、まだ先の話である。

 

 

 

 

 

 同刻――戦闘が激化していくなか、オルロック・オルフロストはいまだ自室で思案に耽っていた。

 

 戦況については、定時報告を受けるだけにとどめている。

 

 何故なら、彼にとっての聖杯戦争は既に終結しているも同然なのだ。

 

 彼には聖杯にたくす願いなどない。

 

 この参戦は、時計塔からの依頼でこの儀式を分析・解体してほしいというロードの依頼を、こころよく承っただけのものでしかない。

 

 まるでなにかの、片手間でできるような用事を言づけられたかのような対応だった。

 

 ――と、その時に居合わせたロードの徒弟は述懐したという。

 

 この地へ降り立った時も、サーヴァントを呼び出し、布陣をした時も、万事が一時、その調子なのである。

 

 まるでこれから散歩にでも行くかのように、気負わず、当然のことの様に成果を持ち帰る。

 

 それがこの魔術師オルロック・オルフロストなのである。

 

 この儀式についても、ほぼ分析は終わっている。

 

 あとは七騎のサーヴァントを取り込んだ小聖杯を安定させ、大聖杯の解体後、必要なものを持ち帰るだけだ。

 

 この儀式を執り行っていた、いわゆる御三家についても、ここまでの日程を消化して、すでに()()が済んでいる。

 

 魔術刻印はもちろん、その歴史、聖杯を求めた理由、末孫から徒弟に至るまでの人員・身柄、所有していた霊地のデータとマジック・オブジェクトに至るまで。

 

 すべてを回収・分析・整理・保存を終えている。

 

 よって、この儀式は既に終了しているといえる。

 

 もはやどの陣営が勝利するかなど、さほどの問題ではないのだ。

 

 

 ――だが、と。そこで初めて、オルロックは思考を滞らせた。

 

 

 だが、この聖杯戦争という儀式には、まだ一つの謎が残っている。

 

 事前に参加を予定されていた魔術師の数と、実際に参戦しているマスターの顔ぶれが合わないことだ。

 

 先にも述べた御三家と呼ばれる魔術師たち。

 

 これについては問題ない。

 

 そして、昨日この地に降り立ったバーサーカーのマスター。聞くところによるとあのジェヴォーダンの魔術師が参戦したという。

 

 それも、いい。

 

 どうせまたフランスの()()()()()に焚きつけられてのことだろう。

 

 それは構わない。むしろあのジェヴォーダンの当主が来ているというならばぜひとも会ってみたいとさえ思う。

 

 アレは魔術師の歴史に照らし合わせてもなお、稀有なる異端である。

 

 では、何の問題があるのか?

 

 それは、この儀式への参戦を表明していた有力魔術師の一門が()()()()()ことである。

 

 敗れたのではない。逃げたのでもない。()()()()()のだ。

 

 ストーク家。

 

 悪魔学を主とする魔術師の一派で、空間を操ることに長け、魔術的建築にを特手とする由緒ある魔術師の家門であった。

 

 現行の党首はハモン・ストーク。

 

 通称「赤髪のハモン」。若干21歳の若き女当主が、この儀式への参加を表明していた。

 

 それが、実際の儀式においては、いまだに目撃さえされていない。

 

 彼女の祖父である前当主ハンドロマリウス・ストークと共に本国を発ったことまではわかっている。

 

 だがそこまでだ。そこから先の痕跡がようとして知れない。

 

 そして、その後釜であるマスターの座に居座っているのが、魔術協会の経歴をあたっても一切の情報がない、()()魔術師のマスター。

 

 名をランドルフ・カーター。

 

 聞いたことがない――どころではない。

 

 どれだけの記録をあたっても、まるでその存在を確認できないのだ。

 

 そんな魔術師があり得るのか?

 

 よほどの僻地(へきち)ならばあるいは? ――否。それもあり得ない。

 

 ()()()探せないならともかく、その痕跡を、名を辿ることすらできないほど時計塔は温い組織ではない。

 

 というよりも、()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()()ということが、ありえない。

 

 ならば、これらの事象と情報は何を意味するのか。

 

 オルロック・オルフロストの思考は、まるで自らが深淵へ踏み込むかのように、その謎へ肉薄していく。

 

「〝お父様〟」

 

 その時、声を掛けてきたものがあった。

 

 下級キメラの一体である。

 

「なんだね?」

 

「ハイエンド・スラッグ様がお戻りデす。至急お耳に入れたいことガあると……」  

 

「通したまえ」

 

 オルロックはまた持ち前の鷹揚な声で、穏やかに言った。

 

 

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