不死の暗殺者 9対9 チームバトル型聖杯戦争   作:どっこちゃん

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エクストリーム(?)状況説明

「あ゛っあ~ッ、生き返るぅ~」

 

 青年の膝の乗るよう形で一緒にバスタブにつかりながら、()()()を名乗る少女、「メリー」は茹だるような身を預けてくる。

 

「んっふー。プリップリだろぉ? 評判いんだぞぉ」

 

 にんまりと顔ごと笑み歪めるようにして、無駄の無い身体を見せつけるように手足を伸ばす。

 

 底知れない肉体だった。バスタブに満たされているお湯とこの女体との境目を見失うような錯覚に襲われる。

 

 熱く、柔らかく、掴もうにも掴めない。捕らえようにも捕らえられない。どんなものでも受け入れ、どんな隙間にでも入りこんでくるような。

 

 人型の軟体動物がからみついて来るかのようだった。

 

 こんなものが本当に存在するのかと、本気で疑わせるほどの。

 

 どれほど注ぎ込んだかもわからないのに、いまもまた猛り始めている。まるで収まる気配がない。

 

「げぇんき、げんきぃ……で、も。今日はこの辺にしとこう、ねっと」

 

 予期せぬセリフに、青年は抗議の意味も兼ねて腰を突き上げた。

 

 彼の上に載っていたメリーは「お゛んっ」っと、獣がえずくような声を上げる。

 

「ん゛もぉ~? ホントにダメなんだッてェ。夜はやることあんだからさぁ……」

 

 言いながらも、メリーはやり返す! といわんばかりにはしな垂れかかってくる。

 

 そして肌という肌を熱く艶めかせ、こすり付けれてくる。

 

 すぐに二人は一つの肉塊のように入り混じり始める。

 

 そうしながら、青年は顔を曇らせた。事情については把握している。

 

 昼過ぎから今の今まで、今のように、ベッドで、キッチンで、或いはトイレで、夢中で睦みあいながらの説明だった。

 

 自分でも不思議なほど耳に残っている。

 

 これも魔術と言うものの効力なのだろうか?

 

 しかし、その説明に倣うならば、この「聖杯戦争」と言うのは要するに殺し合いという事になる。

 

「ま、そんなに心配しなくていいや。だって、他の連中それどころじゃないんだから」

  

 少女が青年の股ぐらの辺りで語る。

 

 「現状」はこうだ。 

 

 七騎の内、魔術師のサーヴァント、キャスターが陣地「陸の孤島」を布いて、兵を配置しているため、状況が膠着している。

 

 そう言えば、近くのデカい動物園が事故があったとかで、一時的に封鎖されているんだった。

 

「んなこったろうと思ったけどねぇ。報告によるとキャスターの真名はあの「ドクター・モロー」。陣地って言っても結界っつーよりは要塞って考えた方が良いかなぁ?」

 

 しゃくりあげるように彼女の身体を抱きしめると、今度は母猫がそうするに、いつくしむようにして頭を撫でてくれる。

 

 動きは、それでも留まることを知らない。青年は、改めて首を捻る。

 

「……「ドクター・モロー」って、小説の人物じゃないか」

 

 そんなものを召喚する? 魔術と言うものの存在を認めるにしてもなお、理解に苦しむ話だ。

 

「んー、神秘学ってヤツの領域によると、そうとも言えないみたいなんだよねェ。この世は無数のカガミ写しなんだってさ。お互いがお互いを、そう言う形で認識し合ってるってことみたい」

 

 ま、アタシらはそーいうのどうでもいいし、詳しくは分かんないんだけど。と、声は付け加える。

 

 矢庭には信じがたい話だった。いつの間にか顔が見えなくなり、真っ白な尻だけが視界を埋め尽くしている。

 

 我ながら、よく解説が頭に入って来るものだと思った。

 

「で、この一筋縄じゃいかない布陣に対してェ、ランサーを連れてる、なんとかって魔術師は、アサシンにマスターを殺されたセイバー・アーチャー・ライダーを取り込んで対抗しようとしてるってこと」

 

 上に下にと、ぬるい湯の中を這いまわっていた少女はまた定位置に戻って息を吐く。

 

 じっとしていられないにも程があるだろう。

 

 青年の方はそろそろ上下左右だけでなく自分の頭がどこについているのかも見失いかけて来ていた。

 

「ふはーッ。んー、最初からなのかは分かんないけど、このキャスターとアサシンは組んでる。そんで、結果としてー、本来はバトロワのはずが現状二つの勢力に分かれて、しかも膠着状態になってるってハナシ」

 

「それで、それを良く思わない君が、あわよくば漁夫の利を得ようっていうことか?」

 

「あたしは、てか『ジェヴォーダン』にとってはその辺はどうでもいいんだよ。たーだ、なんてーか、そのキャスターを連れてるマスターってのが時計塔っていう、魔術の大御所組織の人間なわけ」

 

 またお湯の中で腰をくねらせながら、腕の中から逃げていこうとする。必至で捕まえようと手を伸ばす。

 

「で、それがとにかく気に入らないのが今回の依頼人なわけよ。『薔薇十字の子ら』って言うんだけど、要するになんで英国時計塔が総本山みたいな顔してんだって言うスタンスの人らなの」

 

 ああ、なるほど、英仏って奴か。日本人には少々わかりにくいが、要するに不倶戴天の敵というヤツなわけだ。

 

 条理の外を歩む魔術師などとは言っても人間であることは変わらないらしい。

 

 ウナギでも掴むみたいにして彼女の身体を抱き止める、観念したのか、少女は身体を預けてくる。

 

「大丈夫なのか? ずいぶん政治的な」

 

「だーかーらー、アタシらはどうでもいいんだってそう言うの。フランス人しかいない訳でもないし、普通に時計塔に在籍してる奴もいる。本拠地がフランスにあるってだけ」

 

 荒い息が落ち着いていく。高鳴っていた心臓の音が、ゆっくりとなだらかになっていく。彼女が動きを止めると、彼女の全身からは薔薇のような体臭が沸き起こった。

 

 臭気は立ち昇り、青年の内外を包み込んでしまう。バラ色の毛並みを持つ雌獅子を抱いているかのような気になってくる。

 

「薔薇十字の連中はうち等を頼りにしてるみたいだけどさー、うち等までそう言う風に見られんのは迷惑なわけよ。自分らが弱小すぎて時計塔に相手にもされないからって」

 

 いろいろとあるという事は、とにかくわかった。

 

「俺はただ、キミが心配なだけだ」

 

 ため息交じりに、そう伝える。メリーは牙をむくように微笑む。

 

「なら、余計なこと考えないのが一番だよ」

 

 耳の穴を犯すように囁いて、耳朶に歯を立てて来る。  

 

「だいしょぶだって。ダーリンはゆっくり休んで。明日に備えててくんない? アタシは結構やること多くてさ」

 

「なにか、俺にもできること、無いか」

 

 するとメリーは先ほどのお返しとばかりに押し付けた尻たぶを揺さぶってくる。

 

 思わず声が出るところだった。

 

「あたしが欲しいのは「巣」だけだよ。誰かが居てくれる「巣」がほしいの。それだけでいいの」

 

 それでも心配そうな表情を崩さない青年に、メリーはフーッと息を吹きかけてくる。

 

 特に意味があるわけではないようで、顔を上げるとすぐにニカっと笑う。長い犬歯が扇情的に彼の交感神経をエグってくる。

 

「お互いを狙い合うバトロワならともかく、アタシは一方的に殴るのが仕事だからさ、実際に殴るまでは危険はないのよ」

 

「実際に、殴りつけてからは?」

 

「どうかなぁ。アタシと――てか、『ジェヴォーダン』とやり合える相手がどのくらいいるか、によるかなぁ」

 

 あくまで、あっけらかんと言う。

 

「ま、今日は英霊召喚ってのやるだけだし」

 

「さっき言ってた、バーサーカーか」

 

 そうそう。とメリーは言った。

 

「だから、先に寝といて。このままだとダーリン死んじゃうからさ」

 

「……寝れる気がしないな」

 

 未練がましく言うと、それはダイジョーブ。と言って身体を反転させて立ち上がる。

 

 そしてまた、臭い立つような自分の躰を見せつけるように、覆い被さってくる。

 

「ちゃあんと、寝かしつけてって、あ、げ、る」

 

 そして、長い二又の舌をべろりと人舐めすると「お休み」と続けた。

 

 青年の意識はそこで途絶した。

 




今後特に必要ない設定。

対して意味はないんですが一応置いときます。


「Enfants de la croix(薔薇十字の子ら)」と「ジョヴォーダン」


 「薔薇十字の子ら」は時計塔に与したくない英国嫌いのフランス魔術師で結成された魔術結社。

 「協会」の一部ではあるものの、時計塔に反抗的な態度をとる。

 ――が、規模も質も決して高いとは言えないため、そもそも相手にされてはいないという側面もある。

 彼らが頼りとするのが超戦闘武闘派魔術師の一門「ジェヴォ―ダン」である。

 とはいえ、本拠地がフランスにあるとはいえ、ジェヴォ―ダンにしてみれば、家門としてどこに与するかなど大した問題でもないため、用があれば時計塔に出向くし、別に反駁する理由もないと考える者が大半である。

 ご近所さんと言う意味で「薔薇十字の子ら」とは付き合いがある程度なのだが、薔薇十字の方が彼らを「切り札」や「懐刀」と考えたがる傾向にある。そんな関係。

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