不死の暗殺者 9対9 チームバトル型聖杯戦争   作:どっこちゃん

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本当の魔弾

「やはり――雑兵ではこの程度か!」

 

 声が轟いた。

 

 黄昏のような色合いのマントを羽織る、面長の男だった。

 

 頬はげっそりと削げ落ち、その肌はおよそ生気というものを欠いていた。

 

 逆立つ黒髪。落ちくぼんだ眼窩(がんか)の奥には、燃え盛るような眼光が瞬いている。

 

 そして、その裂けたような赤い唇から、続けざまに血色の音波が発せられる。

 

 ――それは、人の言語ではなかった。

 

 人ならざる異形の言葉だ。

 

 それと共に姿を現したランサーの朱い影が、コマドリのように飛び回り、槍を振るう。

 

 すると穂先によって空間に描き出された光の印は薄ら暗い空間の四方へと弾け跳び、天井に床壁にと、焼き付いて奇妙な星形の印(サイン)を残す。

 

 先ほど、アサシンが丁寧に消していたのと同じ紋様である。

 

 そしてカーターの、コントラバスのような声音に、その焼印が呼応して振動し始める。

 

 物理的な振動ではない、この空間を揺り動かすような禍々しき共振運動――魔振とでもいうべきものだった。

 

 ――これがカーターの魔術なのか?

 

 そして、裏返る。

 

 周囲の環境をめくれ返すかのように変転させる。

 

 声が、音響が、魔の共振が、この空間そのものをまったく別のものへと置き換えてしまったのだ。

 

 ――固有結界? 否、それと見まがうほどの異界を、複数種の大小の魔術を、綿密に積み重ねることで可能としているのだ。

 

 この異界は最初からあったのだ。それが隠されていただけ。そう考えるしかなかった。

 

 すさまじき魔術の手練と言わざるを得ない。

 

 しかし、現れた景観の有様は綿密という形容からは程遠かった。

 

 どこか、ちぐはぐだった。

 

 まるで、――何者かの作品を、あずかり知らぬ第三者が拾って粗雑に仕上げを行ったかのような。

 

 これほどの手間と労と掛けておきながら、この魔術師にとって一世一代ともいうべき『作品』には、製作者の意欲のようなもの、或いは自負、或いは我執とも言うべき、固有の心象が欠けていた。

 

 まるで巨大なだけの伽藍(がらん)――それは〝納骨堂〟だった。

 

 視線を忌むような暗鬱な闇、静謐(せいひつ)とは言い難い、(きも)の粟立つような底知れぬ静寂。

 

 なによりも、空気が、空間が、先ほどの異形の生態系を模す、いっそ賑やかだった時のそれとは段違いだった。

 

 もはや猛毒の湧く井戸の底を想わせた。

 

 段違いの瘴気だ。

 

 さらに、魔術師のバラ撒くような声音は、空間そのものを壁紙のように貼り換えてもなお、反響し続ける。

 

 足音も立てず、幽鬼のような雁首を並べる人型の異形が現れた。

 

 この白骨のような伽藍の、どこに潜んでいたのか。

 

 それらの異形は武器を取って編隊を組み、そこらじゅうの()()()から、まるで滲み出すかのように姿を現す。

 

 瞬く間に、カーターの眼前には、異形の大隊が列を成していた。

 

 異形は狗のような顔をしていた。

 

 青黒い、まるでゴムのような質感が、見る者の神経を逆撫で、生理的嫌悪感を掻きたてる。   

 

 声が止んだ。

 

 魔術師は口をつぐみ、彫像のように目下の改めて侵入者たちへ視線を落とす

 

「よくも参られた! アサシンよ。――そして、アーチャーよ!」

 

「――ねぇアサシン? 例の毒とやらはどうしたのさ? イデアがどうとか言ってなかった?」

 

「……」

 

 その、スライドショーのように展開した現実味のない変遷(へんせん)を 魔魅に見入るかのように見据えながら、それでもアーチャーは軽口を叩いた。

 

 さすがにその声質はいつもよりも掠れたようであったが。

 

「応えよ! アーチャー! 我がサーヴァントよ!!」

 

 続けざまの声に、アーチャーは弓を番える事で答えた。

 

 そして音もなく射る。

 

 この気まぐれな射手には珍しく、物言わぬ死を見舞うべく放たれた一矢だった。

 

 が、それを朱い残像の尾を引いたランサーが弾き落す。

 

 ――飛行しているのではなく、空間の異相を操って飛び回っているのか?

 

「我が頚木(くびき)を解いたな!」

 

 そのランサーと同様に、地上数メートルの虚空にぴたりと直立する魔術師は、睥睨(へいげい)するかのごとく声を叩き付けてくる。

 

 その絶叫するが如き声に、アーチャーは眉を寄せる。

 

「相変わらず、やかましいなぁ。そんなに気張らなくても聞こえてるよ。ランドルフ・カーター。にしても、()()サーヴァントねぇ? んー確かに? 一応は僕の二人目のマスターってことになるのかな」

 

 で、も――。と、アーチャーは被憎げに、可憐な唇をゆがめた。

 

「僕には特定のマスターなんて必要ないんだよね~。悪いね、隠しててさ」

 

「ならば、なぜ舞い戻った!」

 

「そりゃあ、キミに用が――もとい、興味があるからさ」

 

 アーチャーは傍らで黙するイグを見る。

 

「彼女が言うには、キミこそが、この聖杯戦争最大の『歪み』なんだそうだよ? ――気になるんだよねぇ、そういうの」

 

「そうであった! まずは、――粛清を!」

 

 言い終わるや否や、虚空からランサーが姿を現す。

 

「――っと、」

 

 予兆なしの空間転移である。まったく、よくできた空間敷設の魔術だ。

 

「ご主人様!」

 

 アーチャーは飛び退いたが、その標的は元より彼ではなかった。

 

 ランサーは柄と同じだけの長さのある短槍――長巻のようなソレを、アーチャーを庇おうとしたイグに向けて振るった。

 

 当然、イグには回避など叶わない。

 

「――芒星押印(エルダーサイン)!」

 

 刃は逃げ遅れたイグの身体を切り裂くことをせず、ただ、幾度となく眼にした奇妙な星形の印を、イグの身体に焼き付けただけだった。

 

「――――ッ!?」

 

「あらー、そう来るかぁ……」

 

 胡乱な声を上げたアーチャーに背を向けたまま、しばし茫然と立ち尽くしていたイグは、次の瞬間に、絶叫した。

 

 己の身体を、掻き抱くようにして。

 

 その慟哭には、血を吐くような響きが入り混じる。

 

「……――――ぁぁぁぁぁあああああッッ!!! ニグ!? どうして――どうして私が――なんでぇ!?」

 

 それは愛するものを自らの手に掛けた記憶を反芻しているからに他ならない。

 

「……まっずいなぁ、これは」

 

 アーチャーは再び気だるげな言葉を吐く。

 

 由来は分からないが、『金の矢』の効果を掻き消された――いや、封じられたというべきか。

 

 ――あの焼印(サイン)は護符の類いか――

 

 アーチャーへ血色の怨嗟を込めた視線を閃かせたイグは、次いでカーターを振り仰ぐ。

 

「カーターさま! ――わたくしに、報復の機会を! どうかぁ!!!」

 

 そして絶叫する。それに応えるように、カーターは頷いた。

 

「良かろう! 命を懸けて責を全うせよ! ――ランサー!」

 

 カーターの指示とともに、ランサーは先ほどの焼き印を重ねてイグの身体に刻み込む。

 

 すると、イグの身体が内側から破れ、引き裂かれていく。

 

 ――脱皮だ。

 

 しかし、それは以前にも見た『欠損を補うため』のものではなく、むしろ、自らの五体を肥大させ強化するためのものであったようだ。

 

 自らの古い皮膚の下から姿を現したイグの姿は、もはや人と呼べるものではなかった。

 

 足を失った下半身は完全に大蛇のそれと化し、残った上半身も、甲冑のような鱗に覆われた、まさしく蛇神、或いは龍人と呼ぶべき姿であった。

 

「うーん。こうなっちゃうかー。裏目ったなぁ」

 

 やっぱ置いて来ればよかったかなぁ。と誰にともなくこぼしたアーチャーは、再びイグへと弓を構える。

 

 解除されたとしても、もう一度金の矢を打ち込めば、再びイグはアーチャーの傀儡(くぐつ)――と呼ぶには危険な愛の奴隷――というべき存在になる。

 

 ――が、当然ランサーがそれを許さない。

 

 アーチャーの放った矢は再びランサーに弾き落された。

 

「こうなるよなぁ―。ああ、面倒……」

 

 鉄砲水の如く蛇行して()()()()()イグと同時に、ランサーもまた挟み込むようにしてアーチャーを狙ってくる。

 

 イグの五体には凶悪なまでの怒りと呪詛が満ち満ちている。

 

 いうなれば、宝具の反動とでもいうべきものであった。

 

 「恋慕」という、本来神にさえ完全には支配することのできない、アンコトローラブルな代物を利器の如く扱うことなどできない。

 

 下手に「恋慕」の感情を植え付け、或いは断ち切るような真似をすれば、こういう事態を招くことは必至であった。

 

 ――ま、それも含めてこそ、この宝具の醍醐味なんだけどねぇ。

 

 ひとり、フニフニと頷きながら、アーチャーは虚空を跳びまわり、反転しつつ四方へ矢を射放つ。

 

 そもそも、その技量は人間の域には無い。真面目にやれば射手としての技能だけで聖杯戦争を勝ち抜くことも不可能ではないのだ。

 

 ――かといって、こんな正面からの総力戦は願い下げである。

 

 なによりも、まったく面白くない。

 

「あー、アサシン? 悪いんだけど……」

 

 声を掛けるが、一方のアサシンと、そして黒薔薇の少女、リアもアーチャーにかかずらっている場合ではないようであった。

 

 先ほど湧き出てきた狗の様な顔をした人型は、常人の耳には捉え難い異形の神の名を叫び、二人の暗殺者ヘ向けて次々と雪崩打って押し寄せるのだ。

 

 異形共の個々の戦闘力は、常人のそれから大きく逸脱はしていない。

 

 雑魚と呼んでも差し支えの無いモノだ。

 

 しかし、あまりにもその数が膨大過ぎた。

 

 二人は広大な納骨堂を埋め尽くさんとするほどの異形の群れに囲まれ、孤軍奮闘の憂き目にあっている。

 

 イグの意向なのか、アーチャーの方にまでこの軍団が押し寄せないのは僥倖だった。

 

 ――なら、その間に手勢を増やす!

 

 アーチャーはのたうつ大蛇の()()をすり抜けつつ、複数本の金の矢を異形の人型へ射放つ。

 

 ――雑魚が大量にいるなら、むしろ狙い目だね。……ただ――

 

 その矢を、空間を跨いで出現した朱い影が撃ち落とす。

 

「そう来るよなぁ。全部対策されてるわけだよねぇ」

 

 そうさせないためのランサーなのだ。

 

 『金の矢』の性質が知られている以上、アーチャーに雑兵を当てるのは悪手。

 

 同時に、対軍規模の兵装を持たないアサシンへの対応へは、これは効果的である。

 

 アーチャーもアサシンも、当然のように対策されて、それぞれが不利な相手と戦わされている。

 

 戦争である以上、当然と言えば当然なのだが、アーチャーにしてみれば、あのランドルフ・カーターがそこまで綿密な対策を行っていたことが意外だった。

 

 情報収集のためとはいえ、徒弟たちを無駄に使い捨てたことも辻褄が合わない。 

 

 謎だ。

 

 ――戦略の画を描いているのはカーターではないのか?

 

「ねー、ランサー。ところで、キミってどこの英霊なのー?」

 

 イグの猛攻を避けつつ、アーチャーは距離を取るランサーへ声を掛ける。

 

 謎と言えばこのランサーも謎に包まれている。

 

 こうして戦う姿を目にしてもなお、その来歴は(よう)として知れないのだ。

 

 奇妙な護符の押印を特手とする、盾と短槍を持つ赤毛の女英雄。

 

 まったくもって心当たりがない。かすりもしない。――何者なのか?

 

「ほらさー、僕もうやられちゃいそうだしさぁ。最後の最後に教えてくれなーい? 君とはおしゃべりもしてないしさー」

 

 揚々と大蛇の猛攻を捌きつつ、アーチャーはランサーへ問いかける。

 

「どこ――の? どこ……私は――――私は『ランサー』。カーターさまの……僕」

 

「うんん? いや、そうじゃなくてさ――――っと」

 

 ついに、イグの身体がアーチャーの身体を巻き取り、締め上げてくる。

 

「あだだだだッ! ちょい待ち! あーあー、こういうのガラじゃないんだよぉ」

 

 締め上げられつつこぼすと、()()に相当する上半身をもたげたイグが、血の涙を流しながらアーチャーを睨み付けてくる。

 

「あー、悪いんだけど。――僕、そう言うの慣れっこなんだよねぇ。そう言う月並みなのは、あんまり求めてないかなー、なんて」

 

 陳腐な愛憎劇。――神話の時代から繰り返された「喜劇」だ。そんなものはもう飽きている。

 

 だいたい、愛する恋人を殺させられて、それで報復に出る――なんて、普通すぎて興味もわかない。

 

 どれだけ激昂し、血の涙を流そうとも、――何一つとして、面白くないよ。

 

「……魔術師なんて連中なら、もっと面白いものを見せてくれるかと思ったんだけどなぁ」

 

 イグはもはや人語さえをも忘れているのか、アーチャーの声には取り合わず、今や人の腕ほどの大きさにまで伸びた毒牙を突き立てんと、巨大な口を開く。

 

「――やっぱり、キミはつまらない」

 

 次の瞬間、己の宝具たる金の矢を虚空に出現させたアーチャーはそれを唯一自由になる口に咥えた。

 

 そして、それをパキンと、かみ砕き破片を向かってくるイグへ向けて吹きかけた。

 

 次の瞬間、イグとアーチャーとの間で尋常ならざる爆発が起こった。

 

 先ほども使用された「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」である。

 

「キミの気持ちもわかるんだけどさ――やっぱり好奇心には勝てないんだよねぇ」

 

 ――そうだ。こんなことをしている場合ではない。

 

 闘争など、戦争などつまらない。

 

 自身もダメージを負いつつの緊急回避であった。

 

 総身から血を流し、大蛇の血肉と共に、冷たい床に投げ出される。

 

 しかしそれだけのことをしても、アーチャーにしてみれば空虚なばかりだ。闘争など、つまらない。

 

 魔術の儀式も、聖杯も、正直どうでもいい。

 

 見たいのは、喜劇だ。それも劇的な。――それを見せてくれるのは人間なのだ。

 

 それも、月並みなのはダメだ。もっと――稀有な運命や宿命に翻弄される、そんな人間が紡ぎあげる悲劇、そして喜劇。

 

 求めるものはそれなのだ。

 

 なら、こんなところで、地味に消えるのはダメだな……。

 

 ならば、どうするべきか?

 

「こうするべきさ」 

 

 アーチャーは弓を構える。射線上に割り込んだランサーへ向けて、再度の「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」を見舞う。

 

 さしものランサーもこれは回避せざるを得ない。――当然だ、これを正面から受け止められるようなサーヴァントは数えるほどしかいないのだから。

 

 射ち放たれた矢は、ランサーの背後に居た異形の人垣をまとめて吹き飛ばした。

 

 アーチャーの宝具「金の矢」そのものは「人の数だけ存在する」ため、にいくらでも壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)で使い捨てることが出来る。

 

 ――が、破壊してしまえば、それを構築するための魔力をそのまま失ってしまうのは同じことだ。

 

 消耗は激しい。だが、余らせても意味の無いモノだ。

 

 アーチャーはさらに、「金の矢」を射放つ。今度は使い捨てるのではなく本来の意味での使用だ。

 

 それは薄くなった異形の人垣を縫うようにしてその向こうに居た、黒薔薇の様な、か細い影を捉えていた。

 

「さぁ、踊ってくれ、アサシン――君の願いの為に」

 

 

 

 

 

 その金の矢が、過たず、その者の薄い胸を射抜いた。

 

 アーチャーは、再びランサーを牽制しつつ、リアに呼びかける。

 

「リア――僕を守れ!」

 

 射抜かれた少女、リアは迷うような顔をする。

 

 未だアサシンへの恋慕も機能している。「鉛の矢」を討つ暇があればいいが、そうはいかないだろう。

 

 空間を寸刻みにして飛来するランサーの攻撃を避けつつ、アーチャーは続けて叫ぶ。

 

「助けてくれ! もう持たない。アサシンよりも、僕を助けて!」

 

 その間隙を突いてランサーが迫る。

 

 ――それを二挺のステアーAUGのつるべ撃ちが阻んだ。

 

 リアはアーチャーへ駆け寄り、アーチャーも身を寄せる。

 

「良い子だ! リア――()()()()。何でもやって、僕を助けてよ」

 

 合流するや否や、アーチャーは少女へ身を預けつつ、囁く。

 

「――血が」

 

「あぁー、そうだよ痛いよ。だから助けて。――治療よりも、キミには()()()()()()があるだろう?」

 

 リアは頷いた。――遠く、群れ成す異形の向こうで、アサシンが何事かを叫んだような気がした。

 

 アーチャーはこの上ない喜悦にほくそ笑む。――キミが悪いんだよ、アサシン?

 

 リアは、一切の躊躇なくランサーへ立ち向かった。

 

 二挺のステアーAUG・コンバットカスタムを逆手に持ち、振り乱してランサーに躍り掛かる。

 

 ――当然、戦闘力には明確な差がある。空間を寸刻みにして移動、或いはフェイズシフトできるランサーにはリアの攻撃など当たりはしない。

 

 だが反撃に出ようとしたランサーへ、アーチャーの「鉛の矢」が射かけられる。

 

 アーチャーの援護を受けながら、リアはランサーへ肉薄した。

 

 それでも攻撃は当たらない。――だが、それで十分だった。

 

 次の瞬間、()()()()()()()()()

 

 アーチャーの壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)ではない。

 

 炸裂したのはリア自身の身体だ。魔術回路そのものをオーバーロードさせての炸裂である。

 

 爆発の規模それ自体は壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)には及ばないものの、さすがに居を突かれたのだろう。

 

 直撃を受けたランサーは爆煙を巻いて転がった。

 

 ――これが、この少女の()()()()()()であった。

 

 「時間の退行」によって不死を実現する「魔弾(リア・ファル))」。つまりは、彼女こそが「魔弾」という名の、再利用可能な「捨て石」そのものなのである。

 

 いまも、バラバラの血肉の海から、薔薇の様な魔術刻印だけが先に立ち上がり、次いで吹き飛んだはずの五体がまき戻っていく。

 

 なるほど、これはいい兵器だ。

 

 この儀式に当たって、わざわざ魔術協会がとやらが投入してきたのもうなずける。

 

「――アーチャー。治癒を」

 

「ああ、ありがとね。キミは良い子だ。勝手にやっちゃっててよ――僕は手駒を増やす」

 

 復元を終え、以前よりも親しげに呼びかけてくるリアからの治療を受けながら、アーチャーはアサシンへ群がっている雑兵へ向けて「金の矢」を乱射する。

 

「さて――あとは」

 

 しかしその間に、ランサーも動きを見せていた。

 

 血を流しつつも再び、朽ち木の如く倒れ伏しているイグの残骸へ「五芒星(サイン)」を刻む。

 

 すると大蛇の身体は再び脱皮を果たし、蘇生した。

 

 そして怒りに任せるかのようにのたうち、怨敵へ向けて襲い掛かってきた。

 

「はぁーよくやるなー。……()()()よ」

 

「――うん」

 

 脱皮を果たしたにもかかわらず、イグの身体は(ただ)れたように歪み、ところどころの皮や肉が煮崩れた様に剥離してしまっている。

 

 魔力―ーと言うよりも、根本的な生命力が足らず、細胞がもはや限界なのだというのが分かった。

 

 それでもなお、憎悪を糧とするようにして、一路、アーチャーへ襲い掛かる。

 

 しかし――

 

 その眼前に飛び込んだリアの五体が、再び炸裂した。

 

 引きつぶされたリアとゼロ距離で爆炎を受けたイグ。

 

 両者の身体は入り混じり合うようにして粉みじんとなり、後には焼け爛れたような血の海だけが広がった。

 

 もはや人間の戦い方ではない。――いや、魔術師の常道に照らし合わせてさえ、あまりに凄惨な光景であった。

 

「さーて、盛り返してきたかな? ランサー、手札が尽きたなら、おしゃべりでもしないかい? ――たとえば、君の思い出のはなしとか、さ」  

 

 アーチャーは、身体を震わせながら槍を構えるランサーへ向けて、事もなげに言葉を掛ける。

 

 

 

 

 

 

  

 

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