不死の暗殺者 9対9 チームバトル型聖杯戦争   作:どっこちゃん

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四季を駆ける牙

 聖杯を安置してあった玉座が、蠢き始めた。

 

 周囲の地面を書き分けるようにして、せり出してくる。

 

 それは巨大な生き物であった。

 

 その生物が玉座としての役割を果たしていたのだ。

 

 陸に上がったクジラのようにも見えたが、それは眼も頭も見受けられず、ただただ肉の塊のごときものであった。

 

「さて、お仕事よ、ドクター。ヒヒヒン」

 

 小山のような肉塊をドクターと呼んだハイエンドキメラ・スラッグは、無数の馬足で肉塊を踏みしだく。

 

 すると、小山の様なそれはけたたましいまでの音波を発した。

 

 クジラの鳴き声のようにも聞こえたが、ある種の雄大に歌うようなソレとは異なり、この異形の発するのは紛れもない苦痛と怨嗟を孕んだ阿鼻叫喚の嘆きに違いなかった。

 

 ――悪辣!

 

 セイバーは無言のままに吐き捨てる。

 

 子細は知れずとも、おおよその事情は察することが出来る。

 

 あのキメラが何らかの形で造反を起こし、フィオンもまたそれに巻き込まれ、このような事態となっているのだ。

 

 ――無論、パスが途切れた時点で最悪の予想は立っていた。

 

 だが、これはその予想を超えて悪辣に過ぎる所業と言わざるを得なかった。

 

 英霊とともに伝説を駆け抜ける獅子へ、なんという所業! なんという仕打ちか!

 

 動きを止めたセイバーへ向けて、雑兵が大挙して押し寄せた。

 

 残っていたキメラたちだった。

 

 オルロックが死んだ時点で彼らへの支配力は低下している筈なのだが、しかし、彼らは以前にもまして死に物狂いでセイバーに向かっていく。

 

 その理由はキャスターの持つ固有スキル 獣人限定の「命令」のスキルである。

 

 そもそもは微塵のカリスマも持ち合わせていないキャスターが獣人を支配し、隷属させるためのスキルであった。

 

 もっとも、それだけでは微弱な効果しかないため、キャスター自身もマスクに仕込んだ特性の拡声器でその効果を底上げしていたのだ。

 

 しかし、もはやそんなものは必要ない。

 

 今やキャスターの小山ほどにもなった巨体こそが、あらゆる「獣人」をひれ伏させるための拡声器として作用しているのだ。

 

 スラッグはそのキャスターの上に据え付けられた玉座の上で、聖杯を片手に傍観する構えを見せているのである。 

 

「フィオン!」

 

 叫びながら、セイバーは襲い来る獣人の攻撃を受け止める。

 

 人型と化したことで、元来の膂力や敏捷性はそのままに攻撃の精度だけが格段に上がっているのだ。

 

 ――強い!

 

 先ほどの剣士――ハイエンド・キメラにも勝るとも劣らぬ力量を感じ取っていた。

 

 加減などしようとすればこちらがやられる!

 

 反射的に斬り捨てようとした――が、セイバーは再び刃を止めていた。

 

「フィオン――盟友(とも)よ……!」

 

 動きさえをも止めたセイバーは、そこで背後からの攻撃を受けた。

 

 敵影はない、しかし回りこんだフィオンの長大な尾が、まるで蠍の尾の如くセイバーを刺し貫いていたのだ。

 

 事実その尾の先には毒針が覗き、奇怪な毒液を滴らせている。

 

「――ぐッ」

 

 セイバーは膝を突いた。

 

 痛みよりも、流し込まれた毒よりも、なによりもその身体から力を奪うのは、自らの未熟さへの失意だ。

 

 斬るべきだった。このような仕打ちを受けた盟友が、生きながらえることを望むはずもない。

 

 だが、それでも共に戦い抜いてきた戦友を手に掛けることはできなかった。

 

 なんたる未熟! セイバーは無様に地を転がり、距離を取ろうとする。

 

 しかし、それを追いたてるがごとく、フィオンのたてがみが蠢き、矢のようになって射出される。

 

 撃ち出されてきたのはもはや体毛などとは言い難い大きさの、毒針の様な代物だった。

 

 地に突き立ったそれからも、先ほどのものと同じ、奇怪な色合いの内容液が漏れだしている。

 

 ――宝具!?

 

 セイバーはその針ではなく、漏れ出している何らかの毒液が、高密度の魔力で編まれていることを知った。

 

 フィオンがキャスターの宝具で獣人化させられているのだとしても、それで宝具に相当する武装を持つなどという事はあり得ない。

 

 これは――なんだ!?

 

 しかも、それをセイバーめがけて射出してきている。

 

 猛毒の宝具と言うのも、無論存在はするだろうが……

 

 その時、再び小山の様なキャスターが地をどよもすような音波を張りあげた。

 

「――――ぐ、ぅ!?」

 

 セイバーは、先ほどまで、ただの憐れな音響として認識できなかったそれを、意味として聞き取ることが出来た。

 

 曰く――獣たれ。獣となれ――

 

 その意味を知り、同時に、自らの身体が歪んでいるのを知った。

 

 人ならざるモノへと、変容しつつある。

 

 そう、フィオンによって注入されていたのは毒などではなく、キャスター「ドクター・モロー」の宝具「新世界へ、二重螺旋城の主より(ハローワールド)」そのものだったのである。

 

 その効果によって獣人化し始めたことで、セイバーはこのキャスターの命令に従わざるを得なくなってきているのだ。

 

 これがハイエンドキメラ・スラッグの選んだ必勝戦法である。

 

 相手を強制的に獣人化して、そして隷属させてしまえばいいのだ。

 

 使えるものは使うべきだし、何より手軽なのが良い。

 

 この素晴らしいアイデアに、スラッグは自画自賛する。

 

 なにしろ薬液さえ注入してしまえば勝ちなのである。正面から戦うなど馬鹿々々しい。

 

 これで相手を新たなる獣人として使役できるなら良し、出来なくても動きを止められればそれはそれでよし。

 

 このやり方ならば、アーチャーの矢が無くても大量の雑兵を操ることが可能になる。

 

 たとえアーチャーが消滅しても、キャスターさえ残っていれば問題ない。

 

 キャスター自身の宝具によって、キャスターの自由意志は奪ってある。

 

 もう〝お父様〟もいない。自分は自由なのだ。

 

 なんと完成された戦略なのだろう。

 

 スラッグは一人、虚空へ自画自賛を繰り返す。

 

 一方セイバーはぎこちないながらも動き回り、攻撃を躱していた。

 

 クラス補正として対魔力を持つセイバーはある程度はこの宝具の効果に抵抗することが出来るらしい。

 

 しかし、このままではいずれ討たれるのは必至であった。

 

 宝具を使用するなら、劣勢を覆すことは可能かもしれない。

 

 だが、それはフィオンを斬るという事だ。

 

 分っている。事ここに及んでは斬るべきだということは分かっているのだ。

 

 だが、己はそうまでして聖杯を求めるべきなのか?

 

 騎士としての名誉を傷つけてまで、そうする必要があるのか?

 

 ――いや。

 

 いや、そうではない。

 

 セイバー・ブルンツビークは自問する。

 

 騎士として、それでも譲れぬ誇りがある。

 

 正さねばならぬ悪がある。誓いを立てはずだ。()()()()()()()()()()()()()と。

 

 そして、それは我が盟友も同じだったはず。

 

 セイバーは逃げ回るのをやめ、フィオンに正対する。

 

「フィオン!」

 

 そして剣よりも、言葉でフィオンを迎え打つことを選んだ。  

 

 構わずフィオンは爪を振るう。

 

 長大な爪は堅牢な甲冑を貫き、肉を抉る。

 

「――ッ! ……思い出せフィオン! お前は、意にそぐわぬ命令に伏する哀れなケダモノではなかったはずだ!」

 

 セイバーはその丸太の様な腕にしがみ付き、重ねて言葉を掛ける。

 

 その間にも、セイバーの言葉を掻き消すように、汽笛のごとき大音量でキャスターが咆える。

 

 セイバーにも意味が理解できる。

 

 伝え来る意味は一つ「戦え」。

 

 ――「戦え」

 

 ――「殺せ」 

 

 ――「戦え、戦士よ。戦え、そして殺せ」

 

 その呪詛のごとき音波に、フィオンは身震いして、セイバーを振りほどこうと荒ぶる。

 

 だが、セイバーは叫ぶのをやめない。

 

「お前は誇り高き――我が盟友(とも)だ! 思い出せフィオン!」

 

 その間にも、背後からは雑兵たちが断間のない攻撃を仕掛けてくる。

 

 光り輝くようだったセイバーの甲冑は今や歪み、もはや用を成さなくなっている。

 

 身体中から血が吹き出し、その足元に血だまりを作っている。

 

「フィオン! 思い出せ! 己が気高き在り方を!」

 

 それでも、セイバーは叫んだ。

 

 騎士として、譲れぬ在り方がある。

 

 友を斬ることも、()()()()()使()()を放棄することも、どちらも拒否する。

 

 己の在り方を、一歩たりとも譲るつもりはない。

 

 剣に寄らぬ、意思表示であった。

 

「あいつ――アホよ。ヒヒン。もう、トドメ刺すよ」

 

 それを失笑混じりに嘲り、スラッグは足場になっているキャスターを踏みつける。

 

「フィオン。俺たちの在り方は同じはずだ。――己に恥じぬ、己で在ること!」

 

 不意に、フィオンの巨躯が動きを止めた。

 

 ゆっくりと、何かを思い出すように、首をめぐらせる。

 

「それが俺達の道だったはずだ!」

 

 そう、気高き神話の中の獅子のように。

 

 己に恥じぬ、己で在らんことを、騎士の誇りに誓ったのではないのか。

 

 何者にも左右されず、何事にも左右されぬ。他者にではなく、己が己に貸す責務。

 

 その重さを糧に、その険しさを(しるべ)に。

 

 共に歩む道だったはず!

 

 それを見失えば、それはもはやただのケダモノだ。

 

「俺達はそうではなかったはずだ! フィオン!」

 

 セイバーの言葉をかき消すかのように、再びキャスターの絶叫するような咆哮が轟いた。

 

 ――『殺せ』と。

 

 それを聞いたフィオンが、なにがしかの挙動に移ろうとした、まさにその瞬間のことだった。

 

 

 

 

 その咆哮に紛れるようにして、一匹の巨大な影が、虚空より飛来した。

 

 

 

 

「――うむ。良いタイミングだぞマスター。この上ない」

 

 それは獣だった。しかし、誰もが初めて見る獣だった。

 

『よっし。んじゃー、やっちゃえ、()()()()!』

 

 巨大な翼を有した猿だった。しかし、猿というには奇怪な姿だった。

 

 全身は深紅の外殻で覆われ、その間には金色の体毛が密生している。獣とは言うものの、金属質の外殻に覆われたそれは、むしろ自動自律型の機械兵器のようにも見えた。

 

 しかし、この場においてその詳細を探ることに意味はないだろう。

 

 問題なのはこの巨大な猿が、その姿にはまったくそぐわぬ可憐な声色で、背に乗せた男を()()()()と呼んだことであろう。

 

 巨猿の背に乗る男は、眼下に群れ成す獣の群れを見下ろし、これまた長大な槍を掲げ上げた。

 

「――四季を駆ける牙(スパルトイ・エポヒ)!」

 

 

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