不死の暗殺者 9対9 チームバトル型聖杯戦争   作:どっこちゃん

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スパルトイ推参。スラッグの最期

 それは大小の牙が組み合わさって出来た槍だった。

 

 それを構成する牙は、いかなる刃にもまして鋭利な、まさしく凶器そのものと見えた。

 

 尋常な獣のそれではない。ドラゴンだ。それは幻獣種の頂点たるドラゴンの牙に違いなかった。

 

 投擲された長大な槍は、手を離れるとすぐに分散し、飛来する。まるで夜を裂く流星群の如く。

 

「――我が宝具は時を駆ける! 一息に四季を(また)ぎ越し、(つい)には死の冬を見舞うものよ!!」

 

 投擲者――ランサーと呼ばれたその男は咆える。

 

 バラ蒔かれた散弾は、その場にいた全ての者の頭上へと、等しく降りそそいだ。

 

「まずは――発芽の春(アニクスィ)!」

 

 それは死の雨だった。光弾と化した牙は月下の兵どもを、敵味方関係なく引き裂いた。

 

 ――しかし、それだけでは終わらない。

 

「次いで――繁茂の夏(カロケリ)

 

 虚空からバラ蒔かれ、肉を穿ち地に散らばった『牙』は、そこから根を張り、繁茂し始めたのだ。

 

 それは薔薇のごとき樹木であった、その芽は、その幹は、その葉は、すべてが鋭利な牙で構成されており、触れるものすべてを掻き切り、切り裂きながら、見る見る間に伸長していく。

 

 それらはすぐさま人の背丈ほどにまで育成し、そして四方へ枝を伸ばした。

 

 そこに列を成す葉は棘は、やはり身も凍るような牙そのものであり、林立するそれらはもはや樹木とは呼べぬ代物であった。

 

 それは竜の牙が、骨が、そして爪が無造作に地面から生い茂る異形の(やぶ)を想わせた。

 

 さらに、その密生する凶器の(やぶ)は、うねる。

 

 動くのだ。徐々に、枝を戦慄(わなな)かせ、そしてすぐに振り乱し始める。

 

 長く、禍々しく伸びた凶器そのものの枝を振り乱すのだ。

 

 最初の弾雨による死を辛うじて免れた者も、この悪辣な追撃から逃れる術はなかった。

 

 異形の(やぶ)は執拗に踊り狂う。

 

 幼子が我が身の憤怒を表現しきれず、泣きわめきながら手足を振り乱すように、それらの樹木は狂ったように枝を振り乱す。

 

 徹底した無差別破壊であった。その場に集っていたキメラたちはそのことごとくが無残に引き裂かれ、辺りに散らばり血の海の一部と化していた。

 

 もはや立っている者など一人もいない。

 

 しかしそれらの牙の樹木は、もはや敵の姿がなくなったにもかかわらず、動くのをやめなかった。

 

 なおも苛烈に、輪転するギロチンの刃の如くうごめき、ついには互いをも打ち、薙ぎ払い、破壊していく。

 

 そして、最期にはそれら自身が破壊しつくされ、沈黙だけが取り残された。

 

「そして――結実の秋(フスィノボロ)

 

 魔なる真名は引き続く。

 

 破壊しつくされたのは小山のようだったキャスターも同様であった。

 

 幾重にも掻き毟られた肉塊はそのほとんどを挽肉に変えられていた。息があるかはわからないが、もはや生存が望めないのは明白であった。

 

 その時、その血の海となったキャスターの残骸の影から、一(ひら)の影が、スイ、と走った。

 

 スラッグである。得意の潜影(せんえい)能力によって、一人この場から逃れようというのだ。

 

 しかし、それを追う影があった。

 

 白い影である。

 

 五つの影が、凄まじい速度でそれを追っていくのだ。

 

「――――ッ!!」

 

 影の中から、何事かの悲鳴がこぼれ出た。

 

 白い五つの影、すなわち五人の戦士たちはそれぞれが手にした武器で、逃げ惑う影を的確に射抜いた。

 

 絶叫の様な(いなな)きが響き、まるで地面から染み出すようにして影から鮮血が溢れ出してきた。

 

(しま)いには――死の冬(ヒモナス)が訪れる」

 

 その光景を見届けたランサーは巨猿の背から舞い降り、そう結んだ。

 

 その足元には、いましがたスラッグを始末した戦士たちが(ひざまず)き、(こうべ)を垂れる。

 

 彼等の五体は、そのすべてが大小の牙で構成されていた。

 

 先ほど繁茂した樹木から、最後に生まれ落ちたのが彼らなのである。

 

 彼らこそ伝説に名高い牙の戦士『スパルトイ』である。

 

 

 スパルトイとは、ギリシア神話において「蒔かれた者」を意味する言葉である。

 

 テーバイの創始者として知られる英雄カドモスが、討ち取った竜の牙を地に撒いた事で生じたのが彼等スパルトイであるとされる。

 

 彼等は生まれついて屈強な戦士であったが、ふとしたことで事で互いに殺し合いを始めてしまい、最終的には残った五名だけがカドモスの従者として尽力したとされる。

 

 今しがた発動した宝具は、この時の逸話を余すことなく再現したものなのだろう。

 

 そして、当然その五人のスパルトイを率いる竜殺しの英雄こそ、この聖杯戦争において()()()()()()として召喚されたサーヴァント、カドモスである。

 

 

「首尾は上々といったところかな? マスターよ」

 

「つーか。上手くいきすぎて怖いんだけどね? なんかありそう」

 

 マスターと呼びかけられた巨大な猿は、地をどよもすようにして降り立ち、矢庭にその巨体を縮小させた。

 

 機械的な真紅の外殻は折りたたまる様にして消え失せ、姿を現したのは、みずみずしい肌も露わな少女であった。

 

 メリーだ。メリー・ジェヴォーダンだ。

 

 彼女の異端ともいうべき魔術については今は伏せよう。

 

 問題なのは、この聖杯戦争における大前提を加味するなら、彼女が連れているのはランサーではなくバーサーカーであるはずだった点だ。

 

 事実、彼女自身もサーヴァントの召喚を行うまでは、そのつもりでいたのだ。

 

 しかし、召喚されたのはランサー。

 

 ならば、あのランドルフ・カーターが引き連れていたサーヴァントは、何者だったというのだろうか?

 

「――ま、考えても仕方ないや。えーと、これでキャスターも撃破。あのオルなんたらって魔術師も勝手に死んでたし、何故か聖杯もそこにある――っと。やっぱ楽勝すぎない?」

 

 幼げな仕草で指を折るメリーに、ランサーは苦笑して見せる。

 

「気を散ずるでないぞマスターよ。足元を掬われる時の人間は、だいたいそんな顔をしているものだ」

 

「わーってるよ。いいから、聖杯確保してよ。それはサーヴァントの役目でしょ」

 

 ランサーは肩をすくめる。『おおせのままに』と、これも口には出さずに口真似だけをして見せた。

 

 反抗的というのではないが、このサーヴァント、どうにも口が減らない。

 

 皮肉屋と言うのか、物事を斜に構えて捕らえようとするきらいがあった。

 

 屈託(くったく)がない――というよりも屈託を(いと)性質(たち)のメリーは、早くも辟易し始めていた。

 

 こういう脂下がったような類いの男は好かない。もっと素朴で、素直な相手が好ましい。

 

 つまりは早くも、『彼』が恋しい。まだ別れて半刻も経っていないのだが。

 

 ――そうだ。思ったより早く仕事も終わりそうだし、後はダーリン連れて観光でもして帰ろっかな。結果の報告? そんなのあとあと――

 

 そう言って甘い空想にふける乙女の横顔を、横たわる死肉の間から炯々(けいけい)と燃える眼光が見据えていた。 

 

 

 

 

 

 ――なぜ? どうして?

 

 スラッグの内容を占めるのは疑問ばかりだ。

 

 彼は生き延びていた。彼の身体は、その大部分が無数の馬の脚で構成されている。

 

 頭と、影そのものともいえる外皮、そして馬脚の束。それがすべてなのだ。

 

 無数の脚と頭は、形のない影を介して繋がっているため、いざとなれば脚を切り離して死を偽装することが可能だった。

 

 だが、あの牙の戦士たちの攻撃が鋭すぎた。

 

 一体一体が他のサーヴァントとも遜色のない戦闘力を有しているのが分かった。恐ろしい。その波状攻撃を、しかもあの狂乱状態で受けたのだ。

 

 致命傷を避けるので精いっぱいだった。

 

 ほとんどの脚を失ってしまった。

 

 今では間抜けな竹馬の様な格好で、重い身体を引きずることしかできない。

 

 ――いや。それよりも問題なのは、キャスターが消滅することだ。

 

 まだパスは切れていない。あの巨体故にまだ息があるようだが、時間の無駄だ。

 

 どうすればいいのかわからなかった。

 

 キャスターの宝具のおかげで、彼らは人並み以上の知能を獲得していられたのだ。

 

 此度(こたび)の、キャスター及びオルロックへの反逆も、その知性あってのこと。

 

 心躍る謀略も、甘く(くすぶ)る姦計も、胸のすく下剋上も。

 

 すべてはこの知性あってものものなのだ。

 

 それが失われてしまう。

 

「――嫌! ひぃや! いやよ! バカになりたくない! バカになりたくないよぉ!!」

 

 暗がりでひとり、頭を抱える。

 

 どうして? どうしてどうしてどうして!?

 

 なんでこんなことになった? ――すべてうまくいっていたではないか?

 

 邪魔な〝お父様〟は排除した。

 

 後は余計なサーヴァントを始末して聖杯を手に入れ、知能を取り上げたキャスター(ドクター)を受肉させ、薬の力で群れを拡大、掌握する。

 

 巨大な帝国を作るつもりだった。自らが王として君臨するための。 

 

 それが、どうしてこんなことになる?

 

「どうしてぇ? ヒヒン! 嫌よぉ……うう」

 

「ふむ。――原因は、見通しが甘すぎたこと。そして、キミがこの世界と言うものを安易に見限りすぎたこと、だろうね」

 

 虚空へ向けたはずの、この世を儚む嘆きに、応ずる声があった。

 

 当然、スラッグはすくみあがる。

 

「キメラに知能を付け過ぎるというのも考え物だ。あまり人間に近づけすぎると、造反の種になる。キャスターへも、忠告はしたのだがね。――しかし良い経験になったよ。時として敗北は勝利以上のものを与えてくれる。今後に活かそうではないか」

 

 ――なぁ、息子よ。という鷹揚な声。

 

「――お!? ――お、おおとうさ……!?」

 

 声にならない呻きを返すスラッグに、その初老の男は、にこりと微笑みかけた。

 

 月光を背にするその姿は、いかにも自然で気負うこともなく、そして威風堂々としている。

 

 それこそが恐ろしかった。叱責が無いことが何よりも恐ろしかった。

 

「――さぁ、家に帰ろう。残念ながら、我々は聖杯に選ばれなかった。敗残者は去るのみだ」

 

 スラッグは声もなく絶叫した。

 

 それきり、彼を彼として認識するものは、この地上に皆無となった。永遠に。

 

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