不死の暗殺者 9対9 チームバトル型聖杯戦争   作:どっこちゃん

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決戦前夜。苦渋を舐めし男の決断

 剣戟は数えて五つ。むなしく響いて夜露に消えた。

 

 勝敗は決してしまった。決して力量が劣っていたわけではない。

 

 むしろ、まともな戦闘ならばセイバーがこの槍使いに打ち負ける理由は無い。

 

 だが、現に剣士は膝を屈している。

 

 無骨な鋼鉄に身を包む男だった。

 

 対するは美麗な槍と盾を持つ赤毛の美女。

 

 並び立つ威容、人ならざる佇まいに差異はない。

 

 力量の差ではないのだ。ただ、意味がない。これ以上切り結ぶ意味はない。

 

 彼にとっての聖杯戦争は決着してしまった。

 

 主を守れなかった彼に、これ以上剣をふるう意味はあるのか? 

 

 膝をついた騎士はそれでも立ち上がり、敵に斬りかかる。

 

 この手に剣がある限り、例え一(ごう)であろうとも力が残っている限り。それが矜持であると、言外に語るかのように。

 

 ――が、その剣閃を、轟くような声が押し留めた。

 

「止めるのだ! サーヴァント・セイバー「ブルンツビーク」よ!!」

 

 男だった。奇妙に背の高く、面長の男だ。分厚いマントを羽織り、双眸には人ならざる光を宿している。

 

 ――魔術師! この女のマスターか!

 

「もはや勝敗は決した。貴様のマスターは死んだ。あのアサシンの手によってな」

 

 無言のまま、甲冑の隙間から指す眼光が応える。

 

 それはあり得ない。――確かに殺したのだ。あの間者は確かに斬り伏せたのだ。

 

 まさか、それが起き上がってマスターを殺したというのか?

 

 ありえない!

 

「だが事実なのだ! セイバーよ。――仇を討ちたくはないか?!」

 

 断間を置かず、幽鬼のような目をした男はセイバーを、その声音で打つようにして問いかける。

 

「この魔術師「ランドルフ・カーター」の元へ下れ、我と共に、貴様の仇である「アサシン」とそして「キャスター」めを攻略するのだ!」

 

(あた)わず!」

 

 セイバーは一声に断じ、一刀のもとに魔術師を切り捨てた。

 

 たとえかりそめと言えども、一度は主君と認めた相手。騎士道に(もと)る行いだけは出来ない!

 

 ――が、矢庭にその姿は歪み、冒涜的な血しぶきと腐汁をまき散らしながら溶け崩れた。

 

「遅い。――もはや力が残っていないなセイバー。そんな有様ではこの細首一つ落とせはしない」

 

 追撃に転じようとしたセイバーを槍持つ乙女が、無言のままに打ち据えた。

 

 誇り高き騎士は再び膝をつく。――もはや魔力が残っていないのだ。

 

 魔力の供給を断たれたセイバーの身体は、放っておいても、朝露のごとく消えゆく運命でしかないのだ。

 

「止めるのだ、ランサーよ!」

 

 再び姿を現した魔術師が奇妙に戦慄くような声を張りあげる。

 

 ランサーと呼ばれた女は丈長のローブを(うやうや)しく(ひるがえ)し、怒号に従った。

 

 しかし、セイバーはもはや立ち上がることすらままならない。

 

「情けな話ではないか、断頭の雄よ」

 

「……」

  

 静かなる言葉は魔を孕んで騎士を打ち叩く。

 

 応答はない。罵倒には甘んじよう。だが決して――

 

「知りたくはないか、失態の故を! 斬りたくはないか、あのアサシンを!!」

 

 (かたく)なであった切っ先が虚空に惑う。それはただ一つ残された()()に他ならない。

 

「ならば、剣となることを誓うのだ――自死は許さぬ。サーヴァントならば潔く、剣戟の果てに潰えよ! 剣閃の露と消えよ!!」

 

「……」

 

「我が剣を執るのだ! ――ランサー、やれ!!」

 

 きらびやかなローブを翻した槍の乙女は、傍に転がっていた少女――セイバーのマスターだった()()から、令呪の宿ったままの左手を斬りおとす。

 

芒星押印(エルダー・サイン)

 

 謳うような美声が夜に囁く。そして、血に濡れる槍先にて虚空を掻いた。どこか、機械的な挙動だった。その軌跡が赤い光を帯びて、虚空に眩い紋を描き出す。

 

 奇妙な五芒星の印だった。それが虚空を這うようにして分解し、セイバーの身体を縛り上げた。

 

 同時に、転がった手首からは令呪が消失した。

 

 それが、戦慄きとともに自らの袖口を破り裂いたカーターの左腕部に転写されていく。

 

 そこには、すでに三つもの令呪が刻まれていた。

 

 これで、四つ目である。強制的なマスター権の譲渡。常道の魔術行使ではない。このランサーの仕業であろうか?

 

 鞍替えは成った! 魔術師は人ならざる声を轟かせ、獣が腹腔から讃美歌を謳うかのような音波を発した。

 

 歓喜の(うた)であった。

 

 セイバーはただ、剣を握りしめて新たなるマスターの挙動を見据えていた。

 

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