不死の暗殺者 9対9 チームバトル型聖杯戦争 作:どっこちゃん
倒れ伏したフィオンの巨体の下から這い出したセイバーは、一路、敵性マスターと思しき少女へ向けて疾走した。
ランサーと呼ばれたサーヴァントの宝具がさく裂したあの瞬間、セイバーへ止めを刺そうとしていたフィオンは、逆にセイバーを庇ったのだ。
そしてあの無差別破壊の渦中にあって、その身を呈してセイバーを守り抜いた。
事切れてもなお
フィオンに、
そしてそれにもまして、その命を無残に踏みにじったこの乱入者に対して、セイバーが抱く憤激は計り知れないものであった。
その憤怒を炸裂させるようにして、刃が振り下ろされた。
「マスター!」
瞬間的にそれを察したランサーが咆えた。
マスターの言動を注意しつつも、彼自身伏兵があるなどとは考えていなかった。
すべては己の宝具「
「――覚悟!」
相手は子女。故に一声をもって警告をした。
しかし、それだけだ。加減するべき状況でもなく、また加減できる状態でもない。
刃は、声に反応して呆けたような顔を向けた少女の、若枝のような肢体を袈裟懸けに斬り付けた。
――が、その刃は、止まっていた。
他の何者でもない、その少女、メリー・ジェヴォーダンの首元で止められていたのだ。
「ぃぃぃいっっっったいなぁ!? もう!」
刃は相応に食い込んでいる。しかし彼女の柔な肉体を防護する様に、金属めいた深紅の外殻が、その間に滑り込んでいたのだ。
それが、セイバーの加減のない一撃を受け止めていた。
瞠目する間もなく、反撃が来る。
その小さな腕は瞬時に金の体毛に覆われ、朱い外殻を伴って巨大な拳を形成した。
薙ぎ払うような一撃だ。
その間にも肥大化し続ける拳は、それ自体がセイバーの体躯をも圧倒していた。
「――あと、ビックリすんだろうが! ――このバカ!」
当然、それは回避したセイバーだったが、さらに別の方角より追撃が見舞われる。
「スパルトイ! そこな下郎を始末せよ!」
牙の戦士たちは、雪崩れ打ってセイバーに躍り掛かった。
セイバーは後退を余儀なくされた。
驚くべきはその一体一体が、セイバーに劣らぬ剣の技巧を有していたことであろう。
消耗の激しい今のセイバーには手に余る敵である。
「邪魔すんな! アタシがやる!」
血を見たせいか、メリーはその猫のような美貌を歪ませ、自らの五体を再び深紅の魔獣へと変容させていく。
「無理をするなよマスター。――と、言っても聞かんな。好きにせよ。補佐して進ぜよう」
「一々口に出すなっつーの! でもサンキュ!」
そして巨猿は月を背に、跳んだ。
真上からセイバーを狙う。力任せの一撃だ。
辛うじてそれを躱したセイバーが、余波だけで吹き飛ばされるほどの膂力である。
単純な戦闘力だけなら、明らかにサーヴァントを上回っている。
基本的に、魔術師であるマスターが戦闘力でサーヴァントを上回ることはない。――という聖杯戦争の定石を覆す、異端のマスターであった。
一方で血まみれで転がったセイバーは、起き上がるにも難儀している。
もはや余力がないのだ。
そもそもが魔力の供給を立たれ、弱体化している状態なのである。
この状態で、これほど規格外の敵を相手取るのは手に余る。
さらに、彼を遠巻きに包囲する様にして
逃げることさえ不可能。――もはやだれが見ても詰みと言うべき状況だ。
ランサーは、それを物語るかのような視線をセイバーに向け、しかし口を開く事は無かった。
何を言ったところで、凶相を浮かべる
セイバーとて理解している。
もはや独力でこれを切り抜ける力は、彼には残っていない。
しかし、それは
「……フィオン。
言って、セイバーは自分の
――ドクン。と、すぐに魔なる脈動が轟いた。まるで、遠雷のような。
それにランサーも、そして魔獣もが目を剥いた。
「――我が敵の首は、落ちよ」
セイバー自身、
それはフィオンが毒針を使ってセイバーに打ち込んできた
どうやら、あの破壊を受けてもなお、キャスターはまだ存命しているらしい。――本人にとってそれが良いことなのかどうかはわからなかったが。
セイバーにとって確かだったのは、それが
それを本来必要とされる分量を超えて打ち込むことで、無理矢理オーバードーズを起こしたのだ。
余剰の魔力が肉体の変化だけでなく、枯渇した魔力を埋め合わせる効果をも、もたらしたのだ。
一種の直観任せの賭けだった。だが、セイバーはその賭けに勝った。
「二十、三十、百万の首は、落ちよ!!」
すぐさまランサーとメリー、そしてスパルトイ達の首に、首枷のごときマーキングが出現する。
ランサーと魔獣は驚愕しつつもそれを破砕し、事なきを得た。
だが、狙いはこの両者ではない。
そのセイバーの一閃は、五体のスパルトイの首を過たず両断していた。
ランサーに指示を出す余裕がなかったことと、スパルトイ自身が自衛よりも攻撃を優先する自動人形のような判断しかできない点が功を奏した。
「チッ――構うか!」
魔獣が拳を振り上げて迫る。
しかし、今度はセイバーの方が、その拳を、片手で受け止めていた。
「――!」
ランサーが目を剥いた。
セイバーの五体は先ほどから比べて明らかに膨れ上がり、ボロボロになった甲冑の下からは、煌めくような獣毛が生えそろっている。
剣を握る手には鋭い爪が、尾てい骨からは尻尾が伸び、そして首回りには雄々しき
その姿は、先ほど相対した盟友フィオンそのれと瓜二つであった。
魔獣が再度攻撃を図るものの、掬い上げるようなセイバーの一撃がそれに先んじ、その巨体を軽々と吹き飛ばした。
その筋力も敏捷性も、万全なセイバーのをそれを超えているのだ。
如何に魔術師の規格を外れていようとも、いまや「超獣化英霊」と化したセイバーを相手に、メリーだけでは手に余る。
「退がるのだ、マスター!」
ランサーは咄嗟に手をかざす。
すると砕け散って地に散らばっていたスパルトイの破片がその手元に集約し、再び長大な槍へと戻っていく。
だが、いかにも遅い。
ランサーの誇る殲滅宝具「
言合わば三つの宝具をセットにしたような代物なのだが、本来三つの宝具を別々に使用する場合に比べて燃費が良いこと、そして種類の異なる三段攻撃を行うことで、敵勢の殲滅を徹底出来るというのが利点である。
さらに、使用した後も五体のスパルトイが強大な戦力として残るため、隙のない宝具ともいえる。
使いようによっては一手で聖杯戦争の趨勢を覆すことすら可能となる宝具だが、反面、一度使用すると再度の利用まで手間がかかってしまうことがデメリットと言える。
さらに、比較的燃費がいいとは言え使用には多大な魔力を必要とするため、宝具を使用した後のランサー自身が弱体化するという欠点もある。
しかし、本来なら、先制した時点で大半の相手は殲滅できるし、その後も強靭な
――だが、その万が一がこの場でランサーの首を絞めるととなった。
「我が敵の首は落ちよ――」
セイバーは再び宝具「
どれだけ魔力が、この獣化が持つかわからない。
それゆえの、その五体を燃やし尽くさんとするかのごとき宝具の連続使用であった。
なによりも、その気迫が 対峙するものを圧倒している。
「――おのれ!」
ランサーは奥歯を軋らせながら、再び出現した首枷を外す。
ランサーとて、既にこの宝具のカラクリは理解している。
しかし、理解していても、出現したマーキングを捨て置くことは出来ないため、それを外すために手間を取られる。
その隙をセイバーは見逃さなかった。一路魔獣へ斬りかかるように見せて、寸でのところで身をひるがえす。
通常ではありえない柔軟性であった。
そして、振りかぶっていたはずの大剣を、ランサーへ向けて投擲したのだ。
「――くぁあッッ!?」
ランサーはひり付くような声を上げた。マーキングを外そうとする隙を突かれたのだ。
無論、彼とて英霊、咄嗟のこととは言えそんなものを野放図に受けることなどあり得ない。
ただ、次いで飛来した
セイバーは大剣を投擲すると同時に、四足で地を駆っていたのだ。
自らの槍を手に戻しつつ、もう一方の手でマーキングを外し、さらに飛来する大剣を躱したランサーには、この予期せぬ追撃に対応するだけの猶予が無かった。
爪はランサーの首を抉り、弧を描いて鮮血で夜を彩った。
「ケ、ケダモノ――め、この……」
恨み言を言い終わることもなく、ランサーはさらなる連撃を受けて地に伏した。
「ランサー!?」
魔獣は、自らの巨体を持て余すようにして、セイバーを追う。
しかし、これもまた、遅い。
いや、その巨体にしてはかなりの敏捷性を誇ると言っていいのだが、それでも獅子と化したセイバーの電光石火に追いすがるには、あまりに鈍重すぎた。
魔獣は吠え、身体中の外殻を『展開』した。
すぐさま、金属質の外殻は近代兵器さながらの威容を持つ武装へと変換された。
同時に、体中の外殻が折り重なって厚みを増し、生きた要塞とでもいうべき形態へと変貌を遂げる。
特に、首回りの装甲はひたすら強固に固められた。
自らが投擲した大剣を拾ったセイバーは、そのすさまじいまでの威容を前に、しかし一切の躊躇なく、突貫した。
「我が敵の首は落ちよ――」
三度、魔獣の首へマーキングが出現する。
しかし、魔獣はこれを看過する。
『来るなら来い!』
セイバーの膂力が獣化でどれほど増強されているのだとしても、その一撃、耐えきって見せる。
その覚悟をもって、魔獣もまた前に出る。
全身の兵装が火を吹いた。
外殻を変形させての砲火弾幕である。
あのハイエンドキメラ・アーセナルのそれと比べても格段に強力な兵器群であった。
――が、それはセイバーの踏み込みの速さを前に、
『速すぎる!』
自らの加速度を橋頭堡として、セイバーは跳んだ。そして大上段からの断頭が見舞われる。
「――ひとつの首は、落ちよ!!」
『けど、いいよ。来るなら来い!』
対して、自らを要塞化した魔獣は回避を取らない。むしろ攻撃を耐えた後で相手を捕まえればいいだけである。
――捕まえる?
メリー・ジェヴォーダンはそこで初めて疑問を持った。ようやく、持ったというべきか。
セイバーの宝具のキモは「遠隔斬撃による断頭」である。
相手の首を斬るのに、自らが接近する必要などないのだ。
それが、敢えてここまで近付き、さらには自ら剣を打ち込もうとする行為。その意味。
まずい! ――と思った時には、もう遅かった。
大上段から打ち下ろされた断頭の一撃は、分厚い装甲を断ち切りながら内部にまで食い込んでくる。
だが、それだけなら問題ない。どれだけ強力でも、上から打ち下ろされるだけなら。
問題なのは、その大上段からの打ち下ろしと、全く同じ斬撃が下からも来ることであった。
宝具によってコピー&ペーストされた斬撃である。
虚空へ向けた斬撃をコピーするのではなく、大本の斬撃とコピーされた斬撃を同じ首へ、それも全く正反対の場所へ見舞うという所業であった。
乾坤一擲の斬撃に挟みこまれた首には、当然逃げ場がなかった。
「――――ガッ……」
断末魔のあがる暇もなかった。
まるで巨大なペンチに挟まれた金属パイプが、ぼろりと切断されるような――そんな光景だった。
――断頭、成れり。
音もなく、巨体が倒れ伏す。
魔獣の首を刈り取ったのを、しかし振り返ることもせず、セイバーもまたその場に膝を突き、そして倒れ伏した。
惨劇の終幕にあって、動く者はもはやなく。ただ、ただ月だけが、それを静かに見下ろしていた。