不死の暗殺者 9対9 チームバトル型聖杯戦争   作:どっこちゃん

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英雄の卵

 アサシンが異形の掌にて、バーサーカーの心臓を握りつぶした瞬間のことだった。

 

 その瞬間、禍々しい傷口の一端を切れ目とし、一気に大気が、空が、空間が裂けた。

 

 花咲くような、或いは蝶が羽化するような光景だった。

 

 世界が徐々に捲れあがり、反転する。

 

 夜が昼に、青が赤に、清浄が汚泥へと。

 

 見る見るうちに裏返っていく。

 

 あらゆる物理法則が、あらゆる生態系が狂っていく。――否、新しい秩序に塗り替えられていくのだ。 

 

 それは新しき世界の到来であり、同時に古き世界の終焉だった。

 

 煌めく汚泥のごとき虚空は、世界を侵食しながら同時にすべてを呑み込んでいく。

 

 

 

 

 

 思えば――おかしかった。

 

 なぜ暗殺者である己が、このような拷問めいたことを始めた?

 

 すべては、あの()()()()()()()()()()()()だったのだ。

 

 あらゆるやり方で()()()()()()煽り、それを糧として生み出した狂気を、世界に向けて伝播させること。

 

 おのれの狂気の世界を一つの「神話」として現実のものとすること。

 

 このサーヴァントはそのためだけの、その()()を実行するためだけの、装置の様なものだったのだ。

 

 そして、自分はこのサーヴァントの思惑に、乗ってしまったのだ。

 

「――リア、逃げろ。このまま、ずっと先まで――」

 

 逃げてくれ。オレの分まで――。

 

 聞こえるはずもない言葉を叫びつつ、アサシンはその亀裂に掻き消えた。

 

 如何に不死であっても、身体ごと呑み込まれた以上は再生も叶わない。

 

  

 

 

 

「行け」

 

「――え?」

 

 月だけが彩る丘に、両者が投げ出された直後のことだった。 

 

 アサシンは再びボロ雑巾のようになった己の身体を宝具で置換しながら、言った。

 

 その負傷はライダーの強襲によるものだったが、リアには事態を把握できなかった。

 

「なんで……私は平気なのに……」

 

 ただ、その尋常ならざる衝撃から、アサシンが身を挺して自分を庇ったのだということはわかった。

 

「痛いのだろう」

 

「……?」

 

「時間を巻き戻せるとしても、痛いのだろう?」

 

「……うん。たぶん……でも」

 

 時間そのものを巻き戻してしまうのだから、苦痛の記憶があるわけではない。

 

 リアにとっては、それは記憶ではなく記録でしかない。

 

「なのに、それをやらせるのは非道だ。……そうだろう?」

 

 アサシンは独り言のように言って、身を起こす。

 

 その総身は、もはや人間としての部分の方が少ないほどに、異形のそれに置き換わってしまっている。

 

「……アサシンは、痛い?」

 

「ああ。痛かったし、辛かった。気分が悪かった。そしておぞましかった――ずっとそうだった。そうだった、はずだ」

 

 生前は、そんな事を感じなかった。きっと感じるという機能を、切り取られていたのだろう。

 

 だが今は、今だから、それがどれほど非道なことなのかも理解できる。

 

 不条理の極みともいうべきアサシンの宝具『異想反魂(ザバーニーヤ)』だが、その使用には人語に尽くせぬほどの苦痛とおぞましいまでの嫌悪感を伴うのだ。

 

 それも当然である。生身の人間の器官を生きたまま別の生物のそれに置き換えようというのだから。

 

「じゃあ……なんで」 

 

「その話はもういい。行くんだ」

 

 アサシンはリアの言葉を待たず、再び告げた。

 

「……どこへ?」

 

「遠くへ、だ」

 

「アサシン……?」

 

 リアはわからないというように細い首を傾げ、労わるように、アサシンへ触れようとする。

 

「行け! 逃げろ。今は好機だ。結界は消え、アーチャーも死んだ。お前がここにいる理由はない」

 

 しかしアサシンは自らに触れようと伸ばされた少女の手から逃れるようにして身を引く。

 

 今のうちに、災禍の届かぬ場所まで逃げろ、とアサシンは告げる。

 

「――そんな! アサシンは!? どうして一緒に行かないの!?」

 

「まだ、やることがある。残りの手勢を始末し、あのオルロック・オルフロストも排除する」

 

「なんで一人で!? ……わからない……私一人で、どこへ……どうして……」

 

「……たのむ」

 

 しばしの時を置いてアサシンが絞り出したのはそんな言葉だった。

 

 リアは訳も分からず、身体が戦慄くような気がした。

 

「たのむ。……行ってくれ」

 

 言葉で無く、身体を強張らせるようにして、それに応える。

 

 アサシンはまた、頭を撫でてくれた時のように手をあげようとして、しかし手を止めた。

 

 その両腕が、もはや人間のそれではなかったためであろうか。

 

 その代りに視線を合わせるようにして屈みこみ、まだ無事な左目で、リアを見る。

 

「たのむ」

 

「……あとから来て。……絶対に来て」

 

 ――独りにしないで。

 

 むずがるように言って、リアは屈みこんだアサシンの首に抱き着いた。

 

 いや、それはそんな生易しいものではなく、生まれて間もない獣が、必死に何かにしがみつくような、そんな切実な行為だった。

 

「それは置いていけ。……目立つ」

 

 手を離したリアは言われたとおり、背負っていた二挺のステアーAUGを足元に置く。

 

「魔術師でなく……魔術とも怪異とも、かかわりのない人間として、振る舞え。魔術の使用は出来るだけ控えろ……」

 

 アサシンにも、リアにとってもこの地はゆかりの無い場所だ。頼れる相手などいない。

 

 リアはこれから、自分の力だけで生きていかなければならない。

 

 そう、言外に語る様にして、アサシンは何度か頷いた。

 

「アサシン……」

 

「行ってくれ」

 

 言葉を探すようにして唇を震わせるリアへ、アサシンは背を向けた。

 

 

 

 

 

 もっと、何か言うべきだったのではないか、と思う。

 

 何度も足を止めようと思った。

 

 だって、何処へ行けと言うのだろうか?

 

 訳も分からず、当てもなく、ただ、行ってくれと言われて、さまよう。

 

 さんざん迷って、さまよって、結局、戻ってきてしまった。

 

 やっぱり納得できなかった。

 

 言わなければならないことがあるような気がして。

 

 そして、再びこの月光だけを彩りとした瓦礫と死だけが転がる丘に、彼女が舞い戻ってきた時。

 

 その時、空が割れるのを目撃した。

 

 ――どうして!?

 

 そんな! ――どうして!?

 

 それがなんなのかなど、当然わかるはずもない。ただ、アサシンの身に何かが起こったことはわかった。

 

 そんな。だって。ついさっきまで。

 

 リアはひび割れて、じりじりと広がっていく虚空の亀裂を見上げながら、膝を折った。

 

 そして、茫然とその孔を見つめる。

 

 直観的にわかった。

 

 アサシンはあの中だ

 

「――アサシン!」

 

 無意味な呼びかけをする。

 

 無意味であり、なによりも致命的に遅すぎる呼びかけだ。

 

 言葉が出てこなかったのだ。物心ついてから、彼女は誰かに自分の思いを伝えた記憶がない。

 

 記録にさえ残っていない。

 

 どうして、駄々をこねなかったのだろう?

 

 命がけで要求しなかったのだろう?

 

 一緒でないと意味がないのだと、どうして知り得る限りの言葉で伝えなかったのだろう?

 

 死んではダメだと、念を押さなかったのだろう?

 

 文句を言わなかったのだろう?

 

 そして、思い出す。

 

 それまでただの、穴だらけの記録の羅列にされてしまった人生の中で萎縮してしまっていたもの。

 

 ソレは意思であり、感情だ。

 

 あまりにも長い間、誰にも汲み上げてもらえなかったソレ。

 

 萎縮しきって、機能を失いかけていたソレ。

 

 アサシンから遅れて、アサシンに続く様に、『お前には不要だ』と断じられ続けてきたソレを、いま彼女はようやく自覚するに至っていたのだ。

 

 それは「人間性」と呼ぶべきもの。アサシンが守ろうとしてくれたものだ。

 

 しかし、今やそれがリア自信を責め(さいな)む。 

 

 喜びや、親愛だけでなく、怒りや悲しみや悔恨の奔流となって、急速に見失っていた自分自身の核のようなものを浮かび上がらせて来る。

 

 あまりの衝撃に、リアは細い身体を捻じ曲げて悶える。

 

 それをどう出力していいのかわからない。

 

 どう言い表していいのかわからない。

 

 ぼろぼろと、いつ以来になるのかわからない涙がこぼれた。

 

 しいて言うなら、彼女は怒っている。

 

 言いようもなく、怒り、憤っている。

 

 ――なにが「行ってくれ」だ!

 

 勝手だ。あまりにも勝手じゃないか。

 

 勝手に助けると言って、勝手にそんな事を言って、おかしいじゃないか。

 

 ――()()だって言ったくせに。

 

 私と同じなら、どうして自分を切り捨てようとするのだろう?

 

 アサシンは、助けられるリアを見て満足なのかもしれない。

 

 だが、リアにとっては逆だ。切り捨てられるアサシンを見て、リアがどう思うのかを考えないのか?

 

 まるで、リアがアサシンを切り捨てて、犠牲にして、生き残るかのようだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 そんなことを、誰が頼んだというのだろう!?

 

「……う、くぅ……う、うううううううっ!」

 

 思わず、夜露に濡れる地面をたたく。やみくもに、がむしゃらに。

 

 感情を持て余す幼子のように。

 

「それは、私の願いじゃない――アサシンの勝手な願いだよ。わたしは、わたしだって……」

 

 あえぐように、ただ虚空に言葉を吐き洩らす。 

 

「わたしにだって、」

 

 

 

『――大丈夫か?』

 

『――うん』

 

 

 

 あの時、ランサーの空間転移によってアサシンの元へ落下した、あの時。

 

 リアとアサシンの間に交わされた言葉はそれだけだった。

 

 だが、それが全てを決した。

 

 アサシンが向けてくれる()()が、アーチャーへのそれとは、まるで違うのだということが、瞬間的に理解できた。

 

 すべてはそれのおかげではないか。

 

 なら、どうして自分にもそれを、()()()()()()を守らせてくれないのか!?

 

「わたしにだって、なにかさせてよ、アサシン……」

 

 思い出させてくれたのは、アサシンだ。アサシンの人間性だ。

 

 なのに、それを踏みにじって生きろというのか!?

 

 こんなにも大事で、かけがえのないものを。

 

 ようやく取り戻したはずのをそれを、どうして投げ打つような真似をするのか。

 

 

 

 

 

「ああ――ったく。やらかしおったなアサシンの奴め」

 

 そこへ、巨大な影が、音もなく姿を現した。ライダーだ。

 

 リアは、ただうなだれるようにして、横目でライダーを見た。

 

 殺されるかもしれなかったが、彼女は今それどころではなかった。

 

「娘、貴様はアサシンのマスターか? とにかく頼みがある。出来るだけこの辺りから人を逃がせ」

 

「――どうして? 知らない。私は……」

 

「おん? なんかのぅ。ずい分機嫌が悪そうだな。まぁ、アサシンめは消滅したからな。無理からんことやもしれんが――だが嘆くのは」

 

「泣いてない! ――それで、泣いてるんじゃない……」

 

 そう言って、癇癪(かんしゃく)でも起こすように()()()、リアはまた新たに涙をこぼした。

 

「おいおい、言っとることとやっとることが――――いや、言うまい。娘子にはよくあることよな。ただ、ワシも手が足りんのだ」

 

「……なに、する気なの? ……あなただって、もう消えそうなのに」

 

 すると、ライダーはリアに負けじとでもいうように、唇をへの字に捻じ曲げる。

 

「――ハッ! 言われんでもわかっとるわい! そんでも、やらんわけにはいかんからのぅ! あの孔を、何とかせにゃあならん」

 

「……なんで?」

 

「そりゃあ、アレは放っておけば、この世界の全てを呑み込んじまう可能性がある。どこまで広がるかはわからんが、とりあえず今のうちになんとかせねば成るまい」

 

「……だから、どうして?」

 

「あん?」

 

 今度はライダーの方が、野太い首をかしげて見せる。

 

 リアは言いたいことがある様に口を開くのだが、肝心の言葉が出てこない。

 

「どうしても何も、このままでは無辜の民にまで被害が出ることになろう。そうなっては夢見が悪いわい」

 

 ――夢見が悪い。

 

 リアははっとして、まなじりを開いた。

 

「それ!」

 

「それ? ――それとはなんだ? なにが言いたい?」

 

「……わたしも、それ! ……だって、何にもできないまま、アサシンに、ただ、勝手に助けられて、すごく……嫌な気分。わたしが、アサシンを踏み台にしたみたい。そんなのおかしい。だって、わたしもアサシンも、私たちをそうしてきたヤツラと同じになんて成りたくないんだから!」

 

 そうだ。それに彼女は憤っているのだ。

 

 アサシンがやったことは、アサシンを使い捨ててきたヤツラと、リアを使い捨ててきたヤツラ。そいつらと()()()()()()()()()()()()ということなのだ。

 

「……何も変わらない。それじゃ、何も変わらない。このままじゃ何も変わらない!」

 

 言って、リアは自分の身体を()き抱く。そして痩せた身体を震わせる。

 

 強い怒りと、嫌悪感に。

 

 一方、感情を吐露し始めた少女を前に、ライダーは何とも言えない顔で、困惑するしかなかった。

 

 まったく事情が窺えない。

 

 しかし、今はこの少女の言うことを事細かに聞いてやっている時間はないのだ。

 

「別に何でも構わんが、一応頼みはしたぞ」

 

 そう言って、そそくさと戦車を進めようとする。

 

「……まって!」

 

「おいおい、なんだ!?」

 

「そのままじゃ何もできない。――もうスカスカなのに」

 

 ライダーの巨大な戦車(クアドリガ)が音も、気配すらなく動いているのは、もはやそれを構成する魔力が残っていないからだ。

 

 ライダーには「単独行動」に類するスキルは備わっていない。

 

 マスターを完全に失った時点で、もはや消滅は免れない運命なのだ。むしろ、ここまで活動できたことが僥倖と言うべきかもしれない。

 

「だぁから、急いどるんじゃろうが」

 

「……私も行く」

 

「あのなぁ。娘」

 

「アナタが手伝ってくれるなら、なんとかできるかもしれない」

 

「そりゃあいいが。なぜおまえまで命を懸ける?」

 

「……夢見が、悪い……から」

 

 すると、ライダーは豪笑した。

 

「そんなわけがなかろう。ワシが民を救えなくて夢見が悪いのは、ワシが英雄だからよ」

 

「…………英雄」

 

「そうとも。だから、ワシらは勝ち目が無かろうとも立ち向かわねばならなん。ああいう理不尽にな」

 

 ライダーは空のひび割れを四角い顎で指し示す。

 

「……自分が死んでも?」

 

「そうとも。だからのぅ、娘。自棄になっとるなら、やめて」

 

「迷惑だと思う。そういうの」

 

 リアが言い切った言葉に、ライダーは改めて、射るような視線を向ける。

 

「娘! なぁにが言いたい!」

 

「アサシンも、アナタも、迷惑だと思う。そんなことされても、それでどうしろっていうの!?」

 

「ああん? アサシンがどうし」

 

「なんで、他人のために死のうとするの!? 勝手にそんなことされても……迷惑だと、思う……」

 

 すると、ライダーはこれまた太い眉をあげた。

 

「ほほぅ? あの間者が、ワシら英雄の真似事とな。――こりゃ可笑しい!」

 

 そして、ガハ、と笑い飛ばす。

 

「嘘か真か判じようもないが、それが本当なら、あんがい気骨のあるヤツだったと見直すところだがのぅ」

 

「だから、なんで」

 

「可笑しいのはお前もだな娘。なぜそんなことを気に病む? ワシらはそもそもサーヴァント、魔術師にとっては使い捨てが前提のものだろうに」

 

「私は、そんなことしたくない。――したくなかった。アサシンは私の気持ちが分かるはずなのに……なのに」

 

「ふむ。サーヴァントならずとも、英雄と言うのはそう言うものよな。誰とも知らぬ他者の為に何かに立ち向かい、そして死ぬ。まっこと、民にとって都合のいい存在やもしれぬ」

 

「……けど、私は、」

 

「それが許せぬというなら、――うむ! 娘よ、貴様は民ではない!」

 

 断言されて、リアは首をひねる。――正直、自分がなんなのかなんて、見当もつかない。

 

「うむうむ! ならば良かろう。――――娘! 乗るがいい。死出の旅になるやもだが、随伴を許そう!」

 

「……」

 

 これまた勝手に話を決めてしまうライダーに憤然としながら、リアは戦車に乗り込んだ。

 

「さて、それでは改めて聞こう。何か策があると言ったな?」

 

「それより、私が民じゃないなら、なんなの?」

 

 するとライダーは戦車を虚空へ舞い上がらせつつ、大笑した。

 

「決まっておろうが! この世の理不尽をとことん許せぬというなら、素養は十分! ――貴様は()()()()と言う訳よな!」

 

 

 

 

 

「……英雄って、私が?」

 

「応とも。要するに貴様は悔しいのだ。アサシンの間違いを正せぬ、おのれの弱さがな」

 

「……でも、あなたはアサシンを見直すって」

 

「うむ。ワシにとってはさほど間違った行いとも思えぬ。哀れに思った女子供の為に死んでみせるは、まさしく英雄の花道よ。――だが、貴様はそう思わんのだろう?」

 

 リアは頷く。

 

「それでよいのだ。英雄の数だけ許せぬ道理もあるというもの。そして己の道に準じてこその英雄よ。それぞれに譲れぬ道をもつ。だからこそ、こうして英雄同士でしのぎを削るということもある」

 

「……道とか、わからない、……けど」 

 

「間違いがあると思うなら、自らの行いで正せばよいということだ。――して、あれをどう捌くつもりだ?」

 

 戦車は、じわじわと周囲の空間を侵食している巨大にして奇怪な孔に近づいていく。

 

 穴が広がる速度は遅く、また孔自体が移動するようなそぶりも見えない。――だが、何があるかは誰にも予想できない。

 

「……あなたがやったのと同じこと。()()()()()()()

 

「ふむぅ?」

 

「私の魔術刻印を全部使えば……、なんとかできるかもしれない」

 

 すると、リアの胸元に染め抜かれていた黒薔薇が、まるでホログラムのように彼女の手の中に浮かび上がる。

 

 そして、その花びらが、一枚、また一枚と散り始めるのだ。

 

「貴様……それは、」

 

「私の体内の時間を巻き戻す魔術。私に許されてるのはそれだけ。だから、私の魔力と魔術回路も全部使って、()()をわたしにの体内だって誤認させる」

 

「それで巻き戻す……か? なんだ自爆するつもりか? やっとることがアサシンと一緒ではないかのぅ?」

 

 揶揄するような声に、リアはキッとライダーを睨み返す。

 

「だから、あなたが助けて」

 

「ガハハハッ! 大した作戦じゃのぅ」

 

「……出来ないの?」

 

「さてな。ワシの宝具も時を巻き戻すが、結果を変えられるもんではない。最後には元に戻る。いわば、一時(いっとき)限りの無敵の盾だ」

 

「……つまり?」

 

「あの孔に突っ込む! そして貴様が事を起こす間、ワシの宝具で貴様の身を守るというところか」

 

「……あなたは、どうするの? あれは……」

 

「応とも、いわば猛毒の沼よな。だから、戦車は止めず、走り抜けることになる。一瞬の勝負だ」

 

「……わかった」 

 

「なんだ、怖気づくかと思ったがのぅ!」

 

「やるって言ったのはわたし。――わたしは、()()()()()()()()()()()()()やってみる」

 

 するとライダーは再び呵呵大笑し、戦車を、汚泥のごとき黒き渦が逆巻く孔へ向けて戦車を着地させる。

 

 ここから、この巨大な四頭立ての戦車(クアドリガ)を真っ直ぐに突っ込ませようというのだ。

 

「やはりキサマは英雄の卵であったわ。伯父御が居たら見せたかったところよ!」

 

「おじ……?」

 

「こっちの話だ。――さぁ、用意はいいな」

 

「いいよ。――やって」

 

 リアの魔術回路が、オーバーフローし始める。同時に摘出された魔術刻印が、巨大な漆黒の薔薇の蔓めいて、彼女の身体を包み込み始める。 

 

時のたぎり瀬(テリコ=クリロノミア)!!」

 

 そして、三度疾走するライダーの極大宝具が、黒雲を撒いて汚泥のごとき虚空の孔へと突貫した。

 

 

 

 

 

 

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