不死の暗殺者 9対9 チームバトル型聖杯戦争   作:どっこちゃん

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エピローグ

 

 ――ロンドン

 

「や、ダイジョーブじゃね―し。もうちょっとで首なくなるとこだったつーの」

 

 時計塔からはやや距離を置いた、とあるテラスであった。

 

「キミも災難だったね。それでどうかね? 本場のスコーンは」

 

 合席するのは、がっしりとした初老の男だった。

 

 そこにあったのは、聖杯戦争で確かに死亡したはずの魔術師オルロック・オルフロストの姿であった。

 

「ボッソボソ。なにこれ」

 

 そして、同じテーブルに着いているのはメリー・ジェヴォーダンである。

 

 剥き出しの艶めかしい足をテーブルの上に投げ出し、スコーンの食感に顔を歪める。

 

 オルロックは苦笑いしながら肩をすくめた。

 

「で? それよりも、なんであんたが生きてんの? アタシ、あんたの生首が転がってんの見たんだけど?」

 

「キミも、同じように首を落とされたそうじゃないか」

 

「アタシは間一髪かわしたんだよ。こう……亀みたいに? でもそっちはそんなんじゃないでしょ? 幻影? とは思えなかったけど」

 

 メリーはあの瞬間、魔獣形態の首を残して本体の首を体内へ移動することで難を逃れていたのだ。

 

 断頭の呪いを欺けるかは賭けだったが、セイバー自身が魔獣の首を落とすことに集中していたことと、あの時使用されたのが単一の首を対象とする「対人宝具」あったため、彼女は九死に一生を得ることとなった。

 

 あの時使用されたのが「対軍宝具」の断頭であったなら、今頃は彼女の首も繋がってはいなかったかもしれない。

 

「ふむ、正解だね。アレは紛れもなく私で、その身体は完全に破壊されて間違いなく絶命しただろう。――だが、アレは、というかこの身体もだが、これは本体ではなくてね」

 

「ハァ?」

 

 オルロック・オルフロスト。

 

 規格外とも呼ばれるその能力の全ては、実際には生まれるはずだった彼の双子の弟を事前に摘出・加工した増幅装置と概念的に結合しているからこそ可能なものであった。

 

 外部ユニットとして加工された「弟」は12メートルほどの肥大した胎児のような形をしており、自我のようなものはない。

 

 その肥大した肉体が保有する膨大な量の魔術回路をブースターとすることで、初めて彼の能力は発揮される。

 

 そもそも、特に突出した所の無い平均的な魔術師でしかない彼が、「時計塔の巨人」たりえているのはこの弟の存在合ってのものなのである。

 

 さらには、この弟に自身の人格その他のバックアップを保存できるため、外で動き回っている「オルロック」が死んでも、弟の細胞から新たに「オルロック」を再生することが可能なのである。

 

「『オルフロスト』と言うのは姓ではなく、弟の名なのだよ。それと繋がっているからこそ、わたしは『オルロック・オルフロスト』だという訳だね」

 

「……聞くんじゃなかった」

 

 その解説を聞いたメリーは、うえぇ……と声まで出して口に含んでいたスコーンを炉辺に吐き出した。

 

 礼儀がどうのと言うレベルの話ではないが、オルロックもまた取り合わない。

 

「敬意を払うつもりで明かしたのだがね?」

 

「さんざん化物だとか言ってくれるけどさ。ジェヴォーダン(うち)より、よっぽど化物の巣窟だよね時計塔って」

 

「魔導を歩むもの故の()()、と言うものだろうかね」

 

 オルロックはそういって紅茶を飲む。両者は言葉を切った。

 

「で? 結局聖杯はどうしたのさ。アンタがもってったんでしょ?」

 

「はて? ロードは君が獲得したとばかり思い込んでいるようだがね? 私も叱責を受けてしまったよ」

 

 なぜか少々楽しそうにそんな事を言うオルロックにメリーは白けた視線を向ける。

 

 この怪物に面と向かって文句を言える奴などいるとは思えない。いたとしたら、それはコイツと同様のバケモノだけだ。

 

「アタシの一番の仕事は時計塔(あんたら)の横っ面をひっぱたくことだったからね。そこまでは仕事に入ってないの」

 

 メリーがわざわざロンドンまで出向いていたのはロードからの審問を受けるためであった。

 

 しかし、本来審問をうけるほどのこともない。参戦し、戦い、脱落した。それだけなのだ。

 

 にもかかわらず、ロードは回りくどい表現で聖杯の行方を吐かせようとしてきた。

 

 そしてこのオルロック・オルフロストも聖杯の行方を知らないとのたまう。

 

 なんの冗談だ? メリーは鼻白むばかりだ。

 

「案外、我々の知らない勝者がいたということかな?」

 

「でも、マスターだった魔術師(やつら)はみんな死んでんでしょ? アタシら以外」

 

「よって我々はお互いを疑いあっているわけだ」

 

 ハッ! と、少女は鼻を鳴らす。

 

「アタシはマジでどうでもいい。話がそれだけならもう行くよ。朝っぱらからおじさんと(話)してばっかで胸焼けしそう」

 

 ハタから聞かれたら眉を顰められそうな物言いで笑って、メリーは席を立った。

 

「……ひとつ思い当たるとすれば、私は()()()()()()()()()()()()を一つ紛失してしまってね」

 

「? だから?」

 

 オルロックが最期に投げかけた言葉に、メリーは首をひねる。 

 

 それを鋭く見定めるように目を細めたオルロックは、そこでまた表情を緩めた。

 

「いや、そのことでも叱責されてしまってね。参ったという話だよ」

 

 だからなんで嬉しそうに言うんだか……。と、メリーは大げさに眉を肩をすくめる。

 

「あーそりゃご愁傷様。じゃ、アタシはダーリンが待ってんでね♡」

 

 メリーは合いの手も待たずに駆け出し、姿が見えなくなるまで止まらなかった。

 

 それを見送って、オルロックは息を吐く。

 

「……ジェヴォーダンでもないとすると、自律したのか。自分の意思で聖杯を執ったと。いやはや……」

 

 物事と言うのはわからないものだ。

 

 ロードはあの備品――魔術師殺しの殺人人形も、聖杯諸共にジェヴォーダンが持ち去ったと考えているようだが、そうではないということだ。

 

 まったく最期の最期で、面白い展開になったものだ。

 

 さて、本来なら疾く、回収のための手勢を手配するべきだが……。

 

「まぁいい。私もしばらくは休養しようか」

 

 その休養の間ぐらいは口をつぐんでおいてもいいだろう。それが礼儀というものだ。

 

 なにせ自分は敗者であり、彼女は勝者なのだから。

 

 ――さて、あの人形が聖杯を手に何を始めるのか。

 

 想像もつかない。だからこそ、面白い。

 

 ひとりごちて、オルロック・オルフロストは ぼそぼそのスコーンをクリームいっぱいにして口に運ぶ。

 

「これが美味いんだがなぁ」

 

 苦笑いしながら、そう言った。

 

 




 これにて終了となります。

 あとがき等は来週アップしますので、よろしければお待ちください。
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