不死の暗殺者 9対9 チームバトル型聖杯戦争 作:どっこちゃん
連れてこられたのは頭の禿げかかった男だった。
年のころは30半ばと言ったところか。とにかく見るも無残な有り様の男った。
いい年をして就労もせず、日がな一日型遅れのパソコンに張り付くばかりで、何をするでもない男であった。
家族からも無用のくずと切り捨てられた廃棄物でしかない。
それが、その男が今、この異様な空間で一糸まとわぬ姿のまま、俯ている。
なぜこんなところにいるのか、本人にもわかっていない。
ただ
なんの期待か。生まれて初めての生殖、性交、SEXへの期待である。
なぜなのかはわからない。しかし、事実として、目の前にはかつて妄想し続けてきた以上の美麗極まりない、淫蕩極まりない、蠱惑極まりない女体が立ち並んでいるのだ。
事の仔細などどうでもよかった。元より未練のあるような人生でもない。かなぐり捨てることに何の迷いがあろうか。
女たちは一様に長い黒髪で、奇妙な黒い未のような装束を纏っていた。といってもほぼ全裸と言っていい程度のものであったが。
皆、肥満で矮躯の男よりも、皆頭一つは背が高い。
男は歓喜する。目の前には丸出しの乳房が並んでいるのだ。自分の顔ほどもあろうかという豊満なそれにしゃぶりつく。
舐めまわし、吸い上げ、乳飲み子のように目を閉じる。すると、女たちはにこやかに男を受け入れ、四方を柔らかく香しい乳房で囲い込んでみる。
何処を見ても白くすべすべとした、柔らかな肉、肉、肉。夢幻だ。揺蕩うような幼き日の幻影の中にいる。
男は夢中で泳ぎ回る、この乳房の海の中を全力で掻き這いまわる。快楽の果てに力尽きるまで。
終始にこやかな女たちは皆、絶世と言っていいほどの美貌を携えている。
だが、なぜか奇妙なことにその女たちは、皆まったく同じ顔をしていたのだった。
同様の男たちは次々に迷い込んでくる。ふらふらと歩み来るうちに衣服は脱げ落ち、皆、裸だ。
なべて醜い容姿の男たちだったが、それを迎え入れる同じ顔の女たちは嫌な顔一つせず、その異臭を放つ体をまさぐり、舌を這わせ始める。
男たちはそろっては処女のような悲鳴を上げた。しぶくような汗を流しはじめる。
発汗が止まらない。快感は想像を絶して高まっていく。
脳内麻薬が無限にあふれ出し、あらゆる老廃物が体中から搾り出されていく。
もはや目の前にあるのが何なのかは判然としない。それでも、その白く、暖かで、柔かく、香しいそれにしがみつく。
腰を振り乱す必要すらない。内壁はひとりでにうごめく。まるで無数の舌が生えているかのように。舐めまわされ、種を蒔くことしか考えられない。
それらは今まさに脱皮しようとする蝉の幼虫を思わせた。
ぶよぶよとダブついていた駄肉が、禿げあがっていた頭皮が、醜くただれたようだったアトピー持ちの皮膚が、なべて厚く、固く変化していく。
女たちがうごめくたびに、その硬い皮膚――否、殻がが剥離し、剥がれ落ちていく。
羽化するのだ。脱皮だ。古い皮を脱ぎ捨てたそれらは、もはや肥満と腋臭と禿頭に悩まされる無価値な男たちではなかった。
揃って透き通るような肌とあどけない容姿。手足は細く。まるで少女のようであった。
生まれ変わったような、いや、確かに生まれ変わったのだ。
歪で理不尽な圧生を乗り越え、彼らはたどり着いたのだ。
あとはひたすらに甘い蜜を舐め、野放図に精を撒くことだけを考えて生きる生が待っている。
古い殻を脱ぎ捨てた彼らはもはや自立するともできず、女たちに抱き抱えられて運ばれていく。
もはや現状の把握などどうでもよかった。究極の快楽の中にいるのだという認識だけがあった。
立つことができない無垢の支配する五体に反し、その陰茎ばかりは以前の三倍にまで膨れ上がり、蜜のような粘液を滴らせている。
快楽が物理的に濃縮されているかのようだ。
その、男たちがこぼす濃密な粘液で満たされた容器があった。
大きさは定かでない。大き目のバスタブほどにも見えるが、見ようによっては25メートルプールほどのあろうかとも思われる。
そこへ、それ自体が精子の塊のようになった男たちが投入されていく。
つるりと、つるりと、滑り込むように、そこへ落とし込まれていく。
認識は変わらない。ただ終わらない快楽があった。粘性の高まりすぎた精液がはじけるように迸る。
もはや呼吸の必要すらなかった。
その内容物らは、それ自体が快楽を求めてうごめき、自他を無限に
快楽が、体液が、認識が、自我もが、生命もが均一なスープとなるまで混ぜ合わされ、そして幾重にも
つまり、薪だ。薪なのだ。ここに投入される男たちは、サーヴァントを生かし続けるための火を維持するための薪なのだ。
しかし、この異常ともいえる光景を前にしても、誰も立ち去ろうとはしない。
それほどに、この香しい蜜は甘いのだ。
命を投げ捨てても構わないと思えてしまうほどに。
そしてまた一人、骨も何ないほどに肢体をとろかされた「薪」が淫蜜の「炉」にくべられる。
精が、命が噴き出す。炉は生命のジュースを攪拌するように燃え盛っている。
その光景を、高い位置から見下ろしつつ、相睦み合う女たちの影があった。
バルコニーのように突き出した寝所であった。女は二人。蛇のような鋭い目をした女と、そして下で淫蕩極まる作業に従事する女たちと同じ顔をした、豊満な白い肌をした女であった。
両者は対照的であった。
男の理想を体現したかのような肢体は香しい粘液に濡れ光る。
熱く火照り、淡い燈火に照らされるそれはあたかも……それ自体が、華美なる性器であるかのように思われる。
そこに、まるで機能美の結晶であるような、蛇のような女が乗っている。
それは極大化された性交部位を思わせた。
花咲くような光景であった。
「そろそろ、行かないとな。――出陣だ」
蛇のような女が言った。素晴らしく鍛え上げられた肉体美も、肉薄する艶女とは対照的だ。
「……でも」
「仕方がない。いつかはこうなる。わかっていたことだ」
むずがるように、艶女は密着させた身体をよじる。これだけでも並みの男は性を放って気絶することであろう。
顔こそ同じだが、下にいる「模造品」とは、あらゆる意味で違った。
女はニグと呼ばれていた。無数にいる自分の分身たちを「産んだ」大本なのである。四人いるランドルフ・カーターの徒弟のうちの一人であった。
サーヴァントたちへ供給する魔力を集め、また諸所の雑用一切を受け持つのがその役目である。
この燃え盛る淫蕩と生命の「炉」はそのために誂えられた魔導器なのである。
もう一人は、イグと呼ばれる、蛇のように鋭い目つきをした美女であった。ニグとは対照的な、明らかに戦士としての素養を持つ女であった。
出陣とはつまり彼女のことを言っているのである。もうじき始まる、最終決戦に向けて。
「でも、イグ。私わからなくなるの。カーターさまはなぜ根源を目指すのかしら? どうやってそこへ行くつもりなのかしら? 私、いつも思い出せないの」
「考えなくていい。私のニグ。私たちは考えなくていいの。ただその時まで、役目を果たす。それだけ」
「役目って何のことだったかしら?」
「これのこと」
そういってイグはニグの唇に吸い付き、口を塞いでしまった。
女たちは再び快楽をむさぼり始める。寸刻を惜しむように。
あの「炉」に自らをくべられないことを惜しむかのように。
だが、そうできない訳が両者にはあった!
すべては聖杯のため、始祖たるランドルフ・カーターの悲願成就のため!
暗鬱な、そして途方もなき空間には、ただ、「炉」の燃え盛る音だけが響き続けていた。