不死の暗殺者 9対9 チームバトル型聖杯戦争   作:どっこちゃん

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新世界へ、二重螺旋城の主より

『はようせんか! はようせんか! お前たちはもう獣ではないのだぞ!! まったく……もっと()()()()の自覚を持たんか!』

 

 広間であった。晴れた夜空の下、だだっ広い空間に円卓といくつかの椅子が据えられている。

 

 テラスか何かだろうか? 

 

 否、そこはかつて重厚な檻が並べられていた場所であった。

 

 ここは本来、広大な敷地に幾多の生物を展示する遊楽施設、つまりは動物園であったのだ。

 

 しかしここはもはや動物園などとは呼べない。

 

 全ての檻は、本来飼育に必要なすべての施設は撤去されていた。

 

 もはや陸の孤島と化したこの場所には、檻を必要とする動物など一頭もいないのだ。

 

 全ての檻は尋常ならざる力によって捻じ曲げられ、或いは森の樹木のように突き立てられ、或いは小山のように詰み上げられていた。

 

 均一に均された広大な敷地には縦横に塹壕が掘られ、それら奇怪に捻じ曲げられた檻の残骸によ防塁壁が張り巡らされていた。

 

 陸の孤島は今や要塞と化していた。

 

『敵はスグにでも来るぞ! まったくまったく! どいつもこいつも!』 

 

 そこでせわしなく動き回っていた複数人の男女に、異常な音量の機械音声をぶちまけている男がいた。

 

 キャスターである。

 

 殊更に矮躯の男で、年のころはよくわからない。

 

 なぜなら、その顔は不釣り合いな大きさのゴーグルと防護マスクのようなもので覆われているからだ。

 

 さらに、このマスクには手製のスピーカーのようなものが内蔵されているらしく、キャスターのキンキンとした金切り声を何倍にも増幅してくれるものだからたまらない。

 

『まったく! まったくなっとらん! まるで人間らしくならん!』

 

 キャスターは常々、この分厚い革製の防護マスクから突き出した、()()()のようなものをキリキリといじりながら、まるで館内放送よろしく悪態をつく。

 

 人・獣を問わず、だれものがこの耳をつんざくような癇癪グセには辟易していた。

 

「落ち着かれよドクター。台無しだ。せっかくの月が」

 

 この鋼鉄の要害、その中核と化したこの場所に鎮座していた四つの影の、うちひとつが告げた。

 

『わかっとるわ! ――まったく口が減らん!!』

 

 キャスターの罵声にも動じることなく、それらの影は思い思いに声を上げる。

 

「たしかに、よい夜だな。月が明るい」

 

「もふ? わかるのかにゃー? 目も無いのにー」

 

「見えるとも。皮膚で月の光を感じる」

 

「ヒヒヒン。明るいのは嫌いよ。隠れたい隠れたい」

 

 流暢な声音だ。しかしそれらはただの獣人ではない。

 

 ――キメラだ。それもハイエンド。最上位個体と呼ばれるキメラたちである。

 

 その周囲でキャスターの罵倒を受けている使役獣たちとは一線を画す存在であった。

 

 此度の聖杯戦争において敵性サーヴァントに対抗するための最高戦力。つまりは切り札だ。

 

 

 

 

 

「ドクター。〝お父様〟をお連れしましたよ」

 

 そこへ鈴の音のような声が響いた。キャスターの怪鳥じみた害声とは全く対照的な玉響(たまゆら)であった。

 

『む!』

 

 衆目が集まる。そこへオルロック・オルフロストは現れた。

 

 魔術師は白いドレスの美女に誘われ、月光の降り注ぐ鉄の森を抜けて歩みだしてくる。

 

 すると、それまで思い思いの姿勢で座していたキメラたちが一斉に膝を突き、頭を垂れた。

 

「お父様」

 

「御父上様」

 

 と、そう口をそろえ、(ひざまず)く。

 

 彼らを〝人間〟に「進化」させたのはキャスターの宝具だが、彼ら自身を生み出したのはこの魔術師、オルロック・オルフロストなのである。

 

 オルロック・オルフロスト。その起源属性は「結合」。キメラ作りへの適性も、この属性故のことであろう。

 

 しかしその特性自体はあくまで凡庸なものであり、特異な能力は有さず、平均的な魔術しか持たない。

 

 にもかかわらず、その魔力量、知能指数、魔術回路と言ったあらゆる能力がバランスを保ったまま「魔術師」の臨界に達しているとされ、これを超えるにはどこかの部分で逸脱するしかないとまで称される。

 

 人呼んで「時計塔の巨人」。それがオルロック・オルフロストという魔術師であった。

 

「皆、顔を上げなさい。ドクター、いよいよですか」

 

『――うむ。物見から連絡が入りおった。奴ら、動くぞ!』

 

 キャスターはガチャガチャと喚きながらオルロックの元へ歩み寄った。

 

 すると何処からともなく、ひそやかな笑い――嘲笑が漏れる。

 

 まるでネズミのようなキャスターの矮躯は、堂々たる体躯を誇るオルロックの前では、おどける道化のようにしか映らないのだ。

 

 しかし、当のキャスターだけはそれに気づかない。そもそも自らの立ち振る舞いにまで気を配る習慣がないのだろう。

 

 さも当然のようにマスターであるオルロックの脇に並び立ち、胸を張る。それが再び嘲笑を招くとも知らず。

 

「話は聞いた通りだ。いよいよ相手方は本格的に攻め入ってくるらしい。――さて、息子たちよ。我々はどうするべきかな?」

 

 オルロックは跪く息子たち、ハイエンド・キメラに語り掛ける。

 

 その鷹揚な声は喜劇じみたキャスターのそれとはいかにも対照的で、まさしく王侯の言葉にふさわしい響きを孕んでいた。

 

「当然。迎撃。そのための我ら」

 

「もふふふ。待ちくたびれたにゃ~」

 

「ヒヒヒン、恐ろしい恐ろしい」

 

「問題はどこで迎え撃つか、でありましょう。お父上殿」

 

 キメラたちは口々に声を上げる。

 

 対するオルロックは言葉よりもなお雄弁な笑顔でそれに応えた。

 

「迎え撃たずともよい。お前たちは自由に戦場を駆け、自由に敵の首魁まで詰め寄るのが良いだろう」

 

『し! ――しかし、マスターよ! それでは守りが……』

 

 途端に、キャスターが不安そうな声を張りあげる。

 

 キリキリキリキリ。忙しなくマスクの()()()をひねる様は、見るからに小心者の相だ。これでは侮られるのも仕方がない。

 

『雑兵をいくら集めても英霊を阻む壁にはならん! こ奴らでなければ……』

 

 キャスターの宝具「新世界へ、二重螺旋城の主より(ハロー・ワールド)」で人間化された獣はキャスター同様、英霊としての属性を得る。

 

 ただし、この宝具それ自体になんらかの特異な効果やスキルを付属する機能は備わっていない。

 

 あくまで人間として知性と外観、そして英霊としての属性を得るに留まるのである。よって、動物をただ人間化したところでサーヴァントに対抗できるハズもないのだ。

 

 例えいくら数を揃えても、ただの人間や半獣では意味がない。まったく聖杯戦争には向かない宝具だといえた。

 

 故に、戦闘用の獣が必要だった。例えば人為的に作り上げられた戦闘用キメラだ。その突出した戦闘機能に、人間の知能と、サーヴァントの属性を与える。

 

 そうして初めて、このキャスター「ドクター・モロー」は他のサーヴァントに抗しえる力を得ることになったのだ。

 

「守りは、キミに一任しよう。――アサシン」

 

 しかし知将としての側面も持ち合わせるオルロックは、ここに一計を案ずる。

 

 巨躯を誇るオルロックに輪をかけて長大な影が姿を現した。

 

 サーヴァント・アサシンである。

 

『ア、アサシンを守備に使うというのか!?』

 

「攻めこそが守りたりえることも、ままあるのですよドクター」

 

 オルロックはアサシンを振り返る。

 

「相手は英霊。まず本隊は真っ直ぐにここを目指して来よう。それには我が息子たちが正面から当たる。ただ、」

 

 アサシンはただ無言で言葉を待つ。後頭部までを覆うヘルム状のドクロの面が、微動だにせずオルロックを見据えている。

 

「相手方にも、その本隊の陰に隠れ、ここへ忍び込んで来ようとする手合いがいることだろう。君には――それを迎えうってほしい。暗殺者の思考を知る君にしか出来ぬ役目だ」

 

「――承知」

 

 アサシンは一言だけ、そう応えた。――いや、それ以外に何を言えたというのだろう?

 

『で、――では行くのだァ! 我が居城に入りこむ死にぞこないどもに、我が研究の成果を見せつけてこい!』

 

 キャスターが、また音量調節をミスったような怒声を張りあげた。

 

 しかし、ハイエンドキメラ達はキャスターではなく、あくまでオルロックに対して礼を取り、一斉に踵を返す。

 

「それでは、わたくしも参りますわ」

 

 ここまでオルロックを誘った白いドレスの女も、他のハイエンドキメラたちの後に続いた。

 

 オルロックは再び鷹揚に頷いたが、キャスターは渋い顔をした。

 

 やはりか……と言わんばかりの顔だ。顔が見えなくてもこの科学者の機嫌は周囲に筒抜けであった。

 

 完璧な人間――否、人間以上の「女性」に変態できるこの少女を手放したくないのだろう。

 

 彼にとっては研究の集大成と言ってもいいのだ。

 

 しかし、事ここに至ってはそう言う訳にもいくまい。

 

 彼女もまた、彼の陣営が要する()()()()()()()なのだから。

 

「ああ。少しだけ待ちたまえ。最後に、わたしから贈り物をしておこう。アサシン。私の命に従う限り、十全以上の機能を発揮できるよう」

 

「……御意」

 

 オルロックの身体から、膨大な魔力が迸った。令呪による機能ブーストだ。

 

 決して必須の使用法とは言えないが、基本戦闘能力に乏しいアサシンにとっては決してバカにならない使用方法だといえる。

 

「そしてお前たちにも、だ」

 

 アサシンへ令呪を使用した後で、オルロックは言い放った。

 

「――なんですの?」

 

 白いドレスの女が、そして先を行く4体のキメラたちが総じて振り返る。

 

「お前たちにも「令呪」のブースト効果を与えておこう」

 

 この発言には、誰もが目を剥いて驚愕を露わにした。――聖杯戦争の常識に照らし合わせるなら、当然あり得ないことだ。

 

『――――な、なにをしおった!? マスターよ!?』

 

「私なりにこの儀式に調べておりました。その過程でこの令呪についても調べてみたのですよ。そして、魔力さえあれば複製することも()()()()()()()ので、研究ついでに拵えてみました」

 

 こともなげに、この魔術師は言ってのけた。言葉を掛けられたキャスターは重ねての驚愕に声もない。

 

「もふふふ。すごいにゃ~、お父様!!」

 

 もふもふとした毛並みの、少年のような獣人が声を上げる。

 

「素晴らしいです。さすがはわたくしたちのお父様……」

 

 白いドレスの女も頬を綻ばせ、他のキメラたちも口々に賞賛を述べた。

 

「さすがに人数分しかないが、お前たち全員に一画ずつ、全機能のブーストとして使用しよう。我が命に従う限り、お前たちもまた十全以上の者となろう!」

 

「ヒヒヒン。ワシはいらないよ。本気なんて面倒面倒……」

 

「たわけ。――お受けするのだ。有りがたく」

 

 重厚な甲冑を纏ったかのようなキメラが、軟弱な台詞を吐いた黒衣のキメラをひっぱたいた。

 

「ヒ、ヒ、ヒーン!」

 

「あー!! いじめちゃだめなのにゃ~」

 

「――お父上様、この上ない贈り物、感謝いたします。我ら命に代えてでも怨敵の首級を上げる所存」

 

 大剣を履いた剣士のキメラが取りまとめた。先ほど月光を「観て」いた盲目のキメラだ。

 

 それら五体のハイエンド・キメラの身体には今や尋常ならざる魔力の奔流が満ち満ちている。

 

 不足はない。もはや誰の目にも明らかだった。このキメラたちは、かの英霊たちにさえ勝利しうる存在だと、誰の目にも明らかだった。

 

「ああ。期待しているよ。我が子たち」

 

 オルロック・オルフロストはまた鷹揚な笑顔で、そう応えた。

 

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