不死の暗殺者 9対9 チームバトル型聖杯戦争   作:どっこちゃん

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奇襲。そして分断

 

 セイバーの宝具が解放され、正しくその()()()()()()()、周囲の敵勢は、見事全滅の憂き目を見ることとなった。

 

 これがサーヴァント。物質化した英霊と戦うという事なのである。

 

「だ、――断頭の呪い……」

 

 魔術師たちが魂を抜かれたかのように呆けている。

 

 一瞬だった。一瞬でこの軍勢が骸の群れへと変わってしまったのだ。

 

 まさしく悪夢のごとき光景である。

 

「キ――キサマ! ワシらにまで首枷を付けるとは何事か!?」

 

 沈黙の後、途端にライダーが声を荒げる。

 

「だから忠告はした。個人をいちいち選り分けるような、器用な宝具ではないんでな」

 

「おのれ……ッッ! スカしおって!」

 

 その間へ、アーチャーがクルリと踊りでる。

 

「まぁまぁ。何ともなかったんだし、いいじゃないの。セイバーも僕らを信用してのことでしょ?」

 

「……」

 

「――チッ」

 

「……いやぁ、にしてもすごい宝具だねセイバー。聞きしに勝るとはこのこと、このこと」 

 

 などと可憐に頷いて見せながら、アーチャー自身は事への思考と分析を推し進めていた。

 

 実際には、豪胆を良しとするライダーよりもこのアーチャーの受けた衝撃は大きかったと言える。

 

 

 ――対軍、というよりも対域宝具と称した方がふさわしい宝具だ。

 

 ある範囲をそのまま指定し、その内側に居る者へ無差別にマーキングを行う。

 

 そしてその全てに対して同時に自らの「斬撃」を見舞う、と。

 

 いわば、斬撃のコピー&ペーストだ。

 

 とんでもないな。

 

 まさしく〝断頭の呪い〟だ。殺意高すぎ。

 

 えげつないなぁ……ま、そう言う意味じゃ、ひとのことは言えないけどね♪

 

 にしても、この枷(マーキング)が存外に脆いのには助かったけど、事前に知らなきゃ対処なんてしようがない。

 

 一定範囲を丸ごと対象とする以上、回避するという手段が存在しないのも、まぁえげつない。

 

 距離があっても戦える上に、近づけばもちろん強い。その上、あのでっかいライオンが常に背中を守ってる。

 

 まるで隙がない。

 

 近・遠・攻・防を何べんなくこなせるオールラウンダ―なんて全く悪夢だ。

 

 厄介な相手だよセイバー。()()()()()()よりも、よっぽど厄介だ――

 

 

 この聖杯戦争にて初めて、自らを殺しえる相手として認識せざるを得ない相手。

 

 それがアーチャーの、セイバーへの率直な評価だった。

 

「まぁ、セイバーのおかげで助かったね。それでどうだろう? ここで解散しない?」

 

 

 ――さて、()()()()()()()()()()、早めになんとかしておきたいね――

 

 

 と、アーチャーが考えたのも無理のないことだろう。

 

 アーチャーは密かに、セイバー攻略の筋道を組み立て始めている。

 

「ああん? なーにを言っとる?」

 

「だって、このままお団子状態で進んでも、また囲まれちゃうよ。バラけたほうが本陣まで辿り付きやすくない?」

 

「ふーむ? そうさのう。たぁしかに、英霊同士いつまでもつるむのも芸がない」

 

「……」

 

 セイバーも無言のまま肯定を返す。

 

 ニアやヨグは難色を示しているが、彼らはマスターではない。

 

 サーヴァントにあれこれを示唆する立場にはないのだ。

 

 故に、これを阻む者はこの場にはいなかった。

 

「じゃ、三手に別れよう。まずは」

 

 もっとも、それは味方側に限った話であったが。

 

 ――その時、月光が(かげ)った。

 

 雲一つ無かったはずの空だ。

 

 にもかかわらず、()()は煌々と輝く月を呑み込むように、大口を開けて、周囲一帯を呑み込むように襲い掛かってきた。

 

 まるで津波のようだった。舐めるように地を這う、影の津波だ。

 

「居る!」

 

 鋭く言い放ったセイバーは、すかさず、剣を掲げ上げる。

 

 敵影は補足できないが、彼の宝具なら相手がどこに潜もうとも関係ない。

 

 総員に緊張が走る。――が、再び「断頭の呪い」が振るわれることはなかった。

 

 振り下ろそうとした剣は、別の剣士によって受け止められていたのだ。

 

「お初にお目にかかる。セイバーのサーヴァント!」

 

 刃が交差する。いつの間にか、鍔迫り合うまでに肉薄していたのは、剣士――あの盲目のハイエンド・キメラだ。

 

「影よ――やれ!」

 

 剣士はあらぬ方へ呼びかける。

 

 すると周囲を丸ごと呑み込もうと大口を開けていた影は、途端にクラゲの如く虚空で身を翻し、鍔迫(つばぜ)り合う二剣士へと進路をひるがえした。

 

 向かってくる影に、なによりもセイバーの宝具に身構えていた一同は、これに対応できなかった。

 

 二人の剣士は、そのまま影に呑み込まれていく。

 

「――ッ」

 

「案ずるな、邪魔の入らん場所に行くだけだ」

 

「――フィオン!」

 

 セイバーは盟友たる獅子の名を叫んだ――が、時すでに遅し。その姿はいずこかへと消え去っていた。

 

 対する獅子も怒りを湛えて咆哮し、サーヴァント達もこの事態には目を剥いていた。

 

「――消えおったのぅ」

 

「あー、これはアレだね。先手を取られちゃった。分散する前に分断されたわけ……」

 

「き、奇襲です! 御二方――」

 

 言い終えぬまま、声を上げたニアの胴体が、虚空から飛来した雷電の矢によって貫かれた。

 

 ついで絶叫が轟く。

 

 今度は足元から突き出した巨大な無数の針のようなものが、ヨグの身体に深く食い込んでいる。

 

 助けに入ろうとしたイグの手足も、同じように地中から伸びた針のようなもので串刺しにされた。

 

 上から降る雷電は、そして地中から伸びてくる針は、局所的なモノではなく、その一帯を隙間なく網羅、蹂躙していった。

 

 血しぶきが舞い、絶叫が轟いた。

 

 先ほどフィオンと呼ばれたあの巨獅子――フィオンもまた五体を焼かれ倒れ伏し、イグ、ヨグ、ニアの従者たちは五体をバラバラに引き裂かれ、焼け焦げた地面の上に散らばっていた。

 

 瞬く間に行われた惨劇であった。

 

 さすがにアーチャー・ライダーの二大サーヴァントは存命だが、その五体がわずかとはいえ明確に傷ついてることを見れば、この奇襲攻撃がどれだけ規格外のものだったのかが想像できることだろう。

 

 先ほど地中から突き出した針のようなものはすぐに姿を消し、今は代りに、まるで絨毯(じゅうたん)のようなもふもふとした獣毛のようなものが波打っている。

 

「んにゃー。余計なのはゼンブ持ってっちゃってにゃ!」

 

 和毛(にこげ)の絨毯は人語を発し、倒れ伏している従者たちと巨獅子のフィオンを跳ね飛ばす。

 

 それをまた、影が呑み込んでいく。

 

「ヒヒン……いやよ。死体はもういやよ。バッチィよ……」

 

「我がままを言うな、この出涸らしめ」

 

 上空から声が響く。未だ上空から周囲を見下ろすのは、あの甲殻のハイエンド・キメラである。

 

 おそらく――否、確実に先ほど雷電の雨を降らせたのはこのキメラであろう。それ以外には考えられない。

 

「ふぅーん。で、どうする? 相性的に言って、ボクが上に居るヤツやった方が良い? それとも君の戦車の方が良いかな?」 

 

「さーてのぅ。そこまでのもんかぁ?」

 

 さりとて、さすがは英霊。この程度のことで取り乱す訳もない。

 

 渦中の両サーヴァントは既に万全の態勢を整え、平然と言葉を交わしている状態だ。

 

「威勢が良いにゃー」

 

 波打つ絨毯がその言葉を揶揄(やゆ)した。

 

「――こんなものか。では、やるぞ」

 

「ヒヒン。いやよ。バッチィよ……ヒン? ヒ、ヒーーン!?」

 

 いかにも嫌そうに、血まみれの肉片と化している遺骸と傷ついた巨獅子をその体内に取り込んでいたスラッグが、やおら悲鳴を上げた。

 

 ほとばしり出た悲鳴は火花となり、火柱となって燃え盛る。

 

 次いでそれは夜に陽炎の輪を描きだし、ついには虚空に空間的なひずみを生み出すに至った。

 

「行け――イグ。カーターさまの、――おん為、に……」

 

 スラッグの影から吐き出され、今再び血の海に沈んだニアだった。

 

 およそ最後の力、最期の魔術行使であったのだろう。その力で「活路」を切り開いたのだ。

 

 古来、「火」とは人類にとって、煮炊きや明るさを得るだけではなく、行く手を阻む森を焼き払い、今まで行けなかった場所への道を切り拓くための「ツール」でもあったのだ。

 

 炎とは路をもたらす物。その原生人類の想念に元ずく、忘れられた火炎の魔術行使であった。

 

 ニアにとって奥の手ともいうべき魔術であったのだろう。

 

 その炎が最高潮に燃え盛った時、すでにその命は尽きていた。

 

「――おわっと」

 

 そして、ニアの最後の炎が起ったのと同時に、手足を失ったまま転がっていたイグが起き上がり、勢いアーチャーに肉薄し、そのまま炎の輪に身を投げ出したのだ。

 

 炎が掻き消えたとき、すでに両者の姿はなかった。

 

「あっづい! あぢゃぢゃぢゃぢゃ!」

 

 ふぎゃ―! と言わんばかりに、その辺に広がっていた獣毛の絨毯は縮み上がり、一体の獣人めいたキメラとなった。

 

 よほど火が苦手なのか、いまだにゴロゴロと転がって火を熱がっている。

 

「ヒヒン。ワシも熱いよ。やられたよ」

 

「やられたではない。追え。さっさとな。遠くまでは行けん。ゴミも片付けろ」

 

 空中から降りてきた甲殻のキメラが声を尖らせた。

 

「ヒヒン。馬使いが荒いよ。ヒヒーン……」

 

 黒子めいた姿のキメラ、スラッグは魔術師たちの遺体とフィオンを再び呑み込むと、スゴスゴと姿を消した。

 

「あう~。あづいにゃ~」

 

「お前も! 何時までころがっとる」

 

 液体よろしくべったりと寝転がるもふ毛のキメラに、甲殻のキメラは渇を入れた。

 

 しばしの沈黙があった。

 

 あとに残ったのは、三つの影だけだった。

 

 そこで、哄笑が轟いた。

 

「――なんとも、なんとも。まこと奇っ怪で、滑稽な連中よな。笑わせてもらったぞ!」

 

 この場に一人残されたサーヴァント、ライダーである。

 

 呵呵大笑しながら、構えるでもなく悠然と腕を組んでいる。

 

 その鷹揚な姿は一見して隙だらけだが、――キメラたりはすぐに攻撃を仕掛けることをしなかった。

 

「敬意を表する。まずは。奇襲にも揺るがぬその様ゆえに。我が名は「アーセナル」。仮の名ではあるが……」

 

「――いーらんわい! なーにをいっちょ前に名乗りなんぞ上げようとしとる? こんのノラ猫に、アリんこが」

 

「あ、かんじわるいにゃー!」

 

「失望だな。ならば、そのよう――」

 

「遅いわ」

 

 ――に、と甲殻のキメラが言い終わるよりも先に、ライダーは肉薄できるまでの位置に詰め寄っていた。

 

 信じがたい踏み込みの速度であった。ましてやその巨体からは想像も出来ぬ敏捷性だったと言える。

 

 次いで横なぎに薙ぎ払われた猛撃に、甲殻のキメラは何の反応もできずに吹き飛ばされた。まるで木っ端の如くだ。

 

 ライダーの手には、巨躯を誇るライダー自身の身の丈に迫るような巨大な棍棒が握られていた。

 

 さしもの重装甲もこの大質量の前には意味がなかったものと見える。

 

「なっとらん! ド素人め、雑魚は間合いを詰めるのが遅すぎるのぅ。ワシの伯父御が相手なら、お前らもう五回は死んどるぞ!」」

 

 言いながら、ライダーは一変、地を踏み鳴らしながらもう一体のキメラの下まで前進する。

 

「はにゃにゃにゃにゃ……ッ」

 

「貴様らには戦車は使わん! ワシ自ら、叩きのめしてやるわ!」

 

 ビーンと尻尾を立てて身動きもとれないでいる和毛のキメラに、ライダーは手にした棍棒を叩き付けた。

 

 

 

 

 

 

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