異世界の騎士、地球に行く   作:Anacletus

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第90話「ライド・ザ・ダーク」

 

「ベル……」

「フィー隊長!!」

 

 関西圏でのゾンビによる失陥を防いだ善導騎士団及び陰陽自衛隊に対して日本国政府はその功績を大々的にマスコミへ発表。

 

 以後、夢の島跡地に出来た善導騎士団本部の一部をマスコミの取材で開放し、今現在も多くの政府関係者の復帰の為に施設が稼働し、シスコ、ロスと共に彼らと親密な協力関係である事をアピールする事になっていた。

 

 それから数日。

 

 東京崩壊の最初の1週間を何とか凌ぎ切ったベルとフィクシーが久方ぶりに再開したのは陰陽自衛隊富士樹海基地の地下最下層。

 

 大儀式上内に設置された巨大な魔導方陣の上であった。

 

「善導騎士団副団長代行フィクシー・サンクレット。日本国の要請により罷り越した。現地での善導騎士団としての活動、ご苦労だった。騎士ベルディクト」

 

「あ、は、はい!!」

 

 方陣内に魔力転化の燐光と共に現れた少女は他人行儀ではあったものの。

 

 それが善導騎士団の副団長代行としての来日であり、その場に陰陽自衛隊の幹部になる事が決まっている複数の自衛官の姿があればこそだと理解して、少年は逆に一角の人間として少女に認められたのだと明るい顔で頷いた。

 

「では、しばし、時間を貰おう。要人に会う前に着替えておきたい。案内を頼めるか?」

 

「わ、分かりました。任せて下さい!!」

 

 少年が何処に向かえばいいのか理解して、傍にいる他の自衛官。

 

 MU人材である老若男女に笑みを浮かべて微かにお辞儀して歩き出す少女を先導していく。

 

『アレが実質的に善導騎士団を仕切ってる若き副団長代行様、か』

 

『あの歳であちらでは大魔術師とかいう称号を持ってるって話よ』

 

『大魔術師ねぇ……本当か? オレ達とは違って魔力の欠片も感じられなかったが』

 

『お前らの目は節穴だな。アレは全て内側に貯め込んでるぞ』

 

『そうなんですか? 三尉?』

 

『昔、欧州で見た老齢の若造に雰囲気がそっくりだ……』

 

『老齢の若造って何です?』

 

『あちらに幾つもあった結社の最高指導者の一人がそういうナリだったって話だ』

 

『じゃあ、あの子も?』

 

『年齢は外見そのままらしい。だが、侮るなよ。値踏みされるぞ』

 

『……それにしてもすっげー肩パッド入ってそうな感じに盛り上がってたな』

 

『もう一組腕があるんですって……何でも敵対組織に改造されたんだとか』

 

『へぇ~~さすが異世界。つーか、改造って……ヒーローもの?』

 

 取り合えず、初めて日本の地を踏んだ少女はスーツに装甲無しの外套姿だったが、まだ何とも言えず、推し量りかねるという第一印象を与えたのだった。

 

 そうとも知らず。

 

 二人がベルが造っていた基地内の善導騎士団の地下の詰め所。

 

 その中にある貴賓用の応接室へと入って対面に座り、一息吐いた。

 

 内部は既に業者によって壁紙が張られたり、設備も導入されていて、水道、電線、電話線、ネット回線までもがしっかりと張り巡らされている。

 

 何故かゲーミングPCや数台、通常のデスクトップ、更に軍用無線設備までもが壁際には並んでいるのは首を傾げざるを得ないだろうが。

 

 電灯は明るく。

 

 地下の金属製の床と壁という状況にも関わらず、暖色の間接照明で冷たい印象も緩和されていた。

 

「八方美人は肩が凝るな」

 

 いつもの調子に戻って苦笑する少女に少年は笑みを浮かべる。

 

「でも、御立派でしたよ。フィー隊長」

 

「ふ……どうだかな。あちらでバージニア女史に色々とこの世界でのイロハを仕込まれたが、この年齢の小娘の外見で何処まで通用したものか……」

 

 謙遜ではなく。

 

 確実に存在するだろう侮りを想定して、フィクシーが肩を竦める。

 

「そちらでの計画の推移はどうですか?」

 

「ああ、順調にこの世界の科学を魔術でトレース出来ている。最初期目標の達成は後1月を待たずに完了するはずだ。見習い達へのクローディオの教導も終わっている。今は最終調整にウェーイと現地の教官役達が掛かっている最中だ。途中から送られてきた新型の弾頭や重火器、浮遊システムにディミスリル合金……あちらは何に使えばいいのかと無い知恵を絞って案を詰めている最中だ」

 

「良かった……見習いの方達は戦い方には慣れましたか?」

 

「ああ、次々に新型の装備が送られてきて、嬉しい悲鳴とまた新しいのかと疲れた悲鳴を上げていたぞ。白滅の騎士用の耐熱追加装甲、対騎士戦闘用の新型魔力充盾、経戦能力特化の自動回収機能の付いた投擲装備、指揮官用の通信の新規拡張機能、おまけに空飛ぶ装甲に超軽量の重武装、重装甲の全身鎧と重量軽減装甲……呆れる以外ないな」

 

「あはは……すいません……でも、必要なものを造ってたら、いつの間にか……」

 

「まぁ、それでこそ我らがベルディクト・バーンなわけだが……ヒューリに聞いたぞ?」

 

「え? 何をですか?」

「男になったと」

「―――ええと、そのぅ……」

 

 思わず挙動不審になった少年が頭を下げる前に少女がその頭を撫でた。

 

「謝るのは無しだ。それに怒ったりはしないし、する気もない」

 

「へ?」

 

「……そもそもだ。私はお前がそういう経験をしても変わらずに私に接してくれている事が嬉しいと思っている……」

 

「ッ」

 

 少女の微笑みは僅かに何処か大人びていて。

 

「それにあちらからは詳しい事情も聴いた。ヒューリのこちらでの身内、という事もな。お前が救おうとし、救われたあの子達が逆にお前へ謝ろうというのだ。私が何かを言える立場でもない。ただ、お前の初めてを奪われたのは少し女として悔しいかもしれないがな」

 

「あ、あの、その……」

 

 初めて、フィクシーから女として悔しいという単語を……自分に対する言葉を聞いた気がして、少年が落ち付かない様子で少女を見つめる。

 

「だが、私とて乙女だぞ? ヒューリのあの声……口付けくらいしたのだろう?」

 

 かぁぁっと頬を染て、本当に極々僅か頷いた少年にそうかそうかと頭を撫でたフィクシーはまるで弟の成長を喜ぶ姉のようだった。

 

「ヒューリも進歩しているようだ。私も負けられないな……」

 

 少女が少しだけ前に出て、少年の襟元を引っ掴んで引き寄せるとスッと額に口付けした。

 

「親愛の口付けだ……私の覚悟が決まったら、その時は大人の口付けをしよう。ベル……お前が頑張って来た事へのご褒美だ……嫌か?」

 

 ブンブンと少年が首を必死に横へ振る。

 

「なら、構わんな。そういう事だ。ヒューリ……」

 

「え!?」

 

 思わず少年が周囲を見回したが、二人以外には誰もいない。

 

「少し花を摘みに行ってくる。その後は後ろの二人の話をしよう」

 

 そうしてフィクシーがすぐ傍の扉からトイレへと向かっていった後。

 

 反対側の扉が物凄くオズオズとゆっくり開いた。

 

「ご、ごめんなさい。ベルさん……本当はお話を聞くつもりじゃなかったんですが……丁度、聞こえて来てしまって……ぅぅ」

 

 反省した様子で頭を下げるヒューリの後ろでは。

 

『お姉様。丁度って5分くらい待ってて言う言葉だったっけ?』

 

『姉名乗る者を刺激しちゃいけません。此処はベルディクトさんを静かに見守りましょう』

 

「え、ぇ~っと……か、顔を上げて下さい。き、聞かれても別にその……ヒューリさんなら……いいですから……は、恥ずかしいのであ、あんまり聞かないでくれると嬉しいかなぁ……と」

 

「ベ、ベルさん!? ベルさんはやっぱりベルさんです!!」

 

 ヒューリがありがとうと抱き締めた後、ハッとした様子でササッと一歩下がって微笑む。

 

「あざとい? あざとくない? どっちだと思う? お姉様」

 

「これは……あざといですね。あざとい私が言うんだから、間違いありません!!」

 

「ふ、二人とも聞こえてますよ!?」

 

 思わず後ろの妹達。

 

 まだ、その当人達から姉断定されていないヒューリが困った様子で声を上げる。

 

 ユーネリアとアステリア。

 

 今は同じくらいの背丈となった姉妹がその困って怒れる姉からササッと身を隠すようにベルの後ろに退避していく。

 

「う、そ、それは卑怯です!?」

 

 タジタジのヒューリが抗議の声を上げる。

 

「卑怯じゃなくて。センジュツテキテッタイよ。ね? お姉様」

 

「はい。ヒューリア=サンを姉と認めるには少し時間が掛かる気がするので、ベルディクトさんには私達との間の衝立になって欲しいと思います」

 

「う、ベルさん!! この子達に私達の事を教えてあげて下さい!! この数日、色々話したら疑わしそうな目で見るんです!!」

 

「た、例えば?」

「ベルさんと私が……ええと……」

 

 ヒューリが言い難そうに盛った話の内容を話すのはさすがに躊躇われた様子で小さくなって言いたいのに言えない状況で恨めしそうな顔でベルの後ろの妹達を見る。

 

「言えない程度の事よ。ベルは知らない方がいいかも。ね? お姉様」

 

「そうですね。言えないような事を私達に吹き込もうとする姉名乗る者にはしばしそうしていて貰いましょう」

 

「う、ぅぅぅぅ……」

 

「お二人ともヒューリさんをあんまり虐めないで下さいね? ヒューリさん繊細ですから……」

 

「ベルがそういうなら、ね? お姉様」

「はい。ベルディクトさんがそう言うなら……」

 

 すっかり姉の威厳を失くしたヒューリがガックリと敗北者になった。

 

 そうして、戻って来たフィクシーに姉妹達は対面する事となり、話していく内に悠音と明日輝の顔は何処か尊敬するような瞳になっていく。

 

「二人とも……もしこの国でやり残した事が無ければ、ロスやシスコを活動の拠点として、しばらくは善導騎士団に身を預けてみないか?」

 

「……あたしはうん……いいと思う。お姉様はどう?」

 

「はい。フィクシーさんのような方になら、私達の身柄を任せても良いと思います。ただ……」

 

「実家の事か?」

 

 フィクシーに2人が頷く。

 そして、悠音が静かに瞳を俯けて。

 

「あの場所にはお父様とお母様、ユーヤやユーヤのご両親との想い出もあるから……」

 

「そう、ですね……街に関してはそんなに思い入れは無いかもしれません。でも、あの家は……お父様とお母様の想い出が詰まってます……遺骨もまだそのままお墓にも入れていないので……どうしようかと思ってたんです……」

 

「あ、そうなんですか。なら、僕に任せて下さい」

 

「え?」

「え?」

「ん?」

 

「ベルさんがこういう事を言い出す時は……」

 

 少女達の前で少年はニコリとした。

 

「実はこの数日で色々と試して建物の移設が出来ないか検証してたんですが、可能になったので報告しようと思ってたところだったんです」

 

「移設? そんな事が出来るのか……」

 

 フィクシーがさすがに驚く。

 

「ちゃんと家の周辺の土地や植物なんかも全部丸ごと出来ますよ。大抵の植物は家一軒よりは体積も小さいですし」

 

「ベルディクトさん……」

 

 少年が自分を見つめる明日輝の頭を撫でる。

 

「サクラ。来年になったら一緒に見ましょう。あ、環境とかも魔導で再現可能なのでちゃんと咲かせられます。お二人が望むなら北米にも移設出来ますし、日本国内にしばらく留めるなら善導騎士団東京本部の中や陰陽自衛隊の基地の中にも持っていけるので。お二人が一番良いと思える場所を一緒に考えてみませんか?」

 

 悠音と明日輝が思わず泣きそうな笑みでギュッと少年に抱き着いた。

 

「あ、ええと、その……お二人とも……実は甘えん坊なんですね……でも、ヒューリさんにも甘えてあげて下さい。お二人の事、きっと僕よりずっと真面目に考えてくれてますから……」

 

「ベルさん……ありがとうございます」

 

 貰い泣きしそうになったヒューリが少年の手に手を重ねた。

 

「……成長したな。ベル……」

 

 フィクシーがそう呟いて、二人と共に何処に屋敷を持っていくかを詰める。

 

 その結果、危険地帯が多い東京よりは陰陽自衛隊本部内に移設した方が色々と都合も良いという事になり、その部分はフィクシーが折衝する事に決まった。

 

 内実は伏せて、善導騎士団やシスコ、ロスに合流したい人間の屋敷を移設する事にしたという体で進める事が確定し、話は動き出したのだった。

 

 *

 

 そうして日本政府高官と陰陽自衛隊の幕僚と謁見したフィクシーがあちこちで会合を熟し始めたのとほぼ同時に富士樹海基地に緋祝家の移設計画はスタートし、凡そ半日で完了した。

 

 東京から富士樹海まで転移で移動。

 その後、未だ設備業者達が出入りする中。

 

 陸自を主体として各自衛隊、各外郭団体から集められたMU人材のほぼ全てが合流した基地内部がガヤガヤと忙しい様子なのも何のその……ベルが善導騎士団の宿舎用に残していたまだ未整地の樹海の一角を突貫で一部更地にして先日関西まで広げていたゴーレム・ネットワークを介して二人の実家を捕捉。

 

 二人の屋敷の大きさを確認後。

 

 それらの周囲をいつもの導線で囲んで蟲の類以外を地中へと消しながら魔法のように樹海内に屋敷をゆっくりと輪切り状態で湧き上がらせたのだ。

 

 家電の類は全てコードを抜いて鳥型ゴーレムが庭に搬出。

 

 複雑な電子機器なども併せ、重要な遺骨などもしっかりと確保。

 

 連絡した富士樹海に合流する部隊の1つに持って来て貰う事になった。

 

『班長。富士樹海基地の司令部から連絡が』

『何? 読み上げろ』

 

『××市の××町にある屋敷跡から荷物を輸送して欲しいと』

 

『どういう事だ?』

『何でも善導騎士団の協力者の御引越だとか』

『……まぁ、いい。ついでだ』

 

 ブレーカーの一部は転移させると電子機器と同様に壊れる危険性があるという事で後で取り換える事が決定。

 

 ガスは危ないのでベルが興味を持っていたIHコンロに変える事が決まり、上下水道は基地内部から引く事になった。

 

 家屋痕の上下水道、ガスの配管には錬金技能で蓋をして封鎖埋設。

 

 全ての公共料金に関しては解約手続きを日本政府側に善導騎士団への合流予定者の第一号案件として委託。

 

 ただ、国籍放棄は本人達の意向で今はまだ保留という形を取った。

 

 そうして富士樹海基地の周囲には一日で何故か大きな日本家屋の御屋敷が一件。

 

 離れ、土蔵付きで移設され、それが基地の中枢区画から遠目にも見えたMU人材の大半がもはや善導騎士団の恐ろしい魔導の技量を前にして半笑い。

 

 ベルディクト・バーンの名は正しく速攻で()()()()というヤバイ術師の代名詞になったのだった。

 

 まさか、朝から掛かって午後10時には自分達の屋敷が富士樹海にまるで最初から其処にあったかのような具合で移設されてしまうとは思ってもいなかった姉妹は月灯りの下で思う。

 

 自分達は凄い人に助けて貰ったんだと。

 

『お姉様……あたし……』

 

『分かってます……ベルディクトさんにはきっと返し切れないものを貰いました……』

 

『一段落したら……ユーヤのお墓、作ってあげよう?』

 

『そう、ですね……いつまでも誰かに頼ってばかりじゃいけませんよね……』

 

『明日、その場所に行ってから……あたし、ベルに話してみる』

 

『ずっと、一緒ですよ。悠音……』

『うん……』

 

 まだ電話線や電線、家電が使えないながらも上下水道は即座に繋げられた家の中。

 月の掛かる樹海の中の屋敷は静かに姉妹を包み込む。

 

 庭の野草や樹木すらも後からそのまま移設された為、土塀の中は確かに二人が今まで過ごして来た実家と何一つ変わらぬ場所に違いなかった。

 

 だが、今までと一つ違うのは……其処に新たな思い出と少年の優しさと温もりが宿った事か。

 

 姉妹達を見守るように周辺監視用の鳥型ゴーレムが樹海を見張り、周囲に地下の避難誘導路、善導騎士団本部並みの防御用、隠蔽用、不可視用の大結界が次々に少年の敷設したDC(ディミスリル・クリスタル)製のビーコンと共に多重敷設されていく。

 

 魔力が充填され、波動がシーリングされ、異界の如く少女達の庵は過剰過保護と呼ばれても仕方のない程にガチガチになりつつあったが、それを知るのは少年ばかりであった。

 

 ―――明朝。

 

『班長。おはようございます』

『ああ、おはよう。よく眠れたか?』

 

『ええ、まぁ、つーか、あの何かヤバげな樹海の一角なんすか?』

 

『お前にも分かるか?』

 

『昨日、屋敷見えてヤバいのは分かったのに今日は何にも分かないんじゃ、そりゃ』

 

『善導騎士団の協力者のモノらしいが、これからの立ち入りは騎士団に招かれた者だけだそうだ』

 

『へぇ……あの家電、あそこのだったのかな?』

 

『だろうな。そして、その屋敷を一日で空間を飛び越えて移設させた方はあちらだ』

 

『ベルディクト・バーン大使……あ、屋敷に行くみたいですね。あの隣のは……』

 

『あちらは騎士ヒューリアだな。善導騎士団本部のナンバー4だ』

 

『詳しいっすね? 何処から?』

 

『東京の奈落の穴に今、元同僚が詰めていてな。色々と……』

 

『じゃあ、他の相手の情報も?』

 

『ああ、実質、団を動かすナンバー1がフィクシー・サンクレット副団長代行。ナンバー2が先程通り抜けていった空間を渡る術師ベルディクト・バーン大使。ナンバー3が団の教導隊の大隊長クローディオ・アンザラエル。そして、ナンバー4が善導騎士団の医療部門の責任者である騎士ヒューリアだ。彼らによって騎士団は回っているらしい』

 

『あんなに若くても上に立てるとか。あっちは実力主義なんすかね?』

 

『四騎士相手にまともに渡り合えるのが彼らだけとの事だ』

 

『……マジっすか?』

 

『陰陽自衛隊のこの基地も彼らが4日で拵えた代物だ。分かるか?』

 

『………人知を超えた魔術。オレらが知るようなほんの少し普通から掛け離れた、ってのとはまるで違うようですね』

 

『そもそもこちらで魔術を極めたと言われた連中すら、四騎士の前には敗れ去った。欧州での結社による組織的な抵抗もゾンビの物量と不死性、四騎士の超越的な能力を前に敗北した』

 

『あちらの方がそもそも上手、と』

 

『そうだ。世界を滅ぼせると豪語していた連中の大半すら、騎士達の洗練された魔術体系と魔力運用、簡便で合理的な術理を前にして消滅。ロンドン、バチカン、クレムリン、奴らに手傷を負わせられた者も極僅かだ』

 

『戦術核の集中運用でも倒せなかったって聞きますけど、そんなのを相手にして互角……そりゃぁ、偉くもなるか』

 

 自衛隊と言ってもMU人材としてスカウトされた殆どの者達が実際にはMU人材の共同体や家系出身者で占められている関係から、彼らは独自の横の繋がりと情報ネットワークを有する。

 

 その殆どはもはやユーラシア、北米、南米、アフリカ、欧州、中東、アジアの大半の失陥によって失われてしまっているが、それでも一般の人々よりも余程に彼らの情報は正確であり、現状をしっかりと把握していると言えるだろう。

 

 そんな彼らもまた突如として現れた北米所属の善導騎士団の内実。

 

 彼らより遥か未来にいるとしか思えないような洗練ぶりやそれを用いた様々な魔術具の創造、現実に莫大な物資を生産する手際には戸惑わざるを得なかった。

 

 彼らの辞書にはそんな事は不可能、としか載っていなかったからだ。

 

 そんな正しく何か自分達とは別次元の人間を見るような視線を受けているとは露知らず。

 

 少年は朝からヒューリと共に姉妹達をとある場所へ連れて行く為に屋敷に向かっていた。

 

「それにしてもベルさんの転移には磨きが掛かってる気がします。お屋敷をどうやってあんな風に転移させたんですか?」

 

 樹海の中にベルが敷いた石畳の道を歩きながらヒューリが首を傾げる。

 

「あ、あれは3Dプリンター方式の応用なんです。少し削って、移動させて、導線の出口で繋げるのを繰り返しただけなので。分子の結合にはちょっと苦労するんですけど、解析したデータがあれば、可能です」

 

「もうベルさんに弟子入りしようかなと思い始めたんですよ? 近頃」

 

「あはは……僕より早くヒューリさんなら魔導も出来るようになると思いますよ?」

 

「本当ですか?」

 

 朝の小道を並んで二人歩く。

 

 その散歩の心地良さにヒューリが僅かに口元を緩めて、その言葉は『怪しいです』と笑った。

 

「そう言えば、ベルさん。昨日の夜にクローディオさんから連絡がありましたよ」

 

「クローディオさんから?」

 

「はい。どうやらようやく落ち着いて、あの何処から逃げ出して来た魔術師の方々とお話が出来るようになったらしいです。衰弱していたり、錯乱していたのがようやく収まったと」

 

「それでお話は聞いたんですか?」

 

「ええ、ただ、誰に囚われていたのかは分からないんだそうです。捉えられてから薬なんかを打たれ続けて魔術も行使出来ずに身体を調べられたリ、検査されたり、何らかの試験のような事をさせられてたそうなんですが……人間を使わずにこの世界の機械を使ってやられていたと」

 

「……機械」

 

「はい。日本政府があの鉄道内を調べたそうですが、見付かった痕跡は何かが爆発したような跡と金属部品だけだそうです。魔族化してハルティーナさんと戦っていた相手が殺したというよりは自爆したんじゃないかと……」

 

「機械を使い魔化してた可能性がありますね……」

 

「分からない事だらけですけど、どうやら身元は判明した様子で……ただ、全員がもう実は天涯孤独らしくて……クローディオさんが善導騎士団の隷下部隊で働かないかって勧誘してるそうです」

 

「大丈夫なんでしょうか?」

 

「クローディオさんが言うには何もさせず暮らさせていてもロクな事にならないから気を紛らわせたり、仲間と共に何かをさせてた方が建設的だし、自立して生活する術としても良いはずだと」

 

「確かに……そうかもしれません……」

 

「勿論、メンタル面のケアは行うそうです。術式、ベルさんのお薬、それからこの世界の精神安定用の学問を修めた方に来て貰って()()()()()()()とか言うのをするとか」

 

「済みません。本当なら東京本部でお仕事があるのに……」

 

 少年がヒューリが実際にはかなり忙しい状況である事を再認識して自分の力の至らなさを謝る。

 

「いえ、妹達の事ですから。自分の事を蔑ろにして誰かを救えるなんて思えません。あの子達にはどういう道を歩むにしろ。幸せになって欲しいんです……」

 

「ヒューリさん……立派ですよ。本当に……」

 

「ベ、ベルさんが褒めるのは反則です!? 褒めるのは私の専売特許ですよ?」

 

「あはは、分かりました。では、さすがお二人のお姉さんです♪ ええと、さす姉?」

 

「も、もぉ……」

 

 まるでイチャイチャしているカップル並みに激甘トークを繰り広げる少年達をもう開かれた門の端から|д゚)|д゚)と姉妹達がジト目で見ていた。

 

「お姉様……イチャイチャしてるわ」

「ええ、イチャイチャしてますね」

 

「「!?」」

 

 姉妹に見られていると気付いてハッとした二人が思わず無意識に繋いでいた手を離す。

 

「ユーネリア?! アステリア!? び、吃驚しました!! いるならいるって言って下さい!!」

 

 ススッと姉妹達が森の中を歩いても大丈夫なようにお揃いの花柄のノースリーブのブラウスにデニム生地のパンツ・ルック、ポーチ姿で現れる。

 

 靴もしっかりスニーカーだ。

 

「「じ~~~」」

 

「な、何ですか?」

 

「ヒューリア=オネー=サンはベルさんの愛人なんですか?」

 

「な゛―――?!!」

 

 思わず明日輝の言葉にヒューリが固まる。

 

「あたしはベルとくっつくなら、あのフィクシーのお姉ちゃんがいいな」

 

「?!!」

 

「いえ、でも、ヒューリア=オネー=サンがヤンデレ可する可能性も否定出来ません。私達は自覚がありませんが、お父様は人好きするのは王家の血筋だと言っていました。ベルディクトさんをヒューリア=オネー=サンがお婿さんで王様にして王妃を増やす形にした方が建設的かも?」

 

「な、何の相談をしてるんですか!?」

「姉名乗る者の未来設計です」

 

「そうよ。お姉様を名乗るなら、しっかりした旦那様を貰って欲しいもの」

 

「う、うぅ~~ベルさん!! この子達に何とか言ってやって下さい!!」

 

「え!?」

 

 いきなり振られた少年が逃げ腰になったが、話題を逸らそうにもキャッチボールで話題を投げられる相手が見付からず。

 

「ええと……その、南部の帝国だと一部地域では重婚が認められていて、実は南東部の武帝っていう国の部族ハーレムを参考にして一部の高位貴族や騎士系の大家は血筋を絶やさない為に愛人じゃなくて何人かお嫁さんを……」

 

「へぇ~~そうなんですか。って、何の話をしてるんですか!?」

 

「ひぅ?! ご、ごごご、ごめんなさい!?」

 

「「┐(´д`)(´д`)┌」」

 

 ヤレヤレと姉妹達が夫婦漫才に肩を竦めた。

 

 そんなこんなで雑談に花を咲かせていた彼らの下に二台のオフロード・カーがやってくる。

 

「八木さん。安治さん。朝から済みません。僕らの我儘に付き合って貰って」

 

 二人の陸自と海自の対照的とも言える男達が同じように首を横に振った。

 

「八木一佐が運転しているのには驚いたが、君達を運ぶのだ。それくらいの人物が送迎するくらいの事は身内の話で済むだろう」

 

「騎士ベルディクト。おはよう。他の同乗者も揃っているようだ。今日は封鎖されていた現場も開放してある。乗ってくれ」

 

「はい」

 

 安治と八木がそう言って、乗車を促した。

 後ろのカズマとルカが四人に挨拶する。

 

「おう。ベル。ヒューリアちゃん。おはよう。そっちがヒューリアちゃんの妹達か。オレはカズマ。よろしくな」

 

「初めまして。ボクはルサルカ……ルカと呼んで下さい」

 

「は、初めまして!! 緋祝悠音です!!」

 

「初めまして。姉の緋祝明日輝です。今日はよろしくお願いします」

 

 ペコリと頭を下げた少女達にカズマ達も頷いた。

 

 彼らは迎えに来た八木と安治の車両に別れて同乗し、全員が向かったのは……富士演習場敷地内第21師団専用総合演習区画……蒼褪めた騎士の乗機によって壊滅したMU人材の陸自部隊……その最後の地であった。

 

 *

 

「此処が……」

 

 ベルの言葉は重く。

 しかし、カズマとルカは完全に無言。

 そして、悠音と明日輝もまた黙って降車していた。

 

 彼らの目の前に広がっているのは周辺が完全に焼け野原になり、溶岩が固まったかのようにコンクリートが歪んで変形し一帯に広がる場所だった。

 

 所々に瓦礫が見られていたが、何が何処にあったのかは当時の面影を見る者達にしか分からなかっただろう。

 

 八木は車両の番でそのまま残り。

 安治が全員を誘導する。

 

「カズマ、ルサルカ、両名共に自由行動を許す。20分後に車両前に集合だ」

 

「了解だ。教官」

「はい。総隊長」

 

 二人が荷台に積んでいた花束を持って、己の組に与えられていた倉庫の場所へとただ無言で向かっていく。

 

 それを見送って、安治が姉妹二人に視線を向け、こちらですと丁寧に誘導し、ただコンクリートの破片と歪んだ大地があるだけの場所に案内する。

 

「此処です。此処が……ユウヤ・ノイマンの所属していたMU-021組の倉庫になります。しばらく、離れていますので、献花後に済んだら声を掛けて下さい」

 

 姉妹達にも丁寧に説明した安治が深く頭を下げて去っていく。

 

 残されたヒューリとベルが悠音と明日輝を前にして静かに見守っていた。

 

「此処が……あいつのいた場所、なんだ……」

「ユウヤさん……」

 

 二人がそっと二人分の花束をその場所の瓦礫に立て掛ける。

 

「アイツ……エリートになったんだって……そんな柄じゃないのに……」

 

「私達がユウヤさんを追い詰めてしまったのかもしれません……」

 

 ヒューリが思わず後ろから声を掛けようとして、少年に肩を掴まれて止められる。

 

「あいつの事、もっと考えてたら……何か変わったのかな」

 

「分かりません。でも、ユウヤさんはもう……いないんです……」

 

 思わずしゃくり上げるような声がして。

 

「もっと、あいつと遊びたかったな……あたし……」

「私もお料理食べさせたかったです……」

「でも、もう出来ないんだよね……」

「はい………」

「っ……っっ……」

 

 二人が共に支え合うように身体を寄り添わせる。

 

「生きなきゃね……あいつの分まで……」

 

「お父様もお母様もユウヤさんだって……そう言うはずですから……」

 

 数分か。

 数十分か。

 互いの涙を拭いて。

 互いに抱き合って。

 ただ、決意を前にして。

 

 二人がようやく静かになった頃、背後の二人に振り向く。

 

「ベルさん。ヒューリアさん」

 

 明日輝の目元は紅くなっていたが、確かな光を帯びていた。

 

「あたし達を……善導騎士団に入れて下さい」

 

 悠音が真っ直ぐに二人を見て告げる。

 

「私達は確かにまだ未熟かもしれません」

「でも、普通の術師よりはきっと戦える」

「ユウヤさんがしてくれたように」

「あいつがやろうしていたように」

 

「護りたいんです。この国を……大切な人が護りたかったモノを……」

 

「あたし達がやりたいの……もうあたし達みたいな人を出したくない。だから……」

 

 ヒューリがベルに視線を向ける。

 

 今のところ、日本での活動の全権は全てベルが握っている。

 

 ヒューリアもクローディオもまたベルの指揮下と建前上はなっている。

 

 だからこそ、フィクシーを除けば、全てはただ少年の掌の上だった。

 

「死んじゃうかもしれませんよ?」

 

 少年は冷静だ。

 そして、何よりもただ真実を告げた。

 

「死なないように努力するわ」

 

 悠音がハッキリと少年に向かい合って答えた。

 

「大怪我だって沢山します。脚や腕くらいなら簡単に吹き飛ぶ戦場です」

 

「一杯訓練します!! 沢山、学ばせて下さい!!」

 

 明日輝もまた固く決意を胸に告げる。

 

「死ぬより酷い目に合うかもしれない。ゾンビに生きながら喰われるかもしれない。怪異に凌辱されるかもしれない。化け物に死ぬまで嬲り続けられるかもしれない……これは本心から言いますが、お二人の身体や資質は戦いに向いていますが、お二人の心は今の時点で戦いには向いていません……」

 

「知ってるわ……」

「分かってます……」

 

「人殺しになる覚悟すら要ります。誰かを見捨てる覚悟が要ります。自分を犠牲にする覚悟が要ります。裏切った人を護る覚悟が要ります。自分を蔑み、石を投げ、嗤う人達を背後にして死の恐怖と戦う覚悟が要ります……だから、僕は勧めません」

 

「「それでも―――」」

 

「………でも、僕がどう言ってもお二人の決意が変わる事は無いでしょうし、お二人が二人だけで傷付きながら戦って死んでいくなんてもっと見たくありません」

 

 少年が珍しく真面目だった瞳を優しく細めて、二人の少女を両手で抱き締める。

 

「僕、自分で思ってたよりも過保護みたいなので……手の届くところにお二人がいてくれると嬉しいです……無茶をしない、無理をしない、僕の命令をちゃんと聞く、絶対に独断専行しない……そして、ヒューリさんを心配させない……全部、守れますか?」

 

 姉妹は確かに頷いた。

 

「なら、その気持ちと覚悟を本物にするお手伝いをさせて下さい。僕がそう出来るようにお二人を導きます。そう出来るように育てます……だから、これから……僕達は家族です……ヒューリさんやフィー隊長やクローディオさんやハルティーナさんと一緒です……」

 

 そっと離れて、少年が呼び寄せた鳥型ゴーレムを展開し、導線を虚空に展開し、ゆっくりとその内部から二人の少女の前にスーツと装甲と外套を引き出して空中に滞空させる。

 

「これは僕個人からのプレゼント。ヒューリさん以外にはまだ卸してないDCを使った……今のところ、僕が造れる中で最新最高のものを目指しました」

 

 そのスーツの色は少女達の瞳の色をしていた。

 

 深い紫と紅。

 

 しかし、どちらのスーツも金糸の刺繍……緻密な方陣型の象形が幾つも掘り込まれている。

 

 煌くDC(ディミスリル・クリスタル)製の装甲はヒューリの使うものに似ていたが、ドレス型にしても分厚い肩の球体状装甲とソレそのものが組み込まれた巨大な左右一対の大楯。

 

 背部から腕部に掛けて外套状になって肉体を覆う翅。

 

 スラスター染みた翼のように浮遊する盾《ソレ》は実際には物理的な繋がりを有さない仕様。

 

 スカート状の部位も従来のヒューリが用いていたように自立稼動するようだが、剣としてだけではなく。

 

 盾も合わせたような象形となっている。

 

 浮いたソレらの群れは左右の肩で1対、翼で5対、スカートで5対。

 

 もはやソレが嘗ての装甲ともまた違う一線を画した代物であるのが、それだけで分かるだろう。

 

 全体的に見れば、巨大な球体盾の肩装甲、盾の翼、剣と盾のスカートで覆われた着込む鎧というよりは乗り込む鎧と言った方が良いような代物となっていた。

 

 それを象徴するかのように胴体部の下にある腰元のリングから伸びるスカート。

 

 足先に掛けてはまるで穿き込むような、両脚を突き込む形になる骨格状の脚が再現されており、その先はペダル状になっている。

 

 腕部も脚と同じように翼を動かして連動させるかのような掴むレバーが備えられていた。

 

 従来の銃を用いるならば、明らかに有り得ない形状である。

 

「今まで名前は付けませんでしたが、今回は別です。僕の魔導師としての技能と魔術師としての技能、今まで僕がこの世界で得て来た全ての知識と造形を限界まで使った魔術具になりましたから……銘は―――痛みを滅ぼす者【痛滅者《ペイン・バスター》】……この世界の言語に直せば、そういう言葉になるかと思います」

 

 思わず二人の視線が二対の翼を前にして釘付けになった。

 

「ベル……凄い……コレ、綺麗よ……ね、お姉様?」

 

 妹の見惚れた様子に姉もまた頷く

 

「はい……未熟な私達にも分かります……コレの凄さが……」

 

 二人が最後の涙を互いに拭い。

 同時に少年に顔を向けて、胸に手を当てる。

 

「「騎士ベルディクトに感謝を」」

 

「これからお二人は騎士見習いとして僕の傍で戦って頂きます。例え、どんな事になっても、絶対死なせるつもりはないので……覚悟して下さい!!」

 

「「はい!!」」

 

 二人の騎士見習いが誕生し、ヒューリは溢れそうになる嬉しさと誇らしさと愛おしさを前にして、本当に少年は強くなったと心底に思う。

 

「……それとヒューリさんにもお二人と同じ物を用意しました。皆さんはガリオス王家の血を引いています。その秘密や膨大な魔力を共に共有し、戦う以上は皆さんは戦友よりも確かに背中を預け合う中です。ヒューリさんには負担になるかと思いますが、僕もサポートするのでよろしくお願いします」

 

「は、はい!!」

 

「では、基地に帰ったら、さっそくカリキュラムを組みましょう。陰陽自衛隊の方々との連携なんかも訓練しなければならないでしょうし」

 

 少年が鎧を再び導線に沈めて、三人を連れて車両の方へと戻ろうとした時だった。

 

 彼らの合間を風が吹き抜け、高速で碧い輝きが奔ったかと思えば、周囲の地面が砕かれ、南東方向で光が爆裂した。

 

『ベル様。敵です』

 

「分かりました。ハルティーナさん。逐次、状況報告を」

 

『現在、南東から32体の【アーム】及び【アヴァンジャー】が襲来中。【シャウト】の姿が見えません。基地に通報、安治総隊長の指揮下で編成済みの12隊が周辺封鎖に急行中です』

 

「了解」

 

 少年がそう魔導の通信越しに呟いた時。

 

 三人の少女が目を丸くして南東と少年を交互に見る。

 

「ベルさん!? アレってハルティーナさんですよね!? どういう事ですか!?」

 

「敵です。事前に言っていた通り、あの前回のゾンビ襲撃時、北米の培養系が出たのは悠音さんと明日輝さん、お二人を狙っての事かもしれない。という事でハルティーナさんには最初から近辺で不可視化しながらの監視役をお願いしていました。また、安治さんと一緒に仮編成の部隊に装備を渡して、いつでも周辺を封鎖出来るように待機して貰ってたんですが……」

 

「本当にこの子達が狙われていた?」

 

「まだ、断定は出来ませんが、北米のゾンビを使ってまでお二人を狙う理由があるとすれば、それはお二人が通常とは違う魔力を有しているという事が考えられます。そして、あのクアドリスの話を総合すれば……」

 

「あ、あいつのお嫁さんにって事ですか!?」

 

「「?!!」」

 

 思わず悠音と明日輝が固まった。

 

「その可能性があります。ゾンビ達が途中で人を襲うのを止めたのはもしかしたら、魔力の強い人間を狙うように命令されていたからじゃないかと」

 

 少女達の顔が僅かに陰った。

 

「あの時、私は……自分達が逃げる為に他の人を見殺しにするつもりでした。でも、そもそもあのゾンビ達は私達を狙ってたんですね……」

 

「そう、だったんだ……あたし達が原因だったなんて……」

 

「き、気にする必要ないですよ!! 戦う術が殆ど無かった二人が自分達の身の安全を守ろうとして他の人を囮にして逃げ出したとしても、そんなの……どうしようもなかったじゃないですか!!」

 

 思わずヒューリが二人の擁護に回ったが、首が横に振られる。

 

「今までならきっとそれで通ったんだと思います。でも、今は……騎士見習いになった……だから、自分達の身くらい自分で守らないと。もし叶うならば、それ以上だって望まなきゃいけないんです」

 

「誰を犠牲にしても生き残ろうと思ってた……でも、今はあたし……ッ」

 

 二人の少女がベルを見る。

 

「ベルさん?! ダメですからね!!」

 

 ヒューリがその意図を理解して、思わず釘を刺す。

 

「分かってます……だから、折衷案を取りましょう。今、ハルティーナさんが【アーム】及び【アヴェンジャー】を掃討してますが、増援が140体程、更に南東から来てます。相手は何処かに隠れてるようですが、大体の位置を絞り込みました。ゴーレムによる偵察では……」

 

 少年が虚空に魔導で地図を表示し、その丸く円を描いた部位を指差す。

 

「恐らく、この何処かにゾンビを生み出す何か。もしくはゾンビを持って来てる誰かがいるはずです。この場所までヒューリさんと僕、カズマさんとルカさんを連れて向かって貰います」

 

 少年が集まって来るカズマやルカを見てから、指を弾く。

 

 すると、周囲に着替え用の天幕が広がった導線から5つ浮上してきた。

 

「まずは全員を安全に素早く移動させるのに協力して下さい」

 

 二人が頷いた。

 

「何かあったんだな!!」

「ベル君!! 大丈夫!!」

 

 全員が事情を説明されて、天幕へと入っていく。

 スーツと装甲と外套。

 着替え終わった全員が天幕から出て来た時。

 

 車両でもう見えざるマスクで通信状態に入っていた安治が彼らにグッドラックと親指を立てた。

 

 ヒューリの前で着込む装甲が一対。

 

 少女達が割れた背中側から入り込んで両手両足を通した時。

 

 その二人の魔力が充填されていく二体の装甲は煌きを漆黒に変えて、ヒューリと同じように染めながらも、更に紫と紅の方陣を奔らせ、スーツの色合いと同化させる。

 

 燐光を発し始めた盾の群れが共鳴し、僅かな魔力の転化光を纏った。

 

「カズマさんとルカさん。明日輝さんの翼になってる盾に後ろから掴まって下さい。僕とヒューリさんは悠音さんの方です」

 

 四人が同時にその片手を翼に掛ける。

 

「お二人はただペダルを踏み込んで下さい。操作はこちらでします」

 

「「はい!!」」

 

 二人の少女が足先のペダルを踏み込んだ瞬間。

 

 フワリと彼らの重量を物ともせずに少女達の翼が浮き上がる。

 

「恒常巡回速度まで10秒。加速開始!!」

 

 スゥッと前方の上空へと進み出した六人を載せた翼が急激に速度を上げていく。

 

 秒間30kmペースで上がっていく速度が300kmまで加速した時。

 

 もう、彼らの姿は地表から遥か離れ、富士の裾野が完全に見える高空へと舞い上がっていった。

 

「頼むぞ。対魔騎師隊、善導騎士団」

 

 八木が呟きながら、安治に合図してから共に基地へと車両を向かわせる。

 

「では、陰陽自衛隊所属対魔騎師隊ッ、出動です!!」

 

 闇色の翼に乗った少年少女達の戦いはまだ始まったばかりに違いなかった。

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