異世界の騎士、地球に行く   作:Anacletus

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間章「魔浄眼の主2」

【此処に来て早10日以上。適齢期の嫁候補は何とか、それなりに見付けたが……あちらの学者共が入り浸る方は護りが固い。魔力検知のみならず、通常の機械による検知機能、感圧に施設内の空気量……体積まで綿密に測っているのでは一人見知らぬ者が入っただけでも大騒ぎか。ふむ】

 

 すっかり陰陽自樹海基地に住み着いた男が一人。

 

 腕に包帯巻いたまま、瞳の調子も良さそうに佇んでいた。

 

 今日はメロンを一玉皮毎シャクシャクバキバキ喰いながら、倉庫の端に座って本日も訓練に明け暮れる陰陽自衛官達を見ている。

 

 銀とも鉛とも付かない色の髪を片手で掻き揚げ、さてこれからどうしたものかと思案する横顔はその鋭くも二枚目の堀の深い顔付きと相まって絵になっていた。

 

【元気ですかぁ!!】

 

【ぬお?! いきなり、何だ?! 貴様か……】

 

【元気無いよ!!? それでどうやって祖国再興する気なんだ!?】

 

【貴様のような馬鹿程に熱くは成れぬだけだ】

 

【こういう時、必要なのはやっぱ情熱だって!! あの頃、思い出せ!!】

 

【薄暗い狭苦しい領土に足の踏み場もない程敷き詰められた領民の死骸をか?】

 

【大丈夫だって!! あの頃とは何もかも違ぁあう!!!】

 

【変わらぬのは貴様くらいだがな……】

 

ぼやく男は姿の見えぬ相手に溜息を吐いた。

 

【ノンノン!! 溜息なんか付いちゃダメさ!? やっぱり、生きてる限り、努力と根性がモノを言う!!】

 

【貴様だけだろう。ソレは……】

 

【戦いは何も現場だけじゃない!! その後ろには幾億、幾兆の同胞がいる事を忘れちゃダメだ!! やってみろ!! 君ならやれる!! だって、そうだろう!? その腕も!! その瞳も!! 君が世界に抗った末に手に入れた証じゃないか!!】

 

 男が声の主の言葉に根負けしたかのように苦笑する。

 

【―――いつもながら暑苦しいな。貴様は……】

【これでも占領政策係ですからぁ!!】

 

【フン。まぁ、いい。貴様が来たという事は最低限の下敷きは出来たという事だな?】

 

【うんうん。今、ドンドン勢力拡大中だからさ。待っててよ。此処の人達って礼儀正しくて真面目な気質みたいだから、やり易くて助かってる】

 

【好きにしろ。貴様もまた領主の器だとあの方も認めている】

 

【熱さには年齢も資質も関係ない!! ただ、今目の前にある事をどれだけ全力でやれるか。それだけだよ……君みたいにね?】

 

【買い被るな……】

 

【ああ、そう言えば、人間の一部の連中がゾンビ造ってるみたいでさ。あの子達はどうやら潰したいみたいだね。自由にさせてたけど、さっき本格的に命令を出しておいたよ。良かったかな?】

 

【構わん。あの蛙にコレを渡しておけ。解析が終わったら連絡を入れろともな】

 

【了解!! あ、それとお嫁さんやお婿さん候補として、この国で捨てられてた子達を拾ったんだ。後で見てくれるかな?】

 

【ほう? 豊かそうな国に見えたが、それでも捨てられる子供はいるのか】

 

【元気が無かったから、ご飯を食べさせて遊ばせてるよ。訓練もね】

 

【分かった。後で見に行く】

 

【じゃあ、僕はコレで!! これでも教祖だから忙しいんだ!! あ、此処の野菜貰ってっていい?】

 

【好きにしろ。気付かれぬ程度にな】

 

【(バリッ) うぉ?! 旨い?!! あの子達喜ぶぞぉコレ!!!】

 

【子供好きめ……】

【それはクアドリス様の方さ!! じゃ!!】

 

 声の主が去った後。

 

 畑に強風が吹いたかと思うと本日の収量の10分の1程が消え失せ。

 

 その吹いた突風に陰陽自衛官達が思わず目と閉じていた。

 

【……さて、今日のAランチを食いに行くか。ん? あの角……最初にあの三人に襲撃させた……ほう? 姉妹一緒か……くくく、ようやく見付けた……一体、何処に消えていたのかと思えば……何かの力が働いて……まぁ、いい……候補としては最上級だ……しばらくは泳がせておこうか】

 

 風が吹く。

 

 その男の姿は次の刹那には建物の屋上から消えていた。


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