異世界の騎士、地球に行く   作:Anacletus

117 / 231
間章「蠢く者達」

 

「おお、白戸さんのところもですか?」

「実は主催に噛ませて頂きまして」

「それなら安心だ」

「はは、ありがとうございます」

 

 東京都心。

 

 現在、殆どのホテルが難民化した者達の受け入れや一時的な住居として日本国政府及び善導騎士団による無料での支援を受けている。

 

 であるからして、多くのホテルが大抵は赤字とは言わずとも外出も控えられるようになった昨今、かなり売り上げを減らしつつも何とか保たれている。

 

 こんな時にホテルの大ホールを数日貸し切りにしてくれ、という話が来れば、正しく何処も喜ぶに違いなく、今その状況となっているホテルの支配人はホコホコ顔で次々にやってくる国の政財界の重鎮達をロビーで出迎えていた。

 

 一体、これから何があるのか。

 彼らは知らされていない。

 

 だが一応は昨今の日本の危機的状況を憂える者達の合同会議的なものという名分でやってきており、取締役や役員会にいる者達の群れを前に心底にご苦労様ですと頭を下げていた。

 

 会議場となったホール内にはもう百人近くの日本経済界の大物達が揃っていた。

 ミネラルウォーターのペットボトルに灰皿一つ。

 

 彼らの内の数人が吸ってもいいのかと驚きつつも、スパスパとやり始めた頃。

 

 周囲が薄くなり、ホールの中央に明かりが射した。

 

 中央にいるのは40代程の紺のダブルのスーツを着込んだ男だった。

 

 堀の深い顔立ちをしているが、その肌や骨格は少し体格の良い日本人という程度だろう。

 

『白戸重工代表取締役。片世頼充(かたせ・よりみつ)です。此処にいる方達とは何処かで一度会っているかと思われますが、取り敢えず……若輩ながらこの会議の司会を務めさせて頂く事をご承知下されば幸いです』

 

 ホール内にシアター用の大きな幕が下りて来る。

 

 その中央にホールの天井から降りてきた機材が映像を移し始めた。

 

『ええ、まずは単刀直入に申し上げますが、此処に集って頂いた方々は()()()()()()()()()()()、という事をまずは明確にしておきましょう』

 

 映像が映し出される。

 それは善導騎士団東京本部だった。

 

『人類が全滅の危機に立たされた昨今。我々、企業は多くの利益よりも先にまずは国家の安全の為、様々な面で日本国政府と手を携えて来ました。しかし、その蜜月が終わりを告げてしまったのは皆さんもご存じでしょう。正確には選ばれなくても利益は出ますが、選ばれた方が利益は出る。出るなら出た方がいいですよね? 利益』

 

 会場からはその発言に小さく苦笑が零される。

 

『さて、皆様の笑いも取ったところで本題に入りましょう。此処に今日お呼びしたのは単純に愚痴を言い合う為でもなければ、彼ら善導騎士団の超技術相手に喧嘩を売ろうなんて事を言う為でもありません。一重に皆様方に総力を結集して彼らと彼らの下に集う選ばれた企業の方達に対しての競争相手になりませんか、という話をする為です』

 

 スクリーンの映像が切り替わる。

 

『元気ですかぁあああああああ!!!』

 

 その大声にビクッと重役達が思わず背筋を強張らせた。

 

 スクリーンには赤い髪を短く借り上げた四十代くらいの精悍な顔立ちの男。

 

 日本人ともラテン系とも付かない骨格やら、その瞳をランランと輝かせるテンションやら、褐色の肌やら……普通に日本では見ないタイプの相手が青のストライプが入った紺のジャージ姿でこれからマラソンでもしようかというような手拭を肩に掛け、爽やかな笑みを浮かべている。

 

『卓也さん。あんまり驚かせないで下さい。此処の方達の心臓が止まったら、貴方に賠償請求しますよ。ホント、元気ですねぇ』

 

『はは、元気なのは良い事だからね』

 

『ああ、皆さんがポカンとしてらっしゃる。では、ご紹介しましょう。由比卓也(ゆい・たくや)さんです。ほら、卓也さん出て来て下さい。此処で貴方の力を示さないとこんなホール貸し切った意味が無いんですから』

 

『OK!!』

 

 次の瞬間。

 

 ズドンッという音と共にホールの中心。

 

 ライトが光る天井と地表の中間の空間が歪んだと思うと映像の中でヒョイッとジャンプしたらしい男が消え去り、虚空から出て来て白戸と名乗った男の横に着地する。

 

「あ、手品じゃないですから」

 

 キラッと歯を白く煌めかせる。

 

 その言葉が会場内の全員の耳にまったく減衰せず。

 

 直接届いた事に驚きつつも、彼らは目の前に現れた男が何なのかを理解する。

 

『彼は近頃、噂のMU人材です。それもかなりの高階梯。まぁ、そういう事です。皆さん……彼らと競争相手として立ち上がる気はありませんか? 将来的な寡占を黙って見ている必要もないでしょう。いつだって市場原理は平等だった。神は賽子を振らない。だが、神の如き者が賽子を振るとしたら、我々もまた同じ事をしてはならない、という道理も無い』

 

『僕はこの国を元気にしたい!! 白戸君とは先日、子供達を引き取る際に政府とお話を付けて貰ったんだ。その恩もある。貴方達にも是非、僕らの力を社会と国民一人一人の為に還元する為に立ち上がって欲しいんです』

 

 次に彼らがスクリーンに見たのは十代前半から下の年齢もバラバラな子供達だった。

 

『よーしよしよし!! 出来る出来る!! 頑張れッ、頑張れ!!』

 

『で、出来ないよ!? 卓也さぁん!?』

 

『何で諦めんだよ!? まだ終わっちゃいないぞ!! 人間、最後まで戦い抜いた奴が勝つんだ!! 戦い抜けなくても戦い抜こうとした奴らには絶対、助けてくれる人が現れる!! そんな事が普通になる時代がきっと来る!! 意識を集中して、叫んでみろ!! そうすれば、必ず出来る!!』

 

『う……ぅううううあああああああああああ!!!!』

 

 まだ小学校低学年くらいの少年が手を伸ばした先。

 

 何もない虚空に光が生まれた。

 

『オシ!! 行け行け!!』

 

『うあああああああああああああああああああ!!!!』

 

 その光は急激に大きくなった後、フッと消えた。

 

『おおおおおおおおおおおおおおおし!!! 昨日よりも更に大きくなったな。やっぱ、やれば出来るんだよ!! お前は出来る子だ!!』

 

『でも、こんなの何になるのさぁ……つ、疲れるしさぁ』

 

 少年はヘトヘトな様子で尻餅を付いた。

 

『いいじゃないか!! 何にもならなくたって、今清々しい気分だろ? 何かに使えるかどうかは後で考えればいいさ。出来ないよりは出来た方がいい。な?』

 

『う、うん……』

『タクヤさぁあああん!!!』

 

『は~い!! よし、ちょっと休んだら遊んで来い!! 子供は遊ぶのが仕事だ!! 他の子達もだぞお!! 出来たら、運動場に行ってヨシ!!』

 

 子供達が次々に何やら魔力を用いたり、超常の力を発現させて様々な事象を引き起こす。

 

 それを見つめていた役員達の顔はもう真面目なものになっていた。

 

『彼は児童養護施設から逃げ出したMU人材化した子供達を助けていた。ですが、色々と役所や警察と行き違いがあって、彼の下から子供達が引き離されそうになっていたのです。私は彼の人柄から、子供達にしっかりとした教育を施せる人物であると考え、両者の仲介をさせて頂きました。その子達以外にも各地でMU人材化した子供を捨てる親が多数現れています。それどころか……彼らを殺そうとする親までいた。日本人だけじゃりませんよ。国内の外国人や帰化人達の中にもです』

 

 その言葉にザワつきが広がっていく。

 

『彼らが働ける場所を将来的に創りませんか? 無論、儲けが出る。我々も潤う!! 補助金を貰うどころか、札束を国税庁に叩き付けてやるのです!! 今、関東圏の子供達のみならず、大人達にも同じようなMU人材が多数現れています。彼らを異分子ではなく社会の一員として受け入れるのに見知らぬ国からやってきた見知らぬ彼らに全てを任せてはなりません!! 此処は我らが祖国なのですから!!』

 

 パチパチと疎らに上がり始めた拍手が次々に豪雨となって降り注ぎ始める。

 

「ありがとう!! ありがとう!!」

 

 卓也と名乗った男が手を上げて喜びを現す。

 

『皆さん。まずは国に我々の力を見せましょう。この計画はあらゆる産業において統合的にMU人材を取り込む事を想定して多岐に渡ります。ですが、まずはインパクトのあるモノからやりましょう。その為の弾ならあります。これをご覧下さい』

 

 映像が切り替わる。

 其処に映し出されているのは戦闘機。

 少なからずニュースで知る者はいただろう。

 

『ご存じの通り。我々、白戸重工は今現在、国内の戦闘機の生産保守点検のシェア2割を担い、海外への輸出においては米国からのライセンス生産によってFB-22ストライクラプター改めFB-22ストライクZ、ストライクZのオプションであるAI搭載型半遠隔無人航空支援戦闘機ストライクBを造っています。これらがオーストラリア、諸島の多いASEANに輸出されているのはご承知の通りです』

 

 映像が切り替わる。

 

 今度はストライクZと呼ばれた戦闘機に似ていたが明らかに別物だと誰もが分かっただろう。

 

 そのコックピット部分より後方にエンジンらしきものが無かったからだ。

 

 しかし、それが滑走路からまるで音もなく飛んでいく様子が映し出される。

 

『ですが、今お見せしているのは我が社が米国とダーパと共同開発していた戦線都市(バトル・フロンティア)由来の技術によって生み出したまったく新しい水陸空の汎用推進システム。それを用いた試作機。仮にZ改と呼称しますが、その推進中の映像となります』

 

 Z改と呼ばれた戦闘機が次々に人間には不可能だろう機動で連続した複雑なマニューバを実践していく様子が航空機及び地上からの映像にはしっかりと映っていた。

 

『本来、この推進機関は完成しておりませんでした。いや、完成するには必要なものが足りなかった、と言うべきでしょうか』

 

 再び映像が切り替わり、ディミスリル製の魔力電池が映し出される。

 

『彼らから提供されたディミスリルと呼ばれる未知の金属元素。そして、その加工技術及びMU人材達が発する魔力と呼ばれるエネルギーが齎された時、我々はこの推進機関を完成させるに至りました。この事から戦線都市ではどうやら魔力が未知の新エネルギーとして期待されていたのではないかと推測されます』

 

 会場からどよめきが響く。

 

『今現在、陸自から一部改変されて発足した陰陽自衛隊と呼ばれる新しい組織に付いては魔力を用いる技術である魔術。それを使う自衛官を育成している。此処にいる競合他社には打診されたのに自分達には打診されなかった皆様ならご存じの通りです』

 

 白戸が片手を上げてスクリーンを上げさせた。

 

『皆さん。人類の科学は今、我々を襲う魔力を、我々を救う魔力を、少しばかりは解き明かしていたのですよ。ならば、我々に出来ないという事も無いでしょう? 我々はアメリカ国防総省から全面的なバックアップの確約を先日取り付けました』

 

 ―――『おおお!?』

 

 会場がどよめく。

 

『陰陽自衛隊において魔力の先進利用で先を越された形ですが、東北と北海道を拠点とするアメリカにもまた大量の魔力とそれを供給する人材、それを利用する技術を使い得る資質のある人材が必要となる』

 

 片世頼充。

 

 白戸のトップたる若手経営者にして国防産業に詳しいと評判な彼の笑みは何処か出来過ぎた感がある程に輝いて見える。

 

『社会不安の種とMU人材の人々が呼ばれるより、社会の宝と呼ばれる時代を築き、共に進んでいく為の力を白戸と』

 

『僕は』

 

『求めています。魔力の研究、魔術の研究。そして、それを使う魔術師の育成。これは今後必須となる社会の動力源となるでしょう。変異者、怪異などと呼ばれる人々が国家によって犯罪者扱いされる未来を防ぐ為にも彼らへの支援と協力は欠かせません』

 

 パチンと由比卓也と呼ばれた男が指を弾くと今度はホールのあちこちの虚空に魔術による映像が映し出された。

 

『な?!』

 

 しかし、彼らの前に出てきたのは望遠カメラで撮ったらしき夥しい量の変異した者達の死骸。

 

 それは先日の一斉摘発の映像であった。

 

『今現在、政府が憲法停止下で関東各地の治安回復の為、大量の変異した犯罪者を駆逐しているという話は皆さんもお聞きでしょう。ですが、その内実は基本的に殺処分……要は法治国家に有るまじき現行犯以外の現場での射殺などで対応しています。彼らは確かに犯罪者でした。まったく、許せない犯罪を行っていた事も分かっています。ですが、こうなってしまったのは元々、我々が人々に不満を抱かせる社会を作ってきたからではないでしょうか?』

 

『僕はあの子供達がこんな姿になるのは絶対に見たくない!!』

 

 由比が拳を握って叫ぶ。

 

『皆さん!! あの子供達をこんな目に合わせない為にもどうか協力して頂きたい。善導騎士団。確かに彼らは素晴らしい善政を敷いていると言っていい。だが、それが独裁ではないにしても、我々に口出し出来るものでないのは我々に力が無いせいなのです!!』

 

『貴方達が協力してくれるなら、彼らに意見する事も、今後の交渉材料としても働くはずなんです。出来る!! 出来る!! 子供達だって出来たんだ!! 今、その手に力がある貴方達大人が出来ないはずはない!!』

 

 由比が熱く男達を見つめた。

 

『ほんのちょっとした事からでもいいんです!! 特別扱いしてもいいし、特別な目で見てもいい!! ただ、子供達や特別視される大人達に働く場所と笑い合える場所を提供して下さい!! それが一番の問題なんです!! どうか、お願いします!!』

 

 垂直に背筋を負ったのは二人揃ってであった。

 

 先程の拍手とは違う。

 

 更に大きな豪雨が打ち鳴らされる。

 

 歓呼の中で彼ら二人は大勢の経営者に囲まれる事となった。

 

 そして、由比卓也と名乗った男の耳には女の声が聞こえている。

 

 あの日、関東中にビルをばら撒いた女の声が。

 

【いやぁ、カンドウモンよねぇ。涙がチョチョギレちゃう】

 

 声の主もまた拍手していた。

 

【ホントさぁ。アンタって、そういうの好きよね。つーかぁ、占領政策係とか、ウチにやるのがアンタしかいないのも納得なのよ? いや、皮肉じゃなく】

 

 本当に感心した声は続ける。

 

【それにしても、あの子供らって美味しそ―――】

 

 グシャッと声の主の喉が潰された。

 

【―――もぉ、怒んないでよぉ~~そういうとこもス・キ♪】

 

 翅をもがれても戦闘中はハァハァしていただけあって、その声は艶やかだ。

 

【にしても、アンタの嫁や婿になるのがどれだけいるやら。あ、あたしの分は要らないわよ? だってぇ、あたしはアンタ一筋だもん。きゃ(´▽`*)】

 

 娼婦のように媚びた声が男の耳元に纏わり付く。

 

【ま。アタシもああいうのよりは喰っても心が痛まない下種とか間抜けとかの方が味的にも好みだから、そんな本気になんないで? キヒヒ】

 

『では、詳しいところを―――』

 

 会議は続く。

 会議は踊る。

 

 その中で快活な笑みを浮かべる彼はその毒婦の囁きを常に聞かされ続けていた。

 

【あのクソ野郎の子供とかは例外だけど、アンタの子供とクアドリス様の子供は楽しみよねぇ~~まぁ、クアドリス様は()()()()やあの()()()の事があってから、あんなだけど】

 

[―――ヴァセア。君を元気にしてやろうか?]

 

 ギョロリと何かに睨まれた感覚と声に女がしまったという顔をする。

 

【おっと?! 口を滑らせちゃった~~あ、じゃね~~また、報告に来るから~~】

 

 白戸の計画に多くの者達が集っていく。

 

 それは善導騎士団とはまた別の潮流として新たな国内の波乱へと発展していくが、今だこの時その事を知る者は無かった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。