異世界の騎士、地球に行く   作:Anacletus

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第104話「休日の使い方Ⅳ」

 

 人質達が拘束されて3時間が過ぎようとしていた。

 

 日本政府が対応に苦慮している事は誰もが理解していただろう。

 

 しかし、一斉にあらゆる外交チャンネルから日本政府に対して亡命政権側から問い合わせが来た事は信じられない事に違いなかった。

 

 切っ掛けは一通のメール。

 そう、ノヴィコフが齎した情報に端を発する。

 

 それがもしもただのテロリストからの情報だと言われたならば、彼らはまったく大人しく後で訊ねただろう。

 

 だが、そうしなかった。

 

 誰からの情報だとしても、相手を動かすだけの情報なら、相手は動くしかない。

 

 そう、そして……その情報が自分達の死活問題に直結するならば、尚更の話。

 

 何せ、日本政府にこれから要求する内容だ、とテロリストから念押しされたのだ。

 

『一体、どうなっている!!?』

『検討が始まったばかりなのだぞ?!』

 

『誰からだ!? いや、相手がMU人材の可能性もあったな。クソ!!』

 

『各国からの問い合わせが止みません!?』

 

『外務省に対応させろ!! 今、政府はテロの対応で応答出来ないと!!』

 

『ですが、あちら側はこれから関東に向かうと言っている国もあり、どうにも!? どうか、閣僚の方を一人だけでも!!』

 

『官房長と総理は無理だ。この状況では……ッ、外務大臣以下総出で当たれ!! 検討中の案件には―――』

 

 問い合わせの内容はこうだ。

 亡命政権が軒を連ねる東北地方と北海道。

 各地の政権に対する選択肢。

 

 この人類絶滅の危難に際し、仮にも国家としての体裁を取らせていた日本政府にとっては関東圏の混乱が長引いた場合、その政権への影響力の低下や各地での混乱が予想され……故に亡命政権が安定して地域を運営が出来ていない場合、その子供達の日本人化を選択肢として一律に与える。

 

 完全帰化政策を推進してはどうか。

 事実上の同化政策。

 

 だが、この話の肝は子供達個人個人への選択肢ではなく。

 

 亡命政権、国家単位で、というところにある。

 

『だから、個別選択制にしとけばとあれほど……』

 

『無理だと分かってただろう? 軋轢と分裂は内部崩壊序曲だよ……』

 

『白か黒か。それが問題か』

 

『灰色は滅びると分かっている以上、日本にも亡命政権にも選択が必要だ』

 

『話は分からんでもないが、最悪のタイミングだ!! クソ!!』

 

 1代でその政権下の全ての人種が日本人に組み込まれるのだ。

 

 親世代は日本人に成れないが、子供世代が日本人ならば、その時点で取り込みは終了するわけである。

 

 第二外国語として日本語が必須であり、事実上は祖国語が政権下地域でしか通用せずにいる為、その作業自体は比較的容易と言われていた。

 

 というのも、全ての物資やマニュアル。

 

 あらゆる生活基盤に亡命政権では日本語を必要としたからだ。

 

 幾ら祖国語を子供に覚えさせようと祖国語で使う電子機器や文明の利器など日本国内には存在しない。

 

 当時、受け入れ時に基本的に受け入れ人材全員に日本語を覚えさせる事を確約した政府はあらゆる受け入れ負担軽減策を実施した。

 

 全ての避難者に日本語式のスマホも与えたし、養育用のプログラムも組んだ。

 

 それを何とかやってきた彼らにしてみれば、子供達は正しく日本語が出来る半分日本人的なメンタリティーを持っている祖国人とは確実に違うハイブリットな層と化している。

 

『亡命政権下の子供の教育には力を入れたとはいえ……やはり同化政策まではやり過ぎだったのでは?』

 

『事情が違うよ。誰が好き好んでそうしたいと思う。何とか人種だけではなく国家単位でも残そうとした前政権の苦労の賜物を投げ捨てるんだぞ?』

 

『関東がこの状況では今後に亡命政権下の人々がMU人材化した場合の独立志向が高まる懸念は高い』

 

『事実、MU人材のみならず、善導騎士団にコンタクトを取って国内で力を付けようとする連中ばかりだ』

 

『アニメは大人気ですけどねぇ……ホント、地球をゾンビから取り返したら、数百年間くらいアニメだけで外貨の半分は賄えるんじゃないかってくらい』

 

『スタジオを統合して地上波の本数を制限、クオリティー上げたからだろ』

 

『アニメ好きな政権幹部は結構多いんだがな……』

 

 結果としてテレビを付ければ、地方のローカルな祖国製の番組が幾つかと日本の番組が多数という状況。

 

 しかし、大抵子供達は日本製の番組にご執心。

 

 ついでに狭苦しい地方の田舎から優秀な成績を上げて、都市部の日本の都市に出稼ぎに行きたいという層すら存在している。

 

 嘗て、日本の地方が味わった人口流出を亡命政権側も味わう事になったのだ。

 

 それも優秀な人材から抜けていくという状況。

 

 堪ったものではないが、これは社会構造上の宿命。

 

 その上で子供達が事実上日本人になれば、祖国再興の夢は断たれる。

 

 正しく、亡命政権側からすれば、こんな情報がテロリスト側から配られる事自体が遺憾としか言いようがなく。

 

 逆に日本政府側もこの状況のどさくさでテロリストに機密情報が漏洩した事実を前に遺憾というのは既に通り越していた。

 

『総理が地上波でテロリストに要求を訊くそうだ』

 

『本当か……亡命政権もさすがにテロリストと交渉中だと言われたら、押し黙らざるを得なくなるって……安易じゃないか?』

 

『いや、そうでもない……地上波に釘付けにしとけば、少なくともあちらが電話越しに喋り倒す事も無いだろう。電話越しに一国の総理がテロリストに要求を訊く一大事だぞ?』

 

『政権幹部なら誰でも見るしかない、か。誰の入知恵だ?』

 

『恐らくあちらだ。それにもうあちらの準備も出来たそうだ』

 

『早いな……彼らもまったく眠らないのかと驚くばかりだよ』

 

『その上で米軍からの善意の戦力提供も受けるらしい』

 

『米軍が? 自国民保護に出張って来るのは解るが、善意ねぇ……何処の部隊だ?』

 

『三沢からもう空輸されて、付近に待機中らしい』

 

『こっちも早いな。どっかで情報掴んでたんじゃねぇのか?』

 

『分からん。CIAやペンタゴンは昔と変わらず、今も機密の塊だ。掴んでたとしても、あちらはわざわざ教えるよりは恩を売りたいだろうさ』

 

 次々に襲い掛かる窮地を前に為政者達の心はポッキリ折れそうな程だった。

 いや、一度折られた後にようやく立て直した矢先の事件。

 

 誰もが各局同じ情報を報道するという話がテレビから流れて来るのを期に押し黙った。

 

 アナもキャスターも番組を中断されて不満げな顔であったが、これから起こる事を聞かされてか。

 

 スタッフに耳打ちされた後、各局の映像の切り替えまで静かなままに待つ。

 

 ツリーの外部から拡声器での大音量。

 

 更にまだ生きている通信機器に一斉にキャリアからのメッセージが着信。

 

 テロリスト達もまた客から奪った端末に書かれた『ツリーをジャックした武装集団へ。国営放送にて重大な話がある』とのメッセージを受け取り、端末でそのまま国営放送の視聴に切り替える。

 

 すると前提となるテロップが画面端に出ており、この放送は繰り返し流される事になる旨が記されていた。

 

 それから30秒程してから総理大臣が何処かのスタジオから画面に映され。

 僅かな間を置いた後。

 

 こう切り出した。

 

 ―――『ツリーをジャックした武装集団へ。我が国はテロリストとは交渉しない。だが、我が国は要求に対して回答を用意した。今後、為される要求が回答のリストに該当する場合、その要求には即時、放送を用いて回答を返す事とする』

 

 この言葉を聞いてノヴィコフはゲラゲラと笑ってから、コーラを呷る。

 

「オイオイオイ♪ ぁあん? 交渉はしないが、回答リストは用意したって? ははは?! 屁理屈かよ!!? ああ、それなら交渉じゃねぇわな。そして、回答リストにない事は突っぱねるか時間稼ぎすると……なるほどなるほど、面白い事考えたな」

 

「これが一幕目の終わりですか?」

 

 少年の言葉に男は肩を竦める。

 

「総理が出て来るとは思わなかった。テロリストの要求を突っぱねるのは分かってた。だが、リストを作成したから、要求されたら答えるよって言われんのは予想外だったな」

 

「それで要求は国境を?」

 

「まぁ、ソレは後回しだ。まずは善導騎士団に繋いで貰おうか」

 

「(´・ω・)?」

「分からねぇって顔だな(・ω・)」

「同じような顔してると思いますけど」

 

「坊主。この国には面白い格言や諺が多い。その中にこういうのがある」

 

「どういうのですか?」

「外堀を埋める、だ」

「堀を埋める……相手を弱らせる?」

「そういうこった」

 

 その言葉と同時に男が懐から端末を取り出して何処かに掛けた。

 

 そうして一分程で日本のテレビ局の一つのスタジオでニュースキャスターが予め用意されていたらしい受話器を取って、繋がった相手からの言葉をそのまま伝える旨を告げる。

 

「善導騎士団に告ぐ。即刻、ツリーへの干渉を止めろ。でなければ、人質を4人殺す」

 

 通話が途切れる。

 

「警察と騎士団が連携してるから、片方を行動不能にするって事ですか?」

 

「正解♪ ちなみにオレが見る限り、連中タワーに何かしてやがる」

 

「……増幅してるのってもしかして……」

「お、気付いたか?」

「ノヴィコフさんの術師としての精度ですか?」

 

「その通り。何か邪悪な儀式してると思った? 残念でした。単純に足りねぇ力を補ってただけだ。ま、この一件が終わるまで持てば構わんから数人だがな」

 

「本当に齧った程度なんですね」

 

「ま、怪しい連中をぶっ殺した時に頂いた研究資料から自分流でやってただけだからな。精々、人間より五感や視野を広げる程度だ」

 

「………」

 

「騎士団の事だって、そもそも予測は付いていた。誰だって蜜月関係の超技術集団がこんな時に出張って来るのは予想出来るだろ」

 

「確かに……」

 

「だが、生憎とまだ解決して貰っちゃ困るわけだよ。お、止まった止まった……さすがに連中もこれだけデカイもん相手だと小細工するのに時間がいるだろ。それまでは大人しくしてて貰わんとな」

 

「ちなみに人を殺して力を増させるのは十分に邪悪だと思いますけど」

 

「オイオイ。魔術師の癖にお綺麗だなぁ。オレの知ってる奴らなんか、堕胎された子供や親から捨てられたストリート・チルドレンを生贄にしまくってたぜ?」

 

「本当ですか?」

 

「ああ、本当だとも。それもオレみたいに重大な理由があるどころか。意味も無い、人間の力を奪うわけでもない、単なる生贄だとよ」

 

 少年はこちらの大陸でも術師は文明化されていない地域ではそんなものなのだろうと然して七教会が出来る前の大陸と変わらない事を知って魔術を目指す者の業に息を吐いた。

 

「さて、ここからが第二幕だ。あっちの出方を待とうか」

 

 ザッザッと通路から数人の男達の足音。

 そして、扉を開くと同時に少年が驚く。

 扉を開いて出てきたのは人間では無かった。

 

「ゾンビ……」

 

 それも同型の【アーム】が20体程整列しているらしく。

 

 通路の後方まで列の先が見えない。

 

(確実に最後の大隊から供給されたゾンビ……それも防弾ベストに重火器を装備してる……背後のバックパックは……空挺装備? まさか?!! これは―――)

 

「お、顔色が変わったな? 分かっちゃう? ま、そりゃそうか。ゾンビに殺された奴がゾンビになる。普通なら考え付くよなぁ? こうやって制御出来るようになってたら、それこそゾンビ・テロやってた連中も破滅せずに済んだかもな」

 

「ゾンビの魔術的な制御……それは結局、不可能と言われてたはずじゃ……」

 

「そうだよ。術師の世界じゃ常識だ。そもそもあの北米原産のゾンビ共は魔術的な制御を受け付けん。理由は不明だが、何らかの更に強い影響力や支配を受けているから、というのが通説だった」

 

「……何処からそんな術式を?」

「企業秘密だ♪」

 

 ノヴィコフが指を弾き。

 

 駆け足でゾンビ達が通路の先へと向かっていく。

 

「最初から……」

「ん?」

 

「最初から狙いは警察などの日本政府の戦力そのもの、だったんですね」

 

「御名答!!」

 

 男はニヤァッと笑う。

 

「報道ヘリを落とした理由も分かりました。警察を襲撃して、その現状の拡散を抑える為、ですね?」

 

「今からアレに目出し帽を被せて、更に装備をがガチガチに固めて存在そのものを単なる特殊部隊にまで隠匿するわけだ。分かった時にはもう遅い」

 

「現場の警察が全滅すれば、その時点で貴方の第二幕が完遂する」

 

「分かってきたんじゃねぇか? 交渉するにもカードが必要だろ?」

 

「ゾンビの制御術式……この東京の運命を握るのはノヴィコフさんて事ですね?」

 

 大仰に頷いてから、扉を閉めて再びソファーに座った男が今度はシャンパンを呷り始める。

 

「単なる人質じゃカードになんぞならん。それがこの世界の常識だ。無視して突入なんぞ普通にあるのが世の常だ。だが、制御された警察の特殊部隊や精鋭達のゾンビを拡散させると脅すならば、人質なんぞの100倍政府には脅威だろうよ」

 

「そんなに上手くいきますか?」

「はは、上手くイカねぇだろうなぁ」

「なら、どうして……」

 

「政治の世界ではな。本当の脅威の前には交渉するしかねぇのさ。善導騎士団がもしもゾンビを1匹でも取り逃がせば、東京の運命は明らかだ。この段になると政府もこっちの要求には真摯に向き合わなきゃならなくなる」

 

 少年は男が真にプロだと理解する。

 

 最初から男はこの盤面を創る為に人質を囮兼餌にしたのだ。

 

 警察や陰陽自、米軍の登場すらも男の手の内。

 

 それを理解して尚、相手と真に交渉出来る時間を生み出した。

 

 それだけで男の手際は今その場にいるどんな勢力よりも悪辣で巧妙だった。

 

「政治家目指した方が良かったんじゃありません?」

 

「あははは、御免被るよ。オレはあんな醜悪な連中にはなりたくねぇ。いや、オレが醜悪じゃねぇと言ってるわけじゃないぞ?」

 

「そんなに嫌いですか?」

 

「ああ、嫌いだね。この15年間、オレは見て来たよ。その頭が無残な様子をな。祖国から国民を逃がさず自滅。自分の為に囲い込んで自滅。一緒に心中する政治家の何と多かった事か」

 

「自分は違うと?」

 

「オレは人の命こそ何とも思わんが、価値は理解する男だ。価値を理解しても別にだからどうしたと撃てるだけでな。自分の仕事が関わらないなら、無為に失われるのは勿体ねぇなぁ、くらいの事も思う」

 

 シャンパンの上に洋酒がジャバっと入れられた。

 それをツイッと流し込んだ男は欠伸をする。

 

「こっからはこっちだな」

 

 男がテーブルの下にあったパソコンを引っ張り出して立ち上げ、次々にカメラの映像を呼び出す。

 

「第二幕。警察VSゾンビと洒落込もうか。さぁて、善導騎士団からの貰いもんで何処まで対応出来るかな? それとも()()()()()か……ぅ~ん、実に期待が高まるタイトルマッチだ」

 

 ボックスからクラッカーを取り出し、その上にキャビアやらイクラやら生ハムやらサーモンやらチーズやらをトッピングしてツマミを創り始めた男は至って楽しそうだった。

 

 *

 

『エレベーターが動いています!!』

『何ぃ!? 連中、直接誰か降りて来るのか!?』

 

 ツリーを包囲する警察部隊の後方。

 

 狙撃手からの報告に仮設本部となった場所はざわついていた。

 

『善導騎士団の身動きが封じられた今、こっちで対応するしかないんだぞ!?』

 

『犯人からの要求はまだされてません。どうしたものか』

 

『一体、何人降りて来るんだ……』

 

 そう、彼らが暗視カメラなどの映像もまたパソコンで見やりながら会話している内に1人の狙撃手からの報告が入る。

 

『ツリーの展望デッキの上部に人影が多数との報告が!?』

 

『まさか、人質か!?』

『い、いえ、今、と、飛び降りたと!!?』

『何だとぉ!?』

 

 上空数百mからの死のダイブ。

 

 パラシュートを開いても確実に助かる保証の無い地面との至近距離。

 

 しかし、即時パラシュートを開きながら、両手のマシンガンを掃射した【アーム】の群れを前にして、地表の部隊は何一つ出来る事が無かった。

 

 次々に降り注ぐ銃弾。

 ソレが通常の代物であった事が幸いか。

 

 装甲や盾、頭部のバイザーに織り込まれていた簡易の防御方陣が何とか銃弾を受け切って虚空に明滅し、衝撃を10分の1以下にまで軽減。

 

 思わず尻餅を付いた部隊は後方からの後退の指示で慌てて包囲網を緩めて、上空からの襲撃者達の着地地点から距離を取り、反撃の許可はまだかと唇を噛みつつ、盾の背後で善導騎士団からの支給品である複数の銃をいつでも放てるよう用意する。

 

 ショットガンと拳銃とライフル。

 全てが全て支給品だ。

 

 警察用にチューンされてはいたが、先日の怪異一斉摘発の制圧任務でも使用された代物である。

 

「発砲許可が下りた!! 敵はゾンビの可能性在りと善導騎士団側から通報!! 各員、バイザーの暗視機能をオンにしろ!! すぐにサーチライトが消されるぞ!! 狙撃班は地表へ着地した瞬間を狙い撃て!!」

 

 警察にしては極めて早い判断だっただろう。

 

 未だに連射されて部隊を襲っている銃弾の量は凄まじいものだ。

 

 しかし、それも十数秒せずに終了。

 部隊の方へマシンガンが投げ落とされる。

 

 それを受けた一部の者達は思わず盾に当たって押し潰されそうになったが、何とか持ち堪え。

 

「く、来るぞぉ!! 構えろぉ!!」

 

 続いて降って来る手榴弾の雨によって更に打ち据えられた。

 

 方陣防御が連続した衝撃の緩和に途切れた。

 

 それと同時に着地した敵目掛けて一斉に狙撃班と部隊からの応射が突き刺さる。

 

 狙撃班は頭部狙い。

 

 部隊は胴体を狙ったが、その狙撃が直撃した数は3体に満たなかった。

 

「は、速い!? 突っ込んで来ます!!」

「応戦しろぉ!! 盾で押し潰せぇ!!」

 

 大学でアメフトをやっていたという機動部隊の隊員達が次々に善導騎士団の盾による突撃を敢行し、少しでも相手の突撃を緩和しようと前に出た。

 

 咄嗟の現場判断。

 

 猛烈な雄叫びの中へと突っ込んだゾンビ達は盾の一撃を数人以上吹き飛ばしたものの、次々に四方から盾で突撃してくる者達を振り払うだけで精一杯の様子でその場に釘付けとされた。

 

 狙撃手達がその隙を見逃さず。

 

 機動部隊をようやく排除して再び走り出そうとするゾンビの頭部を一撃した。

 

 8体のゾンビが狙撃で沈黙。

 

 しかし、残り12体の【アーム】は狙撃を潜り抜けて部隊後方へと浸透を成功させる。

 

 だが、そこで待っていたのはショットガンの群れだ。

 

 前方の部隊が予てからの訓練通り。

 盾の下で寝そべって、衝撃に備える。

 引き金が一斉射された瞬間。

 

 巨大な銃声と共にゴバッッッと【アーム】の身体が既存の防弾ベスト毎穴だらけになり、大量の散弾が周囲数百mを破壊する。

 

 散弾の威力は精々が数十mが限界。

 

 だが、善導騎士団の対ゾンビ用の近接散弾は火力的には通常の散弾を初速でも威力でも遥かに上回る。

 

 対怪異殺傷用の切り札。

 

 結局、フラッシュ・ファイア弾以外には使う事も無かったバリエーションの一つは【アーム】をボロボロにして頭部も身体もなく完全に血の染みにしていた。

 

「はぁあ?! オイオイ!? まさか、怪異用にあんなの持ってたのか。聞いてないよぉ~~あの散弾でカメラが幾つかやられたな……ぉ~~警察の底力だねぇ……あの盾ならあの散弾も防げるわけだ」

 

 思わず驚いたノヴィコフだったが、その顔は心底楽しそうだ。

 

「隠し玉って奴かぁ~~こりゃぁ、当てが外れたかな。あっははは」

 

 その顔は酒精の影響で赤ら顔だ。

 完全に酔っ払いスタイルである。

 

「どうするんですか?」

「ん?」

「警察をゾンビに出来なければ、交渉は……」

「誰がアレだけなんて言った?」

「え?」

 

「あいつらは出方を伺う先遣隊だよ。ま、こっちも戦力が無限にあるわけじゃねぇが、米軍みたいに今ならドローンみたいな消耗品でファースト・コンタクトするのはよくある事だ」

 

「本隊が別にいる?」

 

「そういう事。だが、囲まれてるんじゃ勝率低いよなぁ?」

 

「まさか?!」

 

 パチンと指が弾かれる。

 それと同時にツリーの周辺地域。

 廃墟や空き家となっている地点で絶叫が響いた。

 

「包囲戦力が内向きになってるなら、背後は刺し放題だよ。やったね♪ ロシアの地は偉大なり~~各個分断して包囲殲滅せよ~~相手の背中は丸裸~~」

 

 いきなりオペラ調に歌い始めた男はポチリとエンターキーを押して監視カメラを切り替えた。

 

 そのカメラの先には次々に蠢き湧き上がる髪と巨大な腕が浮かぶ。

 

「増殖は200体が限界って言われてたが、まぁまぁいいんじゃねぇか? 突撃♪」

 

 男の号令と共に闇夜を掛けた【アーム】が次々に建物から建物に飛び移りながら、警察の部隊へと後方から襲い掛かった。

 

 更に後方からは【シャウト】の群れが闇に紛れて現場を遠巻きに見守る。

 

 トドメを刺す機会を淡々と狙って。

 現場は完全に乱戦。

 

 散弾を使えば、味方に当たる可能性がある以上、警察の部隊は逃げ惑いながら小口径の拳銃で防戦する羽目になったのだった。

 

 *

 

「副団長。まだ、ですか?」

 

『ああ、まだだ。安全に人質を救出可能な状況までしばし掛かる。準備は出来ている以上、此処で全てを投げ出すわけにも行くまい』

 

 ガウェイン・プランジェはシスコの病院内から騎士団のスーツ姿で指揮を執っていた。

 

 騎士団内部にはそろそろ加勢した方が、という空気が漂い始めているが、何分人質を取られて、いつどんな要求をされるか分かったものではない。

 

 準備は終わったが、最後のピースが嵌るまで動けないという副団長の指示を歯痒く思う者は多数。

 

 東京本部の隷下部隊もまた警察が襲われるのを遠目に歯噛みしているしかなかった。

 

『クソ……まだか!?』

 

『警察がやられちゃうよ!! アレじゃ!? 持たないって!!』

 

『待て、逸るな……我々は後詰だ』

『オレ達に力があれば……』

 

『人質の救出の手筈は整っている。だが、肝心の―――』

 

 善導騎士団はもはや準備万端。

 いつでも出動出来る状況。

 

 周囲にはまた米軍もいるらしいが、隷下部隊の者達には装備をしていても見付けられなかった。

 

『―――米国特殊部隊に応援を求む』

 

 官房長官が現場の状況をテレビ局内の一室でモニターしながら、米軍へのゴーサインを出した。

 

 首相は今現在、スタジオで待機中。

 

 いつ警察のゾンビ化が始まってもおかしくない状況に決断はすぐに為された。

 

 それと同時に周辺に待機していた米部隊が戦闘機動へと移行する。

 

 既に周辺地域からの避難は済んでいる。

 

 撃つなと言われたのはツリー本体と警察官、それから出張って来る可能性のある善導騎士団の団員だけだ。

 

 後は何一つ構う必要もない。

 

 それを理解しての()()()()からの滑るような空からのVT信管を用いた小銃の一斉射。

 

 圧し掛かって殴り殺そうとしていた【アーム】の頭部が弾け散った。

 

 彼らは高速でビルの3階程度の高さを縫うように進んでくる。

 

 まるで何もない虚空をサーフィンしているかのように。

 

「―――進行方向に目標を発見。【アーム】110体。第二班は【シャウト】を見つけ次第制圧せよ!!」

 

 実際、そのメタリックな衣装は何処か日曜朝のヒーローものやSFにあるようなスリムなマシン製のコンバット・スーツを思わせてメカメカしい。

 

 主要臓器を護るアーマーはハニカム構造を基本とし、重苦しい印象を受けるが、それにしては一切の動きが通常の部隊と遜色が無い、どころか。

 

 更に機敏な反応をしてみせるところからもかなりの軽量である事が伺える。

 

 それと同じ構造らしいジャケットは重火器と弾倉が所々に見受けられ、その殆どが従来の形をしていながら、見慣れぬ鈍色の黄色い金属色だった。

 

 何らかの塗装か皮膜。

 もしくは繊維そのものが金属製である可能性が高い。

 

「クルーザーモードで接敵まで残り10秒!! カートリッジ分は撃ち尽くせ!!」

 

 彼らの足元にはボードが一枚。

 そう、サーフボードのようなものが一枚あるだけだ。

 

 ソレは彼らのスーツと同じ色合いをしているが、推進機関のような空気を噴出する排気口は見受けられず。

 

 それでも何故か飛翔している。

 

 その金属の光沢の内部に薄い緑色の輝きが煌々と灯っているのが見えるだろう。

 

 彼らの射線上の【アーム】達は次々に頭部を弾け散らせていく。

 

 視線誘導弾や胴体誘導弾のようなデタラメな代物ではない。

 

 射撃管制システムがネットワーク化されてリアルタイムで別の場所で演算。

 

 運用されたゴーグルの視界内には常に映像へ補正が入れられ、VR技術によって照準が補足されていたのだ。

 

「隊長!! MVT信管激発距離の算出に若干誤差が……」

 

「電算室!! 演算が足りていない!!」

 

『―――こちら電算室。当該状況を登録……補正完了』

 

「【アーム】91体を撃破!! 【シャウト】の掃討は順調に推移しています」

 

「現場の警察官に当てるなよ!! A班全機自由機動に入れ!!」

 

「ヒャッホゥ!! 剛毅ですね!! 1分1000ドルのクルーズだぜ!! お先に!!」

 

「あ、オイ待てよ!? 抜け駆けすんな!!」

「これより空戦機動の情報収集に入る」

 

 リアルタイムでの相手の解析は後方司令部の電算室が行い。

 

 兵は送られてくる情報に従って銃を撃ち、回避行動を取り、自己の裁量で適宜、状況判断で追加の兵器投入を決定する。

 

 敵がゾンビとテロリストだけなら、対空兵器は気にしなくてもよい。

 

 そもそも彼らがその周囲に展開されるまでに小型のドローン群が敵の設置型のトラップや兵器が無いかを捜索した後だ。

 

 戦闘ヘリのように地表を制圧する火器が全て射撃管制指示で命中率までも算出される時点で彼らが警官を誤射する可能性は0に近い。

 

 というか、そもそもの話としてゾンビ化するまで警察官には射撃が管制システム側からロックを受ける。

 

 信管のリアルタイムの情報書き換えによって、銃弾を破砕させる際の距離にも気が配られていた。

 

 嘗て砲弾に搭載されていたVT信管は今や小口径弾へ入る程に小型化が進んでいるのだ。

 

 従来の米軍ならば、不採算だとして作られないはずだった力も敵を国内で制圧する死活問題に限ってならば、マガジン一つで1000万の状況も許容範囲。

 

 更に低コスト化や高性能化を進める為にも情報収集は必須であり、ほぼ未来の軍隊と称された当時から決して技術的水準で米軍が後退していない事はその()()()()を見れば、全く以て明白であった。

 

「えぇ~~~米軍さん。そりゃないよ~~。う~わ。空飛ぶサーフィン野郎が銃弾撃ち込んで来るとか反則だろ~~」

 

 だが、その未知の未来兵器と戦術を前にしてもノヴィコフは余裕綽々だ。

 

 虎の子であるはずの量産型ゾンビが一方的に打倒されていくというのに鼻歌混じりにクラッカーとシャンパンで愉悦中である。

 

(あのボードの輝き……魔力の転化光みたいに見える……やっぱり、米軍も戦線都市の技術を幾つか持ってるのかも……)

 

 次々にボードで推進する部隊が上空からゾンビ達を撃ち倒していく。

 

 精密な照準は人の技術と叡智を同時に運用するからこそだ。

 

 機械が人間を補佐し、補佐された人間が最高のパフォーマンスを発揮する。

 

 その正しい使い方が金さえあるなら可能という点でソレは少年が培ってきた技術よりも更に汎用性が高いだろう。

 

 結局のところ魔導とて、それを扱う術師がいなければ、宝の持ち腐れ。

 

 善導騎士団内で魔術から魔導への転換訓練を行っている数多くの者達すら少年レベルになるまで後数年は掛かる。

 

 技術と資源さえあれば、汎用性の高い道具として幾らでも再現可能な科学には利便性で一歩劣るのは致し方ない話なのである。

 

 無論、その成果物を大抵無限に複製可能な少年という存在一つで全ての前提が引っ繰り返りはするのだが。

 

「さて、と。楽しくゾンビ退治をして貰った事だし、今度はゾンビゲーらしく逃げ惑って頂こうかな?」

 

 男が更に指を弾く。

 

 それと同時に地表の幾つかの地点から放たれたRPGが続け様にボードに直撃し、吹き飛んだ男達が辛うじて直撃を免れた様子で次々に周囲のビルの看板や路地の壁を削りながら、落下を免れる。

 

「CPッ!! CPッ!! ボードがやられた!! ボードがやられた!! あちらの対空兵器は確認出来ていないんじゃなかったのか!? 今のは確かにRPGだったぞ!!」

 

「先遣隊のドローン操縦連中!? 何が何もないだ!? 大ありじゃねぇか!?」

 

『―――こちらCP。敵陣地は魔術によって隠蔽されていた模様。我が方のドローンの観測精度では未だ見抜けない階梯の力であると推測される』

 

「ガッデム!?」

 

 だが、男達を襲ったのはそれだけに留まらなかった。

 

 ビュルゥオオッッ。

 

 そんな空を割くような滑った音と共に緑黄色に輝く触手が隊員達の幾人かを絡め取った。

 

「くッ!? 新型か!? あ、アレは!? カナダの精神汚染型か!?」

 

 触手を使っていたのは人型の輝くゾンビだ。

 

 マンホール内から触手を湧き出させ、ゆっくりと上がって来たソレは隊員達の小銃の掃射を超高速の触手の鞭を乱舞させて弾き落としながら、捕まえた男達を握る触手に力を込め―――真っ二つに出来ないのを理解して諦めたのか。

 

 その触手を猛烈に輝かせた後に解放した。

 

 だが、高所から地面に叩き付けられた男達の身体はショック・アブゾーバー内蔵のジャケットにより、衝撃を緩和。

 

 肉体を損傷する者は無かったようだ。

 

「ガッ?! ぐ、クソォ!? ぅぐ………」

 

 しかし、通信越しにリアルタイムで機械から送られるデータでは男達の意識は大半が途絶していた。

 

 急激な精神汚染を引き起こされて昏睡寸前なのだ。

 

 未だカナダ産の光るゾンビに付いては分からない事が多く。

 

 その光の正体や精神汚染の理屈も解明されていない。

 

「く、手榴弾―――は弾かれるか!? 各員!! ショットガン用意!! 散弾で穴だらけにしてやれ!!」

 

 残った男達が仲間を引きずりながら次々にショットガンで触手に応戦し始める。

 

 触手もさすがにその一撃でズタボロにされるが、接近して破壊される瞬間に輝きを発し続ける事で隊員達は猛烈な吐き気や昏倒寸前の精神汚染で前後不覚へと陥っていく。

 

「ほら~~みっともないぞ~~未来兵器万歳部隊はもう少し頑張りましょ~~」

 

 ゲラゲラ笑いながらノヴィコフが指を弾くのに合わせて周囲のマンホールから次々に光るゾンビ……そう、嘗て少年の胴体を真っ二つにしたソレが現れ、死んだゾンビ達の付近で肉体を自らの内側へと触手で引きずり込んでいく。

 

「これって……」

 

「そう、大きくなるのさぁ!! やっぱ、戦隊ヒーローもののお約束は守んなきゃ!! やられたら、巨大化してバァン♪ だが、生憎と米軍も巨大ロボットまでは持ってないんだなぁ、コ・レ・がwww」

 

 絶好調の男はタクトを振るが如く。

 

 次々に巨大化していく輝くゾンビ達に指示を送る。

 

 その触手の群れが次々に周辺の建造物を破壊していく。

 

 人間そのものを狙わず。

 周辺の建築を壊して混乱を助長させているのだ。

 それは単純な破壊活動ではない。

 

 コンクリの粉塵が舞えば、大抵サーチライトがあっても相手を見失う。

 

 まだ残っている少数のゾンビを夜闇に紛れて逃がせば、それだけで男の交渉材料は揃うのだ。

 

 まだ戦いは続いている。

 

 だが、その内の何人がゾンビにならずに夜を超えられるか。

 

 正しく、此処からが国家と男の交渉の正念場なのだ。

 

 端末が再びスタジオの回線に繋がった。

 そして、キャスターが総理当ての言葉を喋り始める。

 

「ハロー総理。オレはノヴィコフ。ロシアじゃ曲芸師とか言われてたテロリストだ。ああ、亡命ロシア政権の一部の人間は知ってるだろうよ。何せ、オレが連中の一部をこの国に逸早く退避させる際の立役者だったからな」

 

 その言葉を伝えるキャスターは今、物凄く顔を強張らせていた。

 

 ロシア亡命政権に喧嘩を売る内容である。

 

 だが、この特ダネを黙って自分で使うという事すらも今の人質を取られた状況では出来ない。

 

 そんな事をすれば、彼が破滅するのは避けられないだろう。

 

「え? 証拠が無いって? 某ちゃんねるの三年前のオカ版のスレにストレージのURL張っておいたのがあるよ。ストレージ先のデータの解凍用のパスはアンタの名前だ」

 

 後でロシアのスパイに殺されるんじゃねぇかなという板の有志達がさっそくノヴィコフのものらしきスレと張られたURLを発掘し、数分で解凍された中身がネットに開陳される事になるが、それよりも先に男が内容をバラした。

 

「ちなみにファイルの中身はオレと関わりのある連中の御尊顔とDNA情報。それからロシアが永久凍土へ極秘裏に埋蔵した未来のロシア人へ残す最強兵器そのものの保存場所と1からの作り方だ」

 

 その言葉にイヤな予感を覚えたのは何も日本政府だけではなく。

 

 何処の亡命政権も同じだった。

 

 ソレを持っていた米国と日本以外のG7などの高官は特にだろう。

 

「そう原始時代に戻ったとしても、時間さえあれば、核を再び我が民族にってご大層な()()()の中身だよ」

 

 次々にロシア亡命政権側からの抗議の電話が回線を人為的にパンクさせようと大量にテレビ局に掛かっていたが、そんなのはお構いなしにノヴィコフはペラペラと喋る。

 

「最大の敵だった米国にクッソ高く時代遅れの潜水艦売り付けた後、連中は何をしてたと思う? あらゆる情報を残して人類復興時の自分達の民族だけのロードマップ作りとやらをしてたのさ」

 

 赤裸々に語られるテロリストの話にテレビの前の者達は釘付けだった。

 

 如何にも有りそうな話だったからだ。

 

「無論、その中には他の民族の()()()()()()()も載ってるよwwww いやぁ、日本人の皆さんは幸せだね。一生、精密機械だけ作って生きて行けばいいって書かれてるしね♪ いやぁ、米国人の皆さんも幸せだね。一生、隷属2等市民としてこき使ってやれって書かれてるしねwww」

 

 その言葉にもうキャスターは泣きそうだ。

 

 だが、自分が言っているんじゃないと自分に向けられる視線に顔は笑おうとしたり青くなったりと百面相中である。

 

「ああ、ちなみに亡命政権の中身である皆さんの半分は全部知っているだろうよ。だって、あいつらの中身ってオレが偽装してやった元政治家連中だしwww え? あの亡命政権は新しく亡命した人々が選んだ普通の人から政治家になったはずだろって? ハハ、ご冗談を米国民の皆さん」

 

 ノヴィコフは破壊を振りまく輝くゾンビ達が警官や米軍の部隊が次々に盾の後ろに引き摺られて行き、吹っ飛ばされ、蹂躙されているのをシレッと何の感情も籠らない瞳で見ていた。

 

「顔と年齢偽ってますがな。ロシアの政治家の遺伝子なんぞ蒐集し切れてた国家でもあんの? そういう事だよ。ちなみに来なかったのは大統領と一番上の層だ。彼らは愚かだが、愛国者だった」

 

 極めて重大な案件がテロリストによって暴露された衝撃は正しく日本中を駆け巡っている最中であり、その当人達は顔を青くしていた。

 

「だがぁ? 今の政権の中身の半分は賢く愚かな愛国者とすら言えない非国民だ。嘘だと思うなら嘘発見器にでも掛けたらいい。連中は本来その椅子に座るべきだったかもしれない選ばれた連中の顔を借りるのにその当人達をどうしたと思う?」

 

 犯罪の告白。

 それは正しく特ダネでは済まない事実。

 

「答えは言うまでもない。おっと、メンゴメンゴ~~要求だったな。要求~~あ~~要求ね? 要求はあるよ? これから人質を全員解放してやる。ただし、開放に制限を設ける。10人開放する毎に1時間、北方諸島域の海域を封鎖してる米海軍と海上警備隊を退けろ」

 

 男は赤ら顔だ。

 

 だが、酔っているにしては流暢に饒舌に真顔で端末に条件を告げていく。

 

「オレは必ず10人毎に1時間を要求する。その間、北海道に押し掛けた船の臨検も無しだ。米国の警察及び軍隊の足止めも許さん。コレを破れば、人質を1ずつ殺す」

 

 正しく爆弾を投下してから要求するやり口は一体どんな意味があったものか。

 

 もう既にキャスターを通して出る男の言葉に誰もが引き込まれていた。

 

「おっと、最後に忠告しておく。オレを逮捕なんぞしてみろ。オレはこの十数年間、一体どうして平和で静かな日本ライフを過ごしてたと思う? オレはさっきの中身を全部知った上でこの日本でずぅぅぅぅっと材料を集めてたんだよ♪ 一発とは言わない。計10発……警察も自衛隊も公安も米国のCIAだって知らない秘密の―――」

 

 その言葉にもはや米国どころか。

 日本中の諜報関係者達が唖然としていた。

 キャスターはゴクリと唾を呑み込んでから告げる。

 

「核爆弾が各都市、各主要亡命政権下の地域の何処かに埋まってるよ♪ あ、探すだけ無駄だから。何故かって? オレが()()()だからだよ!? いやぁ~~嘘っぱち経歴のCIAの美人さん。本当にありがとう。アンタらがあの連中を使って、この事件を起こすと知った上でオレに協力してくれるなんて思ってなかった。神に感謝するよ♪」

 

 またや暴露。

 それだけで再び米国全土の政府関係者が凍り付く。

 

 ―――【CIAのこの件のオフィサーを呼んで来い!! 何なら死体にしたって構わんぞ!! クソッ!? こいつは―――ユーラシアへの投入作戦時の?!】

 

 勿論、三沢の准将も貌を物凄い形相にしてテレビを見ていた。

 

「どうせ、日本に良いとこ見せたかったんだろ? カワイイあの子に振り向いて欲しい男子かっつの!! いやぁ~~ユーラシア遠征軍なんて構想してる割には情報戦がお粗末ですな~~ま、ご自慢のエシュロンが日本政府との契約で日本側に使えないからなんだろうけどさ♪」

 

 ゲラゲラ笑いながら、男は続ける。

 キャスターも男が笑っていると画面に伝えている。

 

「ち、な、み、に……北海道って人口密度高いんだっけ?」

 

 その言葉だけで米国民でその放送を見ているほぼ全ての人間の顔が強張った。

 

「あ~~無能なCIA、CIAのせいで~~今から~~おっとぉ~~ボタンがテーブルから落ちちゃいそうだなぁ~~いや、嘘だよ。嘘だよ。あ、やっべ、押しちゃっ―――」

 

 そこまで言ってキャスターが泡を吹いて倒れた。

 それを見たノヴィコフは大笑いだ。

 ボタンなんて手元には無い。

 

 彼の手元にあったのはツマミにしていないクラッカーだ。

 

 横の涙目のアナが拾え!!

 

 という、スタッフからの圧力に屈してプルプルしながら端末に耳を当てて、伝言を再開する。

 

「嘘だって~~オレの傍にあるのは今日の晩酌のクラッカーだよ~~でも、今ネットに出てる核爆弾の作り方は核実験データ込みの爆縮レンズの本物だから、みんなマネしちゃダメだぞ? オレみたいな最強テロリスト以外が使うと自爆ボタンと変わらんからな。お兄さんとの約束だ」

 

 完全に酔っ払いの戯言にしか聞こえない。

 だが、男の瞳は真面目だ。

 極めて真面目だ。

 何ら遊びも含まず生真面目なくらいに透き通っている。

 

「さて、真面目な話をしよう。オレは理性のある真面目なテロリストだ。交渉はしない。要求はする。そして、オレの最大の目的は既に達成されている。だから、オレはこれ以上の要求はしない」

 

 気の抜けたシャンパンを一口してから男は続ける。

 

「だから、君達が無用な事をする必要も無いわけだ。善導騎士団……君達は確かに最強の力を持っているだろう。強い意志と誇りと人々を護るという決意も持ち合わせるだろう。だが―――」

 

 キャスターの声は震えている。

 だが、それよりも何よりも此処で日本政府ではなく。

 

 善導騎士団に向かって語り出した事で事態が一定の状況を超えてしまっている事を誰もが理解せざるを得なかった。

 

 つまり、もはやノヴィフコフにとって、日本政府も米国もロシア亡命政権も何ら敵では無いのだ。

 

「この局面においては無力だ。オレを捕えてみるか? オレが自爆する方が早いぞ? オレを操ってみるか? オレの仕掛けた爆弾は特定の条件でしか動かず、今の俺には止められないし、何もしなければ止まる仕組みだ。誓って嘘じゃないし、何なら君達ご自慢の魔術で頭の中を調べてみたっていい……解るか? 君達はこの事件に関わってオレに喋らせていた時点で負けてたんだよ」

 

 衝撃の真実とやらを続け様にテレビで日本国内に叩き込み続けた男はシャンパンを床に零してから、己の背後から向けられていた剣に気付いている様子も無く。

 

 いや、最初から予想くらいはしていたのか。

 

 ゆっくりと振り返って、フィクシーとヒューリの剣を前に余裕で微笑む。

 

「オレ個人の目的はもう達した。だから、後は蛇足だ。フィクシー副団長代行殿。ヒューリア医療部門長……ここから先はオレのクライアントである、愚かなゾンビ・テロをやってでも米海軍や日本の海自に思い知らせてやりたいと、家族の恨みを晴らしたいと言っていた者達の怨念だ」

 

 男はこの状況下で何らフィクシー達を相手にして劣っていなかった。

 

 今、自分の全てを使って舞台に上がる主役でしかなかった。

 

 そう、男は魔術師だった。

 

 彼女達にしてみても、非凡な……そう認めざるを得ない相手に違いなかった。

 

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