異世界の騎士、地球に行く   作:Anacletus

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第106話「余暇の跡に……」

 

 奇妙で愉快な陰陽自&善導騎士団の実態がジワジワと新設されたシェルター型避難所によって民間にも輸出浸透して二日が経っていた。

 

 豪雨被害は左程でもなく。

 

 関東圏で被害に合った市町村の殆どでベルによる堤防のディミスリルや魔術的補強で水害対策が施され。

 

 ついでに被災者の家の立て直しや補修用の資材を無償で善導騎士団が供給し、建材の実地試験を兼ねて現地の建築業者も抱き込み、やっぱり無償で工事した……というだけだ。

 

 あの東京全域を蔽った緑色の粒子。

 

 魔力転化光の一件はすぐにクローディオから経緯が語られた為、然して騒がれなかった。

 

 敵の一勢力が何らかの新しい勢力と敵対して戦っていたという話であり、今後の課題であるとして調査などに対応は留められた為だ。

 

 それよりも北方諸島にいると暴露された意志あるゾンビの存在。

 

 それを殲滅及び捕縛する為に善導騎士団は陰陽自と共に遠征計画を立ち上げていた。

 

 北方諸島を牛耳るロシア諸島連邦。

 

 実質的にはロシア亡命政権の下にあるはずの政体は複雑な政情のおかげで今や独立国のような立ち位置に置かれ、米国との間には再冷戦と呼ばれるまでの冷たい関係となっており、亡命政権側とも殆ど事務的な応答をやり取りするだけで疎遠となっている。

 

「ルカさんの故郷ですよね」

「うん。でも、あんまり良い思い出は無いかな……」

「そうなんですか?」

 

 実質的な日本国内の独立領。

 日本政府とロシア諸島連邦間はまだマシな関係とはいえ。

 

 それでも安易に公務員を派遣出来ない程、内部の治安は良くない。

 

 北方諸島への難民受け入れ時。

 

 日本政府は大規模な工事開拓によって諸島の原野や津波にも耐える島の中央付近に大量のマンションや各種の建築を10兆円近く掛けて整備した。

 

 嘗ての島々は今や変貌し、大規模な港湾設備と巨大なマンション団地が林立する島というのが日本国民の殆どの考えだろう。

 

 だが、ロシア亡命政権の倫理的にもギリギリな過剰収容で命は救われたが、食い物は無く地獄という状況が最初期の数年は続く事になった。

 

 これにより飢餓と暴動が続発した為、島々は何処も荒れた。

 

 大量の漁船を日本政府が貸与する形でようやく食糧事情は最初期からすれば安定していたが、暴動で当初300万人いた人々は5万人程減り、共同墓地には黒々とした石碑が建つ事になった。

 

「限界を超えて受け入れられるギリギリの容量の人間を詰め込んだ結果。食料事情は最悪だったし、結局は飢餓と暴動で数万人も死傷者が出たから」

 

「そうだったんですか……」

 

 朝、陰陽自の富士樹海基地の竹林内。

 

 北方に行く前に元居住者であったルカの話を聞こうという事で朝食を摂りながら故郷の事情を聞いていた少年は他のメンバーも何だか切り出し難そうという事でズバズバと実際のところを聞いていたわけだが、やっぱり重い話になってしまった。

 

 そんなことは知った事じゃないと猫ズは焼き鯖をハフウマハフウマしつつ、白飯を口に詰め込みつつ、ホウレン草のお浸しや昨日の芋の煮っ転がしを更に詰めつつ、口元をハムスターみたいに膨らませていたが。

 

「ボクは当時から施設に収容されてたから、お腹は空いてたけど、危険な事は無かったんだ。でも、窓から見える壁の外では火炎瓶の炎が上がってたし、お酒や硝煙の臭いが庭にしてたのも覚えてる」

 

「今はどうなんですか?」

 

「僕が来た3年前の時点で食糧事情は大分安定してたし、日本政府からの食糧援助でかなり政情も安定してたけど、道県への脱出は米国が許さないし、漁業では1か月に1回はZ化した海獣の被害で船が大破したり、沈没したりしてた」

 

「海獣類ですか……」

 

「うん。でも、日米艦隊の決戦以降、君達が来てから海獣類に沈没させられたって報道も見ないし、ベル君が造ったって言う海獣の駆逐用の海域のおかげであっちも助かってるんじゃないかな」

 

「それなら良かったです。でも、その話を聞くとお魚が主食なんですか?」

 

「うん。内陸の畑って言っても居住地の傍を大規模に開拓、全部芋畑にしただけで300万近い人の腹を満たすには全然足りないんだ。幸い漁獲量は今も右肩上がりだから、船が出れば腹が満ちるって言われるくらい毎日魚漬けだった」

 

「へぇ~~」

 

「あの国では漁師が命掛けのエリート職なんだ。米海軍からの不法入国規制と摘発に怯えながら近海で漁をする。遠洋漁業は海獣の事もあって、殆ど行われて無かったけど、これからは見直されていくんじゃないかな」

 

「分かりました。先遣隊の受け入れをあちらと交渉していた日本政府が数日中には許可が下りると言ってたので、考えておきますね」

 

 何を一体考えておくのだろうかと思ったいつものメンバー。

 

 再び東京本部で仕事に没頭しているフィクシーと訓練に明け暮れる片世抜きの女性陣は何も聞かない事にした。

 

 訊いて怒涛の如く少年が奇妙な現実を突き付けて来たら、ご飯が冷めてしまうと分かっていたからだ。

 

「あ、このサバ美味しいわ」

 

「そうですね。これ北方諸島産て書かれてましたよ。そう言えば」

 

「ああ、近頃は食料が完全に充足してきたから、外貨獲得手段として輸出もしてるって聞いたけど」

 

 悠音が白身の油が乗ったふっくら鯖と艶々な白米を堪能しつつ呟き。

 

 明日輝がふと思い出したように応じ、ルカが話題を提供する。

 

「まだ丸々一匹と半分くらい残ってるので夕食は鯖の味噌煮にしましょう」

 

「ミソニって何ですか? アステリア」

 

 今までお魚美味しいなぁという顔をしつつ、横目で大満足げな(≧▽≦)(≧▽≦)猫ズを見て『私がこの間に作ってあげた食事の時はチマチマ食べてたのに……』という悔し気な感じであったヒューリが訊ねる。

 

「それはですね」

 

 姉妹達のお料理談義が出来るような時間が出来たのは核テロの翌日の事だった。

 

 遂に来た北米からの応援が来たのだ。

 

 今まで少人数の団員で隷下部隊を束ねていたが、そろそろ副団長が復調するのを期に予定されていた通り、ベルの決済量を減らすべく秘書役の騎士達が来日したのである。

 

 彼らの中にはヒューリよりも医療関係の術式に詳しい者もおり、今後次々に問題が起こった時にヒューリを後方に縛り付けておくのは好ましくないと代行を提案された。

 

『ヒューリアさん!! おかげさまで沢山の人達を救う事が出来ました!!』

 

『一同、感謝の念に堪えません!! ありがとうございました』

 

『い、いえ、私の微力で何処まで出来たのか不安だったんです……そう言って貰えて嬉しいです』

 

『今後も教えて頂いた術式で多くの人を救って行きます。前線ではお気を付けて!!』

 

『ヒューリアちゃんが行っちゃう~~~?!! あのショタに取られちゃう~~~?!!』

 

『こら、ヒューリアさんの門出ですよ。ちゃんとしなさい!! 貴方も立派な医術師でしょう?』

 

『免許とかは無いけど、魔術師として医療に携われるようになったのは間違いなく騎士ヒューリアのおかげですよ。本当にありがとう!!!』

 

 このようにして今まで第一線で医療現場で指揮を執っていたヒューリは現場の隷下部隊の女性医療部隊やら彼女を慕う者達に惜しまれつつも医療現場から離れ、隷下部隊もクローディオ側と統合する形で引き継いで東京本部から陰陽自へと移った。

 

 今後はベルと共に医療関係の研究開発と現場での活動で尽力する事になるだろう。

 

 このような人事の結果として、フィクシーにも同じような状況が訪れている。

 

 秘書達のおかげで仕事量も激減という程ではないが、今までの超人でなければ決済不能な量が3割まで低減し、ベル達と共に訓練や現場に出る余裕が出てきたのである。

 

『大隊長!! 我ら東京本部隷下教導隊一同!!! 心より大隊長の御活躍を祈らせて頂きます!!!』

 

『祈るよりまずは死なねぇように訓練して実戦して次に備えろ。オレが鍛えた連中は高々自分達の一指揮官の離任の為に訓練を疎かにするような連中なのか?』

 

『はッ!! 心配ありません!! 今も魔力吸収強化用の重りを40㎏総員装備中であります!!!』

 

『お、オウ(育てた方、間違ったかなぁ……)』

 

『クローディオ大隊長にケェエエレェエエエ!!!!』

 

 ―――『((; ・`д・´)ゞ』

 

 秘書来日の影響はクローディオにまでも波及しており、隷下部隊の一部をある程度まで使えるようにした彼は事務手続きや決済関係を全て秘書役達に押し付け、現地教導隊を発足。

 

 先日までに今まで書き溜めていた対ゾンビ、対軍隊などの戦訓をうんざりしながらも戦闘教義書として編纂し終えて、新教導隊の者達に下げ渡した。

 

 要はこれからはお前らが一人前として部下と部隊を指導しろ、という話である。

 

 まだ実戦においては活躍という程の活躍もしていなければ、戦闘経験も豊富ではないものの。

 

 それでもクローディオとの訓練を通して多くの隊員の中から選抜された教導隊はしっかりと機能し始めたのだ。

 

「クローディオさんも来ますし、ようやくですね。ようやく……」

 

 ヒューリアが少年に瞳を向けて言えば、少年も頷く。

 

「ヒューリさん。クローディオさん。フィー隊長。全員分の装備は用意してあります。先日、クローディオさんに使って貰いましたけど、あちらは皆さん専用のものを造るのにもう少し掛かる予定です」

 

 食事を終えた少年が手を合わせてご馳走様でしたと言い終え、ヒューリに告げる。

 

「あの【黒翔】や【黒武】でも十分に強いと思いますけど」

 

「アレもロスやシスコでこんなのが在ればと思ったモノを形にしただけなんです。もっと、拠点であるキャンピングカーが強かったら。もっと、移動しながら戦える車両や小回りの利く移動方法が在れば、自分の魔力を使わずに消耗せずに戦えたら……」

 

「ベルさん……」

 

 黙示録の四騎士との戦いを思い起こせば、いつも勝てたのはギリギリのところで全力を出し切り、運に恵まれて来たからだ。

 

 だが、これからもそうであるわけもない。

 

 必然、生き残る為にこそ少年はあらゆる力を今も作り続けているのだ。

 

「そういうモノがあれば、僕がソレを造れていれば、大規模な群れに出会う度、黙示録の四騎士と戦う度、死に掛ける事も無かったかもしれません。だから、アレはそういう意味では僕の過去への未練そのものなんです」

 

「そんな事無いですよ。過去に学ばぬ勇将破れ、過去に学ぶ弱兵勝る。なんて話もあります。ベルさんがいたから、沢山の人達が動いて、その人達が生み出した力が……この国を、私達を救ってくれた。ベルさんらしいまま、私は進んで欲しいですよ?」

 

「……ありがとうございます」

 

「「(;・∀・)……」」

 

 姉と少年の心温まる様子に姉妹達はニヨニヨし、ルカもまた苦笑していた。

 

「さて、カズマさん達もそろそろ来る頃でしょうし、今日はクローディオさんが東京から午後に到着するまで皆さんには陰陽自研の方で色々として貰いたい事があるんです」

 

「して貰いたい事、ですか?」

 

 首を傾げるヒューリに少年が頷く。

 

『おはよ~~さ~~ん。片世准尉に片手でボコボコにされたカズマさんが来たぞ~~』

 

 自虐的極まりない挨拶で丁度食べ終わった者が次々に立ち上がる。

 

「では、行きましょう」

 

「あ、ベル様。もう行かれるのですか?! い、今食べてしまいますから!!」

 

 今まで芋の煮っ転がしを入念に咀嚼して噛み締めるように食べていたハルティーナが無言で感動していた事を知っている全員が苦笑気味にもう少しやっぱり待とうという結論に達した。

 

 それから十分後。

 

 ランニングしてきたカズマと共に敷地内に置かれている車庫から黒武に乗り込んだ一同はハルティーナの駆る戦車に曳かれた後方車両に乗り込み陰陽自研へと向かう。

 

 内部はCP(コマンド・ポスト)用の電子機材と大量の医療器具と兵員輸送用の区画に分かれているが、基本的には基地機能に特化された装甲からは想像出来ないような広いコンテナ内のようにも思えるだろう。

 

 日本の国道を走る大型トレーラーの荷台などの幅と同じ基準で造られている為、内部は大量の器材や資材が置かれていても狭いとは感じない。

 

 緊急時の脱出や兵員の速やかな展開の為にも内部の通路は広く作られている。

 

 始めて乗った悠音と明日輝は秘密基地みたい、と。

 

 ちょっと楽しそうに通信機器とコンソールのあるシートに座り、ルカとカズマは最後方にある黒翔2台に内部から発進出来るのかと驚きつつ、移動中も男子心にキュンキュンする装甲大型二輪に目を輝かせ。

 

 ヒューリは自分が関わった魔術と現代医学の医療機器がどちらも医療従事者にとって使い易い配置になっている事に改めて満足した様子となる。

 

 ハルティーナもまた接続された戦闘車両内で一人で乗り回す事が出来る戦車を動かす事が出来て微笑んでいた。

 

「………」

 

 開発を主導した少年はそんな彼らを見つめて瞳を閉じて笑み。

 

 いつの間にか近未来戦車と呼ぶべきだろう10式の改良版である先頭車両に乗り込んでいた猫ズは内部の全天全方向モニター化した投影魔術具の外部映像を見ながらハルティーナの両脇で尻尾を揺らしていた。

 

 一つ切りの座席周囲には十数個のスイッチが浮かぶ台座と操縦桿。

 

 車両に乗るというよりは操作する中型重機と行った風情だろう。

 

 ペダルと左右の操縦桿で速度と進行方向を操作し、スイッチ類で更に複雑な機動や魔術具としての機能を発動させるのだ。

 

「クヲー?」

「マヲヲゥ」

 

「ダメですよ。操縦したかったら、人間にならないと」

 

 自然に二匹の言葉を理解しながら、ハルティーナが陰陽自研のある一角に乗り付ける。

 

 訓練でも無いのに戦闘車両が出ている事を訝しがる者はいない。

 

 何故ならば、事件と訓練以外で実働する黒武は一台しかないからだ。

 

 その操縦者の機体習熟とデータ取り用の機体には善導騎士団のマークがデカデカと車両横に刻印されており、専用車だと一目で分かる。

 

 専用の長い駐車スペースに止めた黒武から全員が降りて来ると研究所内から出てきた白衣やラフな格好の男女が次々に走り出して来て、少女達の最後に出てきた少年を見ると駆けよって来る。

 

「騎士ベルディクト!! ちょっと見て貰いたいものが!!」

 

「騎士ベルディクト!! 少しお時間を!!」

 

「騎士ベルディクト。これについてちょっとご意見を!!」

 

 陰陽自研で少年が中核人材として関わっている事は知っていたが、それにしても年上の大人達から次々に引っ張りだこという状況に少女達は思わず驚いていた。

 

「わ、分かりました。じゅ、順番にお願いします!!」

 

「で、では!! 医療糧食部門のコニー・マーヴェリックと申します!! 出来ました!! 遂に我々人類は完全無欠の人工肉の量産に成功致しました!! お、お喜び下さい!! 今は“終わりの土”に依存しておりますが、魔術的な観測技術によって未知のタンパク質の原始合成過程も明らかになりました!!」

 

「簡易に蛋白質を生み出す事が出来るようになったんですね?」

 

「はい!! また、魔導による種などの高速成長の処理過程も一部、科学技術的に再現可能になるまで秒読みです!! これがあれば、人類の食糧事情は劇的に改善しますよ!!」

 

「ありがとうございました。後程、研究室にお伺いしますね。では、次の方」

 

「兵器部門の田沢です!! 騎士ベルディクト!! 先日のクローディオ専用【痛滅者】の件ですが、彼の精密照準時のデータは素晴らしいものでした!! アレを試作運用中の火器管制装置に転用したところ、照準性能が49割向上致しました」

 

 さすがに聞き間違いかと少女達が目を丸くする。

 

「具体的には最大照準数が4000近くまでアップし、照準後のAIを用いた自動掃射時のターゲットの撃破率が飛躍的に上がりました!! データの詳細な解析も進めております!! 今後も是非あの方のデータを届けて頂きたい!!」

 

「え、ええ、そちらは何とかします」

 

「ありがとうございます!! ゾンビ相手の自動照準と掃射機能特化したAIドローンは米軍でも開発されておりますが、同レベル以上のモノが出来るのは確実です!! あの新型C4Iの情報処理システムはβテスト版でシエラに実装が可能だと思いますので、是非後で見に来て下されば!!」

 

 マシンガンの如く喋りまくられたベルだが、全てちゃんと聞いた上で彼を見返す。

 

「後でお伺いします。予算と資材が欲しかったら言って下さい。増額します。次の方どうぞ」

 

「航空機部門のトニー・スタリオンと申します!! 先日、シエラ・ファウスト号に取り付けた追加加速用パーツの件なのですが、基地の滑走路を破壊する程の威力だったのはご報告したと思います」

 

「あ、はい。色々考えなきゃなぁって思ってたところです」

 

「それでなのですが、もういっその事、逆にしてみませんか?」

 

「逆?」

 

「良く業界では宇宙開発時にはマスドライバーという巨大な電磁加速用のレールなどを用いて宇宙に物体を飛ばすという話をする方々がいるのですが、今の現状でも部材の強度や電力の供給次第では可能という話なのです」

 

「はぁ、それでどういう関係が……」

 

「つまり、超電磁砲やコイルガンの原理的な応用で通常航行以外は此処から加速して打ち出した方が簡単で安上がりなのではないかと」

 

「ああ、そういう……」

 

「従来の方は従来の方で開発を進めますが、この基地から放射状に地球上の全ての地域にマスドライバー型の加速装置で船や物体を射出し弾道飛行させてはどうかという。こ、これ計画書です!!」

 

「………(パラパラ)採用で(・ω・)」

「オッシッッッ!!!」

 

 研究者がガッツポーズを取る。

 

「その代わり、レールは地下埋設方式にしましょう。ついでに基地の地下施設をちょっと半分くらい改良します。基地の周囲に放射状のレールを伸ばして射出。後、本数は2本から24本くらいに増設。それから加速用の方式には魔力式カタパルトの改良版も付与しましょう」

 

 涙を流してウンウン頷く研究者はギュッとベルを抱きしめた後、仲間達へも早く伝えなければと走っていった。

 

 他の研究者もペコリと頭を下げてからこれ以上騎士ベルディクトの貴重な時間を削ってはいけないと走り出して研究所内へと戻っていく。

 

 ―――『(=_=)………』

 

 陰陽自研に来て、いきなり濃ゆい話をされてしまった女性陣一同はお腹一杯になった様子であった。

 

 唯一、カズマだけは夢のある話や最新の科学事情?を前にして目をキラキラさせていたが。

 

「あ、取り敢えずは僕の研究室に行きましょう。また人が来ちゃうかもしれませんし」

 

「ベルさんが人気者になってる……」

 

 喜んでいいのか、焦るべきなのか。

 

 微妙な表情となったヒューリも困惑するしかないようだった。

 

 *

 

 陰陽自研にある少年の研究室。

 

 実質的には施設中枢である地下の私室はどちらかと言えば、工房と言った風情だ。

 

 単純な研究室の体を保つ施設なら東京本部に陰陽自の善導騎士団の領域、ロス、シスコの本部内にもある。

 

 だが、大量の工具とスーツや装甲が壁際で並べられて、調整用の器材のような整備そのものをどのようにか行う工具自体を開発中という様子を見れば、其処が他の場所とはまるで違うのは一目瞭然だろう。

 

 しかし、それと同時に少年の趣味が目覚めた結果か。

 

 壁際に大量のプラモやキットが山積みになっている様子は其処が趣味用の部屋でもあるのだろうと一同少年のお休みがそれなりの成果を上げていたらしいとホッとした事だろう。

 

「お、これ最新じゃん。あ~~アニメでカッコよかったヤツじゃねぇか。やっぱ、ロボの合体と乗り込み系の超強化アーマーはイイな」

 

「カズマさんはこういうのが分かる人ですか?」

 

「普通の男の子的にはカッコいいものは正義だからな」

 

「こういう機械式の装甲。こっちではロボットって言ってますが、僕らの世界でも魔術で同じような事をしていた人はいました。ただ、物凄くマイナーな部類だったはずですけど」

 

「へぇ~~」

 

 少年が全員にソファーに座るように促した。

 

「先日買ったのは単純に楽しむ為もありますけど、どちらかと言えば、人間に着せる装甲の参考にならないかとか。これから創る大型の()()()()()みたいな強化用のものにディティールを使用出来ないかと考えての事なんです」

 

「おお、つまり、オレ達が使ってる装甲が更にガッチガチに強化されるのか?」

 

「【痛滅者】は空戦における装甲の叩き台ですが、量産機やカスタム機を完成と言える部分まで作り込める段階にありません」

 

「まだ、未完成、と」

 

「ええ、結局のところ高高度での戦いに必要なのは相手に押し負けないパワーと機動力と装甲です。繊細な人間の小手先の技や魔術では黙示録の四騎士相手には勝てません。ですが、巨大過ぎるモノは動きが鈍くて、的に為り易くて、ついでに防御するのも極めて難事です」

 

「まぁ、戦艦をロボで撃破するのはお約束だな」

 

「最終的にあちらの能力に押し負けない機能性と人間が乗り込むという事を考えると……【痛滅者】の全長は悠音さんや明日輝さんの乗ってる原型から1.5倍くらいまでが大きさの限度だと思います」

 

「ふむふむ」

 

「これらの娯楽作品の装甲は基本的に造形的なものばかりではなく。機能美的にもどうかと真面目に考えると……結構、良さそうだったりするモノも多いんです」

 

「日本製のロボが現実を救うとか。これにはアニメ業界もニッコリな展開だな」

 

「取り敢えず、装甲そのものの基礎的な仕様だけは決まっていて。まず最大重量の装甲は基本装甲に後付けしていって、戦闘途中にデッド・ウェイト化したら、完全使い捨ての兵器として分子レベルまで使い潰します」

 

「お、おう? 消耗品なのね。つーか、分子レベルって……」

 

「先日、術式をナノ単位で刻む事に成功したグループがいて、長い術式は無理ですが、短い術式を繰り返し金属板に記述したり出来るみたいです」

 

「ほ、ほぉ?」

 

 ナノとかベルの口から出る時点でカズマの額には汗が浮いている。

 

 真面目に日本国内の技術を吸収し続ける少年の知識や理解力は日々上がっているのだが、当人はシレッとしているので傍目には分からないのだ。

 

「装甲内に極小の術式を大量に入れ込めれば、損耗、消耗しても色々と捗るでしょうし、もしもの時は各種の方陣化や爆弾化や遠隔操作、とりあえず思い付く限りの機能を入れて使用するつもりです」

 

「サラッと近未来的な怖い発想を……」

「さすがベル様です」

 

 カズマが汗を浮かべる横でウンウンとハルティーナが何も分かっていなさそうな笑みで頷く。

 

「極薄の装甲を重ねて使う方式を採用してみようかと思いまして。こんなものを用意してるんですよ」

 

 少年が懐から取り出した従来の装甲と新しい装甲と説明した二つの褐色の装甲を手渡す。

 

「パーツ単位ではなく。装甲の部位単位での補修も可能な代物です」

 

「部位単位……そこまで細かくするのか?」

 

「はい。術式の折り込みも部位単位に出来れば、必要な部分に必要な能力を複合して持つ装甲が製造可能、カスタマイズ性も上がるかと思って」

 

「詳しい事は分かりませんが、同じ物に見えますけど。これ違うものなんですか?」

 

 ヒューリの言葉に二つの装甲へ魔力を流してみるよう少年が言う。

 

 そうされた二つの装甲版がゆっくりと輝き出した。

 

「何か、違う?」

 

 少女が繁々と装甲を見やる。

 

 片方は単純に輝くだけだったが、もう片方は次々に小さな方陣が多重連鎖機動し、更にその方陣が6角形状のハニカム構造を示してハチの巣状になった。

 

 また、装甲の横の部位には数十枚の部位を張り付けたものらしいミルフィーユのような層が確認される。

 

「ああ、こういう感じになるんですね。でも、強度は大丈夫ですか?」

 

「強度は一体成型のパーツよりも落ちる事は落ちるんですが、そもそも四騎士の攻撃が当たったら、壊されない事そのものが在り得ない話なので。破壊されてもすぐに修復出来る装甲。同時にまたすぐに強度を補強出来る装甲にしたかったんです」

 

「掠って破壊された部位だけ交換、みたいな?」

 

「はい。転移と錬金術技能を多用すれば、損耗した部位も戦闘中にどうにかなります。そもそも全ての部位を損耗込みで部位単位で使い潰せれば、防御の質も上がります。攻撃力が100の攻撃を防御力が1の装甲で受けてパーツを一つだけダメにするのと防御力が10の装甲丸々で受けて損耗していくのでは、前者の方が交換してすぐに使える事を考えても利便性は上です」

 

「何となく想像出来ました」

 

 ヒューリの横では悠音がもう頭を使うのは疲れたよと姉に寄り掛かって、スヤァと居眠りしそうになっている。

 

 ヒューリ、カズマ、ルカ、明日輝などは真面目に聞いているが、まだ想像し難いという顔をしている者もある。

 

 無論、ハルティーナはまったく分からないがベル様は凄いです、という得意げな表情(*´ω`*)であった。

 

「紅蓮の騎士などの事を鑑みると今後は遠隔誘導兵器の類が効かない。通信も出来ない。そういう状況下でも連携していかなきゃいけません。この装甲はそういう時、単独でも予備パーツさえあれば、方法を知っているだけでどうにか補給整備も出来るようにという事で考えた仕様でもあるんです」

 

「そうですね。大魔術師クラスの妨害をこっちは抜ける事が出来ません。そう考えたら、確かに……自分で補修したり、その場で装甲を回復させられるのは重要だと思えます」

 

「今後、これがあらゆる装甲のスタンダートとして採用されるので皆さんにはお伝えしておきました。これはおまけみたいなものです。既存兵器の全部をこの仕様でコンバートしたら、マニュアルと仕様書とやり方を実演しますので」

 

「じゃあ、今日は何の為に?」

 

「安治さんには話した事なんですが、黙示録の四騎士達の目的と限界に関するレポートが出来ました……」

 

「え、それって……」

 

 ヒューリが驚く。

 

「はい。彼らがどうして人類に仇為す存在となったのか。それに対する僕なりの見解です。今日一番にフィー隊長やクローディオさんにも送りました」

 

「つまり、オレ達にソレを聞かせたくて呼んだのか?」

 

 カズマが真面目な表情で少年を見つめる。

 

「後で他にも色々見せたいものはあるんですけどね。取り敢えず、コレを……」

 

 人数分のレポートらしき日本語の資料が数枚全員に手渡される。

 

 無地の白い表紙には【黙示録の四騎士の現段階での考察】と書かれていた。

 

 ゴクリと唾を呑み込んだ悠音以外の面々がパラパラとそれを読み込んでいく。

 

 それから無言の十数分が経ち。

 

「つまり、黙示録の四騎士は地球規模の儀式術を行っている、という事なんですか?」

 

「恐らく、背後の組織である最後の大隊が行っている、というのが正しいんだと思います。あの方と呼ばれる存在がいる以上、高貴な血筋である可能性もあり、その周囲には黙示録の四騎士以外の協力者だっているかもしれません」

 

「あの意志あるゾンビみたいな?」

 

「ええ、ああいう人達が沢山いるかもしれません」

 

 レポートの内容は単純に今まで得た情報を総合して、魔術師的な推測を交えながら、今まで少年が得て来た現状の情報を分析した代物であった。

 

 それには5つの章がある。

 

 一つ目はゾンビとゾンビの発生が地球環境に対して、どのような影響を与えているか。

 

「第一章はゾンビが発生した領域内で密かに地下資源が変質して大量に増殖している事実。黙示録の四騎士が自らの鎧の素材でもあると言っていたディミスリル。その鉱脈がゾンビの発生した場所や海ではほぼ海底を埋め尽くす程に埋蔵された現状……ベルさんが言っていた奴ですね」

 

 ヒューリが少年の今まで気になっている事があると時折口にしていた事を思い出していた。

 

 二つ目はゾンビと米国防総省。

 

【BFP】と古代遺跡……仮称ガリオス首都との関係。

 

「第二章。ゾンビの発生【BFP(ビッグ・ファイア・パンデミック)】当時に様々なゾンビが生まれた可能性。アメリカ国防総省における秘密の実験。異世界人とユーラシア中央にあるらしい遺跡()()()()からの発掘品である頚城と呼ばれる黙示録の四騎士の鎧を使った何らかの研究。これってヒューリアさん達の故郷、なんだよな?」

 

 カズマが先日聞かされた話を踏まえて訊ねる。

 

「ええ、信じられませんが、クローディオさんが送って来た情報内部の騎士団本部は確かに本物でした。ただ、何がどうなってそうなったのかを調べるには現地に赴くしかないと思ってます」

 

 ヒューリがそう冷静に返す。

 いや、冷静でなければならないと己を戒めているのか。

 

 その様子に故郷を知らない二人の姉妹は姉を心配そうに見つめた。

 

「心配せずともいいですよ。思い悩んだりはしますけど、全てをこの目で見ると決めてますから」

 

 二人の自分より背の高い頭を撫でたヒューリは昔よりも強くなったのだろう。

 

 母の死。

 父の死。

 

 そして、恐らくはガリオス首都にいた彼女の祖父の死が全て過去にあって尚、その全てを抱き留めねば、己の目で確かめねば、先に進めず、生きられないと知る故に。

 

「第三章……」

 

 ルカが目を細める。

 

 三つ目は黙示録の四騎士の制限と限界がどのようなものであるかの推測。

 

「ベル君が言うんだ。信じるさ。でも、彼らが()()()()()()()()()()()()()()()って言うのは凄く納得し難いものがある、かな」

 

「分かってます。ですが、そうとしか考えられないんです。ずっと、思ってたんですよ。どうして、黙示録の四騎士はあんなにも真正面から滅ぼしに来るんだろうって」

 

「でも、中には卑怯な手段を使った話も陸自の教本なんかには載ってたんだけど、そことの齟齬はどういう風に解釈すればいいんだろう?」

 

「それは恐らくは戦術や戦略かどうか。何じゃないかと」

 

「戦術?」

 

「彼らは騎士と名乗ります。でも、どうしてでしょう? 人類を滅ぼす自分達の決意を示すなら、悪魔って自分達を呼んでも良いはずですよね」

 

「確かに……」

 

 ヒューリが今まで出会って来た黙示録の四騎士達の言動で必ず相手は自ら騎士と名乗っていた事を思い出す。

 

「それどころか。もっと汚い卑怯な手を使ったって良い場面が沢山在りました。ある限りの情報を集めてみましたが、彼らは人に絶望を与えるような行為は進んでやりますが、決してそれは形が見えないものではありません。純粋な力と姿と行為で行われます」

 

「奴らの軍事行動には一定に規則や制限がある。そういう事でいいのか? ベル」

 カズマに少年が頷く。

 

「第四章はえっと……」

 

 明日輝が話に付いて行こうと今一度内容を読み返す。

 

 四つ目は意志あるゾンビの登場とその解析において得られた知見。

 

「意志あるゾンビ。黙示録の四騎士以外の思考出来るゾンビ達が彼らに付いている事を確認しました。その時、僕は彼らの口元に注目しました」

 

「口元? あの蟲の口みたいな?」

「はい。今はお魚なんかもああいう風になってますよね」

 

「え、ええ……そのせいでお魚の消費量は前年比から微妙に下がってたりしますし」

 

「ゾンビ化。Z化と呼ばれている現象の一端として確認されてはいますが、意志あるゾンビがそうなってた事に違和感を覚えたんです。僕」

 

「違和感?」

 

「魚や蛸、そういうの生き物も口元をああいう風にしてた。同型ゾンビも多くがそうですよね。でも、意志あるゾンビもそういう風なのが確認された。これって何を示していると思いますか?」

 

「え、ええと……資料には普通のゾンビはそうならないなら、ソレは個体差ではなく種族差であると考えてよい。そう書かれてますが……」

 

 明日輝が何を書かれているのか分からず首を傾げる。

 

 だが、ルカは思い至ったようだった。

 

「それって……」

「ええ、そういう事です」

「どういう、事ですか?」

 

 明日輝が訊ねる。

 

「Z化と呼ばれている現象ですが、恐らく途中から口がああいう風になったわけじゃないんですよ」

 

「途中から、え? そ、それって生まれた―――」

 

 ハッとして明日輝が口を押えて蒼褪め、カズマもゴクリと唾を呑み込んだ。

 

「ええ、アレは恐らく種族単位での変質です。人間のゾンビ化とはまた違ったプロセスによる変質の一端だと考えます。第一章で書きましたよね? ゾンビの発生地域では何故か地下資源やディミスリルが大量だって」

 

 一同が黙り込む。

 

「僕の考えはこうです。北米式のゾンビの発生と同時に死亡後までの過程でゾンビ発生で得られた概念域側の魔力とそちら側で発生している術式が大規模な環境、領域内の大異変を齎している」

 

 ヒューリがその言葉に少年が何処か辛そうだなと感じた。

 

「僕は皆さんにもお伝えしている通り、死の魔力を使います。それを概念域という高次元から引き出して使ってます。そして、ゾンビ達の発生原因が物理現象で解明されない理由や術式や魔術の反応も無い理由が、僕の使っている概念域側からの干渉だからじゃないかと疑ってるんです」

 

「つまり、ベルさんの()()()()に似たモノがこの世界の裏側で大量に奔ってるって事なんですか?」

 

 ()()()()

 

 そう言われてピンと来たのは眠りこけそうだった悠音と明日輝だった。

 

「それってベルが私達を助けてくれた時に使ってた魔術の事?」

 

 ハッキリと悠音に訊ねられて、少年が頷く。

 

「僕の魔力と術式はこちら側で奔るものが半分。そして、僕の観測する死と通じた概念域内部に奔らされているものが半分。僕が無限にも思える魔力を常時発現して使っていられる秘密の一つです。まぁ、制約だらけですけど」

 

「喋っちゃっていいのか?」

 

 カズマの言葉に苦笑が返される。

 

「僕が術師として未熟なのは変わりありません。どんな秘密を握られようと皆さんなら構いません。そもそもクローディオさんは勘でそういうのが分かるでしょうし、フィー隊長だって何か仕掛けがあるんだろうって、ちょっと考えれば解っちゃうような話ですから」

 

「ベルさん……」

 

「幾ら魔力を使えても最終的に術師の戦闘でモノを言うのは積み上げてきたモノ、技量と術式、叡智とソレを扱う知恵。要は経験や時間です」

 

 少年が自分の使う魔術をあまり好きではないという事をそもそもヒューリは聞かされていたし、知っているからこそ、二重に少年の内心が苦いであろう事は想像に難くなかった。

 

「ゾンビを発生させている術式が今まで僕の瞳に観測されなかった理由はその術式の概念域での深度……高次元観測時の視野が狭いせいだと思うんです」

 

「視野を広げれば、見えるのか?」

 

 カズマに少年が頷く。

 

「ただ、あまり観測情報の密度や精度、深くまで見ると()()()()()()()()()とお爺ちゃんは言ってました」

 

「帰ってって……」

 

「世界の外側を普通に覗いて今の自分を保つのは極めて難しいんだそうです。一度でも深くを覗き込んだら、魂そのものが変質して何か別のモノになってしまう可能性すらあると」

 

「わ、悪りぃ……」

 

 カズマがマズイ事を聞いてしまったと少し少年を心配そうに見やる。

 

「いえ、どちらにしてもそんな奥を覗き込める精度の魔眼じゃないので。無理やり覗き込もうとした反動でこの間はちょっと壊れ掛けましたし」

 

 サラリと言われた言葉に悠音と明日輝が自分達の為にそうなったのだと僅かに胸を締め付けられた。

 

 あの時、確実に悠音は死んでいた。

 だが、それを蘇らせたのだ。

 少年がどのような魔術を行使したのか知らずとも。

 

 その蘇りすらも可能として見せた術式が想像を絶する負荷を術者に与える事は考えられて然るべきだろう。

 

 だが、それを分かっていてか。

 

 ヒューリは妹達の太ももの上に手を置いて、大丈夫だからと安心させるように微笑んだ。

 

 妹達もまたソレを経験したのは自分達だけではないのだと理解する。

 

「第四章はつまり総括すると地下資源や周辺生物に大量の変質、変異が魔力の依存無しに起こっても何ら不思議じゃないって事です。それが種族単位への変質として出れば、動植物は外見的な変化を余儀なくされる」

 

「人間も例外じゃない、ですか?」

 

 少年がヒューリに頷く。

 

「恐らくは……人間の次の世代がもしも魚のように変質してしまうなら、それは人間と呼ぶべきか迷うどころか。真に憂慮するべき事態です」

 

「憂慮するべき、か。確かに自分の子供があんな口で生まれて来たら、多くの親は発狂したり、捨てるか愛するか……悩むだろうな」

 

 カズマが心底愛してやる奴もいるだろうが、そこまで人間に安易な綺麗事は期待出来ないだろうと溜息を吐く。

 

「殺すならば大虐殺、生かすならば、新人類《ポスト・ヒューマン》の誕生……それが最後の大隊側の意図して生み出されたものならば、人類との内戦まで考えなきゃいけない事態ですから……」

 

 そうして第五章に彼らが今一度目を通す。

 

 五つ目はこれらを総合した結果、何が起っているのかの推測。

 

「これらの事実を総合すると第五章の結論になります。黙示録の四騎士は恐らくゾンビを発生させ、ゾンビを特定条件で死なせ、術式による世界の変質を促す役割を持っている」

 

「ゾンビを死なせる……つまり、駆除させる?」

 

「いえ、それのみならず、ゾンビ化後の自然死なんかも入ってるかもしれません。そもそもどうして同型ゾンビを造る必要があったのか? それはゾンビがいなくなったら困るからだと僕は考えます」

 

「ゾンビがいなくなったら……」

 

「元々、僕しか知らない情報が一つあって、今までは気にしてなかったんですけど……それが何か凄く重要みたいに今は思えてて」

 

「どういう事なんだ? ベル」

 

「同型ゾンビって人間がゾンビになったものとは違って、死んだら空白、死がちゃんと発生するんです。もう死んでいるというか。オカシな話ではあるんですけど、生きていないけれど、死はある、という事になるでしょうか」

 

 カズマやルカが奇妙な話に胡乱となる。

 

「つまり、どういう?」

 

「ええと。まずそもそも死から魔力を取り入れる一番簡単な方法は死が多い空間にいる事です。ですが、これは僕の経験則なんですが、死から魔力を取り入れるのは普通の健全な都市だとかなり苦労します。それこそ墓地に住まなきゃやってられないくらい」

 

「どうしてだ? 前に聞いたけど、どんな小さな動植物の死からでも魔力は取り出せるんじゃなかったっけ?」

 

「ええ、それはそうなんですが。僕の魔眼が見る死。世界の空白は常に埋まるのが日常です」

 

「空白が埋まる?」

 

 カズマが首を傾げる。

 

「死と同時に生在れかし。つまり、何もかもが死に尽くしたような世界でなければ、その世界には常に生命のサイクルとして何かが誕生している。その誕生が空白を埋めるんです。人間の死は極めて埋まり難いんですが、基本的に人が住んでいるところにいると大抵はどんな人の死も埋まります」

 

「そうなのか……(´・ω・`)」

 

「黙示録の四騎士の出没記録を閲覧して解析してみたんですが、彼らがゾンビに完全制圧された以外の都市で出没した場合、高確率で人間や動物の死亡率が高い場所や墓地の傍や大量の人間が過去に死んでいた古戦場や戦地の跡である事が分かりました」

 

「あ~この特定の領域でしか活動出来ないって報告書のところか?」

 

「ええ、恐らく黙示録の四騎士クラスの存在を維持出来る死の量が足りない場所には出ていけない。北米やゾンビ制圧下にる大陸の砂漠化現象も死を固定化する為のものなんじゃないかと」

 

「あいつらは何かが生まれる場所じゃ生きていけない? つまり、同型ゾンビってのは駆除されて更にあいつらの糧や出現出来る領域を増やす駒なのか」

 

「いや、あいつらは死んでるけどね」

 

 ルカがカズマに突っ込む。

 

「カズマさんの言う通りです。そして、それが恐らく黙示録の四騎士達が日本に未だやって来ない理由だと僕は考えてます」

 

「日本は……まぁ、この数十年平和だったからな」

 

 カズマが歴史30点の知識を披露した。

 

「恐らくですが、人口密集地は彼らにとって鬼門です。それに最初から黙示録の四騎士が北米で確認されていなかった事からもある程度の死の量が無いと戦闘出来るだけの実力を維持出来ないんじゃないかと」

 

「つまり、生まれて来る子供が黙示録の四騎士にとっては一番の劇薬って事か」

 

「はい。生命の誕生は生命の死よりも概念域では強いものです。死は零であり、余白であり、世界は果てこそありませんが有限ですから」

 

「む、難しいな」

 

「それに死を魔力化するとその分だけ死が……誕生とは比べ物にはなりませんが、少し埋まりますし、黙示録の四騎士が魔力を僕と同じように使うならば、死を使い果たす可能性もあります。莫大な死を戦い続ける為に消費すれば、活動環境は悪化していくでしょう」

 

「何か魔術師っぽいぞ。ベル……」

 

 カズマが微妙に汗を浮かべる。

 

「カズマさんも魔術師の一種ですよ。一応……」

 

「ま、まぁな。でも、今の話を聞くに連中はゾンビを使って自分の活動領域を広げて、尚且つ生命が生まれないところを維持しなきゃ活動出来ないのか……不便だな」

 

「ええ。恐らくは……その不便さ故に全ての戦闘行動を自分達で行えないんじゃないかと」

 

「黙示録の四騎士達も完全な存在ではないんだね。ベル君の予測が正しければ」

 

「はい。途中で彼らが現れなくなったのは死の供給が何処かで激減したか。あるいは存在を維持する魔力すらも枯渇する程に消耗するような出来事があったか。という事なんじゃないかと想像します」

 

 ルカにベルが頷いた。

 

「つまり、その方法が見付かれば?」

「撃退出来ます。あくまで撃退ですけど」

 

 その言葉にルカもヒューリも明日輝もようやく分かり易くなった話に悠音も目を輝かせた。

 

「それで結論としては彼らは死を満たす役割を持つ者として定義されます。魔術師として役割を演じるというのはつまり儀式なんです。それの舞台がもしも世界規模ならば、その儀式もまた世界規模……早く気付くべきでした。あの四人全員が騎士を名乗り戦う必要なんて彼らには少しも無いという事を……」

 

 ベルが虚空に魔力で半透明の地球儀を表示して浮かべる。

 

「彼らの儀式が世界の変質を伴うモノである以上、それを止めなければ、待っているのは全てが死に絶えた世界。何も生まれず。何も誕生しない世界……」

 

 ゴクリと全員が唾を呑み込む。

 

「今の気象条件や砂漠化、ゾンビの密集地域の観測データに基いた僕独自の予測ですが……」

 

 青い地球がゆっくりと褐色の大地へと塗り替わっていく様子が彼らにも解った。

 

「恐らく……10年。もしまた大量の死人が人類に出る事になれば、更に地球環境は変貌する事が予測されます」

 

「これが地球?」

 

 ルカが呆然と呟く。

 

 海洋すらもゆっくりと後退して干上がり、最終的には厚い雲に覆われて死の星と化していく様子が克明に地球儀の上では再現されていた。

 

「コレを止める方法は今のところ僕らにはありません。物理法則上の現象ではない概念域からの干渉を止めるにはソレの本体たる術式を消すしかないからです。だから」

 

 再び地球儀が明滅し、現在の状況を映し出したモノに戻る。

 

「ユーラシア中央の何処か。米国が掘っていたらしい遺跡……ガリオス首都をどうにか見付けて、この状況を動かす力を見付けなきゃなりません。一番の確保目標は……コレです」

 

 少年が丘に突き立つ七本の剣のロゴを地球儀の代わりに全員に見せた。

 

 ヒューリはそれが何なのか知っている。

 彼女は七教会信者だ。

 

 そして、同時に七教会の治世に反旗を翻そうとした王家の姫でもあった。

 

 どちらの事情も理解する故にどちらも擁護出来て批判出来る彼女は……そのロゴを懐かしくも少しだけ複雑そうに見つめる。

 

「コレは?」

「七教会の意匠です」

「イショー?」

 

 ルカが訊き、カズマが首を傾げる。

 

「僕らの世界で魔術は神の力を借りて強化する方法が数十年前までは一般的でした。大陸中央では加速度的に魔導が広まって効率化されたので今は地方諸国で使われるのが主ですが」

 

「つまり?」

 

「要は魔術的な高位存在に力を借りる時に賛美する内容が書かれてあります」

 

「へぇ~~神様はあっちの世界にもいるのか」

 

「まぁ、大陸において魔王との最後の戦争。黄昏の悠久戦争が終結して以降、神格の応答が無くて使えなくなった意匠が大量に出て、魔王に神々が沢山滅ぼされたんじゃないか、って言う人もいるんですが、真実は闇の中です」

 

「何か、いきなりファンタジーっぽいのキタな」

 

 カズマがその話に興味津々な様子となる。

 

「ただ、コレは力を借りるものではありません。でも、七教会の意匠はコレそのものが二人の聖女様の合作だそうで、僕の汎用式の完全上位互換版なので……もし確保出来れば、かなり四騎士相手に戦えると思います」

 

「おお、パワーアップ用の刻印みたいなもんなのか?」

 

「ええ、更にこの紋章が彫られた機器や武具は七教会謹製の純正品装備……恐らく魔力源さえあれば、リミッターを外せなくても小天体や小型の彗星くらいなら消滅させる事が可能でしょう」

 

「ブッホ?! トンデモねぇな……そして、此処にはその魔力無限な術師がいる、という事なわけだ」

 

 思わず噴き出したカズマが口元を拭う。

 

「戦えるかは別問題ですけどね。後、これには何よりも助かる機能が3つ搭載されてます」

 

「どんなの?」

 

「……魔力源さえあれば、見合った規模で異相空間内を捜索する術式が発動出来ます。つまり、僕らの世界への道を探せます。概念域の探索も恐らく可能でしょう」

 

「帰れるんですか!?」

 

 ヒューリが驚く。

 

 もう半ば妹達とこの地で生きていく事も考えてはいたのだ。

 

「いえ、可能性が高くなるだけなので。でも、もし通信まで出来たら、応援が呼べます。応援が呼べれば……恐らく僕らの問題はほぼ全て解決します」

 

「マジで?」

 

 カズマが驚きながら訪ねる。

 

「そもそも黙示録の四騎士は僕やフィー隊長が測定した限り、低位神格クラスより少し落ちる程度の能力がありますが……七教会の純正装備1個小隊12人分があれば、滅ぼせます」

 

「ウッソダロオォイ?!!」

 

 もはやカズマの顎は外国人並みにしゃくれていた。

 

「本当です。七教会は邪神の類を数十年で大陸から駆逐しました。それも単なる七教会の装備を使っただけの超越者や人間を数千、数万使っただけで……」

 

「凄まじいね……」

 

 ルカもさすがに呆れていた。

 

「その象徴、武力の体現こそが高格外套(ソーマ・パクシルム・ベルーター)……四騎士の使う頚城の恐らく大本です。もし純正装備が見付かれば、コレを用いてフィー隊長やクローディオさん。僕とヒューリさん。ハルティーナさんの力を合わせて、互角以上に戦えるでしょう」

 

「そんなに強い兵器なのか? そのソーマなんちゃらって」

 

「数と乗りこなせる存在さえいれば、神様を殺せる兵器です。比喩でも何でもなく……僕らの世界最強の対魔王汎用兵装ですから」

 

「対魔王……やっぱりファンタジーだな。魔王どんだけ強いんだよ」

 

「最高位神格数百柱と殴り合って戦えるくらい……でしたっけ?」

 

 ヒューリに少年が訊ね、苦笑気味に彼女は頷く。

 

「一応、最後の魔王クリティカル・アンラッカーはそう一部では言われてましたけど」

 

「ソレを単体で相手に出来て、神様からすらヤバイって言われる人……七聖女筆頭のフルー・バレッサ様の代表作ですから、期待はしていいです」

 

「神様からすらヤバイって……一体、どんだけヤバイのその聖女様?」

 

「宇宙が創造出来るとか。遠い天体、恒星を実験場にしてるとか。惑星規模の魔術具を極秘裏に製造してたとか。言われてましたね」

 

「そう言えば、そうでしたね。物凄い眉唾でしたけど」

 

 ヒューリが大陸での()()()()というか噂を思い出して肩を竦める。

 

 殆ど根も葉もないような事ばかり言われていたからだ。

 

「理不尽な事を言ってた神様と1日O・HA・NA・SI・したら、神様の方が改心したとか。世界を破壊する超兵器類を何万個も所持してて、宇宙制覇目前とか」

 

「ああ、もう食べられない幻の甘味を得る為に時間跳躍装置を作ったとか。光より速い超光速移動技術を実現して大陸中のお菓子屋さんを回ってるとかも言われてましたね」

 

 ヒューリもさすがに此処まで言って苦笑した。

 そもそもが意味不明なレベルの噂である。

 

 何故、もう食べられないからって甘味の為に時間跳躍しようとか言い出すのか。

 

「神様とか、時間跳躍とか、超光速とか……何か何でもありだな」

 

 カズマが脳裏で悪の女マッド・サイエンエィストを想像する。

 

「でも、凄いお方ではあるんですよ。事実として大陸一の大金持ちですし、唯一国家に無限機関を貸し出してる人でもありますし、宇宙船を大陸国家に1台ずつ無償で贈り物にしてましたし、近年だと0次元関係の論文が凄い騒がれてました」

 

「うん。もう何もこれ以上は何も驚かなくていいなオレ」

 

 お当て上げだと降参のポーズを取る。

 

「え~とにかく。七教会のロゴが入った機材と兵器は必ず確保の方針で。もし使えなくてもガラクタだったとしても、一部を回収解析出来れば、それだけで僕が造ってる装甲の能力が数倍から数十倍上がる事を期待出来るので」

 

「了解了解。ぁ~~ここらで一杯お茶が怖い。ルカ、頼めるか?」

 

「うん」

 

 ルカが話し疲れたとカズマに言われて、傍にあった給湯室の棚にお茶の缶が見えていたので人数分を入れに行く。

 

「あ、私も……」

 

 明日輝がそれに続いた。

 

「で、何だが……そのガリオスのある場所の見当は?」

 

「半径1200km圏内まで場所を絞り込んだと。結城陰陽将から報告を受けていますが……詳しいところはまだ」

 

「この世界の魔術の源流。世界の神秘の始まりの場所、か」

 

 カズマが再び虚空に出た地球儀のユーラシア中央部。

 広大な領域が円で囲われたのを見て、目を細める。

 

「砂漠から落としたコインを拾う作業みたいだな」

 

 肩が竦められた。

 

「いえ、それに関しては考えがあります。まぁ、その時になったらお教えしますので」

 

 一端、休憩にしようと全員が今一度休みつつ、資料を熟読しようかと持って来られたお茶に口を付けようとした時だった。

 

 ドガンッ。

 そんな地鳴りのような震えに基地全体が揺れた。

 

「地震か?!!」

 

 カズマが思わず周囲を見回し、壁際に置かれていたテレビを付けるが地震速報は未だ出ていなかった。

 

「在り得ません!! 基地そのものの耐衝撃防御策は震度8でも此処まで揺れたりしませんよ!? ヒューリさん!! ハルティーナさん!!」

 

「了解です」

「分かりました」

 

「ただちに全員スーツを装甲を装着!! 基地内部ですが、全能力を解禁します。何が起っているのか確かめるので固まって最大限警戒して下さい!!」

 

 彼らが即座に外へと完全に戦闘状態の装備で出撃していく。

 

 基地に何が起ったのか。

 それは彼らには未だ知る由もなく。

 

 大きな衝撃と共に陰陽自もまた渦中へと投げ込まれていくのだった。

 

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