異世界の騎士、地球に行く   作:Anacletus

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第114話「怒り」

 ゾンビに気付かれぬように低速でベル一行が移動して2時間弱。

 

 本島の東海岸線付近に彼らはやって来ていた。

 元々は森林地帯だったりする場所も今や芋畑だ。

 

 日本側のテコ入れでもまるで食糧が足りないからと本来は耕作に適していない場所までも畑にしている為、樹木という樹木が見えるのは街路樹くらいとなっている。

 

 漣の音と薄霧の最中。

 作物の貯蔵庫や農業機械の保管庫が見えて来る。

 

 島内各地に整備された拠点では収穫後の作物を保存が効く澱粉にしたり、缶詰にしたりという工夫で消費量を抑えたりして、飢饉に対応するという事であるが……今は人の気配も無い。

 

 そう、無いように思えたのだが、黒武から確認する限り、シャッターの下りた倉庫の二階部分。

 

 事務所に当たるのだろう場所には生体反応が複数人。

 電磁波、熱量、音波、紫外線。

 諸々の観測機器によって内部に誰かいる事は確実であった。

 

「ただちに接触しよう。クローディオ、ルカ、ベル」

「了解だ」

「了解」

「はい。分かりました」

 

 三人が頷き、装甲に外套姿のままで外に向かう。

 

「気を付けろよ」

「分かってるさ」

 

 カズマの声にルカが頷く。

 

「ベルさん。クローディオさん。気を付けて下さいね」

 

「ああ、ありがとよ」

「行ってきます。ヒューリさん」

 

 二人の姉妹がちょっと不安そうな顔でいるのを見て、少年が微笑む。

 

「僕らなら何があっても大丈夫ですから。お二人もいつでも出られるようにスタンバイお願いします」

 

「う、うん!! ベル、ちゃんと戻って来てね?」

 

「ベルディクトさんがピンチになったら、すぐに出ますから!!」

 

 こうして三人は送り出され、十数m先の倉庫の外側の階段を昇って出入り口へと向かい。

 

 鍵は即座に魔術で内部機構を回して外し、屋内へと向かう。

 

 クローディオ、ベル、ルカという隊列だ。

 

「こちら善導騎士団本島攻略部隊です。ゾンビから隠れている一般人を保護しに来ました」

 

 その言葉に反応してか。

 何人かの反応が動いたかと思うと。

 

 すぐに通路に事務所側の扉が開き―――何故か、坊さん。

 

 それも虚無僧染みた姿の相手が錫杖片手に出て来た。

 

「……どうやら、本物のようだな。皆の衆。助かったようだぞ」

 

 その声に事務所内からすすり泣くような声が響く。

 

「アンタ、日本人だな? それも宗教系の人間と見たが、どうしてこんなところに?」

 

「いや、これには色々と事情が。後で話そう。それよりもまずはこの人々を保護してやってはくれまいか」

 

「分かった」

 

 クローディオが紺色の僧衣を纏った30台後半くらいだろう男は頬に傷がある以外は多少無精ひげが這えて、色黒というだけで純然たる普通の日本人に見える。

 

 だが、クローディオは男の身体が小柄だがそこらのアスリートよりも引き絞られている事を瞬時に身て取った。

 

「た、助かります!! 本島に善導騎士団が来てくれたんですね!!?」

 

 背後から出て来たロシアの若者達。

 

 20代くらいだろう男女数名が目をウルウルとさせて案外流暢な日本語で語り掛けて来た。

 

「話は後だ。すぐそこに車両が置いてある。そこまで付いて来てくれ」

 

 クローディオが音頭を取り、前と後ろにルカとベルが付いてすぐに移動を開始し、傍の黒武内にすぐ様全員が受け入れられた。

 

 消耗していた数名にはすぐに話が出来る代表者以外は生活区画の寝台で休んでもらえるように準備が為されていた為、どうやら一晩中寝られなかったらしい者達はすぐ寝台の上で気を失うように寝息を立て始め。

 

 代表者である虚無僧気味な僧侶が彼らや後方の黒翔や痛滅者を見て、驚きを通り越して苦笑の息を吐いた。

 

「どうぞ」

「ありがたく」

 

 ヒューリがマグカップにレトルトの卵スープを入れて出すとズズズと男が一息入れてホッとした様子になる。

 

「話には聞いていたが、もはや我らが魔術とは何もかもが違うのだな。陰陽自衛隊。いいや、善導騎士団は……」

 

 その言葉にやっぱりという顔でクローディオが視線を向ける。

 

「アンタ、やっぱり魔術師か」

 

「ああ、道県で本拠を構えている。僧侶はしているが、本職はそちらだ」

 

 そう言えばと。

 男が一礼してから頭を下げる。

 

「自己紹介していなかったな。私の名は生明礼貞(あざみ・らいてい)。助けて貰った事、心より感謝する」

 

 フィクシーがクローディオの会話を引き継ぐようにして前に出る。

 

「善導騎士団副団長代行フィクシー・サンクレットだ」

 

「おお、話にも聞いていたし、先日の放送も聞いていたが、このような麗しい乙女とは……いやはや、敵わんわけだ」

 

 人好きのする笑みで唇の端を曲げた男は握手した後、軽く頭を下げた。

 

 二人が再び席に腰を下ろすと早速フィクシーが切り出す。

 

「アザミ殿。貴殿が魔術具を持っているようだが、あの脱出時に船に乗っていたのか?」

 

「ああ、海魔……背後で蠢く者達が海で船を爆破でもしないだろうかと心配になってな。もしもの時は少しでも衆を生き残らせられるかと覚悟は決めていたのだが、いや……私はこう見れば、2度も命を救われているのだな」

 

「カイマ。海の魔? そういった勢力がこの地に?」

 

「いや、私が言っているだけだがな。そもそも私はMU団体の一部の下請けで本島を内偵していた。ロシア系に仏教を普及する風変りな坊主という体で人々に無難な教えを説きながら回っていたのだ」

 

「アザミ殿は何か掴んでいたのか?」

 

「ああ、諸島政府付きの術師の事を嗅ぎ回っていたが、あちらはこちらを監視していたようでな。色々と身動きが取れんようになって数日後にあの騒ぎ。最終的に追手を巻いて隠れて船に乗って道県の仲間に情報を送った。まぁ、届いているかは怪しいが」

 

「内容を訊いても?」

 

「無論。元々はそちらに渡るはずの情報だったからな。資料は無いが、私の推論と合わせて、この島で行われていた実験に付いて話そう」

 

「実験……」

 

 その言葉にイヤな予感が誰の背筋にも奔っていた。

 

「ああ、実験だ。ロシア系が300万住まう諸島政府の統治下で密かに行われていた……間違いなく……この状況を生み出した術師は悪魔の類だろう……」

 

「悪魔?」

 

「ああ。まず、始めに行っておくが……かなり胸糞悪い話になる。そこのお嬢さん達がもしも人間に絶望したくないなら、訊かない方がいい」

 

「ふぇ?!」

「あ、あの……」

 

 言われたのは自分達だと気付いて緋祝姉妹が思わず固まる。

 

「気遣い痛み入るが、誰も此処にいるのは戦うと覚悟を決めた者だけだ。それに愚かな人間に一々絶望していられる程、善導騎士団は暇でもない」

 

 フィクシーが肩を竦めた。

 

「左様か。侮辱したなら謝ろう。では……話そうか。諸島政府付きの術師は女で名を―――」

 

 礼貞が静かにスープを啜り、ゆっくりと語り始めた。

 

 *

 

 ―――??年前、ユーラシア内陸部【誘いの孤児院】

 

「ルルカ予備訓練生。ルルカさん。何処ですか?」

 

 Zに祖国を食い荒らされた国々において子供は国の宝……と言えたのはほんの少数に過ぎなかった事は国連も認める()()()()()()()とやらだ。

 

「はい。先生。ルルカは此処に居ります」

「ルルカさん。今日の補修は終わりましたか?」

「はい。先生。今日の分の補修は先程終わらせました」

「よろしい。では、六時までに夕食となさい」

「はい。了解しました。マグダウェル先生」

 

 大量の難民の中に含まれる子供達の殆どすらも()()()()()()()()()()()()()()()()でしかなかった事は大人達が言わぬ暗黙の事実である。

 

 そして、第三世界。

 アフリカや中東。

 

 それこそ幾ら現代化したと嘯いていても、中国ですらそうだったように戸籍の無い子供はそれこそ億人単位で世界に溢れ、多くがゾンビとなっていった。

 

 彼らを何とか救おうとした者は殆どいない。

 

「ルルカ~今日もお前補修させられてたの?」

「うん。先生がそうしなさいって」

「お前、先生のお気に入りだもんな」

()はただの予備だから……」

「あはは、だからスープも少ないんじゃない?」

 

「オイオイ。カワイソウだろ? ルルカはカワイイしか取柄が無いんだぜ?」

 

 Question―――何故か?

 

 Answer―――何処の国も存在しない子供は難民に出せない。

 

 TrueAnswer―――誰だって身元のちゃんとした優秀な子供を遺したい。

 

「お前、オレの彼女になれよ」

「……予備じゃない方がいいよ」

 

「へッ、予備なら予備らしくオレみたいな優秀なのに仕えろよな」

 

「………」

 

「ヤバイって。食事中の先生達に聞こえちゃうよ。止めときなよ。予備なんかと話してたら、アンタだって予備になっちゃうかもしれないわよ?」

 

「な、何だよ? ちょっと、からかってただけだろ?」

「ふーん(・ω・) 本気に見えたけどな」

 

「ちぇっ、さっさと飯食えよ。この予備ルルカ!! 次はただウンて言えよ!? いいな!? 分かったか!?」

 

「ほら、やってないで。そうしないと点数下がっちゃうわ」

 

 それは子供達にとって生まれて以来の大選別(グレート・アロー・セオリー)と呼ばれる事になる世界最大の大罪。

 

 窮まった現代合理主義と国家のパワーバランスによって現実に即した残酷な真実が世界の全ての国家で牙を剥いた。

 

 金持ちだからと生き残れたわけではない。

 

 だが、身元の証明が存在しない子供は今現在の世界には難民として一人もいない、というのが……一部の有識者と宗教者と福祉従事者達の絶望であった。

 

 要は全ての善人達が要求した複数個の()()()()()()()()()という設定基準……それに十全な結果で答えられた国家など存在せず……概ね、世界の16歳以下の10人に8人程度は大人の都合で死んだのである。

 

「ルルカさん。食事時に揉め事を起こしたそうね?」

 

「いえ、先生。話し掛けられた際の不手際は無かったと報告します」

 

「そう……なら、そうなのでしょう。お風呂に入ったら、図書室に来なさい」

 

「はい。先生。了解しました」

 

「それから、あなたも罪な子ね。あの943番の男子、それなりに優秀だったけれど、今日の事で()()されたわよ」

 

「………そうですか」

 

 問題は問題視されなければ、問題じゃないと言わんばかりに多くの子供達が選別された事自体問題ではあった。

 

 だが、問題だがやらねばならないからと世界中で統一されていない基準において恣意的に子供が選ばれたのは事実だ。

 

 設定する要求水準は単純に身元だけという国もあったが、中には身元よりも能力をというところもあった。

 

 無論、金持ち順のところもあれば、技術者や技能者、政治家の子供順というところも多数。

 

 しかし、一貫して国家に理解されたのは身元の無い子供は一律にアウトという基準であった。

 

 ゾンビの侵食で時間が無い中。

 

 選別基準から真っ先に外されたのはストリート・チルドレン、無戸籍児童、孤児、その他大勢のただ明日も知れず生きていた子供達だったのだ。

 

 教育を受けているかどうかすらも関係ない。

 

 身元の保証が無いという事はそれだけで死の判定を受ける最初の難関だった。

 

「やだやだやだ!? ど、どうしてオレが除外なんだよ!? どうして!? オレ、何も悪い事なんてしてないよ!? 何でだよ!? オ、オレみたいにゆ、優秀なのは他にはそういないは―――」

 

『検体番号943番。個体名アルコフ。君は精神性を疑われている。疑われる事はこの施設においては除外の対象に成り得る。そう、最初に説明を受けていたはずだが?』

 

「せ、先生!? 先生様!? お、お願いですッ!? 除外だけはッ!? 除外だけはどうかッ、ゆ、許して下さい!? 許してッ、許し―――」

 

『943番。君の除外は倫理コード074によって管理された規定条件下での通常業務だ。異議申し立ては出来ない。また、この施設に入りたいという子が順番待ちをしている。此処は優秀な子の為に設立された対Z保護区画だ』

 

「オ、オレは優秀だッ!? 優秀なんだ!? だ、誰か!? た、タスケテ!? タスケテくれぇよ!!?」

 

『来たまえ。943番。君の座席に座りたい子がまだ3万人程いる。この区画の外の二次保護区にはな』

 

「ヒッ?! あ?! ル、ルルカ!? ルルカ!? そ、そうだ!? アイツとちょっと話してただけなんです!? オ、オレ何も問題なんて起こしてません!!? な? ルルカ!! ルルカもそう言ってくれよ!! せ、先生様達は何かきっと誤解してんだよ!? な?! なッ!!? 言えよッッ!!?」

 

「……943番。()はマグダウェル先生に呼び出しを受けているので。これで失礼します。それと―――」

 

「ッッッ、予備の癖に!? どうして優秀なオレが除外でお前は先生のとこに行くんだ!? 年齢だってオレの方が上だぞ!? 予備の癖に!? 予備の癖に!?」

 

「……倫理コード074は個体名を正確に呼ばない時に適応される」

 

「な、何!? 何言ってんだよ!? ルルカ!!? このッ、予備の癖に!!?」

 

()の名前はルサールカ……オペラの名前から取られてる。ルルカじゃない」

 

「予備のくせにッ!? 偉そ―――」

 

『鎮静剤を投与』

 

「あ―――」

 

『失礼しました。004(ダブルオーフォー)……ルサールカ・グセフ帰還者予備訓練生。どうぞマグダウェル講師の下へ向かって下さい。遅れた場合に証明が必要ならば、こちらで規定の書式において証明書を発行致します』

 

「はい。分かりました。では、失礼します」

 

「嘘―――何で予備が()()()()()()()()?」

 

『4324番』

 

「ひ?! な、何でもありません!? 何でもッ!!?」

 

『咎めようというのではありません。彼女は現在、この施設……いえ、この区域において四番目に優秀であり、また四番目に若い事を伝えておきます』

 

「え?」

 

『彼女はまだ貴方達の二分の一の年齢です』

 

「嘘ッ?!!」

 

『この区域内において嘘は存在し得ません』

 

「だ、だって、あの子どう見ても私達と―――」

 

『4324番。このユーラシア特別優性保護区画内において無戸籍児童は全て一律に番号を割り振られますが、彼女は最優秀訓練生集団の一人です。創設者ビグニム・グセフ氏の名前の一部を受け継ぐ者であり、最優秀訓練生集団の第一位001(ダブルオーワン)の予備である為、形式的に予備訓練生と呼ばれています』

 

「よ、よびって……それって……」

 

『皆さん。そろそろ消灯時間です。歯を磨いた後は軽くストレッチ後に就寝して下さい。明日の午後までに番号の上下一番以内の訓練生は943番の私物を事務へ届けておくように』

 

「「は、はい!! 先生!!」」

 

『元気でよろしい。では、お休みなさい。子供達』

 

「「「「「「「「はい。良い夜を。先生方」」」」」」」」

 

 誰かが世界に語り掛ける。

 

 ―――【終わりなき世界を……】

 

 *

 

「……カ…ん。ルカさん!!」

「ッ―――ベル君?」

「大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ?」

「本当だ!? 大丈夫!? ルカさん。休む?」

 

「休みますか? やっぱり、故郷の事でショックを受けてたんじゃ……」

 

 一緒に鍛えてから、それなりに親しく付き合っている緋祝姉妹に言われて、ようやくルカは自分が未だに黒武のCP区画で座っている事に気付いた。

 

 まるで一瞬の白昼夢を見ていたような薄ぼんやりとした頭を振った後。

 

 どうやら話の腰を折ってしまった事に気付く。

 

「済みません。どうぞ、続けて下さい」

 

 それを見た僧侶が立ち上がるとまだ話した事も無いルカの額に手をやった。

 

「ふむ? 坊主、お前は此処の出身という事だが、あの魔女に何かされているかもしれん。少し休んだ方がいい」

 

「魔女? ええと、相手の名前は―――」

 

「ネストル。ネストル・ラヴレンチーだ。スラブ系の古書に関わる人間の名を取ったものだ。間違いなく偽名の類だが、聞き覚えは?」

 

「いえ、済みません。覚えは……」

「そうか」

 

 ベルがルカを見てから、軽く背中に触れて魔導で解析後、何も問題ない事を確認してから、それでもしばしは急速した方が良いだろうと生活区へと連れて行く。

 

「ベル君。ボクは―――」

 

 そっと少年が手でその言葉を制した。

 

「解析では問題こそ出ませんでしたが、かなり動悸がしてましたよ?」

 

「え?」

「汗……気付きませんでしたか?」

「―――いつの間に」

 

 思わずルカが自分の額に浮かんだ玉のような汗を手で拭って、少し身体を通路の壁に預ける。

 

「故郷は故郷です。それがどんな形であれ、衝撃を受けていないという事も無いと思いますし、まだ初動から間もない対魔騎師隊の発の関東以外への遠征任務です。1時間程休んでから任務に復帰して下さい。これは掛り付け医代わりで上司からの命令という事で」

 

「……分かった。すぐに体調が戻るように整えておくよ」

 

「はい。もういつものルカさんですね」

「あはは……いつもの、か」

「?」

 

「いや、何でもない。ごめん……確かに自分で思ってたよりも動揺してたのかも……少し休んでくる。一時間後に……」

 

「はい。恐らく、これから3~5時間……夕暮れ時までは準備や突入前の調査に当てると思うので、動きがあったら、すぐに連絡します」

 

「ああ、ありがとう。ベル君……」

 

 自動扉の先に消えた少年を見送って、彼はもう数人が眠っている寝台横の椅子に向かう。

 

 まだ寝台は余っていたが、それでも寝てはさすがにいられなかった。

 

 よく見れば、もう殆どの救助者が床に就いていたが、それと同時にまだ身を起して、ぼんやりとしている者も多かった。

 

 ゾンビが跋扈する島内でまだ生きている。

 

 保護されたとはいえ、未だに危機的な状況にあるという事実を理解すれば、寝ようと思っても寝られるものではないというのも実際のところだろう。

 

「大丈夫ですか? 簡易ですが、温かいスープなどの類なら、積んでいますが」

 

 そう声を掛けたルカに数人が緩々と首を横に振った。

 

 それ以上は声を掛けるべきでもないだろう。

 

 そう、ルカは椅子に腰掛けて、そのまま目を閉じようとした時だった。

 

 不意に彼は僅かな空気の振動を感じ取り、そちらに目をやる。

 

 その時、トイレから女性が一人出て来た。

 

 少しフラ付いた彼女がゆっくりとルカの横を通り過ぎて寝台へと向かおうとする。

 

 やはり、彼は途中……振動を感じた。

 

 いや、正確には音にも成り切れない何かがくぐもった微振動を奏でたような、そんな些細な変化を気付きとして捉えたのだ。

 

「大丈夫ですか?」

 そう言葉を掛けたルカが長い髪の女性の顔を下から不意に覗き込んだ時だった。

 

 視線が合った。

 いや、それを合った、と評するべきなのか。

 グルリと彼女の目は白目を剥いていた。

 そして、ルカの気配を感じ取ってか。

 

 女性が覆い被さるように倒れ込んでくるのを咄嗟に自衛隊隊員として訓練された身体が反応してしまい……受け止める。

 

 ようやく、彼は知る。

 その微振動が何処から出ているか。

 心臓の鼓動ではない。

 もっと下だ。

 腕ではない。

 身体の中央から下。

 そう、腹の辺り。

 

 チッチッチッチッチッチ―――。

 

 そんな音が振動として伝わってくる。

 

 魔術師として一流とは行かずとも優秀な成績を収めたルカの感覚は鋭敏だ。

 

 そして、ソレが何の音で振動なのかを彼は知っている。

 

 そんな、まさか、と思う事は対ゾンビ戦闘において意味が無い。

 

 何故ならば、ゾンビは常識に囚われない戦術を取って来る事が実際に確認されていたからだ。

 

 更にゾンビ・テロの際の莫大な戦訓は世界規模のネットワークで共有された。

 

 結果として、まだ彼は運が良かったと言えるだろう。

 

 咄嗟に女性を突き飛ばし、ベルから常に受けていた術式講義のままに瞬時に己の外套内部に付随する空間制御連結済みのガイド・ビーコンを0.4秒で脳裏の術式の鍵によって起動して、その内部から優先設定していた物品を即座に取り出しながら叫ぼうとし―――。

 

 その時、島内に極々僅かな閃光が奔った。

 僅かな間だ。

 一瞬かもしれない。

 爆発音、のようなものも共に響いたかもしれない。

 

 だが、何よりも致命的だったのはゾンビはそういうのですら敏感に反応する、という事実だ。

 

 ―――【もう餌に喰い付いたなんて、油断も隙も無いようね。善導騎士団】

 

 誰かの声が世界に響く。

 

 そして、爆発した黒武中央生活ブロックがコンテナの中央から切り離された様子でプスプスと黒煙を扉の一部から噴出させ、衝撃で内部から外側へと開放させられるように破壊されそうになった出入口付近は大きく歪んでいた。

 

 だが、他のブロックは無事だ。

 

 武器弾薬を貯蔵する倉庫もCP区画も衝撃を瞬時に感知した瞬間には連結を外されて分割されていた為、衝撃そのもので弾けて10m程離れた場所で横転していた。

 

「ぅ……大丈夫ですか!! 皆さん!!」

 

 それに全員が即座に反応してみせた。

 それもそのはずである。

 

 恒常型の結界がブロック毎に黒武の装甲には奔っている。

 

 更に内部に対する衝撃は当人達が騎士団の標準装備である小型の不可視型、常時発動状態で体表を蔽う衝撃緩衝型の結界で常に薄くではあるが、防御もしている。

 

 実にC4を500㎏程直撃させなければ、恒常性の結界は抜けない。

 

 ベルが陸自に渡した防御方陣発動用の魔術具のDC版が今は全員に渡されている。

 並みの銃弾程度では彼らに傷一つ付ける事はもはや出来ない状況なのだ。

 

「何が―――そうだ。ルカ……ルカは!!」

 

 ヒューリとフィクシーが互いに支え合うようにして起き上がり、緋祝姉妹をまとめて両手で抱いて庇ったクローディオがお礼を言われながら立ち上がる。

 

「ハルティーナさん!!」

 

「問題ありません!! ベル様ッ、どうやら生活区画が爆発したようだとシステム側から応答がありました!!」

 

「な!? ルカはッ!? ルカは大丈夫なのか!!?」

 

 カズマがもう立ち上がっていた僧侶に引っ張り起される。

 

「すぐに確認しましょう!!」

 

 オートでロックされた二重隔壁を即座にCP車両内の僅かに画面が明滅する機器を操作して開放。

 

 外に出た全員が生活区画内での爆発を扉の内側から爆圧による変形で見て取る。

 

「扉を破壊します!!」

 

 ベルが駆け寄って、己の導線を扉付近に張り付け、空間毎掘削した。

 

 途端、内部から小さな背中が転がり出て来る。

 

「ルカさん!!」

「ルカ!!」

 

 カズマとベルが駆け寄る。

 

 衝撃で気を失っているようだが、即座に解析したベルの魔導方陣が身体に浮かび上がると内蔵や頭部にも異常の無い事が確認される。

 

 すぐにヒューリが両手を頬に当てて、己の能力と術式での治癒に掛かった。

 

 それから数秒で目が薄っすらと開く。

 

「―――ベル、君。カズマ……ッ、そうだ!? ゾンビ!! ゾンビ・テロの手法だよ!!」

 

「え?」

 

 ルカが唇を噛む。

 

「対Z戦争中期の手法、なんだ……ゾンビになる前提の人間をゾンビ化前に捕まえて数時間で死ぬようにして……シェルターに放り込む。当事者に爆発物を埋め込むんだ……独裁政権下のシェルターに行われた……恐らく、魔術で時限式の術式と記憶や痛みを操作して……クソッ」

 

「まさか?!!」

 

 思わずヒューリを始めとして姉妹も顔を蒼褪めさせていた。

 

 だが、こんな時こそ冷静にとフィクシーが衝撃でまだ完全には立ち直っていないルカの傍に屈む。

 

「ルサールカ・グセフ。今の話で爆発したゾンビが殺した者はどうなる?」

 

「―――ゾンビに、なります」

 

「そうか……そういう手法はゾンビ化のトリガーにはなる、か」

 

「大隊長殿。マズイ……四方八方からゾンビの大群がご到着だ。数300から1450くらいの集団がワラワラして来やがった。不可視化して逃げるぞ」

 

「ああ、だが、その前に……ベル!! 武器弾薬を倉庫内から回収して直ぐ隠れるぞ!! 黒武はCP区画を封鎖して結界で隠蔽して放置!! 行けるな?」

 

「はい!!」

 

「ハルティーナ!! この際だ。仕方ない!! タンクデサントを用いて全員を運ぶ!! 生活区画内の生存者はルカ1名だ。このまま市街地郊外まで行くぞ!!」

 

『了解しました!! ただちに載って下さい!!』

 

 完全に焼け焦げた生活区画内部は暗黒に包まれている。

 

 未だ焼けた何かの臭いもしていた。

 

 いや、それはもはや焼ける、ではなく蒸発だったと言うべきだろう。

 

 ルカが共に地面に落ちた盾を拾う。

 

「助かったよ。ベル君のおかげで……こんなところで使う事になるとは思わなかったけど……」

 

 その表面装甲は煤けてもいなかった。

 

 摩擦係数0の表面装甲は物理的な衝撃もある程度まではいなすのだ。

 

 従来の爆薬が室内で起爆して内部から扉に殺到して更に強化されたといえ、それでも防御方陣を展開したルカは全方位からの衝撃に対してほぼ無傷。

 

 衝撃を盾以外の方陣部分で一部殺し切れなかったものの。

 

 装甲自体はまったく傷付いていなかった。

 

「済みません……」

「何で謝るのさ?」

「ルカさんに辛い事を背負わせました」

 

「僕は割り切れる方だ。カズマみたいな情熱家でも無いし……でも、次は……次は絶対にあの人達のような誰かを出さないよう……努力するだけだ」

 

「ッ、はい!!」

 

 決意の表情を前にベルが頷く。

 

「行くぞ!!」

 

 ヒューリ以下。

 

 緊急時という事もあり、全員がすぐ傍に付けた黒武の上に魔術を用いて飛び上がり、装甲の上に着地して、いつもシエラ・ファウスト号の甲板でしているように動魔術用の靴底で張り付く。

 

 ベルがすぐに倉庫区画を導線で囲んで内部に包み込んで富士樹海基地へと転移で移動させ。

 

 言われた通りにCP区画は封鎖して結界で隠匿して、不可視化する。

 

『出します!!』

 

 さすがに全員が載るには装甲の上は狭かったが、それでも身を寄せ合った彼らはそのままにHMCCに載ってその場を後にする。

 

 次々に押し寄せて来るゾンビの群れを避けながら、エンジン音一つしない不可視化したMBTは島内の中央へと向かっていく。

 

 だが、その行動は逆に先程の凶事を陽動として成立させていた。

 

 集団が集まる方面を何とか道無き道を用いて突破すれば、後にはゾンビが数える程しかいない道路だけがある。

 

「アザミ殿。あの人々とはいつ?」

 

「17時間前……フラフラしながら、こちらに向かって来ていたところをな。誰も彼もゾンビから逃げて来たと言っていた……まさか、こんな事になるとは……疑われても仕方ないが」

 

「いや、あの爆発だ。貴殿が巻き込まれなかったのはこちらの車両強度やシステム故であって、貴殿には何らあの時も怪しい素振りは無かった。貴殿の実力も隠しているわけでないのならば、こちらで見当は付く。少なくともあの爆発の直撃、耐えられまい?」

 

「そうだな。確かに実力はそう無い。そもそもの本業が諜報でな。昔は術師の世界でも、そういった専門家は多かったのだ。戦闘向きでないのは自覚もある」

 

 礼貞が両手を合わせて、元来た道の方角に数秒間だけ目を閉じた。

 

「フィー隊長」

「何だ? ベル」

 

「恐らく、あちらはこちらの魔術具を囮にして複数人の人間を先程のような人間爆弾にしていると思われます。危険はないだろうと魔導で解析はしませんでしたが、もし魔導で解析していたとしても……」

 

「その瞬間にゾンビ化する仕掛けを施されているかもしれない、か?」

 

「はい。ゾンビ化を検知して爆発物を起動する仕掛けならば、恐らく作れるでしょうし、術式でも可能なはずです。話を聞きに行く人間が死ぬのならば、僕らの調査は封じられたも同然。ですが、幸いなのはアザミさんという協力者を得た事でしょう。島内の事に詳しいですか?」

 

「ああ、それなりにな。市街地付近は脚で調べて回っていた。北方四島にもだ。道案内と周囲の状況の変化くらいならば、すぐに教えられるはずだ」

 

 礼貞が頷く。

 

「民間人の救出は後回しにしましょう。僕らの巻き添えで爆発したゾンビが更に被害者を増やす可能性が高過ぎます。ただ、魔力や魔術を用いず、極秘裏に調査する分には恐らく反応しないはず。なら」

 

 スッとベルが礼貞に小さな小瓶くらいの大きさの円筒形のディミスリル合金製の魔術具を渡す。

 

「魔力を電波にして脳裏で送受信出来る魔術具です。特定の周波数だけに絞った、ええと……量子通信? とか言う技術の応用でどんなに微弱な情報でもしっかりと伝達されるそうなので持ってて下さい」

 

「……つまり、こちらで調査を、という事か?」

 

「はい。僕達は魔力の塊です。魔力波動はシーリング出来ますが、CP車両後部の機甲戦力はかなり戦闘時に垂れ流す魔力が高いので置いて来ました。魔力反応が低いのはカズマさんくらいですが、諜報活動に長けてるとは言えません」

 

「済まん……」

 

 カズマが自分に技能が無い事を悔むような顔となる。

 

「謝る事じゃありませんよ。カズマさんにはカズマさんの仕事があります。礼貞さん」

 

「ああ、分かった。行先での調査はこちらでやろう。君達は?」

 

「僕らは人々と積極的に関われない状況である以上、敵の親玉を狙います」

 

「あの魔女の位置を特定するのか?」

 

 礼貞の言葉にベルが頷く。

 

「皆さんも聞いて下さい。此処からは時間との勝負です。爆弾入りの人間を作るような輩です。相手は恐らく時間経過で更に協力な陣地を構築したり、北海道戦線への手出しを始めるでしょう。それまでに僕らが相手の中枢を直撃。これを殲滅もしくは制圧する事が最も合理的です」

 

「賛成しよう。我が善導騎士団の参謀役も押し付けてしまう事になりそうだな」

 

 フィクシーが頷く。

 

「幸いにして、まだ僕の魔導は他の地域と繋がりますし、CP機能も健在です。自動化は最初から詰まれていた機能の一つ。システムとのコンタクトが正常ならば、大抵の状況は分かります」

 

 少年がCPと魔導で情報をやり取りしている様子で周囲から見えないのを良い事に各員の周囲の虚空に映像を出す。

 

 大量のゾンビが屯する爆発現場。

 

 更にそこから広範囲に渡ってのドローン・ゴーレム群が次々に機能停止した個体を外部に結界内から引っ張り出して連結したり、吸収したりしつつ、次々に活動を再開させていく様子が見て取れた。

 

「このまま島内地域で今回の一件に関わるネストル・ラヴレンチーもしくはその周囲にいるだろう人間に的を絞って索敵しましょう」

 

 ベルが全員の周囲に小さな小鳥型のゴーレムを飛来させて肩に止まらせる。

 

「クローディオさんは単独。フィー隊長とヒューリさん。悠音さん、明日輝さん、ハルティーナさん。最後に僕も単独で動きます。全員でまずは市街地への突入に向けて結界を超える為の策に協力して下さい」

 

「どうする?」

 

 フィクシーに少年が小鳥型のゴーレムを掌に止めて見せる。

 

「このゴーレムには僕が陰陽師研で開発して来た成果の一部が入ってます。敵防御手段……黙示録の四騎士の恒常型結界の類や魔力そのものによる皮膜をディミスリルを使わずに破壊する力です」

 

「マジかよ」

 

 クローディオがそう易々と出来ないはずの事を言って見せたベルに驚く。

 

「まだ試作段階ですが、敵防御を突破して攻撃を直撃させる手札の一つ。このゴーレムを結界の外周至近に最大で6つ的確な位置に張り付けられれば、結界を破砕出来ます」

 

 フィクシーが頷いた。

 

「分かった。結界の至近という事はゴーレムそのものが停止する、のだな?」

 

「はい。さっき試しましたが、やっぱりダメでした。なので人力で設置する必要があります。クローディオさんが2つ。礼貞さんにもお願いしたいんですが、どうでしょうか?」

 

「無論、引き受ける。これでも忍ぶのは得意だ。彼らの死には私も一端の責任がある。やらせて欲しい」

 

 ベルが頷く。

 

「では、各地点のポイントを提示します。多重結界の解析結果として一番安全なルートを算出してあります。皆さんはこのルートに沿って目的地で結界至近にこのゴーレムを設置して下さい」

 

「オレ達はどうすんだ?」

「ベル君」

 

 ルカとカズマが少年を見やる。

 

「お二人には他にもやって貰いたい事があります」

「やって貰いたい事?」

 

「はい。取り敢えず、連絡が途絶しても3時間後には起動しますので此処からは転送したポイントに其々に向かって下さい。結界破砕後の合流ポイントは市街地の此処です。現在位置の確認は魔術具で地図をGPSに従って網膜投影してますから大丈夫ですよね?」

 

 礼貞もまた己の瞳に魔術なのか科学なのか分からない地図の表示を見て驚きつつも頷く。

 

「では、行動開始です。礼貞さんには幾つか魔術具をお渡しするのでもしもとなれば、使って下さい。ただし、魔力が在る程度は感知されるのを覚悟でお願いします」

 

「了解した」

 

「では、フィー隊長とヒューリさんは北西、ハルティーナさんとお二人は真正面、クローディオさんは北東部から迂回して最後方、僕と礼貞さんはその隙間を埋める形で行動を開始です。ハルティーナさんのMBTで僕と礼貞さんとカズマさんとルカさんは真正面までは一緒ですよ」

 

 車両が停止する。

 

「じゃ、ちょっくら行ってくるぜ」

 

 クローディオがさっそく隠形を用いてか。

 霧の奥へと跳び去るように消えていく。

 

「行くぞ。ヒューリ」

 

「はい。フィー。二人ともベルさんをよろしくお願いします」

 

「はい。ヒューリ姉さん」

 

「ヒューリお姉ちゃんもフィクシーさんに迷惑掛けちゃダメだよ?」

 

「か、掛けたりしません!!」

 

 姉妹達に頬を膨らませたものの。

 

 すぐに真面目な顔で頷いたヒューリがフィクシーの背後に付いて霧の奥へと向かう。

 

 HMCCが動き出すとルカとカズマが少年を見やった。

 

「で、オレ達の仕事は何なんだ? ベル」

「カズマさん達には一番危険な任務を請け負って貰います」

 

「分かった。やられっぱなしは癪だからな。あの人達をあんな風にしやがったそのラブ何とかに痛い目見せてやろうぜ。ベル」

 

「はい!! では、お二人には囮になって貰います」

 

「囮?」

 

 ルカに少年が頷く。

 

「北海道戦線でかなり高位の使い魔が確認されました。能力だけならば、恐らく魔族並みの出力でカズマさんと同じような熱量を操るタイプのようです」

 

「そうなのか!?」

 

「あちらは対処可能な範囲なので任せておいて大丈夫です。問題はこの島に同じようなのが何体もいるかもしれない、という事です」

 

「ああ、それは……マズイな」

 

「はい。人々を明確に人質に取られたわけではありませんが、ゾンビ化の進行度合いも分かってません。北海道戦線の行方次第では米国も大量の兵器で島を攻撃するかもしれません。なので、此処で敵の本隊もしくは切り札や兵隊を釣り出す役が必要です」

 

「……分かった。オレ達は敵を苦戦させるか。あるいは引き付けりゃいいんだな?」

 

「はい。今のお二人ならば、既存装備のみで何とか対抗出来るはずです。僕と礼貞さんは設置完了後は退避。僕はお二人を後方からサポートします。もし、上手く行けば、結界に侵入して工作も」

 

「それで囮と言っても具体的にはどうするの?」

 

 ルカの言葉に全員の地図のポイントの一つにまた点が穿たれる。

 

「北海道戦線の状況を見る限り、敵は慎重に慎重を期して計画を重視するタイプ。この手の魔術師は絶対の自信と手札を慎重に使う反面、自分以外の手札を重要局面で出し惜しみする事がほぼありません。重要な戦局の転換点には必ず同じだけの手札をぶつけて来る」

 

「つまり?」

 

「相手が全手札を切らなきゃ凌ぎ切れない一撃を見舞います」

 

「ソレ、ボク達に出来るかな?」

 

「ええ、今のお二人になら。ちゃんと僕が鍛えましたから」

 

「はは、ツッコミも入れられない事実だな」

「うん。確かに……」

 

「前から詰めていたお二人の大規模攻撃オプションを使用しましょう」

 

 二人の苦笑にベルがニッコリする。

 だが、その笑顔に……礼貞すらも、誰もが思う。

 ああ、怒っているのはきっと少年もなのだろうと。

 

「あの方達の死を無駄にはしません」

 

 少年の目がゆっくりと白いものを宿し始める。

 

「一体、誰を怒らせたのか。何に喧嘩を売ったのか。騎士団も自衛隊もありません。ただ今日を何とか身を寄せ合って生きてる人達の穏やかな死の権利を弄んだ者がどういう末路を辿るのか……教えてやりましょう。さぁ、戦闘開始です!!」

 

 少年は笑む。

 怒りなど欠片もその表情には見えない。

 

 しかし、それでもその場の誰もが周囲の温度が上がっていく事を物理的に感じて驚く。

 霧がゆっくりと……だが、確実に晴れ上がっていく。

 

 その空白地帯は拡大しながら本島の南部から中央の市街地へと移動しつつあった。

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