異世界の騎士、地球に行く   作:Anacletus

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第122話「Forget You not」

 闇の眷族と静寂の王~ダーク・メナス・クリエイター~

 

 ―――???年前、大陸中央諸国アルバスタ圏域。

 

 巨大な塔が崩れ落ちていた。

 都は龍の如き炎の化身によって呑み込まれている。

 

 焼け出された人々が逃げ惑いながらも燃える市街地を避けて闇の広がる郊外へと集団で騎士達の先導の下、逃れていく。

 

 王城は今正に松明と焼べられて。

 戦禍の中。

 鎧と魔力が弾けては消えていく。

 切り殺された兵達は幾多。

 焦げた断面を晒している。

 争い合っているのは二つの勢力。

 

 白き鎧に巨大な大剣を振るう男達と黒き鎧に身を包み。

 

 その尋常ではない腕力と魔力を用い。

 あらゆる敵を薙ぎ倒す軍勢。

 帯剣を振れば、家と大地が割れ。

 魔術を放てば、街の区画が吹き飛ぶ。

 

 だが、それでも両勢力が拮抗しているのは一つの理由に起因する。

 

 その両勢力の中央で超常の争いが起こっていたからだ。

 

 互いの領域に踏み込んだ雑兵達が次々に倒れ伏していた。

 

 今や勝敗は炎上し、天に白き炎を噴き上げる王城の前で行われる決闘染みた戦闘の行方次第であった。

 

 のたうつ炎龍の上、絡み合う螺旋が踊り駆ける。

 

 破壊者の如き暗き魔力の主は白き騎士の大剣を拳で弾きいなし、白き騎士は巨大な剣を決して手放さず。

 

 今にも千切れそうな肉体に魔力を無尽蔵に供給し、全てをただ耐久力と持続力のみの上昇へと当てて、相手に剣を振るい続ける。

 

 その速度はもはや音速を超えて、只管に超えて。

 

 尋常に打ち合っていたならば、数千合をもはや超えていただろう。

 

 が、その拮抗が崩れた。

 炎龍が呑み込んでいく都の先。

 

 その頭上で戦い続けていた者達の行く手に脱出する最後の一団。

 

 この王国の頂点に君臨し、真の君主に相応しき行い。

 

 最後の最後の最後まで民の避難を優先した王族がたった3人。

 

 少数の騎士を護衛として馬車を走らせていた

 白の騎士は炎龍を無視出来ず。

 

 黒の騎士より早く大通りへと疾風の如く躍り出て、大剣を裂帛の気合と絶叫によって一撃を放つ。

 

 その巨大な炎の塊が魔力の込められた刃によって切り裂かれようとして―――だが、圧倒的な質量はどうにもならず。

 

 炎龍の鼻面に撃ち込まれた剣が拮抗しながらも切り裂くまでは至らず。

 

『ぐうううううううううううううううううううううッッッ!!!?』

 

 堪える白の騎士の鎧を溶かしながら、圧し潰さんと奔り。

 剣を蒸発させ。

 

 実に数百mを後退させて地面に仁王立ちの男の両手で最後には受け止められた。

 

『見事だ。覚えておこう。名も無き将軍よ』

 

 事切れて尚その魔力を用いて炎龍を束縛し、背後の馬車を護った相手は消えた。

 

 それと同時に白き騎士達が最後の気力を振り絞り、馬車を護らんと集まろうとしたが、もはや傾いた天秤は戻らず。

 

 馬車に辿り着く前に黒き騎士達の一撃を受けて、地面に縫い付けられていく。

 

 炎龍を抑える白き騎士の亡骸の背後。

 衝撃で破壊された馬車はもはや炎上していた。

 

 だが、その中からよろめきながらも一人が這い出て、立ち上がる。

 

 金糸の髪を持つ歳若い少女だった。

 その背後では炎の中に手が見えた。

 焼けて折れ曲がっていく身体の音は悍ましく響き。

 都を焼いた煙で曇り、炎で彩を副えた紅蓮の空の下。

 彼女の耳にも聞こえているだろう。

 

 だが、それでも少女は涙の跡を振り切るようにして、煤けた顔を拭い。

 

 自分の前に上空から静かに降り立つ黒の騎士。

 将軍と戦い続けていた強者を前に苛烈な瞳を向ける。

 

 その姿は煤けて尚、その簡素な町娘の如き破れたドレスを着て尚、気高く。

 

「控えろッ!! 下郎!! 我が名はアルバスタ群盟主アベスタ王が長姫―――」

 

 名前を名乗る前に黒の騎士は剣を鞘に納め。

 そっと兜を取って少女を見つめた。

 

「―――魔族、だとッッ!?」

 

「儚き王国の姫よ。そなたは気高く美しい。その道を全うする程の度量、その直向きに磨かれた器量、申し分ない」

 

「何……ッ」

 

 その賞賛に少女は歯を剥いて軋ませ、相手を睨む。

 額に角持つ者。

 黒き瞳に紅き虹彩。

 確かにソレは人間でも大陸にある亜人や異種でもない。

 

「この状況で諦めぬ不屈の闘志。それでこそ彼の男の血筋を引きし者。だが、戦乱の種となる王国は捨て置けない」

 

「我が国が戦乱の種だと!!?」

 

「数十年前に成立した貴国は既に限界だ。周辺国が見逃していたのは単純に誰もが平和を望んでいたからに過ぎない。だが、もはや時の偉人達は倒れた。この小さな領邦を護るべきアルヴィッツの女王もまた死んだ」

 

「ッ―――銀の女王の加護なくとも我が国はッ!?」

 

「ルーファルモ南部国土の分裂で生まれた貴国に帝国イグニシアの取り込みが掛かった。周辺国の今の情勢的に猶予は無い。数日後には貴国はイグニシアに降り、周辺国から宣戦布告を受け、その流れは再び中央諸国全土を巻き込んだ争乱と化すだろう」

 

「そんな!? 何を根拠に!!?」

「この顔ならば、分かるか?」

 

 魔族の男がスッと顔を撫ぜる。

 それと同時に少女の顔が凍り付く。

 

「………ッ、嘘です!? 貴方はこんな事をする人では!!?」

 

「この手にもっと力が在れば、少しは持たせてやる事も出来た……だが、それは叶わぬ望みだ。我が最愛の者の願いの為、あの戦乱を生き抜いた多くの宿敵、仲間達が望んだ平和の為、この国には消えて貰おう」

 

「させないッ!? そんな事、させるものか!!? 例え、貴方が何者だろうとも!! うぁあああああああああああああああああッッッ!!!!」

 

 少女は短剣を引き抜き、素人とも思えぬ素早さで男の心臓へと一突きを見舞う。

 

 だが、男はそれを受け止めた。

 短剣は魔力を込めた一撃。

 魔力で強化していない単なる鎧ならば、一撃で貫くに足る。

 しかし、男はそのまま、刃を胸に埋め込まれたまま。

 優しく少女の身体を抱きしめる。

 

「美しき姫よ。我が妃となれ」

 

「―――何故です。何故ですか。貴方はあんなにも優しかった。なのに……」

 

 その声は小さく。

 しかし、刃よりも確かに男の胸を貫く。

 

「この国の民を護り、争乱を回避する方法はただ一つ。周辺国とも帝国とも違う道を行く新たな国家の建国のみ」

 

「……道理で……都の民の脱出が上手くゆくわけです」

 

 これで相手を殺せない事など、聡明な少女には分かっていた。

 

「もはや、愛した者の国に我が居場所は無い。だが、此処にまた再び国を。正義無く。悪に墜ちようと。それでも一つだけは約束しよう」

 

「何をッ、護りたかったものはもう……ッ」

 

 涙ばかりが零れて。

 幼子のように顔を歪めて、顔を上げ。

 

「例え、人の世に楽土が在らずとも」

 

 男は胸に受けた短剣もそのままに涙に染まる少女の顎をクイと上げる。

 

「再び、我が名において導こう。世の果てに続く楽土創りし者よ」

 

「それが……あの偉大な方を誑かした台詞ですか? 悪魔の王よ」

 

「ああ、あいつは―――」

 

 男の唇が血塗れの人差し指で閉ざされる。

 

「良いでしょう。哀しき人……私は貴方を赦さない。でも、貴方に誑かされましょう……死魔の化身にして化物の王」

 

 王女はまるで涙を振り切るように。

 奪うかのように。

 男の唇に己を押し付けて、睨み上げる。

 その気丈な振る舞い。

 

「我が名を呼ぶ事、生涯許しません。我が魂寄り添いし事、生涯ありません。ですが、民と生き残った者達の命を引き換えて、我が身体、我が魂、全てを捧げましょう。例え、魔女に墜ちようとこの国はッ、私が護ってみせるッッ!!」

 

 煌めく意志を前に男は賞賛の言葉すら出なかった。

 少女は聡明で賢明で何よりも厳しく。

 言わぬ事すら理解していた。

 

 そうして、その波乱と悔恨の人生を突き付けられて尚、その先に続く道に見る多くの命の為、許せぬ相手に全てを捧げる。

 

 それこそが魂の黄金。

 世の真理の一つ。

 人が生み出した概念の極致。

 

 それを多くの種族は―――人が生み出した言葉として愛と呼ぶ。

 

「………新たなる女王よ。そなたの国に名を送ろう。もはや亡き我が祖国において永久に戦い続けると信じられた英雄の名だ」

 

 少女から離れ、胸の短剣が折られる。

 

「ガリオス。これからはそう名乗るといい」

 

 鋼の刃が肉体の再生と共に胸に埋め込まれた。

 

「この刃は貰っておく。この生の限り、その顔を覚えておく為に……」

 

 燃え盛る都の中心で一人の青年と一人の少女が交わす契約。

 それを視ていた者が二人。

 

『卑怯な癖に不器用じゃのう。我が御爺様は……』

 

『人の生は短い。だからこそ、覚えていたい事もある。人が永遠と呼ぶ時間を征く我らだからこそ。それにしてもガリオス、か……ふふ、まったくあの方も酔狂が過ぎる……』

 

『……お前はどうなんじゃ? 青瓢箪』

 

『これでも領邦を持っていた事もあります。せめて、名前くらいは覚えておいて欲しいものですね。殿下』

 

『ふふ、いいではないか。徒名みたいなもんじゃ。蒼い礼服なぞ着込まなんだら、また別のを考えてやっても良いぞ?』

 

『お戯れを……気に入っております』

 

『まったく、頑固者じゃのう。でも、そういうところもいい。ワシはお主みたいな奴は好きじゃぞ?』

 

『―――ゴホン』

『何じゃ何じゃ~~照れておるのか~~?』

 

『お止め下さい。それにはしたないですよ。こちらとて男……あまり、年上をからかうと痛い目を見ると忠告を』

 

『何? お主……稚児や禿趣味じゃったのか?』

 

『自分より若いのが良いのは当たり前でしょう。最高でも3()0()0()0()()()()が良いですが、何か問題が?』

 

『……そうじゃったな。お主、魔族だものな』

 

『?』

 

『まぁ、よい。ふふ、これからよろしく頼むぞ? ()()()()()

 

『この身に代えてもお守りしましょう。それと……その姿は頂けませんね。元の貴女の方がより美しい……』

 

『うわ……本当にガチじゃな……(~|Д|~)』

 

『何故、そんな瞳で見られねばならないのか!? 普通でしょう!! 薄い胸元、可憐な肢体。儚くも輝く無垢なる者こそが至高!! まったく、酷界のスタンダードです!!』

 

『……おーい。こう言っておるが、それ本当かや? 部下連中~』

 

『ア、ハイ。クアドリス様だけです!!』

 

『何を応えている。主に恥じを掻かせるなど臣下に有るまじき―――』

 

『な、何も知りませ~ん。あたしゃ知らないっす~~』

 

『さすがに100周期以下に声を掛けた時は社交界で他の領主達から揶揄われていましたなぁ。そんなに好きなら妾に産ませてから娘とすればいいと……』

 

『……うん。やっぱ、御爺様はともかく。酷界は酷い変態ばかりなのじゃな(|▽|*)』

 

 世界は炎に包まれて。

 しかし、始まりの日はゆっくりと明けていく。

 終焉に振りかざされた勇気。

 穢れ無き願いの王国はそうして幕を開けたのだった。

 

 *

 

「ん~~~へんにゃい~~~(-ω-)」

 

「ふふ、リスティアさん。よく眠ってますね。寝言が何か妙に変態変態連呼してますけど」

 

 午後9時過ぎ。

 

 緋祝邸ではこの数日、毎日のように痛滅者のテスターとして頑張っているリスティアがウナウナウニャウニャと寝言を呟きつつ、ソファーで寝こけていた。

 

 食事し終わった後。

 お茶もせずにソファーに座ったら、完全にグッタリ状態。

 

 緋祝邸の居候は現在二人更に増えており、居間では寛いだ風呂上り姿の野良犬少年ラグがお笑い番組を白いTシャツに短パン姿でゲラゲラ笑いながら見ており、ミシェルが湯上りなのか。

 

 浴衣に袖を通した姿で弟のだらしなさに困っている。

 

 善導騎士団で研修を受けた後。

 

 すぐに緋祝邸のミシェルの部屋の横に移って来たラグは何事も小ざっぱりした性格のヤンチャ坊主であった。

 

 醒めているところもあるのだが、基本的には熱中し易い性質。

 

 ただ、女性よりは強さに憧れるような面がある為か。

 

 ある意味では緋祝邸で安心して受け入れられる人物でもあった。

 

 ミシェルはもはや家事において卒なく何でもこなす姉ポジションを確立しており、明日輝のサポートに徹しながら陰陽自で少年の秘書業に精を出している。

 

 あまりの働き者ぶりに明日輝が緋祝邸の主の座を脅かされたような気分になる程なので相当であるが、食事などの直接命に係わる感じのお仕事には原則立ち入らない事にしているらしく。

 

 聖域である台所には明日輝などに言われない限りは近付きもしていない。

 

 こういった線引きが明確に出来る姉の下。

 

 ラグは毎日のように叱られつつ、緋祝邸での基本的に入り浸る人間の順位、序列を理解したらしい。

 

 フィクシー→ヒューリ→明日輝→悠音→リスティア→ミシェル→自分。

 

 ちなみにクローディオとベル、カズマとルカ、片世などは根本的に従うべき相手と思っているらしく。

 

 家の人間というよりは現場の上司扱いされている。

 

「緋祝邸も賑やかになりましたよね」

 

 ベルがソファーの端でヒューリを横にそう話し掛けると少女もまた頷く。

 

「そうですね。賑やかなのは良い事です」

「ヒューリさんは静かなのが好きかと思ってましたけど」

 

「そんな事……本当は姉妹が欲しかったんです。小さい頃はお母様に妹が欲しいとねだって困らせてました」

 

 良い思い出だと。

 嘗ての自分を思い出してか。

 少女の顔が少し自嘲気味になる。

 

「その願いは叶いましたよね?」

「はい……出生がどうあれ。私の大切な妹達ですから」

 

 湯上りのヒューリが反転、艶やかに笑んで頭に載せたタオルを解いた。

 

 サラリと乾いた髪が僅かに輝き。

 その少し艶美な微笑みに少年の胸がトクリと脈打つ。

 

「あ、ベルディクトさんが今トキメキましたよ。ヒューリア姉さん」

 

「え、やっぱりベルも男の子なんだ?」

 

 明日輝が要らぬ事を姉に教え、悠音は少年の横で正しい男の子道を歩んでいるようで何よりという顔でニヤニヤした。

 

 今の姉妹達は明日輝が彼らの前のテーブルで洗濯物を畳んでおり、悠音は少年の横でカーキ色のタンクトップでへそを出したまま短いショートパンツ姿。

 

 カジュアルな装いである。

 

 姉がカッチリと全身を蔽う長袖に長いスカートである事を想えば、かなり対照的な姉妹だろう。

 

 まぁ、明日輝はその腰を折った際の胸元の弾む様子で、悠音は健康的なヒップラインをポリポリ掻いていたりと微妙にアプローチはしている為、三姉妹全員がどっこいどっこいかもしれない。

 

「きょ、今日は―――」

 

 そろそろ自室に帰ろうとか言い出しそうな少年の唇はヒューリと悠音によって左右からみょいーんと引っ張られた。

 

「伸びますね♪」

「うん。伸びる伸びる♪」

「ひゃめてくらふぁい?!」

 

「今日は休日じゃないけど、忙しくない夜なんだから、ウチに泊まるんだからね? あ、お部屋は協議の結果、前にお布団敷いたところね」

 

「ぁぅ~~~!?」

 

 悠音が得意げに胸を張った。

 何を隠そうベッドメイクしたのは彼女だ。

 

「えへへ~~~この間、フィクシーお姉ちゃんとくんずほぐれつお布団一緒だったって聞いたから、今日は四人でお布団一緒ね」

 

「え、ぇぇっと、と、年頃の―――」

 

「ベルさん。普通の下着と()()()()()()()()。どちらがお好みですか?」

 

「ひぅ?!!」

 

 ヒューリのストレートと悠音のアッパーを同時に食らった少年は勘弁して下さいとプルプルする以外に出来る事は無かった。

 

「大丈夫ですよ。ベルディクトさん。今日は姉さんや悠音と一緒にこの間買った下着のお披露目会の予定ですから。色々忙しくて結局見せられてませんでしたから、是非今日は一杯目に焼き付けて、私達にも()()()()()()()()()()()♪」

 

「―――」

 

 実はパイプ椅子を背後で構えていた明日輝によって完全にノックアウトされた少年はもはや頷く機械と化した。

 

 三姉妹が近頃、更に過激化したような気がするのは気がするだけではなく事実だ。

 

 理由は純粋に魔力の上昇とか、魔力の凝集物であるDC製の製品に囲まれている環境下で能力が右肩上がりになっているからである。

 

 魔族としての形質を色濃く受け継ぐ悠音やヒューリは近頃平気で少年が風呂に入っているとちょっとだけ隠す感じの手拭片手に恥ずかしそうというよりは嬉しそうが3割増しな上気した頬で入って来るし、少年をやたら家に泊めようとしたり、泊めたら泊めたで布団に潜り込んでくるようになっていた。

 

 無論、潜り込んで来たら、あれやこれや触られまくり、撫でられまくり、抱きしめられまくり、ついでにうなじやら顔やら首筋やら指先まで舐められてイチャイチャと恋人のように指を絡めて来る始末。

 

 辛うじて自制しているらしいのだが、少年の生理現象はとても大事そうに微笑ましく見られてしまっており、心のライフは0である。

 

(うぅ、本格的に対策しないと……凄く危機的な感じなのかも……)

 

 高位魔族の生態は未だに大陸でもよく分かっていない事が多い。

 

 だが、己の感情へ率直になったり、何かに執着したり、生殖関連能力の大幅な上昇や生物としての階梯が上がるというような変化からなのか。

 

 凄く煽情的な様子である上、勘も鋭ければ、相手の変化にも敏感だ。

 

 要は少年の内心を手玉に取るような言動が増えて、筒抜けな状態を弄ぶかのように擦り寄りまくりであった。

 

 さすがに仕事中そういう事は無いのだが、プライベートな空間に入った途端に計算しているのか無邪気なのか。

 

 どちらともなのか。

 

 嬉しそうに猫みたいに身体を擦り寄せて来て、甲斐甲斐しいのだ。

 

 そうしっくりくるのはその言葉であろう。

 何でもかんでもやってあげるし、甘やかしまくりである。

 

『ベルさん。あ、お茶入れますね』

『え、いや、さっき呑―――』

 

『あ、ベルディクトさん。寒いですよね。今、エアコンの温度を』

 

『え、そこまでしなくてもそんなに冷たくな―――』

 

『あ、ベル。おにぎりのご飯粒付いてるわ。はむ。はい。綺麗になった♪』

 

『『~~~ッ』』

 

『え? え? あ、あの!? どうしておにぎりを両手に持って、そんなに僕の口には入らな―――』

 

『『ぁ~~ん、ですよ?』』

 

 それも姉妹間で其々に影響されているらしく。

 誰かが何かを少年にしているとソレを真似たがる。

 

 先日のヒューリとフィクシーのあ~んなどは最たるものであり、今では公共の場や個人での食事以外のところでは傍にいる時、必ず食べさせてあげたい病を発症させた姉妹達に箸を口に突っ込まれるのが常態化している。

 

『うぅ~~ベルさんが悪いんですからね!!』

『え!?』

 

『ベルさんが、こんなッ、こんなに可愛いからぁあぁ!!?(≧▽≦)』

 

『あ、後で後悔しますよ!? ヒューリさん!!? や、止めぇ―――』

 

『可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い―――』

『ぁ゛あぁぁ゛ああ゛ぁあぁ゛ぁあぁ゛あぁ!?!』

 

『姉さんばっかりズルイです!! わ、私も!! カワイイカワイカワイイ―――』

 

『お姉様達だけズルイ?! あ、あたしだってベルを撫でくり回して抱きしめたいわ!! かわいいかわいいかわいい―――』

 

『あぅ~~~~(涙目)』

 

 見目麗しい姉妹達に代わる代わる世話されている少年の様子は仲間内ならば、まだミシェルの白い目だけで済むが、他者に目撃された時などは完全に生温い視線の対象である。

 

 特に善導騎士団東京本部などでは風紀に目撃されて、『いや、いいんですけど、出来れば、人目の無いところでやってくれないかなぁ』という目をされた。

 

 騎士団の中核人材がそんなんじゃ風紀なんて成り立たない。

 というのは御尤もな話だ。

 

 まぁ、当人は猫可愛がりされた猫みたいなノイローゼ一歩手前なのであるが、別に嫌というわけではなく。

 

 せめて、もう少しソフトにしてくれないかなぁ(切実)という気持ちである。

 

 そんな少年の思いに理解を示してくれるのが善導騎士団の仲間達ではなく。

 

『愛が重いなぁ。お前の恋人連中……』

 

 エヴァ・ヒュークだけだった事は記しておくべき事に違いない。

 

 当事者の一人であるフィクシーは黙認。

 

 クローディオはそもそも元妻子持ちで愛は受け止めといてやれ派。

 

 カズマとルカはそもそも可愛がられている最中の少年には近付かずにご愁傷様的な視線で遠巻きにする組である。

 

 片世なんか、うふふ(*´ω`)とか言ってるだけで何も考えていないに違いなく。

 FC組みは保護者の恋愛事情に踏み込むべからずと視線を逸らすか、あるいは大変そうだなぁくらいの感覚。

 

 ハルティーナなんて加わりたいのを我慢している節があり、少年は助けすら求められなかった。

 

 陰陽自の大人組みは根本的に少年少女の恋愛事情が仕事に影を落とさなきゃ知らぬフリをしてくれる大人らしい対応なので論外。

 

 自分達が被害に合わない為に可愛がり行為中は絶対に出て来ない猫ズは全てが終わった後、少年の肩に左右から手というか肉球を置いて慰める係だったりする。

 

 リスティアなどは産めよ増やせよ。

 さっさと肉体関係持って性魔術とかせんのか?

 するんじゃったら、教えてやるぞ?

 仕事があるんじゃから、ちゃんと避妊するんじゃぞ?

 

 とか、ざっくばらんにまったく平然とした顔で言っていた為、姉妹達は何やら夜な夜な秘密の魔術修行に勤しんでいるとかいないとか。

 

 そうして今日も少年は姉妹達に重たく甘いスイーツを大量に口へ押し込められるような感覚を味わいながら、寝台へと引きずられていく。

 

 着替えのみを許される愛の奴隷とか言われてもまったく納得出来てしまう夜は少女達の視て嬉しい視られて愉しい秘密のランジェリーファッションショーと化したのだった。

 

(うぅ……下着、いつの間にか増えてた……)

 

 深夜。

 

 姉妹達にあちこちを抱きしめられつつ、パジャマ姿で眠る少年は自分に見られて火照った身体をモヂモヂさせていた少女達の過激な下着を思い出す。

 

 今も身に着けている為、ハッキリと形まで分かってしまう。

 

 悠音と明日輝は薄桃色で薄い布地に僅かなフリルというものやビキニめいた紐で括るようなものが主体であったが、ヒューリなどはもう完全に大人の装いで純白の刺繍で殆ど下着というよりは肌にピッタリと吸い付いた刻印のようなものであった。

 

 それもやっぱり大事なところを強調するタイプの……その上で大事な部分は薄布で僅かに透けており、その中心部分の紐を解けば、はらりと中身が見えてしまうのだ。

 

 自分で解いて良し。

 相手に解かせて良し。

 

 少年が昇天してしまったので途中で着替え、着替えさせられる最中にショーはお開きになったが、可愛らしいお揃いの猫さん着ぐるみ系パジャマを備えた三姉妹の絶対三角地帯に封印された少年はオチオチ抜け出して夜間のトイレにすら行けそうになかった。

 

(はぁ、そろそろ行かないと……)

 

 だが、それはそれとして今日も少年は目を閉じて意識を基地から東京の善導騎士団本部の方へと飛ばす。

 

 近頃は演習用ゴーレムをあれやこれやと弄って開発していた為、中核人材達を模した(デコイ)などはそれなりの数、東京本部に保管されている。

 

 要は別の肉体の遠隔操縦。

 違う場所で活動する為の肉体に五感を投影するのだ。

 

 “ソレ”は外見上、まったく見分けが付かない程の精度だ。

 

 中身は培養した当人の肉体のスペアパーツを全部組上げた代物なので当然と言えば、当然かもしれない。

 

 足りないのは頭部の脳髄から延髄下までと背骨だ。

 

 そこには囮として使う際の当人の意識を受信する陰陽自研お手製のビーコンと肉体の各種機能を演算して普通の人間と同じように動かすチップが入っている。

 

 糧食部門などでの成果をフレッシュなお肉のゴーレムで使っていたが、その術式を機械的に補って高度化させた代物。

 

 要は陰陽自衛隊に来ていた新規の入隊希望者達を襲わせていたゾンビ・ゴーレムの超絶グレードアップバージョンがソレである。

 

 人体の意識を司る受信部位の背骨が本体で運動野や視床下部などの部位を司るのが頭部内のチップという事になるだろうか。

 

 未だ発展途上ながらも魔術系統の技術で次々に電子工学の類は躍進しており、その肉体は嘗て出来なかった事が次々と可能になっている事の証左でもあった。

 

 少年の場合は本体である肉体そのものが停止した細胞である為、逆に生きた状態の肉体に入る、というのは新鮮な感覚。

 

 ゴーレムに意識を映しての遠隔操縦は魔術師にとっては使い魔などで行う嗜みの一つであるが、それを深化させ、科学と魔導と魔導機械学による技術をブチ込んだソレはもはや『魔術師のやる事か?』とFCにすら呆れられる程の遥かに魔術を飛び越えた能力となった。

 

 SFでも此処までの事は然してやらないし、やろうとする者はそういないだろう事は言うまでもない。

 

 肉体の乗り換えやそれに等しい意識の投影による分身の操作。

 

 そのこの世界における極致に今シレッと少年は立ち入っているのだった。

 

 当人からすれば、何が違うという事も然して無いが、一番違うのは人間らしい代謝による各種の生理現象だろうか。

 

 ある程度コントロール出来るのが魔術師なのだが、微妙に精度が落ちて、トイレへ急に行きたくなったり、お腹が空いたり、眠くなったりという類の欲求の振れ幅が大きくなった。

 

 後、勿論のように魔力の発生源である本体から遠ざかるので生体エネルギーとしての魔力励起以外では身に着けている装備分の魔力しか使えない。

 

「………リンク正常」

 

 半透明の培養槽。

 

 仲間達の肉体のパーツが大量に浮かぶ正気が削れそうな区画内にある円筒形容器の一つから培養液である生理食塩水を抜いてノソノソと出た少年はデータ取りを含めての確立された接続状況を確認後、傍のいつもの善導騎士団用の衣服を着込んでイソイソ本部から抜け出した。

 

 東京本部内は少年の庭だ。

 誰にも見咎められずに歩くことなど容易い。

 

 そうして、地上施設の一角で予め用意しておいた普通のジーンズにパーカーという姿に着替えた少年はサーフボード片手にスイ~~っと不可視化したまま基地の外に出た。

 

 未だ東京は魔力を除去したとはいえ、それでも微量なディミスリル粒粉などが残っており、自身の魔力を使うまでも無く空飛ぶボードを使える状況。

 

 時間を腕時計で確認しつつ、速度を上げたその姿は闇夜が増えた地域を縫い進み、東京二十三区内を軽やかに走破していく。

 

 まるで幻想的とも言えるようなサーフィン中の景色だった。

 廃墟や人口の明かりの無い世界に掛かる月明かり。

 

 人の気配が在ろうと無かろうと騒がしさが失われた穏やかな夜は何処か絵画染みて止まっている部分が多い。

 

 夜、怪異が出歩くようになったとの噂は真実であり、公共車両のサイレンこそ必ず何処かで鳴っているが、それにしても人込みは騒がしい区画でなければ、今は期待出来ないだろう。

 

 とある商業の盛んな区画の一角。

 人気のない駅の近くで少年は待ち人を発見した。

 

「あ、来た♪」

「遅くなりました。こんばんわ。シュピナさん」

「うん。ウチ、良い子で待っとったよ?」

 

「済みません。時間もそうありませんし、さっそく行きましょう」

 

「うん♪ ベルはん乗~せ~て!!」

 

 はんなり着ぐるみ系アイドル。

 

 シュピナーゼ・ガンガリオ(15)♀は自分の映った看板がある駅前でサーフボードに慣れた様子で乗り込み。

 

 少年の袖を後ろからちょっと嬉しそうに摘まむのであった。

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