異世界の騎士、地球に行く   作:Anacletus

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第137話「勝利か死か」

 

 関東圏被害予測。

 震度8。

 一戸建て約250万戸全損。

 30m以上の全ビル半壊。

 地下35mまでの上下水道インフラ総計1万km以上壊滅。

 公共ライフライン54%崩壊。

 一般車両約120万車全壊。

 関東圏各地で森林火災発生。

 都市部での火災被害は衝撃による即崩壊により無し。

 関東圏シェルター12%半壊。

 死傷者約35万人、重軽症者約1300万人と推定。

 陰陽自衛隊及び善導騎士団の出撃中の部隊の損耗0人。

 関東圏出撃済み部隊魔力電池残量3%未満。

 魔力充盾損傷度95.32%以上。

 部隊人員魔力残量13%未満。

 重軽症者凡そ1万5000名。

 着弾地点での戦闘可能戦力0人。

 

 ―――訂正6名を確認。

 

 世界の全てが焼けた荒野と化した世界に今までの面影は無かった。

 

 否、シェルターと善導騎士団の技術によってテコ入れが入った建造物のみが今も原型を保ち、其処が東京都心であった事を忍ばせる。

 

 更地となった中心点。

 

 爆心地の周囲には列島を護り切ったはずの星々の残骸が散らばっていた。

 

 稼働可能痛滅者0機。

 最終安全装置による緊急防御。

 妖精による魔術の自動化を用いた身代わりの術式。

 

 負うはずの損傷をデコイとなる原始的な人造精霊に肩代わりさせたのだ。

 

 北米において彼らが当初行っていた非常事態用の用意が初めて使われた事になる。

 

 痛滅者は全魔力を絞り尽しての防御で機能停止。

 

 気を失った隊員達を見下ろすように10m上空に滞空したソレは……オーロラを纏っていた。

 

『まさか、受け切られるとは敵ながら賞賛に値する』

 

 嘗て、少年達を海辺の街で強襲した黙示録の四騎士の一人。

 

黙示録の四騎士(アルマゲスター)

 

『我が名は緑燼(りょくじん)の騎士。同胞の一縷の望みを叶えんが為に推参した……屍者の石を使う鎧か。さすが……さすがと言おう。我が身体を一度なりとも滅した騎士達よ』

 

 嘗て、北米で聞いた声よりも何処か落ち着いた様子。

 

 狂気に理性の宿る声が自分を囲むように展開された者達に向けられる。

 

 その日本の首都を壊滅状態に追い込んだ者の周囲には六人がいる。

 

 陰陽自衛隊対魔騎師隊において【汎用魔導機械纏鎧(ゼネラル・マシンナリー・コート)】を着込むのは三人。

 

 片世依子。

 

 白木二真。

 

 ルサールカ・グセフ。

 

 其々が薄紫色、紅、白金をパーソナルカラーとして宿していた。

 

 善導騎士団中核部隊において同じ鎧を着込むのはまた3人。

 

 ベルディクト・バーン。

 

 リスティア・アルジェント・アルヴィッツ・シグナリア。

 

 フェイルハルティーナ・フォン・クロングベルグ・ザイトラータ。

 

 其々が暗灰色、金と朱、エメラルドグリーンに染まっている。

 

 少年を中心に展開された者達の瞳は燃え上がっていた。

 

 だが、心は熱くも頭は冷静に。

 

 そうだ。

 

 これ以上、相手に奪わせない為に必要なのは相反したものを呑み込む度量だ。

 

 だからこそ、彼らは敵を前にして今、飛び掛かる事も無ければ、涙を零し、歯軋りする事も無い。

 

「久しぶりですね」

 

『あの時、後ろにいた小兵がいつの間にか兵《つわもの》に化けたか。くくく、いいぞ……それでこそ、それでこそ我らが同胞の命尽きた甲斐があるというもの!!!』

 

「緑燼の騎士……名を聞きましょう。決着の前に」

 

『この姿になって問われる事があろうとは恐怖が足らんようだ。だが、名乗ろうか……我が名はガリオス葬送騎士団が団長アインバーツ・クランゼッッ!!!』

 

「ッ、やはり……貴方達は……」

 

『まさか、15年も過ぎて出会うとはな。善導騎士団……ヤツの団が最後の最後まで我らの障害となるか。これが運命ならば、それは正しくあの男の掌なのだろう』

 

「団長の事を何か知ってるんですか!?」

 

『くくくく、教えてはやらんさ。我らは屍兵……この地に蔓延る悪辣なる人の形をした獣を狩る為、この身を動く道化としたのだから……さぁ、やろうか。オレを、漲らせてみろッッッ!!!』

 

 崩壊した東京にオーロラが漂い始める。

 暮れ始めた世界がただ薄らたなびく光の帯の下。

 戦場となっていく。

 

「さ、本番よん♪」

「片世さん。もし手に余ったら譲ってくれ」

「あら? 手に余ると思う?」

「カズマ。片世さん。行くよ」

「ベル様。お供します」

「行くぞ。ベル……我が友よ!!」

 

 其々の獲物が構えられる。

 片世はその両手のガントレット。

 カズマは周囲に純粋熱量の球体弾を数十発。

 

 ルカはその両手に掴む無限のように伸び始めた杭が繋がるベルト。

 

 ハルティーナはその巨大な樽にも思える程に太く膨張したような四肢。

 

 リスティアは己の背後に転移によって送られてきた姉妹達と同仕様の痛滅者。

 

 ベルの手にはいつものガバメントがあった。

 

「総員戦闘開始。作戦目標、敵の撃滅」

 

「「「「「了解!!!」」」」」

 

『フフ、フフフ……アハハハハハハハハハハハハッッッ!!!! 出来るものならぁあああああああああッッ、やってみろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!?』

 

 東京だった場所にオーロラが吹き抜ける。

 関東を蔽う程に、何処からでも見える程に。

 

 再び莫大な魔力が吹き上がる都心に六つの輝きが舞う。

 

 今、幕が上がる。

 

 それは確かに一つの国の岐路。

 

 そして、興亡の夕景に違いなかった。

 

 *

 

 高速機動戦闘。

 

 相手が空を駆ける事すら可能ならば、その戦闘時の使用される範囲は広大だ。

 

 だが、黙示録の四騎士として槍使い。

 

 猪突猛進を体現する相手にしてみれば、先陣を切って敵を貫く事と同義であって、中近接戦闘こそが本領であり、大げさな回避機動など愚の骨頂。

 

 0.003秒後の刹那。

 

 最初に狙われたのは最も動きが遅い相手。

 外見からもそう思われたのだろうカズマだった。

 もう既に展開されていた槍の刺突。

 

 それが少年を貫き、背後の数kmまでも魔力転化のオーロラと衝撃で吹き飛ばすかに思えた。

 

 が、それは結果的に初手の間違いであっただろう。

 

『何と!!』

 

 槍が拮抗していた。

 それと同時に半径300m圏内が炎獄に没する。

 12000℃の炎が世界を埋め尽くす。

 ジリジリと鎧が融け出す。

 

 少年へ向けた槍そのものが魔力でこそ敵を叩いていたが、莫大な熱量の伝導によって歪み始めていた。

 

 防御を突破していれば、瞬間的に彼は得物を失っていただろう。

 

 即座に上空へ。

 

 それを追ってさらに高火力の数万度に達する火球が放射線を伴って空へ乱打された。

 

 爆発的な熱量の解放によって巻き起こる嵐の如き上昇気流と爆発の連鎖。

 

 天翔ける龍の如く昇り続ける緑燼の騎士だったが、瞬間的な熱量の壁で見えなくなっていた敵の一体がその方向にいる事を理解する。

 

 痛滅者を駆るリスティアが噴き上げて来る上昇気流の最中。

 

 全ての盾を用いて回転する円筒形の物体を生み出していた。

 

「【虚砲葬珠()】」

 

 円筒形の内部で凝集されていた転化光を放つ魔力が限界を超えて圧縮され、瞬間的に視認不能となった。

 

 咄嗟に円筒形の射線から外れようとした騎士の左足が脛から下まで消し飛ぶ。

 

 それとほぼ同時に紅蓮の爆発的な輝きが円筒形内部で発生。

 

 着弾したと思われる地表が丸ごと転移で持っていかれたかのように虚空となった。

 

 球体となりながらも次々に生み出されるエネルギーを収束し、糸のように細く細くしながら円筒形から奔る光の筋が敵を追って空を駆ける。

 

 一本だったのが瞬時に8本。

 

 エネルギー球が縮んで消える3秒後までに回避しようとしていた騎士の左脇腹と右大腿骨を貫き抉る。

 

 しかし、その傷も吹き飛んだ脚すらも数秒で再生していた。

 

 そのまま攻撃動作に移ろうとした時。

 またもや騎士は気付く。

 気付いた時にはもう遅かった。

 

 良い笑みの女超越者のガントレットが騎士の鎧の胸元へともう真正面から抉り込むような拳を放っており、対処される前に更に上空へと吹き飛ばす。

 

『ッ―――』

 

 辛うじて貫通はされなかった。

 だが、それは辛うじての話だ。

 

 魔力の展開すらも間に合わない超高速による認識範囲外からの不意打ち。

 

 真正面にいたのに見えなかったという事実。

 即座に吹き飛ばされたまま。

 鎧をクレーター状に歪み砕かれたまま。

 騎士の槍が魔力を込められ。

 

 瞬時に復元、その持っていた右腕が数倍まで膨れ上がり、投擲が放た―――れる前に超純度のDC製の細長いパイルが手首を断裂していた。

 

 再生するまで2秒。

 

 だが、それまでに突き刺さるパイルの数が増え、その断裂を広げ切って槍を持った手を吹き飛ばす。

 

 しかし、それでも攻撃は止まらない。

 魔力を宿した手が本体から離れても投擲を実行。

 

 追尾されたのは―――パイルを上空から放ち続けているルカだ。

 

 攻撃の瞬間を狙い撃たなければ、精密な部位狙いは不可能。

 

 次々に飛来する上空からの単純な杭の雨を緑燼の騎士が次から次へと片手で捌き、効果圏外へと抜けた。

 

 槍は膨大な魔力を込められたままにルカを―――ルカの前に展開されたリスティアの盾を貫きはしたが、その瞬間に盾の起爆に巻き込まれて爆砕された。

 

『ぃい』

 

 だが、騎士鎧の中から呟かれたの焦りではなかった。

 愉悦だ。

 だからこそ、なればこそ、倒し甲斐のある敵。

 それこそが男の望み。

 

 しかし、そこまで感情に浸った僅かな時間にカンッとその鎧の背後から軽い音が貫通する。

 

 地表の炎獄の最中。

 熱量を吸収して誘導する結界方陣内部からの一撃。

 熱量を逃した小さな上空への経路を造っての精密射撃。

 

 相手の背後が見える時まで待っていた少年のガバメントから放たれた弾丸が狙い違わずに背後の装甲を貫通し、胸元から突破した。

 

 たった一撃。

 それも極小口径。

 対応出来ない初速の弾丸であったとしても、威力は知れている。

 

 しかも、弾丸は貫通力極振りであった。

 

 すぐに傷は塞がる。

 

 そう、思われたが、胸の内部から広がるモノに気付いて騎士は唇の端を歪める。

 

 毒だ。

 

 魔力を吸収しながら、物体内部の水分を蒸発させるなんて……極めて純粋な干物を作る漁師街ならば誰でも使えそうなソレが……奪う事に特化して肉体の再生機能を劣化させる。

 

 元に戻すには時間が掛かる。

 

 元に戻そうとする以上は機能そのものに負荷が掛かる。

 

 騎士の身体の体積が僅かに減る。

 

 体積が減るという事は肉体のしなやかさが失われるという事だ。

 

 魔力を用いて外部から肉体を操作する程度の芸なら出来る。

 

 だが、相手は魔力を奪い尽す方法を持っている。

 これが意味する事は一つだ。

 肉体のみで戦わねばならない局面。

 

 しかし、現状その肉体が最高のパフォーマンスを発揮しない。

 

『ぁあ』

 

 だが、それでも男は愉し気だ。

 

 騎士は唇の端を歪めて、決して自分の必殺の圏内へと入ってこない相手の用意周到さに舌を巻いた。

 

 先程の女超越者の一撃こそ反応出来なかったが、それ以外は大抵反応可能。

 

 1人ずつ潰していけば、どうにかなる。

 そう思っていたのは甘さだろう。

 

 だが、そこまでしてもまだ男は追い詰められたとは思わない。

 

 リスティアの痛滅者がまだ焼き切れていない使える【総合混成魔導兵装】による掃射を開始した。

 

 全て敵の魔力を奪い尽す刻印弾。

 

 そして、敵の金属元素で出来た形成物を分子組成から歪めて破壊する一撃。

 

 当たれば、再び鎧の破砕によって敵は無力化する。

 

 そう思われたが、虚空で避けようもない超高速で迫る弾丸を相手に騎士のリアクションは一つ。

 

 何もしない、であった。

 

 刻印弾が次々と鎧に炸裂し、同時に相手の肉体内部で爆裂する。

 

 が、おかしな事に鎧が破壊されている様子は無かった。

 

 それどころか。

 

 頭部まで砕き散らした致命の一撃のはずが、急激に再生が早まる。

 

「鎧が液体化してます!! 術式汚染部位をわざと吹き飛ばされました!!」

 

 その通信が入った刹那。

 

 騎士の肉体が2倍、3倍までも膨れあがり、肉体を砕かれ、爆裂させられながら鎧までもが肥大化して再生していく。

 

 もはや人型ではあっても人間の面影は無く。

 何処か戯画染みた腐肉の騎士が腕を振った。

 

 途端、周辺にばら撒かれていた槍の金属片が活性化したかと思えば、魔力を吸い上げながら別々に形を取り戻し、周辺領域に乱舞し始める。

 

 先程までのような強力な投擲や追尾こそないが、その数は投射された全域で戦う者達を追う。

 

 刻印弾が敵の槍を無限の銃弾で破砕して撃ち落としていくが、それで現状は拮抗していた。

 

 槍の再生と射出に終わりも見えない。

 

 その合間にも火球とパイルが地表と上空から騎士を追尾したが、加速しながら被弾も構わずに再び地表へと騎士が突っ込む。

 

 敵の頭を潰す。

 単純な戦術だ。

 そして、同時にその護衛も潰す。

 それだけの事だ。

 

 未だに炎に没した地表は放射線の飛び交う程の地獄。

 

 しかし、液体化した金属鎧は沸騰こそしているが形を保ち。

 

 消し炭になりながらも沸騰したままの肉体で騎士は素早い。

 

 容赦のない一撃というのがどういうものであるか。

 

 それは超高速でのタックルという形でカズマに襲い掛かった。

 

「ガッ?!」

 

 消し炭になるより再生の方が早い。

 

 自身そのものをカズマの鎧へとめり込ませるようにして衝撃を柔らかく伝えた一撃は振動を装甲そのものに接触状態から伝導させる。

 

 相手の破壊はそもそも想定していないのだ。

 

 その現場から排除さえ出来ればいいという攻撃は殆どの能力を耐熱特化で纏めていたカズマを装備毎吹き飛ばし、炎獄の外までも弾き出した。

 

 急激に気温が下がっていく中を高速で駆け抜けた騎士はベルの結界へと再びタックルを掛ける。

 

 この極限環境に飛び込んで来れるのは最初から結界などを使うか。

 

 専用の装備を持った者のみ。

 その考えは正しい。

 事実、ベル以外の全員がその場所に踏み込む事は出来ない。

 

 無理やりに踏み込めば、装甲が融けるし、機能不全に陥る可能性があった。

 

 何よりも踏み込む状況を整えるまで数瞬の間隙が出来る。

 その合間に結界が通り抜けられた。

 それはそうだろう。

 それは純粋に熱量だけを誘導するものだ。

 

 粒子線はガスを間接防御として結界内に充満させ、電子に変換した後に電磁誘導で周囲に逃がしている。

 

 固体を遮るようなものではない。

 

 そうして、騎士の拳が少年に振り下ろされ、少年は呆気なく鎧の中身を爆ぜ散らかせるかと思われたが、そんなわけがない。

 

 そんな事を想定していないわけがない。

 

 少年がワンステップ後ろへと跳んだと同時に背後で気配を消し、姿を消し、今の今まで一撃を敵へ放つ為に溜めていた碧い少女が目をその色合いに燃え上がらせて一歩踏み込む。

 

『?!!』

 

 0距離。

 それも完璧なカウンター。

 準備も万全。

 相手の超高速の防御動作すら間に合わない魔の空隙。

 練り上げられた技の名は―――。

 

『ッッッ?!!』

 

 柔らかな金属鎧。

 再生しながらも沸騰して流動する血肉。

 それがそっと優し気な掌で密着状態で押された。

 途端、今まで動き続けていた騎士が止まった。

 パッと黒い血潮が1滴。

 

 背筋から結界の外に弾けて蒸発し、2滴3滴とそれが続き、鼠算式に増えながら血潮のみならず肉片や液体金属に至るまで霧の如く結界の外へと吹き流されていく。

 

 再生よりも更に早い。

 血肉のみならず。

 

 金属鎧すら後方へ重力が働いているかの如くバラバラに雨粒の如く消えていく。

 

 最後には無限に再生するはずの肉体から膨大な雨音が結界の外へと降り注ぎ。

 

 しかし、初めてハルティーナの顔が歪む。

 

『み……ご、と』

 

 騎士の呟きは剥き出しになった顔に現れていた。

 それに少女は戦者の流儀として技名を告げる。

 

 敵を形作る全ての物質をバラバラに切り刻んで再生不能なまでに吹き散らす一撃。

 

「招演奏拳奥義【雨華逆鱗崩(うかげきりんほう)】」

 

 肉体内部に術式で貯め込んだ運動エネルギーを相手の体内に直接浸透させて、細胞単位から分解、弾き散らす事での敵質量の完全散逸を達成するソレは本来ならば、心臓や頭部どころか。

 

 重要な血管一つ吹き飛ばすだけでも十分な威力を発揮する。

 

 そんな技をまともに喰らって、それでも敵が未だ動ける理由は単純だ。

 

 再生という体裁は取っているが、敵は己の血肉、質量すらも補填している。

 

 それは言わば復元に近いものなのだ。

 

 ハルティーナとて魔術具たる鎧から莫大な魔力の供給を受けている。

 

 だが、相手の復元と魔力の底も見えない。

 

 それはつまりこの時点で魔力量比べに近い状態を意味した。

 

 相手の魔力が切れれば、どちらかが動き出し、最後の詰めで相手を粉微塵に吹き飛ばす。

 

 だが、生憎とその理屈を持って来た時点で黙示録の四騎士と言えど、善導騎士団を相手に勝る事など不可能だ。

 

 理由など言う必要も無いだろう。

 

 そっと、少年がハルティーナの今も騎士の胸部へ付いている手に己の手を重ねた。

 

 その瞳は空白に輝いている。

 だが、莫大な魔力を引き出してはいない。

 ただ、励起して貯め込んでいるだけだ。

 

 そう、この周囲一帯の死の魔力を完全に枯渇させる程に吸収し続けていたのだ。

 

『ッ……く、くく、くくく……』

 

 相手の再生が鈍る。

 

 生憎と最初期に貯め込んだ大陸の一部すら消し飛ばせただろう超巨大な世界崩壊級の魔力を使い切った後。

 

 抜け殻に等しい緑燼の騎士から残る魔力源が奪われていく。

 

 そして、同時に励起済みの魔力をそのまま少女の手に渡した事で真横に降る黒い豪雨は速度を増した。

 

 騎士の肉体が縮んで縮んで縮んで元の大きさにまでも戻っていく。

 

「僕らの勝ちです。アインバーツ・クランゼ騎士団長」

 

『まさか、時を待たずに……ふ、ふふ……貴様らは知っているのか……この世界の者達が我らに何をしたのか』

 

「知っています。多くの子供達が失われた。違いますか?」

 

『……それを知って尚、救う……か。騎士たるものの姿だな……だが、その様子ではまだ知らないのか……ぁあ、ならば……何れ……何れ我らと同じく絶望と深淵に沈むがいい……』

 

「まだ、何かこの世界を、人々を恨む理由があるって言うんですか?」

 

『言わんよ……何れ分かる事だ……何れな』

 

「どうしてそこまで……滅ぼさなくたって道は幾つもあったでしょう!!」

 

『ふ……甘いな。我らが敵よ……心して聞け……我が終わりは始まりに過ぎん……』

 

「始まり?」

 

『四騎士中最弱以下たるオレなど……単なる先兵に過ぎん……絶望せよ……大門の頚城無き今、七つの頚城と二極の頚城無くして、この世界に希望など無い』

 

「一体、それは……」

 

『我が失われし意味……ゆくゆく先で知るがいい……貴様らが破滅を加速させたのだ。貴様らこそが……人真似る獣の世を……ふ、ふふ、はは、ははは……』

 

 男の体積が減り続け、最後には頭部と胸部の一部のみとなり、それでも嗤い続けて残る唇が頭部を失って尚緩やかに嘲りを宿した。

 

『忘れるな。死の果てより先で見ているぞ……いつまでも……いつまでも、な……』

 

 胸元から最後の部位が全て散り散りになって炎獄内部へと吹き飛ぶ。

 

 しかし、次の瞬間。

 焔の領域が消し飛んだ。

 いや、内部に吸収されたと言うべきか。

 

 全員が更に構えたが、アインバーツの最後の部位が吹き飛んだ中心点に煌々と魔力が煌めいたかと思うと。

 

 フッと虚空に鎧らしきものが現れ、ガランと転がった。

 

「四騎士の頚城?」

 

 少年が呟くと同時に上空から全員が下りて来て、集まって来た。

 

 片世は緑燼の騎士の鎧の傍で周囲を警戒。

 

 それ以外はベルの傍までやってきて、次々に装備のチェックと同時に次の騎士の襲撃があるかもしれないと転移で本部などから魔力電池や各種の弾薬の補充を開始する。

 

「取られちまったな。だが、おめでとうって言っとくぜ。ハルティーナ」

 

「うん。凄いよ。ハルティーナさんは……」

「うむ。ウチのトップ自慢の護衛じゃな」

 

「はい。ハルティーナさんには今度何か個人的に送りますね」

 

 全員から褒められた少女が思わず朱くなって恐縮した。

 

 もう、世界は宵も遠く遠く。

 陽が稜線に落ちようとする時間帯。

 

「ね~~これ回収しとく~~?」

 

 少年が導線で回収しましょうと言うより先に片世が片腕を虚空に突き出していた。

 猛烈な火花が散る。

 

『!!?』

 

 ザッと虚空から宙返りして数m後退した何者かが地面に降り立つ。

 

『おっと、さすがヤバイの筆頭。これでもダメか』

 

「あ、魔族の頚城になったんだっけ? ヴァルター君、よね?」

 

『ああ、そうだよ。片世准尉。あんたは相変わらずヤバそうだな』

 

「ヴァルター!!」

 

 カズマが片世の横まで走って辿り着き厳しい顔付でヴァルターに構える。

 

 頭部無き魔族の頚城。

 鎧を着込んだ死人。

 

 ヴァルター・ゲーリングが確かに其処で肩を竦めていた。

 

『オイオイ。そんな顔すんなって。四騎士の撃破おめっとさん』

 

「何しに来やがった!!」

 

『そこの頚城を回収出来ればして来いってお達しでな。ま、その人以外なら不意打ち出来たんだろうが、抜け目ねぇよな。あの坊主』

 

「ウチのベルは賢いからな!!」

 

『はは、違いない。死から魔力を汲み上げる者同士の戦いだとそっちに利がある。あのオッサンの敗因は単純に大陸で戦わなかった事だ。もし、此処が北米ならお前らは斃せても更に事態が長引いて他の騎士の加勢で死んでるか撤退だったろうよ』

 

「そんな話をしに来たわけじゃないんだろ?」

 

『まぁ、な。じゃ、オレらの仕事はもう終わったから帰らせて貰うぜ』

 

『行くよ。ヴァルター~~』

 

『う~~い』

 

「ユンファか!? 何処だ!?」

 

『教えないわよ。あ、あんたらの鎧、幾らか貰ってくわね。中身はそこの男の子の転移で無事でしょ? じゃね~』

 

 ヴァルターが虚空に消えると同時に声も途絶える。

 

「転移で逃げられました。今、確認してますが……やっぱり、4機足りません。量産型の痛滅者を持っていかれました」

 

 少年が上空に照明弾を上げて、周囲に中身も無く散らばっている痛滅者の残骸を見る。

 

「あいつ……魔族側からの命令で来てたのか……」

 

 カズマが何とも言えない顔で拳を握る。

 

「皆さん!! まずは周囲の人命救助が最優先です!! 既にこの都心以外のところでは始まってます!! 頚城は僕が回収しておくので、全員でシェルターを!!」

 

 少年が導線を用いて緑燼の騎士の頚城を回収し、続けて全員が周辺シェルターへと向かう。

 

 次々にHMペンダントで回復した陰陽自と善導騎士団の部隊がシェルターから救出した人々は気を失っている者が殆どであったが、死者は左程多くなかった。

 

 都心から西に向けて拡散した敵の第一攻勢で消滅したシェルターは0。

 

 中心市街地を完全に消滅させられた市町村が55か所。

 

 山林の延焼は続いていたが、人命救助が優先された結果として重軽症者で死亡者は1万人に1人いるかどうかという状況。

 

 ただ、都心から半径1km圏内は完全にシェルター以外消滅し、シェルターへの避難が遅れた事が都内では多くの場合、死亡原因となった。

 

 日本全国合わせて数十万人規模での死傷者。

 

 外国人が3割含まれ、後は全て日本人だったが、そのどちらにも若年層が1割程含まれており、報道が復旧した頃には被害の大きさは世界中に周知される事となった。

 

 ただし、一つだけ驚かれた事がある。

 

 それは善導騎士団と陰陽師の損耗が0人である事だった。

 

 報道された当初は嘘だろと言う者が多かったが、一般人をシェルターに逃がした後。

 

 第一攻勢で他の警察や陸自の職員が殉職したすぐ横で重症ながらも生きていた隊員がいたという事実を以て、人々は再度善導騎士団の優秀性を知る事になった。

 

 シェルターも半壊したのはディミスリル建材でのテコ入れされていない場所ばかり。

 

 ついでに騎士団の東京本部周辺はビルこそ被害が出たものの。

 

 他の高くない一般家屋は一番広域方陣防御の効果が強かったおかげか。

 

 窓ガラスが割れた程度で済んだ。

 

 総論として東京は壊滅的な被害を受けたが、壊滅はしなかった。

 

 また、関東圏も東京から西にある地域は大きな打撃を受けたが、シェルターに逃げ込めば生き残れたという事実を以て、多くの人々がまたシェルター暮らしとなり、生活再建への道程には日本政府ではもはや対応し切れないだろう莫大な資本や資材が必要となり……それを満たし得るのはやはり善導騎士団以外に無かったのである。

 

 巨大災害クラスの被害を受けはしたが、今回の事件の波紋はそれだけではなかった。

 

 善導騎士団広報は黙示録の四騎士の1体を撃破した事を喧伝。

 

 これが世界各地で大きな反応を呼んだのである。

 

 あの絶対に倒せないと思われていた敵を今度こそ撃破した。

 

 そう確信を持って告げたアフィスは騎士の装備を回収したとも明言。

 

 この事実を以て未だ生き残る日本以外の国家もまた更に本格的に善導騎士団への接触へと動き出す事になったのであった。

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